このまま消費増税をすれば「日本経済の底が抜ける」3つの論拠

現代ビジネスに3月21日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63646

今年10月が最後のチャンスか

10月からの消費増税を控えて、日本の国内消費が一向に改善しない。それどころか、これまで消費を下支えしてきた訪日外国人観光客による「インバウンド消費」にも陰りがみられ、高級品消費なども落ち込んでいる。

給与がなかなか増えない中で、若年層の可処分所得が思ったように増えず、消費に結びついていないのだ。このまま消費増税を行えば、日本経済の底が抜けることになりかねない。

消費増税を行うとすれば、2019年10月のタイミングしかない――。首相官邸財務省もそう考えてきた。

2020年の東京オリンピックパラリンピックを控え、建設需要などが底堅いうえ、増税による消費の反動減が起こっても、オリンピックを目がけてやってくる外国人観光客の「特需」で吸収できる、というわけだ。

さらに、プレミアム付き商品券の発行など反動減対策を行えば、消費増税の影響を小さくできる、というわけである。

ところが、増税を待たずに、消費が腰折れしそうな気配なのだ。普通ならば増税前の駆け込みで消費が膨らみそうなものだが、実施まで半年に迫ったのに駆け込みが本格的に始まらないのである。

日本百貨店協会が発表した1月の「外国人観光客の売上高・来店動向」によると、全国の百貨店で免税手続きをして購入した客数は42万人と前年同月比0.8%増えた。2013年2月から72カ月連続の増加だが、伸び率は大幅に鈍化している。

また、免税で購入された品物の総売上高は262億7000万円と、7.7%も減った。対前年同月比でマイナスになったのは、2016年11月以来、26カ月ぶりのことだ。

前月の2018年12月は免税売上高が302億円に達していたので、これと比べると13%減の大幅マイナスである。

中国特需、はげ落ちる

いったい何が起こったのか。ひとつは中国の景気減速で、日本にやってくる中国人観光客が頭打ちになってきたこと。もうひとつ大きな事は、中国政府が国内に持ち込む免税品の規制を強化したことである。

これまで中国からの訪日客の中には、他人から頼まれた商品を日本で買って帰る代理購入をする人が少なからずいた。それを専門の商売としている人もおり、「爆買い」の大きな要因になっていたのだ。

今年1月から、空港での荷物チェックなどを一気に厳格化したことから、日本に代理購入を目当てにやってくる人も減少、日本の百貨店での免税売り上げも大きく落ち込んだというわけだ。

百貨店で免税購入した人の、ひとり当たり単価も、昨年12月の6万8000円から、6万3000円に急減した。これも「爆買い」減少の影響とみられる。

もっとも、この規制強化に関係なく、免税手続き売上高の伸びは、昨年秋ごろから鈍化していた。2018年8月までは前年同月比2ケタの伸びが続いていたのだが、9月以降12月まで1ケタの伸びになっていた。そして1月に遂にマイナスになったわけだ。

これには昨年後半からの中国経済の鈍化が影を落としている。米国との貿易戦争によって、中国の輸出企業が大きな影響を受け、生産を減らすなどの対応を取っている。これによって、中国の経済成長が急速に鈍化しているのだ。

その影響は、むしろ日本国内の製造業に表れている。財務省が発表している貿易統計の2018年12月分で、中国向けの輸出が11月の前年同月比0.3%増から一転して7.0%減へと急ブレーキがかかったのだ。

中でも、半導体製造装置の輸出は数量ベースで42.1%減、金額ベースで34.3%と大きく落ち込んだ。中国製造業の「異変」が日本の統計数字に表れたのである。

また、機械受注統計をみても、「外需」は10月の9.5%増、11月の17.6%増と好調に推移していたものが、12月と1月はともに18.1%減と大きくマイナスになった。2月の統計数値が発表されている工作機械受注は29.3%減となり、5カ月連続のマイナスになった。外需産業を中心に国内企業の景気が一気に悪化しているのである。

企業は3期ぶりに減益へ

日本経済新聞社の昨年秋段階の集計では、2019年3月期の企業収益は、かろうじて増益になるとされていたが、2月以降の集計では、3期ぶりの減益になるとの見方に変わっている。

企業収益の悪化は、給与の伸び率の低下などに直結する。安倍首相が目指してきた「経済の好循環」、企業収益の伸びの結果、給与が増え、それが消費増につながるという期待が、水をさされる結果になりつつある。

1月の百貨店売上高をみると、大阪が3.8%減と大きくマイナスになっている。前述のようにインバウンド消費が落ち込んでいることが大きい。天候が悪かった昨年7月や、関西空港が一時閉鎖になった9月を除くと、マイナスになったのは2016年12月以来。完全に潮目が変わったとみていいだろう。

もっとも、インバウンド消費の落ち込みだけが、消費減退の原因ではない。

百貨店売上高から免税売上高を引いた「実質国内売上高」を比較しても、1月は4.3%の減少と大きく落ち込んでいる。

ここ数年堅調だったハンドバッグなどの「身の回り品」が2.4%減、時計や宝石といった「美術・宝飾・貴金属」が2.2%減とマイナスに転じていることが目を引いた。

百貨店売り上げで見る限り、消費には一向に明るさが見えて来ないのだ。

果たして、このまま10月の消費増税に踏み切って、大丈夫なのであろうか。財布のひモが今よりも固くなり、本格的に消費が減退することになれば、経済の好循環ならぬ、経済の逆転悪循環が始まることになりかねない。

 

「國松元警察庁長官」が警鐘を鳴らす「外国人受け入れ政策」の問題点

新潮社フォーサイトに3月19日にアップされた拙稿です。オリジナルページ(有料)→

https://www.fsight.jp/articles/-/45025

 外国人労働者を本格的に受け入れることを狙った改正出入国管理法が4月1日から施行される。「特定技能1号」という新しい在留資格が生まれ、これまで就業ビザが取得できなかった宿泊業や外食、農業、漁業などで「労働者」としての受け入れがスタートする。

 また、同時に新設される「特定技能2号」という在留資格では、資格の無期限更新が可能になり家族帯同も許されるなど、事実上の「移民」に道が開かれる。さらに、法務省の入国管理局が格上げされ、出入国在留管理庁が発足。こうした外国人人材の日本への定着を進めるための政策を一元的に行う体制がスタートする。

 

・・・以下、新潮社フォーサイトでお読みください。(有料)→

https://www.fsight.jp/articles/-/45025

外国人管理人材の育成を急げ

3月15日付のCFOフォーラム「COMPASS」に掲載された拙稿です。オリジナルページ→

http://forum.cfo.jp/?p=11539

 

 2018年の臨時国会で成立した改正出入国管理法が2019年4月1日から施行される。「特定技能1号」などの新しい在留資格が誕生し、これまで「単純労働」だとして就労ビザが出されなかった職種でも、外国人が働けるようになる。例えば、宿泊や外食など、これまでは留学生のアルバイトを使う以外に方法がなかった業種に、正式に外国人労働者が入ってくる。

 技能実習生も今後、特定技能1号という正規の労働者として入ってくる。建設や製造業の現場や、食品加工の工場などは、すでに外国人なしでは回らなくなっている。技能実習はあくまで国際貢献というのが建て前で、滞在期間である3年もしくは5年が過ぎたら本国に帰ることになっていたが、それでは熟練労働者が不足してしまう。「特定技能2号」はそうした建設関連などの外国人を対象に、長期にわたって在留し、家族の同伴も認める資格になっている。実質的な移民制度とみることもできる。

 

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http://forum.cfo.jp/?p=11539

福島事故から8年、いつまでこの国は「原発議論」から目を背けるのか

現代ビジネスに3月14日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63500

 

奇妙な日経記事

東日本大震災から丸8年が経過した。東京電力福島第一原子力発電所事故はいまだ終息するメドが立っておらず、日本のエネルギー政策に影を落としたままになっている。

震災があった3月11日には新聞やテレビが8年たった今の福島の現状など様々な角度から検証記事を掲載した。

そんな中で、日本経済新聞3面の記事が目を引いた。「エネルギー改革 道半ば」という横見出しに続いて、「火力依存で高コスト 原発新増設、方針示せず」という見出しが立っていた。

2010年度には54の原子炉があり、原子力発電が全体の25.1%に達していた。それが2017年度は再稼働しているのは9基だけで、発電量全体の3.1%しか賄えていない、と指摘。その結果、石炭やLNG液化天然ガス)といった火力への依存度が8割を超えているとしている。

そのうえで、「エネルギーのコスト競争力は日本経済の基盤だ」として、高コスト体質の見直しを求めている。

グラフには、貿易収支が示され、原発に代わって火力を増やした結果、燃料輸入が急増したため、2011年以降の累計赤字が31兆円に上ったとしている。つまり、「コストの安い」原発に戻せといわんばかりの論調なのである。

大手重電メーカーなどが大口スポンサーで、伝統的な大企業経営者に近い日本経済新聞からすれば当然の主張とも言えるが、原発があたかも「低コスト」であるかのような書きぶりはミスリーディングだろう。表面的な燃料代だけでコストを比べ、事故処理にかかっている莫大な国民負担、電気料金への上乗せ負担を考えれば、低コストなどとは決して言えない。

なぜ、原子力発電が必要なのか。その時々に応じて経済産業省資源エネルギー庁は説明を変えてきた。

資源がない日本が、いずれ埋蔵量がなくなる石油資源に依存するのは危険だという説明や、エネルギー自給率や安全保障上の必要論をからめた説明、他の電源に比べてコストが大幅に安いという説明、二酸化炭素排出がほぼゼロなので、温暖化対策に不可欠であるという説明などなど。

だが、そのいずれも安全性への不安を訴える反原発派、脱原発派の人々を納得させる水準には達していない。

安倍政権は議論を避けている

この記事で共鳴する点は、「原発は国の方針を改めて明確にする必要がある」としている点だ。

政府のエネルギー基本計画では、「可能な限り原発依存度を提言する」としながら、「世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた原子力発電所の再稼働を通じて、(原子力発電の比率を2030年に)24%とすることを見込む」としている。

現状のままでは到底、この水準は達成できないのは明らかだが、玉虫色というか、原発推進派にも反対派にも良い顔をする表現を計画に書き込んでいる。国民を二分するような議論をあえて避けているとみていいだろう。

「今の安倍政権は将来、原発をどうするのか、本気で議論する気がまったくない」と資源エネルギー庁原発政策に携わって来た幹部OBは言う。日経の記事にも世耕弘成経産相の会見コメントが登場するが、「原子力政策に関して、国民からまだ十分な理解を頂いているとは思わない。不断の活動を続けていかなければいけない」という優等生発言である。

安倍内閣が高い支持率を維持している背景には、こうした国民を二分しかねない問題については議論を避けていることだ。

原発について「安全性が確認されたものから順次再稼働させる」とは言っているものの、原子力規制委員会に任せていることもあって、なかなか再稼働が進まない。一方で、原子炉の新増設やリプレース(老朽原発の建て直し)については一向に方針を示さない。

日本では、原発は稼働から40年で廃炉するルールになっている。申請すれば1回に限って20年延長することができるものの、安全性の検査を通すために追加の安全対策などが必要になるケースも多く、40年での廃炉を決断する電力会社も少なくない。

つまり。40年たったところから、どんどん廃炉が進んでいくことになるわけだ。新増設やリプレースを議論しないということは、緩慢なる脱原発を選択していることになる。

だが、国民議論なしに「脱原発」を決めていく、というのも問題だろう。

ドイツ・メルケル首相の決断

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は東日本大震災をきっかけに、それまでの原発擁護の姿勢を180度転換し、脱原発を決めた。

「3.11」の1日前にドイツ在住のジャーナリストである熊谷徹さんがフェイスブックで、メルケル首相の2011年6月9日の連邦議会での演説の一部を引用して、当時の「転向」の背景を解説していた。以下がその引用部分だ。

「……(前略)福島事故は、全世界にとって強烈な一撃でした。この事故は私個人にとっても、強い衝撃を与えました。大災害に襲われた福島第一原発で、人々が事態がさらに悪化するのを防ぐために、海水を注入して原子炉を冷却しようとしていると聞いて、私は“日本ほど技術水準が高い国も、原子力のリスクを安全に制御することはできない”ということを理解しました。
新しい知見を得たら、必要な対応を行なうために新しい評価を行なわなくてはなりません。私は、次のようなリスク評価を新たに行ないました。原子力の残余のリスク(Restrisiko)は、絶対に起こらないと確信を持てる場合のみ、受け入れることができます。
しかしその残余リスクが実際に原子炉事故につながった場合、被害は空間的・時間的に甚大かつ広範囲に及び、他の全てのエネルギー源のリスクを大幅に上回ります。私は福島事故の前には、原子力の残余のリスクを受け入れていました。高い安全水準を持ったハイテク国家では、残余のリスクが現実の事故につながることはないと確信していたからです。しかし、今やその事故が現実に起こってしまいました。
確かに、日本で起きたような大地震や巨大津波は、ドイツでは絶対に起こらないでしょう。しかしそのことは、重要な問題ではありません。福島事故が我々に突きつけている最も重要な問題は、リスクの想定と、事故の確率分析をどの程度信頼できるかという点です。なぜならば、これらの分析は、我々政治家がドイツにとってどのエネルギー源が安全で、価格が高すぎず、環境に対する悪影響が少ないかを判断するための基礎となるからです。
私があえて強調したいことがあります。私は去年秋に発表した長期エネルギー戦略の中で、原子炉の稼動年数を延長させました。しかし私は今日、この連邦議会の議場ではっきりと申し上げます。福島事故は原子力についての私の態度を変えたのです。(後略)」

そのうえで、熊谷氏は「彼女は一時科学者として働いた人間らしく、多言を弄して弁解はせず、原子力エネルギーについて、己れの知覚能力、想定能力の限界を正直に告白したのである」と評価している。

福島の事故を巡っては、津波の高さが想定内だったか想定外だったか、と言った議論が繰り返され、当時の経営陣に対する責任追及が今も続いている。だが、想定を上回る事態が実際に起きて事故が発生したことに、メルケル首相は科学者として政治家として決断を下したわけだ。

世論誘導ではない議論を

「時が来れば忘れる」「臭いものには蓋」というのは日本人の性癖かもしれない。だが、真正面からの議論を避けてなあなあで済ました結果、国民が許容できないリスクを取らされているのかもしれない。

日経新聞の記事でも「原発に批判的な世論が多い中で正面からの議論を避けてきた」と指摘している。

議論を呼び起こそうとする記者の意気込みは分かるが、その次に出て来るコメントがいけない。経団連の中西宏明会長の「再生可能エネルギーだけで電力をまかなえるとは思っていない。どんどん(再稼働を)やるべきだ」という発言を掲載している。

中西氏は財界のトップかもしれないが、原発を事業として手掛ける日立製作所の会長だ。モロに利害関係者ではないか。エネルギーコストを議論するきっかけにする産業界の声としては不適格だろう。

原発の事故リスクについては経営者の中にも様々な意見がある。そうした声をきちんとひろったうえで議論を始めないと、答えありきの世論誘導になりかねない。

【高論卓説】重くのしかかる国民税負担 盛り上がり欠く消費の要因に

3月7日付のサンケイBiz「口論卓説」に掲載された拙稿です。オリジナルページ→

https://www.sankeibiz.jp/business/news/190307/bsm1903070500005-n1.htm

 

 国民所得に占める税と社会保障負担の割合を示す「国民負担率」の統計を財務省が公表した。最新の実績値である2017年度は42.9%と、前年度を0.1%上回り過去最高を更新した。国民負担率が前年度を上回るのは7年連続、過去最高の更新は6年連続だ。

 国民負担率は分母に「国民所得」、分子に国税地方税などの「税負担」と年金保険料などの「社会保障負担」を置く。17年度の国民所得は404.2兆円と、前年度に比べて13兆円、率にして3.3%増加したが、税負担がそれを上回る増加になったため、負担率が上昇した。

 国民所得に対する「税負担」の割合は25.3%、「社会保障負担」は17.6%に達する。社会保障負担は前年度に比べて0.1ポイント低下したが、それまで上がり続けてきた厚生年金保険料率が17年9月で頭打ちになったことなどが影響したとみられる。

 国民の多くはすっかり忘れているが、厚生年金の保険料率は05年から毎年9月に引き上げられてきた。給与袋を開くたびに、厚生年金の天引き額が増えているという感覚を持ってきた人もいるに違いない。

 04年9月に基準給与の13.58%(半分は会社負担)だった保険料率は、17年9月には18.3%にまで上昇。13年で4.72%も引き上げられた。基準給与を仮に600万円とすればこれだけで、28万円余りも負担が増えたことになる。加えて、健康保険料も毎年のように上がってきた。

 第2次安倍晋三内閣が発足した12年度と17年度を比較すると、国民所得は44.4兆円増えた。アベノミクスによる企業収益の回復などが大きく貢献した。ところが、この間、国民負担率は39.7%から42.9%に上昇しているのだ。逆算すると30.6兆円も国民負担が増えたことになる。

 社会保障負担が17.0%から17.6%に上昇したこともあるが、消費増税の影響などで、国税地方税を合わせた租税負担が22.7%から25.3%に大幅にアップした。

 景気が良くなっているようで、国民の税負担率は大きく上昇しているわけだ。可処分所得が思うように増えておらず、それでは消費が盛り上がるはずはない。国会で議論されているように実質賃金が増えていないという問題もあるが、税負担が重くのしかかっているという問題も無視できない。

 そんな中で今年10月から消費税率がさらに引き上げられる。8%から10%になるので、当然、国民負担は増える。ところがこのほど財務省が発表した19年度の国民負担率の「見通し」は42.8%と17年度よりも低下するとしているのだ。この3月末で終わる18年度の「実績見込み」も42.8%で、それと比べた場合は、横ばいになるとしている。増税しても好景気で所得が増えるから、負担率はむしろ下がるというのである。

 もっともこの統計。「いわく付き」なものとして知られている。「見通し」どころか、1カ月ほどで締まる年度の「実績見込み」も、当たったためしがないのである。負担が下がる、あるいは横ばいだという発表を毎回のように出しながら、過去最高を更新し続けている。国民所得を大きく見積もれば、国民負担率は低く出るから、見通しを低くするのは簡単である。統計偽装の温床はこんなところにも垣間見える。

ゴーン氏が"作業服姿"を選んだ本当の狙い

プレジデント・オンラインに3月8日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/27937

逮捕から108日目で「異例の保釈」

日産自動車の前会長で、金融商品取引法違反などで逮捕・勾留されてきたカルロス・ゴーン氏が3月6日、保釈された。突然の逮捕から108日。容疑事実を全面的に否認している被告が保釈されるのは「極めて異例だ」と報じられている。

確かに、森友学園問題で逮捕された籠池泰典・前理事長は否認を貫き、保釈までに300日勾留された。ホリエモンこと堀江貴文氏は95日で保釈されたが、検察側は保釈を認めないように裁判所に求める「準抗告」を行った。否認している被告に対しては、裁判で立件できるだけの証拠や証言を揃えるために、長期にわたって勾留する、というのが検察の常套手段になっているのは確かだ。

一方で、長期勾留が「人質司法」だという批判もある。バブル期の経済事件で、逮捕された後も黙秘を続けたために長期にわたって勾留された経済人がかつて語っていたところによると、検察側は何とか罪を認めさせようと必死だったという。

また、当初選んだ元検事の弁護士も、罪を認めた上で、執行猶予をとる方が良いと何度も勧められたと言う。逮捕・起訴したにもかかわらず、法廷で無罪となることを検察は恐れているわけだ。

「日本の司法」への国際的な批判に配慮した

ゴーン氏が保釈されたのは、弁護側が裁判所に提示した「条件」に裁判所が納得したからだ、とされている。海外への渡航禁止や、都内の住居の入り口に防犯カメラを設置してその記録を定期的に提出すること、携帯電話はネットに接続できないものを使用し通話記録も残すこと、パソコンは弁護士事務所にあるネットに接続していないものを使うこと、というのが条件だと報じられている。

だが、多くの元検事の弁護士、いわゆるヤメ検弁護士が異口同音に指摘しているのは、この条件では証拠隠滅は防げない、ということだ。外出先で携帯電話やパソコンを借りれば、第三者接触するのは簡単だというのである。

確かにそうだろう。ゴーン氏が関係者に接触することを完全に阻止することは、おそらく難しい。

それでも裁判所が保釈を決めたのは、100日を超えたという「相場感」と、人質司法批判への配慮だろう。今回の場合、被告が外国人で、かつ社会的地位の高い経済人だということも判断の背景にはある。大会社のトップが逮捕されて身柄を拘束されるのは日本では、それこそ異例だ。しかも当初の逮捕容疑は有価証券虚偽記載罪だった。これは主として粉飾決算を規定した罪だが、例の東芝の巨額粉飾決算ですら、経営者は誰も逮捕されていない。ちなみに金融庁に有価証券虚偽記載だと認定され課徴金も会社は払わされている。にもかかわらず、ゴーン氏はいきなり逮捕された。そうした日本の司法の対応には当初から国際的に批判の声が上がっていた。

ゴーン氏の「世論を味方に付ける」戦略

焦点は、「異例の保釈」によって、ゴーン氏は無罪になる可能性が高まったのかどうかだ。日本の司法の通例だと、無罪を主張し検察と全面対決した場合、被告が負けると執行猶予は付かないケースが圧倒的で、実刑判決を食らうリスクが高まる。裁判官は抗弁する被告を「反省の色が微塵も見られない」と判断するのだ。

また、裁判の過程でも、徹底抗戦すれば、裁判官の「心証」を悪くする、としばしば言われる。だから、初めから罪を認めてしまった方が良い、というムードが日本の司法界では根付いているわけだ。

ゴーン氏側は今後、世論を味方に付けることで、検察にプレッシャーをかける戦略に出るだろう。当然、反論の記者会見も行うことになる。ゴーン氏が発言すれば、日本のみならず世界のメディアが確実に取り上げるので、影響力は甚大だ。

外国人は「囚人服」と見たかもしれない

弁護士が大物ヤメ検大鶴基成弁護士から、人権派の大物で「無罪請負人」の異名も取る弘中惇一郎弁護士に代わった途端、保釈を勝ち取ったことで、ゴーン氏側も勢いづいていることだろう。だが、世の中の世論を味方に付けるという点で、保釈の最初から「失敗」を犯した。

保釈時の「変装」だ。反射板まで付けた作業服までゴーン氏に着せ、はしごを乗せた軽自動車に乗り込ませたアイデアは弘中氏によるものではなかったと思いたいが、身のこなしがどう見ても作業員ではなかったため、瞬時にメディアに見透かされた。全面無罪を主張するのなら、堂々と背広姿で出てくれば良いものを、何を狙ったのであろうか。

森友学園の籠池前理事長は拘置所から出る際に、背広姿で、なおかつ拘置所に一礼してそこを後にした。そこからは、「国策捜査だ」として裁判で徹底抗戦する覚悟が感じられた。ゴーン氏と真逆の対応だったのだ。

ゴーン氏の保釈の様子は全世界に伝播した。外国人は作業服を「囚人服」と見たかもしれないので、あんな格好をさせられてゴーン氏のプライドを傷つける日本の司法はけしからん、という印象を持つのかもしれない。そこまで考えての演出だったとすれば、弘中弁護士は並大抵ではないということになるかもしれない。

日産・西川CEOは“ゴーンの逆襲”に焦りか

今後、日産側、とくに西川廣人社長兼CEO(最高経営責任者)は防戦を余儀なくされるだろう。ゴーン氏が遅かれ早かれ保釈されることを西川氏は想定していたはずで、だからこそ、日本経済新聞など単独インタビューにも積極的に応じていた。その露出の多さと、語っていることの内容の薄さに、西川氏の焦りを感じたのは筆者だけだろうか。

ルノー日産グループからゴーン前会長を放逐したことで、日産側の目的は達成されているのかもしれない。ゴーン氏が今後、記者会見などでどんな発言をするかは分からないが、西川氏をターゲットに批判を展開してくることも十分に考えられる。

有価証券虚偽記載罪は会社の犯罪で、有価証券報告書の提出にあたっての代表者は西川氏である。しかも「取締役の報酬については、取締役会議長が、各取締役の報酬について定めた契約、業績、第三者による役員に関する報酬のベンチマーク結果を参考に、代表取締役と協議の上、決定する」と有価証券報告書に書かれており、ゴーン氏の退職後の報酬などについて西川氏も知っていた可能性が高い。それを知りながら、有価証券報告書に記載しなかったのは提出責任者である西川氏の責任ではないのか。

西川氏への責任追及が始まるかもしれない

にもかかわらず、西川氏が正義の味方のような顔をしてゴーン前会長を責め、自らは今後も経営に携わり続けるような姿勢を取っているのも解せない。

ゴーン氏は特別背任でも起訴されている。こちらがむしろ本命ということだろう。これまでの報道では、会社を私物化していたということを国民に強く印象付けている。強欲だったということについてはおそらく事実だったのだろう。

だが、それで特別背任に「有罪」になるかどうかは、話は別だ。すべて社内手続きを経て合法的に処理していたという主張がされた場合、それを突き崩していくのは簡単ではない。

司法の場で結論が出るまでにはまだまだ長い時間がかかる。初公判は2020年にずれ込みという見方も出ている。つまり、ゴーン氏がルノー日産の経営に戻ってくることはない。

今、ルノーのジャンドミニク・スナール会長も、ティエリー・ボロレCEOも、西川氏ら日産経営陣との対立は避けている。しかし、6月の株主総会が迫ってくれば話は別だろう。何せルノー日産自動車の43.7%(2018年9月末現在)の株式を保有している。海外機関投資家も多く日産株を持っており、外国法人などを合わせた合計では62.7%に達している。

つまり、ルノーが外国人株主の納得する人事提案などを行えば、十分に可決される可能性が高いのだ。もしかすると西川氏への責任追及が始まることになるかもしれないのである。

後手後手に回る対策…外国人の日本語教育、それでいいんですか?

現代ビジネスに3月7日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/60926

ようやく初の実態調査

日本に住民登録している義務教育年齢の外国人について、文部科学省が初の全国実態調査に乗り出す方針を固めた、と毎日新聞が報じた。

6歳から14歳のいわゆる義務教育年齢の子どもは、教育を受ける権利を持ち、その親は子どもに教育を受けさせる義務を負うことを憲法26条は定めているが、それはあくまで「国民」の権利であり、義務に過ぎない。日本に住む外国人には適用されないのだ。

だがそうなると、日本語がまともにできない子どもたちが日本社会に生まれてくる。日本に住んでいるので、母国語の教育を受けるのも難しく、日本語も母国語もきちんとできない外国人が実際に生まれている。「ダブル・リミテッド」と呼ばれ、外国人居住者の多い自治体では、もう何年も前から大問題になってきた。

そうした子どもたちの実態把握はすべて自治体任せで、こうした子どもたちへの教育をどうするかも自治体に丸投げされてきた。自治体によっては、学校のクラスに追加の教育を配置する「加配」などを行ったり、ボランティアを募って日本語教室を開くなど、様々な対応を行っている。

だが、外国人居住者が少ない自治体では、対応が後手に回り、ほとんど放置されているケースもある。「国民」ではないため、義務教育年齢でも就学させる義務がないからだ。

毎日新聞が独自に行った外国籍児童数の上位100自治体に行ったアンケートでは、外国籍児童7万7500人のうち2割に当たる約1万6000人が就学しているかどうか不明だったという。

外国人労働者流入が本格的になって

これに対して文科省がようやく重い腰を上げた、というのである。全国1741自治体に照会して、未就学の実態を把握するという。

それ自体は第一歩に違いないが、あまりにも遅くないだろうか。今年4月からは改正出入国管理法の施行で、新しい在留資格である「特定技能1号」「特定技能2号」が始まり、外国人労働者が本格的に日本にやってくると見込まれる。

特定技能1号の資格では家族は帯同できない事になっているが、外国籍どうしが結婚して出産したり、観光ビザで子どもが来日することを完全に防ぐことは難しい。

特定技能2号の在留資格を取れれば、家族帯同も許され、期限の更新も可能になる。ところが、「国民」ではないので、今のルールでは、教育の義務は課されない。ダブル・リミテッド問題がますます深刻化する懸念があるのだ。

また、文科省は、外国人に日本語を教える「日本語教師」の公的資格を創設する方針だという。外国人に日本語教育を行うにはまず教師育成から、というのは理解できるが、これも対応としては遅くないか。

日本語教師の資格については、2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略」に検討項目とされたことをきっかけに、文科省傘下の文化庁の所管である「文化審議会」に諮問された。文科省が主導で検討したわけではない。

文化審議会は2019年度に具体的な制度設計に着手して「2020年度以降の創設を目指す」と報じられている。霞が関の修辞学で読み解けば、「検討しています」というアリバイ作りで、「2020年度は無理」という意味だ。

外国人児童教育が「文化行政」?

文部科学省は外国籍児童への教育については、もともと関心が薄い。「国民」ではないから、義務教育の対象ではなく、文科省の仕事ではない、とでも思っているのだろう。だから担当は文化庁なのだ。国際文化交流の一環という位置付けなのだ。

文化庁に全国の公立学校に外国人子弟の教育を求める権限などないし、日本語教師自治体に派遣する予算もないから、本気でこの問題に取り組もうという姿勢が欠如していることは明らかだ。

外国人居住者が多い自治体の首長さんに聞くと、日本語教育は市民ボランティアの協力なしには維持できておらず、そのための予算も乏しいという。居住外国人に対する日本語教育を、子どもだけでなく、労働者本人や妻など家族にも行うための予算や助成金を付けて欲しいというのが、首長さんたちの切なる声だ。

つまり、日本政府が、きちんとした外国人に対する日本語教育の方針を打ち出し、そのための予算措置を講ずる必要がある、ということだ。しかも、各省庁バラバラの対応ではなく、一元的に外国人政策を立案・実施する必要がある。

4月からは法務省の外局として、出入国在留管理庁が設置される。入国管理局を格上げするもので、「在留」の言葉が加わったことが示す通り、居住外国人政策を担当することになる。

本来は、ここに文化庁がやっている外国人日本語教育の政策立案機能を移すべきなのだが、霞が関の縄張り争いの中で「一元化」は簡単に進まない。

内閣府に「外国人庁」を設置して外国人政策を一元的に企画立案していくのがのが王道だが、内閣のリーダーシップも弱い。というのも安倍晋三首相が「いわゆる移民政策は取らない」と言い続けているためだ。

実態は日本国内には260万人以上の外国人が在留しており、146万人が雇用されて働いている。実質的な「移民」がなし崩し的に増えているのだ。