財務省は「楽に集められる税金」を手放したくないはずだ…「ガソリン減税」後の高市政権を待ち受ける重大論点 「レジの改修に時間がかかる」と言うが…

プレジデントオンラインに10月12日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/104799

50年間も続いてきた「暫定税率

ガソリンの暫定税率の年内廃止が固まった。ガソリンにかかる税金は本則では1リットル当たり28.7円だが、暫定税率としてこれに25.1円が上乗せされてきた。暫定税率は、1974年に道路整備財源の確保を目的に導入されたが、「暫定」と言いながら延長され、50年も続いてきた。また、ガソリン税を含めたガソリン価格に消費税が課税されており、「二重課税」になっている。

原油価格の上昇や円安によって国内でのガソリン価格が大幅に上昇する中で、暫定税率を廃止することでガソリン価格を引き下げるべきだという議論が続いてきた。中でも国民民主党は価格高騰時に暫定税率を免除する「トリガー条項」の凍結解除を求めるなど、この問題に真っ先に取り組んできた。

2023年11月の岸田文雄内閣時には2023年度補正予算案に国民民主党が賛成したが、賛成理由としてガソリン税を引き下げる「トリガー条項」の発動に向け、自民、公明、国民民主の3党の政策責任者で協議を進めていくことを確認したためとしていた。当時、玉木雄一郎代表は「覚悟を持って今回は賛成しましたので、トリガー条項の凍結解除はやりきりたいと思います」と述べていた。ところが、その後もトリガー条項が発動されることはなく、減税は実現しなかった。国民民主党からすれば、裏切られた格好になった。

2022年からの補助金総額は8兆円にのぼる

2024年10月の総選挙で国民民主党は7議席から28議席に躍進。その勢いをかって12月にはガソリン減税を実現する法案を衆議院に提出した。法案では、トリガー条項の凍結解除だけでなく、暫定税率そのものの廃止にまで踏み込んだ。これがその後の野党による暫定税率廃止の流れを作ったとも言える。

しかし、石破茂政権はガソリン減税には遅々として踏み出さなかった。3月になっても、石破首相は「なるべく早く結論を出してしかるべきものだと思っている」と述べるに止まっていた。

2025年7月の参議院選挙で情勢不利と見た自民党森山裕幹事長が暫定税率の廃止を明言。それでも自民党が大敗したこともあり、7月30日には与野党暫定税率の廃止について合意に至った。高市早苗内閣に代わって、年内ではなく年度内といった声が政府・自民党から出たが野党が猛烈に反発、年内の廃止にようやくたどり着いた。

一方で政府は、ガソリン価格を引き下げるために補助金を出し続けてきた。2022年1月に「緊急対策」のガソリン価格激変緩和措置として導入され、石油元売会社に価格引き下げ分の補助金を出してきた。その総額はすでに8兆円を超えている。年間2兆円以上の補助金が元売り企業に支払われたわけだ。

1リットル当たり17円くらい安くなる見込み

政府が暫定税率の廃止に、のらりくらりと抵抗してきたのはなぜか。税収が減ることに財務省が抵抗しているのは言うまでもない。暫定税率の廃止で1リットル当たり25.1円安くなる計算だが、さらにそれにかかる消費税も少なくなるため、27.6円程度の引き下げ効果があるとみられる。一方で、1リットル当たり10円の引き下げに当てられている補助金が廃止される見込みで、17円くらい安くなるのではないかと考えられている。

暫定税率廃止に伴う減収は1.5兆円程度と見られるが、「その財源をどうするのか」といった声が出ている。実際には補助金を無くせば賄える規模と思われるが、地方自治体の税源としても使われており、地方から手当を求める声が政府に寄せられるのは必至だ。とはいえ、これは地方交付税交付金などで手当すれば済む。

にもかかわらず、政府はなぜ、減税ではなく補助金を好むのか。石油元売会社などの業界団体である石油連盟自民党国民政治協会への献金額が大きい団体として知られている。東洋経済会社四季報オンライン編集部のまとめによると2021年に寄付した金額は5000万円で上から6番目。このほか、議員の政治資金団体などに寄付する会社もある。うがった見方をすれば、政治力のあるところに補助金が手当されているということにもなる。企業団体献金を廃止すべきだという主張の根幹と底通する。

今後を揺さぶる「蟻の一穴」になる可能性

自民党少数与党となったことで、野党の発言力が強まり、50年続いていたガソリン暫定税率の廃止につながった。選挙で大負けした自民党は、長年の連立相手であった公明党との関係も解消し、党勢の立て直しをはかっている。その期待を担っているのが高市首相だが、国民の声と、旧来の既得権層の利益対立にどう決着をつけていくのか。暫定税率の廃止は一見小さい動きだが、自民党政権の今後を揺さぶる「蟻の一穴」になる可能性は十分にある。

高市首相は物価高対策に真っ先に取り組むとしているが、従来のガソリン補助金やガス・電気代への補助金といった「穴埋め」ではもはや先がない。財政支出を膨らませれば円安が進み、輸入物価が上がって、タイムラグで国内物価が上昇することになる。すでに国内物価の上昇に火がつき、国民生活を圧迫している。名目賃金は上昇しているが、2025年1月から9月まで賃金上昇を物価上昇が上回り、「実質賃金」はマイナスが続いている。

可処分所得を増やす政策を採らなければならない

そこで、野党などから要求が強まっているのが「消費減税」である。立憲民主党が食料品にかかっている消費税を最長で2年間ゼロにすることを求めているほか、他の野党も廃止などを含めて消費税の軽減を要求している。

これは当たり前のことだが、物の価格が上昇すれば、同じものを買っても消費税の負担は増える。暫定税率の上乗せは1リットルあたり25.1円と金額で決まっていたが、消費税は「率」なので、価格が上がれば負担する額が増える。これは健康保険料や年金掛け金など社会保険負担も同じだ。社会保険料の引き下げを求める声が高まっているのも、このためだ。

要は消費に使える「可処分所得」を増やさない限り、実質的な消費量は増えず、景気は盛り上がらない。人々の生活を豊かにするには実質賃金だけでなく、可処分所得を増やす政策を採らなければならない。

高市氏は首相になる前は、歯切れ良く消費税減税も必要だと発言していた。ところが首相になって以降、消費税減税については姿勢を転換している。その理由が「レジの改修に時間がかかる」というもの。

次の焦点は「消費税減税問題」

「消費税率の引き下げについて、大手事業者の関連システムの改修に1年以上かかるとか、これもかなりシェアの高い大手のシステム関係の事業者ですが、レジの改修、これにまず1年以上かかるということで、まず物価高対策として即効性のあるものとしては、諦めた経緯がある」

この説明はネット上で炎上気味で、「1年以上かかるとどの企業が言っているのか」といった指摘が溢れている。テレビ番組などでも「1日で対応できる」といった店主の声が流されたりしている。

ちなみに、ガソリン税も、もともとは道路建設のための財源と使途が決まっていたが、今は一般財源化され、何にでも使うことができる。消費税も「社会保障に使われる」と説明されてきたが、現実は使途が限定されているわけではない。財務省からすれば、使い勝手の良い税金なわけだ。また、所得税などと違い、税金逃れをするのが極めて難しい。中小零細事業者にとっては、売り上げに課税されるので、赤字でも納税しなければならない。国民には負担感が大きい一方で、国にとっては楽に集められる税金というわけだ。

政権発足後、今は支持率が高い高市政権だが、ガソリン税問題が片付いた今、次の焦点は消費税減税問題になるに違いない。