岸田首相のやりくり、「予算余ったら防衛費へ」では予算審議は空洞化 やっと出た総額、5年間で43兆円

現代ビジネスに12月11日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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議論はほとんど行われていない

ついに岸田文雄首相が防衛費の総額を5年間で43兆円にすると具体的な数字を明らかにした。5月にジョー・バイデン米大統領に防衛費の「相当な増額」を約束して以降、半年にわたって「金額ありきではない」として具体的な数字を示してこなかった。

確かに7月の参院選挙前に自民党が出した「公約」には、「GDP国内総生産)比2%」という文字は出てくるが、書きっぷりは「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に」としているだけで、政権として「2%」を公約したわけではない。

ところが、選挙に勝利すると、あたかも「2%」への防衛費増額が国民に支持されたかのように振る舞い、11月末になると首相自らが「2027年度にGDPの2%程度に増額するよう」閣僚に指示した。43兆円も「2%ありき」から出てきた数字にみえる。

この間、議論はほとんど行われていない。岸田首相が具体的な数字を示さなかったことで、財源論なども具体性に欠けたままで、開いていた国会でも議論にならなかった。国会が閉幕するギリギリでの43兆円の表明は、批判を封じ込めるために議論を意図的に避けたようにすら見える。

ロシアによるウクライナ侵攻や北朝鮮によるミサイルの相次ぐ発射など、国際情勢の緊迫化で、防衛費の増額に理解を示す国民も少なくないに違いない。真正面から議論すれば国民の理解を得ることができたかもしれない。ところがすべて議論を回避する方向で物事を進めている。内閣支持率が低下し続けているから、国民世論を二分しかねない問題に真正面から取り組む勇気がないのか。国民の目をごまかして通り抜けようとしている感じだ。

「やりくり」で大丈夫なのか

その典型が財源論である。23年度の防衛予算(当初予算)は6兆円台半ばになるとみられ、今年度当初予算に比べて1兆円以上増える。ひとまずこの財源をどうするかだが、早々と「来年度は増税しない」ことを表明している。そこで飛び出してきたのが「防衛力強化資金(仮称)」を創設するという案だ。

歳出と歳入の差額である「決算剰余金」やコロナ禍で手厚い支援を受けた独立行政法人にたまる「剰余金」、「税外収入」などをためておき、防衛費に充当するという。「やりくり」で何とかするので、来年度は増税せずに済ませます、というわけだ。だが、防衛費という国の根幹に関わる予算の財源を、「やりくり」で乗り切っていて大丈夫なのか。結局、国民から反発を食う「増税」は先送りし、とりあえず防衛費の増額だけ通してしまおう、というごまかしにしかみえない。

「防衛力強化資金(仮称)」の具体的な仕組みは今後法律で定めることになる。だが、そもそも「コロナ対策」などとして国会で承認した予算を、余ったらすべて防衛費に回すことは、国会審議で決めていく予算の仕組みを根本から揺るがす可能性があるのではないか。最近はコロナ対策などを名目に巨額の「予備費」が予算計上されているが、こうした別の名目で予算を通した予算が、政府の判断だけで防衛費に回ることになるのではないか。

国会で最も重視されるのは予算委員会である。スキャンダル追及の場になっている感はあるが、本来はそれぞれの予算が妥当かを審議する。国会の根幹に他ならない。それが、国会審議もなくいつの間にか防衛費に予算が回っていたということになれば、国会そのものの存在意義が問われる。

「不足分は増税

さすがに5年間、「やりくり」だけで防衛費を増やすことはできない。岸田首相は果敢にも「不足分は増税」すると言い出した。その額「年間1兆円」としているが、本当に1兆円で済むのか。GDP550兆円の1%を2%に増額した場合、毎年5.5兆円が増えるが、4.5兆円は「やりくり」で本当に済ませられるのか。

「1兆円増税」でも大増税だが、本来ならば5.5兆円分すべてを税収で賄うのが筋だろう。仮に消費税を充てれば3%分だ。おそらく岸田首相はそんなことを言ったら国民の反発は必至だと思っているのだろう。だから、影響を小さく小さく説明しようとしているのだろう。

それでも、自民党の中からも反発の声が上がっている。急激な物価上昇など経済が悪化する直面で、増税などしたら景気の腰折れは避けられない。経済対策に消費税減税を主張してきた野党など、当然ながら大増税には反対だ。

与党の一部からは「国債発行で賄うべきだ」という声もある。一時的な費用ではない防衛費を国債で賄えば、財政悪化はさらに深刻化する。そうでなくても円安が進行している中で、日本政府の財政基盤への信任が揺らげば、さらなる円安に陥る可能性もある。周知のとおり、日本の防衛品の多くは米国などからの輸入だ。円安になれば当然、防衛品の値段が上がり、予算が足らなくなる。

日本のようにGDPが四半世紀にわたってほとんど成長しなかった国は珍しい。仮に25年間でGDPが2倍になっていれば、GDP比1%でも防衛費は足りたことになる。逆に今後も日本が経済成長しなければ、GDP比2%でも足りなくなる可能性が出てくる。円安が進めばなおさらだ。いくら予算の「やりくり」で辻褄合わせをしても、国の安全保障は守れない。