岸田政権の「異次元の少子化対策」、子どもを生む世代にも財源負担もさせる 社会保険料率30%時代

現代ビジネスに4月24日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/109439

財源はどうする

「次元の異なる少子化対策」だとして大盤振る舞いの方針を示した岸田文雄内閣。最低でも数兆円は必要になると見られる対策費の「財源」をどうするかが焦点になっている。

岸田首相ご執心の「新しい資本主義」は、何を目指しているのかが今ひとつ分からないと言われ続けているが、ここへきて、「持続可能で包摂的な新たな経済社会を創っていくための挑戦」が「新しい資本主義」なのだと説明している。その上での「最重要政策」が「こども・子育て政策」なのだそうだ。

4月1に「子ども家庭庁」が発足するに当たって、政府が政策のたたき台を示したが、「児童手当の所得制限撤廃」や「支給対象年齢の高校卒業までの延長」にしても、「出産費用の健康保険の適用検討」にしても政府の財政支出が求められる。児童手当の所得制限撤廃だけでも数兆円はかかる、と試算されている。

そうでなくても防衛費を5年間で43兆円とほぼ2倍に引き上げることをすでに決めており、政府の懐から捻出するのは簡単ではない。「財源はどうするんだ」と言う声が噴出するのは当然の流れである。

そんな中で、政府内で検討していると報道されたのが「社会保険の活用」。健康保険や介護保険で積み立てている資金を「少子化対策」に流用し、現在徴収している保険料に上乗せすることなどが検討されているという。政府の財政支出を増やすのだから、本来ならば税収増、つまり増税で賄うのが筋と言うことになるが、すでに防衛費でも一部を増税による負担で賄う方針を決めており、さらに増税となると国民の反発は必至だ。

そうなると国民に負担してもらう方法としては社会保険料を増やすしかなくなる。社会保険料は形を変えた「第二の税金」とも言えるが、「健康保険」にせよ「介護保険」にせよ、「年金」にせよ、受益者本人のために受益者が負担すると言う建前だから、保険料を引き上げても反発は薄い。

実は、そんなこともあって、この50年間、「社会保険料」の負担はほぼ毎年増え続けてきた。2000年と比べても国民所得に占める割合は13%だったものが2021年には19.3%にまで上昇している。社会保険料の負担総額は50.7兆円から78.8兆円へと1.55倍に増加している。この間、働く若者世代の人口は減っているので、若年世代が負担する社会保険料はそれ以上に増えている。そこにさらに上乗せしようと考えているのだ。

介護保険プラス年金で料率29.35%

社会保険料『30%時代』最高水準 現役負担余地少なく」

4月21日、日本経済新聞は1面トップでこんな記事を掲載した。健康保険組合連合会が前日に発表した、2023年度の平均保険料率が9.27%になると言うデータをベースに、介護保険と年金を合わせると29.35%と過去最高水準になって「30%台に迫る」という記事だった。

その上で、政府が検討する社会保険を財源にする案について「現役世代の負担余地が少なくなれば、財源として見込みにくくなる」とし「少子化対策 財源論に壁」という見出しも立てた。

日経新聞はその前日にも、「大企業健保、赤字5600億円超で過去最大 2023年度見込み」という記事を掲載している。大企業の会社員などが加入する「健康保険組合」1400組合のうち1093組合が赤字で、その赤字の合計額が5623億円に達するという見通し記事だった。

当然、赤字になれば、健康保険組合は保険料率を引き上げざるを得なくなる。当然、加入者の負担に跳ね返るわけで、そうでなくても高齢者医療費の増額を負担している現役世代の負担が年々重くなっているのに、さらにそこに少子化対策分を上乗せできるのか、というわけだ。

保険料は働いている人が幅広く負担する仕組みで、健康保険の場合、現役世代も医療機関にかかれば自己負担分を除いて健康保険から支給される。しかし、現役世代が使う医療費の割合は小さく、実際には受益に比べて負担がどんどん大きくなっている。さらに介護保険も加わり、これは若年層は負担のみを強いられている格好だ。

可処分所得が小さくなれば

こうした社会保険料率や税金負担が増えれば、当然、手元に残る給与は減っていく。いわゆる「可処分所得」が小さくなるわけだ。

現役世代の可処分所得が減っていることが、結婚しなかったり、結婚しても子どもを生まない理由の1つになっていると考えられている。

子どもを産んでもらおうと考える世代にさらに負担をかけるという構図になるわけだ。あるいは、子どもを生む人たちへの給付を大きくするために保険料負担も増やすとすれば、子どもを生む人たちのために、子どもを生まない人たちが資金負担するという形になる。

これは現在あるいは将来の自分のためにかけるという保険制度の本来のあり方とは違ってくる。いわゆる所得を再分配する機能を社会保険がさらに持つということになる。児童手当などの給付を受ける人たちは喜ぶとして、手当てを受け取る可能性の低い人たちに、この保険料の増加を納得してもらえるのかどうか。

岸田首相の「新しい資本主義」はもともと「分配」をすることで「成長」が始まるというものだった。少子化対策で手当などを大幅増額すれば子どもが増え、消費も増えて、経済活動が活発化するというのだろう。だがそれも「財源」がなければスタートを切れないことになる。果たして、6月の「骨太の方針」ではどんなプランと財源が示されることになるのだろうか。