軒並み黒字でも明るくなれない、電力会社の胸中〜直面する「販売電力量の減少」という大問題

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「燃料費激減」が示すもの

大手電力10社の2016年3月期通期の連結決算で、経常損益が全社そろって黒字になった。10社が黒字になったのは、東日本大震災以降初めて。昨年は関西電力九州電力北海道電力の三社が経常赤字だった。久方ぶりの好決算というわけだが、これで大手電力の収益体質が立ち直った、というわけではなさそうだ。

今回の決算では、関西電力が昨年の1130億円の経常赤字から2416億円の黒字に転換したのが目を引いた。九州電力も736億円の赤字から909億円に黒字に転換した。業界最大手の東京電力も2080億円から3259億円に利益を大きく増やした。

電力大手10社の2016年3月期の業績(出典:電気事業連合会

今回の損益改善の要因は原油価格の大幅な値下がりで、火力発電用の燃料費が激減したこと。加えて、各社が電力料金の値上げに踏み切ったことも収益改善に結び付いた。

特に関西電力の場合、燃料費が7103億円と前の年の1兆1865億円から4762億円も減ったことが収益を劇的に改善させた。関西電力の昨年からの経常損益の改善幅は3546億円だから、それを大きく上回る燃料費の減少効果があったことになる。

他の電力会社でも燃料費の減少が大きく、東京電力の燃料費は1兆6154億円と、前の年の2兆6509億円に比べて、何と1兆円も減少した。東日本大震災以降、原子力発電所の稼働停止が相次ぎ、結果的に石油やLNG(液化天然ガス)を原料とする火力発電の割合が大きくなっている。

火力の割合が高まっただけ、原油やLNG価格の下落の効果が大きく効いたということになる。

「省エネ」は痛しかゆし

電力各社は休止中の原発を早期に再稼働させたい考えで、コストの低い原発を稼働させなければ経営がもたないという立場を取り続けてきた。昨年夏に鹿児島県にある九州電力川内原発1・2号機が再稼働、今年1月には福井県にある関西電力高浜原発3・4号機も再稼働したが、大津地裁が運転差し止めの仮処分を下したことで、3月に停止した。

川内原発はほぼ半年にわたって稼働したことになり、決算でも730億円の収支改善効果があったとしている。実際、九州電力の燃料費の削減率は46%に達し、燃料費価格の減少だけでなく、燃料使用量も減ったことを伺わせる。ちなみに原発が稼働していない電力大手の燃料費削減率は中部電力で38.8%、中国電力で34.3%、四国電力で34.1%で、東京電力でも39.1%だった。確かに、原発再稼働はコスト削減に結び付くわけだ。

だが、だからといって、原発が再稼働すれば、業績がどんどん伸びるかというとそうではない。

関西電力は昨年、赤字決算担った際、「原子力プラントが平成25年の電気料金の値上げの前提どおりに再稼働できなかったことから、事業収支は極めて厳しい状況となりました」としていた。原発再稼働が計画通りに進まない中で、関西電力は大幅な料金引き上げに踏み切った。これが燃料価格の下落と共に収益が大きく改善した要因になった。

実は、電力大手は構造的な課題を抱えている。販売電力量の大幅な落ち込みと、発電量自体の減少が続いているのだ。

電気事業連合会がまとめた2015年度の「発受電電力量」(10社合計)は8644億キロワット時で、3.3%も減少した。震災前である2010年度の発受電電力量は9876億キロワット時だったので、12.5%も減っているのである。しかもここ数年、景気悪化に歯止めがかかりつつある中で、2013年度0.1%減→2014年度3.2%減→2015年度3.3%減、と減少率が大きくなっている。

震災以降、家庭の節電志向が高まったことや、企業を中心に省エネ投資が進んでいることが背景にある。電力会社としては「省エネ」は促進する立場だったが、それも消費電力業が右肩上がりに伸びていた時代を前提にしている。

消費電力が発電能力を上回らないように新規の発電所建設などが必要になると、電力会社の業績にもマイナスだったから、「省エネ」は電力会社の利益にもつながっていた。

ところが、最近のように消費量が激減してくるとなると話は違う。設備能力をフルに使うことができなければ経営効率が下がってしまうのだ。口では「省エネ促進」と言いながら、電力会社の経営を考えると痛しかゆしなのである。

電気が売れない、それが最大の問題

改めて大手10社の決算を見ると、10社中販売電力量が増えたのは沖縄電力だけで、他は軒並み減少した。10社合計の販売電力量は2.7%の減少となったのだ。

販売量が減れば値上げをしてもなかなか売り上げ増には結びつかない。10社合計の売上高は6.3%の減少となった。

中でも販売電力量の減少が目立ったのは関西電力だ。5.2%減とダントツで大きく減った。関西電力原発の稼働停止を理由に電力料金を大幅に引き上げており、結果として消費者の間で「電気離れ」を加速しているようにみえる。値段が上がれは消費量を減らすというのは当たり前の行動である。

家庭用の電気(電灯)の販売量は3.9%、商店や小規模企業向けは4.0%販売量が減った。そんな中で最も減少が目立ったのが「特定規模需要」と呼ばれる大規模な工場や事務所向けである。この部門は5.9%も減っている。つまり、競争に負けているのである。

4月から家庭用の電気も小売りが自由化された。今後ますます家庭の電気料金への感度は高まっていくだろう。新規参入の業者との競争はまだまだこれからといった感じだが、コストが上がったからと言って価格に転嫁しようとする経営スタイルは、なかなか通用しなくなるだろう。

電力大手にとっては、原発停止や小売り自由化も大きな衝撃には違いないが、最大の問題は電気が売れなくなっていること、つまり販売電力量の減少にどう立ち向かうかが経営にとって需要になるだろう。