「ふるさと納税」1兆円は、最も成功した「経済対策」なのに…それでも反対派の総務省が足を引っ張るために繰り出した「愚策」の数々

現代ビジネスに8月1日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/134751

15年で120倍

ふるさと納税制度による寄付総額が2023年度に初めて1兆円を超えた。税額控除実質負担2000円で返礼品がもらえることが強調され、本来払うべき税金でモノをもらうのはけしからんと言う声が根強くある。だが、少し見方を変えれば、ここ10年で最も国民に支持され、経済効果が絶大な政策だったということができる。

ふるさと納税は制度がスタートした2008年度はわずか81億円の寄付額だったが、それから年々増加し続け、遂に1兆円を超えた。120倍だ。「ふるさと納税」という名称ではあるが、実際は「ふるさと寄付」制度で、寄付によって住民税が控除される仕組みだ。政党や公益団体への寄付と同じ税額控除の仕組みで、その控除率が高いため、所得による上限までは、実質負担2000円で寄付ができる。

寄付を受け取った自治体が送ってくる返礼品は、「寄付のお礼」なのだが、特産品をタダ同然でもらえる点が強調され、これが人気に火をつけることになったのは確かだ。

ふるさと納税制度に反対する総務省霞ヶ関の一部官僚は、税金を払うとモノがもらえるというのは問題だという論点で批判を繰り返している。霞ヶ関に近い記者もこれに同調して、ふるさと納税を問題視する記事も繰り返し記載されてきた。確かに、税金の支払先を別の自治体に移すとモノ(返礼品)がもらえるというのは本来支払う税金で個人的な利益を得ているように見えなくもない。

要はこの制度の見方だ。これを地方税の減税による経済対策だと考えてみてはどうだろうか。これまで消費を喚起するために、政府は幾度となく減税を繰り返した。その際、減税分が貯蓄に回ってしまっては経済対策にならないので、何とか消費に当ててもらおうと考え、金銭を返すのではなく、商品券を配るといったことも行われた。地方自治体でも、1万円で1万2000円分のものが買える地域限定の商品券などを発行してきた。要は、財政が税収分を住民に還元することで経済を活性化させようとする政策だったが、その政策も一過性で終わり、なかなか消費に火をつけることはできなかった。

これほどうまくいっている政策はない

ふるさと納税を「減税による経済対策」と考えると、これほどうまく行っている政策はない。何しろ減税分(住んでいる自治体での税額控除分)が、まるまる他の自治体(ふるさと納税先の自治体)の収入に回るから、国全体として見れば、減税分はすっかり回収ができている。しかも自己負担2000円分は税収増になっているのだ。また、寄付額の合計は住民税控除額の合計を大きく上回っており、控除の上限を超えてふるさと納税している人もかなり多くいるとみられる。

特に昨今の自然災害の多発で、返礼品を目当てに寄付するのではなく、純粋に支援しようという意図でふるさと納税制度を使う人も増えた。被災した自治体に代わって別の自治体が寄付を受け入れて手続きなどを代行し、それを被災自治体の支援に回すところも増えて、定着してきた。

これまで日本では、いくら寄付の税額控除を導入しても寄付は大きくならず「日本に寄付文化は根付かない」と言われ続けてきた。確かにきっかけは返礼品目当てであったかもしれないが、今では寄付(ふるさと納税)が広く浸透している。この社会的な効果だけでも極めて大きい。その証拠に民間でも寄付を募って返礼品を出すクラウドファンディングなどが広がっている。

経済対策としての返礼品効果

もうひとつ論点になるのが返礼品だが、これも「経済対策」と考えれば大きな効果を上げていることになる。自治体が「返礼品」として特産物を出すことが「地域経済」に大きくプラスになっているのは言うまでもない。しかもこれまでは行政や政治の意思で地方の業界に助成金などを出してきたが、返礼品ならば実際に人気が集まる業者を支援することになる。地域を支えるような商品を製造販売しているところをさらに強くするための支援金を出しているのと同じ効果があるわけだ。

つまり、返礼品を出してもそれが経済対策としての効果を生んでいると考えれば、ふるさと納税は極めて優れた経済対策になっていると考えることができる。実際、ふるさと納税総合研究所がまとめた、ふるさと納税の「経済波及効果」は、寄付受入額が9654億円だった2022年度で4兆1259億円に達したとみている。つまり寄付額(減税額)の4倍以上の経済波及効果があるわけで、経済対策としては猛烈な効果と見ることができる。

国全体の経済対策と考えれば、民間の「ポイント付与の禁止」などとんでもない愚策だし、返礼品の額を3割以下に限定するのも意味がない。あるいは地元産品に限らなくても、日本国内で作られている農水産物や工業製品であれば、日本全体としては経済効果が上がることになり、目くじらを立てる意味がない。

これまで、「うちの税金が流出している」と嘆く一方だった大都市圏の自治体からも、ようやく全国からふるさと納税を集める努力を始めるところが出始めた。ふるさと納税を集めるべく、自治体が競い合い、地元を売り出す知恵を出す姿は、本当の意味での「地域おこし」につながっているように見える。

これだけ国民の支持を集めている「ふるさと納税」は、さらに制度を拡充すべきで、総務省などが自省の利益を守るために足を引っ張るのはナンセンスである。