好調だった国内消費に「陰り」が…!インバウンド頼みの日本経済に見え始めた「変調」と懸念

現代ビジネスに8月27日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/136290

インバウンドの絶大な効果

一見、好調な国内消費に変調の兆しが現れ始めた。全国の百貨店の売り上げは伸び続けているものの、訪日外国人客によるインバウンド消費への依存度が高く、実質的な国内消費に陰りが見え始めた。スーパーでの売り上げもマイナスに転じている。4月以降の賃金や夏のボーナスの上昇が、今後、実質的な消費増に結びついて来るのか。日本経済の先行きを占うだけに注目される。

日本百貨店協会が8月23日に発表した7月の全国百貨店売上高は前年同月比5.5%増え、29カ月連続のプラスになった。「引き続き、ラグジュアリーブランドを中心としたバッグや財布等革小物、時計、美術・宝飾、化粧品などが国内外共に好調」だったと協会では分析しており、外国人旅行者や国内富裕層が、ブランド品などの高額商品を購入していることが追い風になっている。

特に、百貨店の好調を支えているのは何と言ってもインバウンド需要だ。日本を訪れる外国人客の増加が続いていることが追い風になっている。日本政府観光局(JNTO)によると、7月の訪日外客数は329万2500人で、前月に続いて単月での過去最多を記録した。円安による日本旅行ブームが続き、「安い日本」での買い物はアジアからの旅行客ばかりでなく、欧米からの観光客も惹きつけている。これが国内消費を大きく押し上げている。

7月に百貨店で免税手続きをして買われた額は633億2000万円に達した。5月に記録した718億7000万円には及ばなかったが、新型コロナ前のピークは344億7000万円(2019年4月)で、去年10月以降はこれを大きく上回る状況が続いている。

百貨店全体の総売上高に占める免税売り上げの割合も、ピークの2019年4月の7.7%とは比べものにならないほど上昇。過去最高を記録した今年5月は15.3%、7月も12.6%に達した。都心の百貨店などは売り場によっては日本人よりも外国人客の方が多く見られるなど、百貨店のインバウンド依存が俄然、高まっている。

スーパー売上、マイナスへ

そんな中で、懸念されるのが、インバウンド消費を除いた「実質国内消費」の行方。百貨店の総売上高から免税売上高を差し引いた「実質国内売り上げ」は、コロナが明けて経済活動が本格化したことで、2022年3月以降プラスが続いてきた。10%を大きく上回る消費好調の月も多く見られた。それが今年4月に前年同月比1.0%減と、26カ月ぶりにマイナスに転じたのだ。5月、6月はプラスに戻ったが、7月には再び1.5%の減少となった。国内消費に変調の兆しが見えていたと言えるかもしれない。

日本チェーンストア協会がまとめたスーパーの既存店売り上げも7月に1.0%減と17カ月ぶりのマイナスになった。食料品価格の上昇もあり、食料品売上高は前年比プラスをかろうじて続けているが、数量ベースでは販売が伸び悩んでいるとみられる。

また、7月で見ると、統計対象の店舗数は1年前に比べて1548店舗も減少しており、既存店ベースではない総店舗ベースの売上高は9.1%減と大幅に減っている。総店舗ベースの売り上げ減少は4月以降4カ月連続で、消費の落ち込みで、売り上げが不振な店舗を閉鎖するスーパーが増えていることを示している。

株価下落、「マイナス資産効果」の影

これまで百貨店の収益を支えてきたのは、高額品の売り上げだが、これが今後どうなっていくかも焦点。ブランド品のハンドバッグや財布など「身の回り品」は33カ月連続で2ケタ以上の伸びが続いており、7月も17%の増加だった。「美術・宝飾・貴金属」も7月は16.1%増と依然として高い伸びを続けている。円安もあってインバウンド客のブランド品購入などは簡単には衰えないとみられるが、国内富裕層の購買行動がどうなっていくか。

8月に株価が大幅に下落した後、いったんは急回復したものの、その後も不安定な相場が続いている。株価や不動産価格の上昇によって保有資産の評価額が上がり、富裕層の財布の紐が緩む、いわゆる「資産効果」も、高額品消費を後押ししてきたとみられ、株価の乱高下によって富裕層の財布の紐が締まるのではないかという懸念がある。

消費を左右するもうひとつの要因は、給与が増えるかどうか。岸田文雄首相は繰り返し「物価上昇を上回る賃上げ」の実現を口にしてきた。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の実質賃金は、6月に27カ月ぶりに1.1%増とプラスに転じたが、これはボーナス増の影響が大きく、「決まって支給する給与」は1.2%減と29カ月連続のマイナスが続いている。実質賃金がなかなか本格的にプラスにならない中では、消費が盛り上がってこない。

総務省「家計調査」でも、の「実収入(勤労者世帯・実質)」は5月、6月とプラスに転じているものの、「家計消費支出(2人以上世帯・実質)は」マイナスが続いている。収入の増加から遅れて消費が増える傾向があるものの、実質の収入増が消費を支える構図になるかどうかが今後の焦点になる。