現代ビジネスに12月3日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→
https://gendai.media/articles/-/142557
リーマンショック後、不況
大学生の間で、公認会計士資格への人気が高まっている。11月15日に金融庁の公認会計士・監査審査会が発表した2024年の公認会計士試験結果で、志願者(願書提出者)は2万1573人と前年に比べて62%、1256人増加。合格者も前年から59人増の1603名と4年連続で増加した。志願者の増加は9連続。2015年には1万180人と1万人割れ寸前まで落ち込んだが、以降、着実に盛り返してきた。
もともと会計士試験は、司法試験と並ぶ難関試験として知られ、2001年までは合格率8%前後、合格者は1000人未満だった。司法試験同様、大学卒業後に予備校などに通って合格するというのはパターンになっていた。2000年代に入ると上場企業の増加などで会計士不足が深刻化。試験制度が大きく見直され、2006年の試験から合格者は一気に3000人超になった。2007年には合格者が4041人、合格率も19.3%に達した。合格率の上昇などから、会計士試験人気が高まり、2010年には志願者は2万5648人に達した。
そこにリーマンショックによる不況が襲う。それまで合格した会計士は監査法人など会計事務所が採用するケースがほとんどだったが、大量合格によって会計士の余剰が発生、資格を取っても会計事務所で働けない人が続出した。会計士業界では試験を易しくしすぎたとして、合格率の引き下げを金融庁に要望する事態になった。2011年の試験は合格率は6.5%にまで引き下げられた。
就職できないのに、試験は難しいということで、会計士試験は学生からそっぽを向かれる事態に。志願者が1万人割れ寸前まで行ったのはこのためだった。また、粉飾決算など会計監査を巡るスキャンダルが相次いだことも会計士離れに拍車をかけた。
危機感をもった日本公認会計士協会など会計業界は、会計士のイメージアップに向けたキャンペーンを始めたほか、金融庁に要望して合格率を10%台に引き上げた。2014年から2020年まで合格率は10%を超えていた。
人気復活の背景
これが着々と会計士人気につながっていった。勉強すれば現役の大学生のうちに合格できる資格、というイメージが定着していったことが志願者を増やしていった。2024年の合格者のうち大学在学中が37.7%に達している。高卒も含め、4割が大学卒業前に合格している。大学卒業後に予備校に通って受験する人もいるが、年齢で見ると25歳未満での合格者が62.6%に達する。30歳未満だと88.7%だ。難関試験には違いないが、きちんと合格できる資格になったというわけだ。
世の中の変化も大きい。会計士試験に合格しても監査法人に就職せず、金融機関や一般企業で働くケースが増えている。ビジネス社会で会計知識が求められる場面が増えていて、会計士へのニーズが高まっているのだ。コンサルタントや投資ファンドで働く専門家、弁護士などが会計士資格を取る動きもある。学生からすれば、就職を希望しているのはM&A(合併・買収)仲介ファームだが、そのためにはとりあえず会計士資格を取っておこう、といった動きもある。
もうひとつは学生の就職観が大きく変わったことがある。大企業に入れば一生安泰という時代は終わり、「終身雇用」を前提に企業を選ぶ学生が減っている。最初に就職した会社でキャリアを積んで、他に転職していくという志向を持つ人が増えている。中途でキャリアアップしていこうと考えれば、いかに専門性を磨くかがポイントになるが、その際のいわば「保険」として資格を取っておこうというニーズが高まっている。会計士試験だけでなく、簿記の資格を取る学生も増えている。
逆に、企業の人材ニーズも変化してきた。IT技術者を募集していても、企業会計の流れが分からないと経理財務のシステム開発ができないため、簿記の知識を持つ人材を求めるようなケースが増えている。つまり、一つの資格を取ってそれで食べていくという考え方が働き手にも企業にも芽生えているのだ。そうしたニーズの変化が会計士資格人気を後押ししていると見ていいだろう。
低迷続く司法試験受験者数
会計士人気と対照的なのが、司法試験だ。受験者数は2011年の8765人をピークにほぼ一本調子で減少を続け、2022年には3082人にまで落ち込んだ。法科大学院を終了して受験する仕組みだが、法科大学院を出ても合格率が50%を大きく下回るところが多く、法科大学院の人気は低迷し続けている。2023年には受験者は3928人まで増えて回復するかと思われたが、2024年の受験者数は3779人と再び減少している。
一方で、法科大学院に行かずに試験に臨む「予備試験」は大学在学中でも挑戦できるため人気で、受験者は2022年に1万3000人を超えたが、こちらは合格率が3.5%前後という超難関で、なかなか合格できない。
司法試験と予備試験を合わせた受験者合計を見ても2014年の1万8362人から減少傾向で、2024年は1万6348人になった。2020年の1万4311人から2023年の1万7300人まで3年連続で増加したので、底入れかと思いきや、2024年は再び減少している。
司法試験の場合、まだまだ資格を取ったら法曹(裁判官、検事、弁護士)として働くというイメージが強く、ビジネスで必要な資格という発想は乏しい。弁護士業界には、資格を取っても食べていけないので、合格者を増やすべきではないという声が根強くある。
学生からすれば、大学在学中に合格するのは極めて困難で、法科大学院にお金をかけて2年通ったからといって合格が保証されるわけでもない。そうした資格制度・試験制度のあり方の違いが大きく明暗を分けている。