コロナ「第三波」が来ているのに、大企業はなぜ「内部留保」を履き出せないのか  7-9月期の経常利益28.4%減

現代ビジネスに12月3日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77945

運輸・サービス・小売業を直撃

新型コロナウイルスの蔓延による企業の業績悪化が深刻だ。

財務省が12月1日に発表した「法人企業統計調査」によると、全産業(金融業、保険業は除く)の7-9月期の売上高は前年同期比11.5%減少、経常利益は28.4%の大幅な減少となった。

経常減益になるのは、2019年4-6月期以降6四半期連続。企業業績が悪化し始めていたところに消費税率の引き上げが打撃となり、さらに新型コロナ禍が追い討ちをかけた格好だ。

経常減益率は1-3月期の28.4%減、4-6月期の46.6%減、7-9月期の28.4%減と、3カ月連続で2ケタの大幅減益になった。

緊急事態宣言が出されて営業自粛などが一気に広がった4-6月期に比べれば、7-9月期は減益幅が小さくなったとはいえ、企業が深刻な状況に直面していることに変わりはない。売上高が5%減っても利益を確保するのは難しいのに、平均で10%以上の減収になっているのだ。

2020年9月中間決算で日産自動車が2318億円の経常赤字に転落するなど自動車産業の業績が大幅に悪化したほか、ANAホールディングスが航空需要の激減によって2686億円の経常赤字になるなど、赤字企業も続出した。

製造業に比べて非製造業の経常利益の落ち込みが大きいのも特長だ。「運輸業・郵便業」が2四半期連続で赤字になったほか、「サービス業」が54.7%減、「卸売業・小売業」が23.2%減などとなった。人の移動が止まり、航空や鉄道など運輸サービスの需要が激減、飲食店や宿泊業も業績悪化の泥沼から抜けられていない。

しかも、今回のコロナショックでは、大企業よりも規模の小さい中小企業の方が大打撃を被っている。経常利益の資本金別をみると、「10億円以上」が26.2%減に対して、「1000万円から1億円」の企業は35.4%減になるなど、それが鮮明になっている。

余力がない中小企業から人件費削減

焦点は、大幅な売り上げの減少が続く中で、企業がどこまで耐えられるか、だ。

日本企業は巨額の「内部留保(利益剰余金)」を持ち、赤字決算が続いたとしてもすぐに債務超過になって経営危機に直面するわけではない。

増え続けてきた「利益剰余金」は2019年10-12月期末の470兆円をピークに減少し始め、7-9月期末は453兆円まで減少した。減ったといっても前年同期比で3.7%減に過ぎず、本格的に内部留保を吐き出すところまで至っていない。

また、先行き不透明を警戒して、多くの企業が借り入れの増加など動いた。その結果、「現預金」は前年同期比10%増の222兆円に達している。トータルの数字を見れば、企業にはまだまだ余裕があるということになる。だが、実態は合計数字通りではない。

内部留保を手厚く持っているのは大企業が多く、中小企業は余力が乏しい。にもかかわらず、前述の通り、中小企業の方が新型コロナの打撃を大きく受けているとみられる。そうした結果からか、すでに人件費の削減が始まっていて、人件費総額は前年同期比5.0%減っている。

現状ではまだ残業料の削減やボーナスの減額などにとどまっているとみられるが、今後、企業の赤字や大幅減益が続けば、本格的な人員削減などリストラが始まる可能性がある。

こういう時こそ「内部留保」を吐き出せ

総務省労働力調査によると、雇用者全体では新型コロナの蔓延以降、7カ月連続で減少を続けているが、不思議なことに正規雇用者数は6月以降5カ月連続で増え続けている。そのシワ寄せは非正規雇用にいっており、10月になっても前年同期比85万人、3.9%の減少となっている。

飲食店や宿泊業などサービス産業でパート従業員が雇い止めになっているケースが多いとみられる。逆にいえば、規模の小さい飲食店やホテル・旅館などが、パートなど非正規雇用から「リストラ」を始めているということだろう。

政府主導のGoToキャンペーンもあり、10-12月期の経済活動は大きく戻るかに思われた。ところが11月後半になって新型コロナ感染者が大きく増加、それに伴って重症者や死者が増えるなど、新型コロナ危機が再び台頭している。

GoToトラベルから大阪市と札幌市を除外し、東京都の高齢者に利用自粛を呼びかけるなど、経済活動にも急ブレーキがかかっており、企業業績の回復は当面望み薄になりそうだ。

歴史をたどれば、ウイルス感染症パンデミックは、数年で姿を消してきた。ワクチン開発への期待もあり、この状態が3年も4年も続くことはないとみられている。

比較的規模が大きく、財務力の高い企業は、数年後のポスト・コロナ時代がやってくることを想定して、社員の確保などに力を注ぐべき時だろう。

コロナ前にすっかり戻ることはないにせよ、新しいマーケットも生まれるはずだ。企業の内部留保はこういうときにこそ吐き出し、安易なリストラに走るべきではないだろう。

 

「郵便局」赤字転落で蠢く「再国営化」の大愚策

新潮社フォーサイトに12月1日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/47555

 「郵便局は国営に戻さないと維持できない」

 最近、そんな声を永田町で耳にすることが増えた。「日本郵政」の増田寛也社長が有力国会議員などを回り、「窮状」を訴えていることが背景にある。

 日本郵政が11月13日に発表した9月中間期の連結決算では純利益が1789億円と24.4%減り、子会社で郵便事業を営む「日本郵便」の純損益は65億円の赤字となった。中間期で赤字に転落するのは3年ぶりのことだ。新型コロナウイルスの蔓延で、「アマゾン」など宅配サービスが大きく伸びた中で、日本郵便は赤字に転落したのだ。

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少女が見つけた「やり直せる社会」という価値

雑誌Wedgeに連載中の『Value maker』9月号に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。

 

Wedge (ウェッジ) 2020年 9月号 [雑誌]

Wedge (ウェッジ) 2020年 9月号 [雑誌]

 

 

 「ホームレス状態から脱出したいと思った“おっちゃん”に、選択肢を提供できたらと考えているんです」
 大阪市で認定NPO法人「Homedoor」を運営する川口加奈さんの語り口は穏やかだ。家を失って路上で生活する人たちに、簡単な仕事や一時的な居場所を提供し、路上から脱出するきっかけを作ってきた。大学2年生の時にNPO法人を立ち上げ、理事長になって10年になる。
 今の日本を、「本当に敗者に厳しい」「どんどん転落してやり直しが効かない社会」だと言う。だが、それを声高に批判するでもなく、国や役所を糾弾する言葉を並べるわけでもない。
 現場で数多くのやるせなさを感じたためなのか。目の前のおっちゃんと向き合う時も、押し付けがましい事は言わない。気負いがなく、とにかく自然体だ。
 北区にある「Homedoor」の事務所には行き場を失ったおっちゃんたちが相談にやってくる。これまで相談に乗った人はのべ2000人。事務所の上の階には18室の個室があり、2週間無料で宿泊できる。その間に仕事を探したり、生活保護や年金受給の手続きをし、路上生活との縁を切るサポートをするのだ。
 「いつの間にかいなくなってしまうおっちゃんもいます」と川口さん。親身になって相談に乗っていても、わずかばかりのお金を手にしたとたん、姿を消してしまうおっちゃんも珍しくない。「Homedoor」をきっかけに路上生活から脱出して普通の生活に戻った人もいるはずだが、あえて追跡もしないので、どれだけ大きな成果を上げているのか、あまり実感はない。とにかく、目の前にやってくるおっちゃんたちの話を聞く。

 

通学の電車から見えた風景


 川口さんがそうした“おっちゃん”の存在に気がついたのは中学生の時。電車通学で大阪・新今宮の駅で乗り換えていた時のことだった。駅の南側は「あいりん地区」と呼ばれ、多くの路上生活者が住んでいた。電車の窓からは、炊き出しでもらえるおにぎりを求めて並ぶおっちゃんたちの姿が見えた。
 友達の多くも、大人たちも、そうしたホームレスの存在に気も止めない。「きちんと勉強もせず、仕事もしなかったからああなった」「自己責任、自業自得」そんな声が圧倒的だった。
 14歳の時に、あいりん地区での「炊き出し」の手伝いに行ってみた。おっちゃんたちの話を聞いていて、そんな「自己責任論」は吹き飛んだ。もともと貧困家庭で育ち、中学もろくに出られずに、日雇いで働き続けてきた人も多かった。「中学生ながら、自己責任で片付けようとしていた自分を反省しました」と川口さんは振り返る。
 そんな時、姫路市で事件が起こる。ホームレスの男性が寝場所としていた空間に火炎瓶を投げ込まれ焼死したのだ。しかも逮捕された少年のひとりは同じ歳だった。
 自分だからこそできることがあるはずだ。
 川口さんはまず、路上生活者の問題を伝える活動を始めた。学校の全校集会で時間をもらい、生徒に呼び掛けた。だが反応は今ひとつだった。そこで新聞も作った。炊き出しのボランティアや、ワークショップなども行った。
 高校2年生の時には「ボランティア親善大使」に選ばれ、米国のワシントンDCで開かれた国際会議にも出席した。「そこで話をした海外の子たちのレベルは格段に高かった」。川口さんはあいりん地区の研究などに実績のある大阪市立大学労働経済学を勉強することに決めた。その傍ら、NPOを立ち上げたのだ。
 路上生活から脱出するには何が必要か。
 まずは定期的にお金が稼げる仕事が不可欠だ。空き缶集めではその日暮らしで、脱出は不可能だ。
 そこで始めたのがレンタサイクルの「HUBchari」。ビルやホテルの軒先に自転車を置かせてもらい、シェアサイクルの運営を始めたのだ。ドコモ・バイクシェアサービスと提携し、230カ所に「ポート」を置き、約1000台で利用できるサービスになった。

「Homedoor」がおっちゃんたちを雇い、自転車の整備や電動自転車のバッテリー充電・交換などの作業を任せている。自転車を適正台数「ポート」に配置するのもおっちゃんたちの仕事だ。平均して10人から20人の雇用を生んでいる。
 川口さんやスタッフは大阪市内の大手企業を回り、「軒先貢献」をキャッチフレーズに「ポート」の設置をお願いして歩いた。ここ数年は海外から日本にやってくるインバウンド客の手軽な移動手段として利用されていた。

 

誰もが何度でもやり直せる社会は作れる


 次に着手したのが、「住まい」の提供。「アンド・センター」と名付け、前述のように事務所の上に、仮住まいできる部屋を用意したのだ。賃貸で5階建てのビルを借り上げた。2年前のことだ。相談だけにやってくる人も多いが、相談ついでにシャワーを浴びたり、仮眠室を利用する人もいる。
 ちなみに「Homedoor」には、「家の扉」という意味とともに、駅のホームに設置されているホームドアの意味も兼ねている。「転落」を防ぐドアということだ。ホームレスの人たちにとっては最後の拠り所になっているのだろう。
 「アンド・センター」の維持は大変だ。家賃や人件費で月に100万円はかかる。こうした川口さんたちの活動を支えているのは善意の寄付だ。毎月1000円出してくれるサポーター会員を1000人集めることを目標に資金集めをしている。
 もちろん、相談窓口を開いたからと言って、おっちゃんたちが自主的に相談にやってくるわけではない。川口さんたちは路上生活者が多い場所を訪ねて食事を差し入れる「夜回り活動」を続けている。北区を中心に4コースに分かれて歩き、85食を配っている。そうやって徐々に信頼関係を築かなければ、心を開いて相談にやってくる事はない。「6年声をかけ続けてようやく相談に来てくれたおっちゃんがいました」と川口さんは言う。

 

コロナ禍で増える相談者


 今年に入ってからの新型コロナウイルスの蔓延が「Homedoor」にも影響を及ぼし始めている。「HUBchari」を使っていた外国人旅行客は姿を消したものの、通勤や市内の移動に自転車を使う人が急増。2割以上も利用率がアップしているのだ。地下鉄などの公共交通機関を使うよりも屋外を走る自転車の方が安全ということだろう。企業から「ポート」を設置して欲しいという要望も来ている。
 もうひとつはホームレスからの「相談」が3倍に急増したのだ。特別定額給付金をもらうにも路上生活者は住所がなく、受け取ることができない。さらに、景気が一気に冷え込んだことで、そのしわ寄せが非正規雇用などの弱者に及び始め、新たに路上生活に転落しかねない人たちが生まれているのだ。「最近の傾向はおっちゃんじゃなくて、若い人たちが相談に来ていることです」と川口さん。「ネットカフェ難民」という言葉が定着したが、パートやバイトをクビになり、ネットカフェにもいられなくなった若者が出てきたというのだ。
 「誰もが何度でも、やり直せる社会は作れる。」
 「Homedoor」の報告書の表紙にはそんな川口さんの静かな決意が書かれていた。

 

【オンラインセミナー】新型コロナ大恐慌を回避できるか? 魔の12月「経済危機第2波」を防げ

新潮社フォーサイト開催したオンラインセミナー(11月5日)で「新型コロナ大恐慌を回避できるか?」をテーマに、経済危機の「第2波」に備えるにはどうしたらいいのか、現状を分析・解説したものを、文字に起こして頂きました。是非ご一読ください。

オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/47544

 

 ジャーナリストの磯山友幸と申します。フォーサイトとのお付き合いは『日本経済新聞』に勤めていた時代からで、かれこれ20年近くになります。2011年3月末に『日経新聞』を辞めたのですが、なんと翌日の4月1日付でフォーサイトのウェブ版に記事を載せていただいたという、私にとっては非常に大事なメディアです。今日はお話をいただいたので、とりもなおさず準備をしました。読者の皆さん、潜在的な読者の皆さんに私のお話をしたいと思います。

99.9%減

 今日は「新型コロナ大恐慌を回避できるか?」というテーマをいただいています。実はフォーサイトでは、新型コロナと経済の問題について、だいぶ早い段階から原稿を書いてきました。最初に書いたのは3月3日付の原稿(『「新型肺炎」経済対策「何でもあり」で「消費減税」の可能性』)で、次は3月18日に『「新型コロナ」蔓延であなたの「給与」はどうなる?』、4月30日には『90年前「世界大恐慌」から学べる「教訓」』など、早くからかなり厳しめの原稿を書いています。8月6日には、『「巨額赤字」続出は序の口これから始まる「リストラ」「給与削減」「倒産」』という記事を書いて、これは非常にたくさんの方に、なおかつ長期にわかって読んでいただきました。

 今日は数字、経済統計データを冷静に見ながら、現状をしっかり分析し、それが今後どうなっていくのか、また政府の経済対策がうまくいっているのかを検証して、今のタイミングでこういう対策をとれ、とるべきだ、というようなお話が結論でできるといいなと思っています。

 

 現状、数字を見ると、インバウンドが消えたと言われていますが、左のグラフにあるように、日本にやってくる外国人は4~7月は99.9%減と完全にストップして、1つの国から1日1人も来ないというような状況が続きました。

 あまり注目されませんが、右側のグラフは出国した日本人の数ですが、これも4月以降99.9%減が続いており、完全に人の動きが消えたということがこれでわかります。


 

 「モノの動き」については、月間の貿易額の輸出と輸入を合わせたものをグラフにしています。ピークには月間で15兆円あった貿易額が、コロナが蔓延した直後の4~5月では9兆円近くまで落ち込みました。ここへ来て戻ってきていますが、ピークから比べるとまだまだ戻りが鈍い。右側は中国向けの日本からの輸出と、アメリカ向けの日本の輸出をグラフにしています。これを見ると歴然ですが、中国向けの輸出は早い時期、1~2月の段階で底をつけてV字に回復しているのに対して、アメリカ向けはむしろ5~6月にかけてマイナスが大きくなり、中国に出遅れているのがわかります。

 ちなみに日本との年間貿易額ではアメリカがずっとトップで、一昨年には中国が1度トップに立ったことはあるものの、今年は断トツで中国との貿易額がアメリカを上回り、日本にとっては今後も中国の存在感がさらに大きく増してくると思います。

「その割に危機感が薄い」

 

 経済規模はGDP国内総生産)で測りますが、先日、7-9月期のGDPが発表されました。「急回復している」という見出しで、アメリカのGDPも年率換算で33.4%増と急回復しています。しかし日本、アメリカともにGDPの数字は見るのに注意が必要で、7-9月期というのは、あくまで4-6月期に比べてどれだけ伸びたかのかというデータです。日本の7-9月期は4.3%増、年率では18.4%増となっていても(セミナー後の11月16日発表では、7-9月期は5.0%増、年率では21.4%増)、実は前年同期で見ると、4-6月期はマイナス9.9%で、7-9月期は7.7%のマイナスになる(11月16日発表では、4-6月期はマイナス10.2%、7-9月期はマイナス5.8%)。ですから、「急回復」のイメージと我々の肌感覚には大きな差があります。「このグラフで示している4-6月期よりはマシだけど、7-9月期もまだまだ厳しいよね」という方が、我々の肌感覚に近いものがあるでしょう。


 

 このグラフは企業の最終損益の推移を年別に見たもので、もっとも低い2009年というのはリーマンショック直後で大赤字の企業が相次いだときです。東証1部上場企業をトータルすると、かろうじて黒字ではあったものの、ほぼ利益がゼロに落ち込みました。

 2020年3月期は、20兆円の最終利益が東証1部上場企業で出ていますが、これが2021年3月期にどこまで落ちるか、1つの焦点です。10月30日現在の数字で中間決算が出ており、純利益は43.6%の減少になっています。おそらく、これから発表される企業の方が決算内容は悪いところが多いので、この数字はもう少し厳しいものになるのではないかと思います。

 今まで発表したうちの5社に1社、20.9%が赤字決算をしており、JR東日本が2643億円、ANAが1884億円、JALが1612億円の赤字で、JR東日本ANAも年間5000億円ぐらいの赤字になるのではという見通しが出ています。

 ちなみに、最大の赤字が出そうな日産自動車ですが、11月12日に中間決算が発表されます(発表数字は3299億円の最終赤字)。いずれにしてもこれから巨額の赤字決算を発表する企業というのは、続々と出てくるでしょう。


 

 「その割には危機感が薄いのではないか」というのは、永田町や霞が関を取材して歩いている私の印象です。安倍晋三前首相が6月の記者会見の段階で、

 「230兆円の世界最大の対策を講じているので、それによって雇用と暮らし、日本経済を守り抜いていく」

 と話し、実際に2回補正予算を組み、膨大なお金を市中にばらまくことで、経済が底割れしないのではないかと見ている人たちがいます。特に霞が関の人たちには、「やれることはやっている」というムードが強く、230兆円はGDPの4割に相当しますから、先ほどの見通しで出ていた5%のGDPのマイナスを230兆円という数字の経済対策で補っているので、穴埋めは十分にできるというのが、霞が関の官僚たちの机上の計算だと言えます。
ただ、机上の空論だけとは言いません。実際に効果が出ている部分もあります。特に特別定額給付金は一定の効果をあげています。1人に10万円を配ったことによって、家電量販店などは中間決算で過去最高益をあげているところが続々と出ていますし、非常に物が売れている。ニトリなども、非常に良い決算となっています。

 右側のグラフを見るとわかりますが、茶色い線は2人以上の世帯の消費支出で、3月以降、4月から7月までずっと大きな消費のマイナスが続いています。緑色の線は勤労者世帯の実収入で、5~6月は15%のプラスを記録しました。これは1人あたり10万円を配った効果です。定額給付金が入ってくる一方で消費を絞っているわけですから、失業していない一般的なサラリーマンにとっては、消費は小さくなり、手元にお金が残っているというのが、このグラフからわかります。家電量販店などでのプチ贅沢消費のほか、増えた貯蓄が株式市場にまわって、株高を演出している一因になっているというふうに見ることもできます。

 そのほかにも持続化給付金や家賃補償、雇用調整助成金で、底割れを防ぐという政策は、とりあえず効果があったようです。4~5月は経済が完全に止まったに等しかったわけですが、6~7月にかけて、それで経済が壊れるというのはなんとか回避したというのが現状だと思います。

コロナ倒産が増える?

 

 新型コロナで企業が倒産して大変だと話題ですが、左側の帝国データバンクのグラフでは、8~9月は伸び率が鈍化しています。

 右の飲食店の倒産のグラフを見ると、6~7月は非常に倒産が増え、8月から減ってきたのですが、また増加に転じています。これは最大200万円が支給される持続化給付金を手にした人たちが、お客さんが増えてくることを期待してお店を再開したけれど、今になって手元の資金が限界にきている、あるいはお客さんが戻って来ないので、やる気をなくしてお店を閉めるという人が出てきているのではないでしょうか。

 (11月5日当時)東京は今、感染爆発ということにはなってはいませんが、北海道は現在、第3波とみられ、飲食店は大変なことになっています。再び営業自粛になれば、年末に向けて営業をギブアップするところがおそらく出てくるのではないかなと思います。ですから、政府のいろんな対策でとりあえず伸びが鈍化していたコロナ倒産が、これから年末に向けて大きく増えてくるではないでしょうか。


 

 もう1つ大きな動きは「雇用」で、有効求人倍率が急減しています。東京、神奈川、大阪は7月にすでに1倍を割っています。つまり仕事を求めている人の方が、働き手を求めている企業よりも件数が多い状態になっているということです。この有効求人倍率はこれから急激に悪化していくでしょう。リーマンショックのときは0.4倍あたりまで落ち込みました。1990年代後半のバブル崩壊後も0.4倍ほどだったので、今回はどのあたりまで落ち込むか、大きな着目点です。

 右側のグラフは雇用者数の対年同月の伸びを示しています。緑色の線が全体を表していますが、それに着目すると今年の4月にマイナスに転じて、その後もマイナスが続いています。今回の特徴は、青の線の正規雇用は4月以降、毎月増え続けていますが、赤の線の非正規雇用、特にパートやアルバイト、とりわけ女性の失業が大幅に増えています。倒産している業種に飲食店のほか小売店やアパレル、宿泊業というところが多いので、そこで働いていたパート、アルバイトが雇い止めにあっているのが、このグラフに表れてきているのでしょう。ちなみにフォーサイトの原稿(『「女性自殺者急増」は「非正規雇用雇い止め」が原因か』10月21日参照)に書いたのですが、8~9月と自殺をする方がすごく増えていて、なかでも女性の自殺が増えている、それはもしかすると雇用不安に陥っていることが1つの原因になっているかもしれないと見ています。自殺と経済は非常に因果関係があり、これ以上経済が悪化して、自殺者が増えないことを祈るばかりです。

ANAショック」

 

 またここに来て、「ANAショック」とでも言ってもいい状況が起こっています。(ANAは)冬のボーナスをゼロにすると組合に提示しました。4~5月にほとんどお客がいないという状況では、おそらくボーナスは出ないだろうと見られていました。それでも実際にボーナスゼロを提示され、年収が3割減になることを知ると、他人事ではないと感じる人が多いのではないかと思います。特にANAの場合は本給の削減や、希望退職を募集するという段階に来ています。

 冬のボーナスでいうと、JTBもゼロに、オリエンタルランドは7割減になります。ネットの調査でも、今年の冬のボーナスは支給されるかどうかわからない、支給されないだろうという人が調査対象の46%に上っています。特に飲食店やホテル、旅館といった宿泊系は非常に厳しい給与情勢になるであろうと思われます。

 ここで所得が減少し、雇用の先行きに不安を感じることで、さらに消費が落ち込めば、12月の年末商戦は今までになかったような寂しいものになってしまうのではないでしょうか。本来なら、政治が年末商戦に向けて経済対策を打たなければならなかったのですが、首相が交代したこともあって、対策がかなり後手後手にまわっていると感じています。


 

 一方、大学生は就職が大変です。今、2021年春の卒業生は内定が出ていますが、内定を出している人は採るけれども、それ以外は採用活動を途中でやめるという企業が航空会社やJTBではありました。2022年春卒業の現3年生は、企業回りをしていて大苦戦をしています。10月1日時点の就職内定率は、ここ数年75%を超えて最高と言われていたのが、おそらく下がるだろう(11月17日発表で、69.8%に急落)し、次に就職活動を控えている3年生も非常に厳しい採用状況になるのではないかと思います。

 ただ、中長期的に見れば日本の人手不足は変わらないと思いますので、2年か3年かわかりませんが、世界を襲った感染症はいずれ消えてなくなると歴史が証明していますので、そのときに企業活動をするには人手が必要ですから、体力のあるところは採用を続けていくべきだと思います。


 

 これまで説明しましたように、「第1波」の資金繰り手当は非常にうまくいったと思います。とりあえずは景気の底割れは防いだ。問題は今、発表されている中間決算で大幅な赤字になって、年末の賞与を削るとかなくすとか、あるいは人を減らすリストラなどが行われ、それによって年末に向けての消費の落ち込みがさらに大きくなってしまうことが、経済危機の「第2波」だと思います。このまま行くと、「第2波」は避けられないところまで来てしまっているのではないでしょうか。

世界大恐慌の再来になるか

 

 少し話を変えますが、過去を振り返ると、時代が大きく変化したときに経済的な大混乱がやってくることは、1つの教訓、パターンでした。

 産業革命という大変革が起きたあとはラッダイト運動と言われる機械を打ち壊す動きが起き、社会が大混乱しました。真ん中は、世界大恐慌のときの銀行への取り付けの写真ですが、大恐慌の前には近代化を進めてT型フォードといった自動車が一気に普及するという一種のバブルが起きていました。そのあとの1929年、株式の大暴落が起きたのです。

 今、我々がいる時代もIT(情報技術)バブルが起きて、その後リーマンショックを体験しています。さらに、リーマンショックは実は積み残した課題が多く、水面下で眠っているものがたくさんあると言われていました。そこに新型コロナが蔓延し、まさしく90年前、1929年の大恐慌と同じような経済情勢になってしまうのではないかという危機に直面しているのではないかと思っています。


 

 本当にこの新型コロナの経済危機は、世界大恐慌の再来になってしまうのではないでしょうか。
世界大恐慌の簡単なおさらいですが、1929年に株価の大暴落が始まりまして、その後の取り付けで続々と銀行が破綻、それが原因で経済のデフレ、経済の大収縮が起きました。アメリカの労働者の25%が失業したと言われていますが、実はそれは1933年のことでした。我々は「世界大恐慌は1929年」と習うわけですが、実際の経済の大底は1933年だったんです。

 この頃、借金をして農業機械を買っていた人たちが農地を追われ、あるいは賃金労働者が失業してアパートを追われ、住む家を失った人がたくさん出ました。右側の下の写真はフーヴァーヴィルと当時呼ばれた掘っ立て小屋ですが、アメリカ国内のいたるところにできました。写真はセントラルパークにできたフーヴァーヴィルです。当時のアメリカ大統領は(ハーバード・)フーヴァーでヴィルは日本でいう邸宅ですので、皮肉をこめてこういわれたのです。こうした掘っ立て小屋に住むような人が次々と生まれるということが起きました。右上は、

 「3つの技能を持って、3つの言葉がしゃべれて、オレは3人の子どもがいて、3ヵ月間仕事がない。求めているのはたった1つの仕事なんだ」

 という看板を背負いながら就職活動をして路上を歩いている人の写真です。それぐらい失業が大変深刻な問題になったのです。


 

 今回は金融危機から始まったのではなくて、新型コロナの蔓延によるロックダウンから経済の大収縮が始まりました。川上から川下に影響が来たというのではなく、一気に末端というか現場というか、大規模な失業が真っ先に到来して、川下の一番弱いところに影響が及びました。

 1929年の世界大恐慌の段階では、アメリカはまだ金本位制ですので、金融政策が取れないし、失業も救済するすべがなかった。私はアメリカが過去をよく勉強していると思うのですが、今回、一気に失業保険の申請が増えたアメリカでは、それを1カ月ちょっとという短期間で4000万件の失業保険を給付して救いました。これで経済が早期に回復すれば、危機を回避できたと言えるのかもしれません。

倒産させるアメリカ型の政策

 

 アメリカのGDPは、4-6月期が32.9%のマイナスで、7-9月期は33.1%の急激なプラスに転じています。ドナルド・トランプ大統領は過去最高の経済になっていると言っていましたが、実は前年同期で比べると2.9%のマイナスで、コロナ前の水準には戻っていません。中国は、7-9月期は4.9%のプラスだったのですが、これは前の3カ月と比較しているのではなく、前年同期で数字を出しているので、伸びていることは間違いありません。アメリカのマイナス2.9%対中国のプラス4.9%で、圧倒的に格差が出ています。


 

 

 アメリカは景気が悪くなると、チャプターイレブン(米連邦破産法11条)を使って、企業をどんどん破綻させるという国です。5月からここに出ているような有名な企業がチャプターイレブンを申請しています。日本でもよく知られているような企業もありますね。1~9月だけで5529件も申請されていて、これが同じ期間の1年前に比べると、1.3倍になっていると報道されています。


 

 これはアメリカの失業保険の新規申請件数です。3月以降、1週間で600万件以上というのが2週続くなど、実はリーマンショック後は1週間に66万件の申請が出たのが一番大きかったのですが、3~5月で4266万件とリーマンショックを大きく超える件数が申請されています。このことから、アメリカの企業は早い段階で人を切ることによって、復活を遂げよう、耐え忍ぼうとするのがわかります。アメリカは倒産をうまく使って、企業を早期に再生させ、経済活動を元に戻して、雇用を生み出そうとする仕組みなのです。


 

 右のグラフはアメリカの失業率ですが、3~4月にかけて4%から14%超えに飛び跳ねました。しかしその後、さらに悪化するのではないかと見られていましたが、じりじりと失業率は下がり、9月はついに8%を割る7.9%というところまできています。もしかすると早期に企業を楽にして、経済活動を元に戻すという、失業者を増やすアメリカ型の政策は意外と功を奏して、アメリカは早く立ち直る可能性もあると言えます。

「日本型雇用」は限界

 

 一方の日本は、企業に雇用を抱えさせる仕組みで長年やってきました。「雇用調整助成金」が典型的な例ですが、企業は不要になった、抱えていられない従業員を抱え続けた場合、国が代わって雇用調整助成金を支給します。

 今回は申請の仕方を簡単にしたり、金額の上限を上げたりといった特例措置を取りました。企業に雇用調整助成金を使ってもらおうと、すでに167万件の支給が決まっていて、その累計は4月以降で2兆円を超えています。経済がまだよかった2019年度の法人税は10兆円あまりありますが、その5分の1から6分の1を企業に戻すことになります。


 

 安倍内閣は「働き方改革」を、本来何のために行ったのか。日本の生産性を劇的に上げることが目的でした。なぜそうしなければならなかったか。労働投入量と生産性の掛け算が経済成長ですが、労働投入量を増やせない状況になったからです。なぜかというと、人口は2008年をピークに減少しているので、外国人の移民を本格的に受け入れない限りは、労働力の「数」は増えない。ですから、1人当たり


 

の生み出す付加価値(生産性)を改善するしか方法はありません。

 「働き方改革」は労働時間を短くするとか、休みを多くするとかアメの政策で、働き方改革ではなく休み方改革ではないか、という人もいました。労働者にプラスの対策を取っていくという、今まで労働組合が要求してきたような政策にかなりシフトしていきました。「生産性を上げる」ということが非常に大事な政策でありました。


 

 ところが結果的には、労働投入量をさらに増やすことになりました。どこから働き手を引っ張り出したか。それは60代以上の高齢者と女性です。

 左のグラフは年間平均なので、65歳以上の就労者数は現在、八百数十万人以上になっていることがわかります。瞬間的には900万人を超えていました。1980年代に比べると、3倍以上の人が働いています。

 右側はM字カーブと呼ばれ、このグラフからは女性は20代後半に結婚、出産をするので就業率が落ち、また子どもが育ったころから働き始める、というのがわかります。それが典型的に表れているのが、青い線の1975年。これが日本の雇用の歪みだと言われ、女性が働き続けられる環境にしろと、ずっと指摘されてきました。それが2019年、赤い線ですが、M字がほとんど消滅しました。つまりそれだけ女性で働ける人を増やしたということです。女性と高齢者で働ける人を増やして、何とか景気を良くする、経済を膨らませるという政策が成功していたということです。


 

 そんななかで「日本型雇用」が限界に来ている、というのが最近の流れでした。終身雇用が限界だというのは、コロナ以前の2019年ぐらいから、旧来型の伝統的な企業のトップが正面切って「終身雇用はもたない」と言い出したことからもわかります。

 「みんなで成長していくというのはなかなか難しいというところに来ていた」


 

 と。そこで働き方改革をして、

 「時間や空間にとらわれない働き方が必要」

 「フリーランスとか副業とか時短労働とか、そういうものにシフトしていかないといけない」

 と言っていたのですが、これが新型コロナで一気に加速していると言えると思います。

「企業トリアージ」も必要

 

 もちろん、これから第2波に備えることも必要なのですが、働き方を変えるとか、今後のポストコロナ、コロナが収束した後に、どういう経済社会を作っていくか、真剣に考えなければならないタイミングに来ています。その中で旧来型の日本の働き方というのは、またそこに戻るというものではなく、新しい働き方を生み出して、そこに付加価値を1人1人が生み出すことが重要です。


 

 菅義偉総理もDX(デジタルトランスフォーメーション)と言っていますが、DXの肝はデジタルを使うことではありません。基本的には今までやっていた仕事のやり方を変えることです。霞が関でこれをやるのは至難の業だと思いますが、紙でやっていたことをデジタルに置き換えるというところで止まってしまっていては、政府の非効率なやり方というのは、永遠に変わらないと思います。


 

 これから企業社会、経済社会をポストコロナ後にあわせて変えていかないといけないのですが、赤字の企業がたくさん出ているので、企業を救済してくれという話がいたるところで出ています。特に公益企業系のところは、インフラなので国が救うべきだと言われており、それに乗じてかどうかわかりませんが、例えば郵便局も再国営化すべきだという声が永田町あたりであがっています。

 航空会社、鉄道はもちろん、民営化され始めて50年間やってきた歴史を、もう1回元に戻すべきだと、臆面もなく語っている人たちがいます。企業を救済するスキームはいろいろとできているのですが、どの企業を残すのかという「企業トリアージ」も必要になってきます。コロナ以降に日本の経済成長を支える企業というのを、どうやって残していくのか、世界に伍していけるだけの効率性の高い企業にするにはどうするのか、少ない人口で大きな利益を生む、付加価値の高い企業をどうやって育てていくのか、大きな課題だと思います。


 

 そこで一番心配なのが、政府の実質保有株がどんどん膨らんでいくことで、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のお金がいまや35.5兆円も株式市場に入っています。また日銀がETF(上場投資信託)として買っているものがすでに31兆円ぐらいになっていて、今後も年間3兆円ぐらい買っていくということなので、早晩、日銀のETF保有はGPIFを抜くと見られています。東証時価総額の1割、あるいはそれ以上の15%とか、それぐらいまで実質政府保有株が増えていくのがもう見えている。そういったなかで民間の企業として、どうやって競争状態を守り、コロナ後に生き残っていけるのか、ガバナンスの在り方をもう1回見直すことが重要なんじゃないかなと思っています。

 コロナ禍では、目先の対策をどうしようかということころに終始しがちです。Go Toトラベルも1兆円以上のお金をつぎ込んで、旅行業界の救済をしているわけではありますが、それをやっていて将来が見えるのか、危機の底の部分を支えるということはできても、それでコロナ後の社会に作り変えていくことができるのか、非常に疑問です。

 ここで政府が中途半端に救済のためだけにお金を使うと、それはいずれ税金で回収しなければいけないわけですが、国のお金をつぎ込んだ企業が結局倒産をして不良債権を作ってしまうようでは、税収に結びつかずに回収はできなくなります。ですから成長する産業に、公的な資金を入れるなら入れる、入れるときにはどういう経営体制にするのか、あるいはどういう企業に入れていくのか、もう少し真剣に議論をして決めていくことが大事かと思います。

 いずれにしても政府が関与しない部分において、これから変革していこう、変わっていこうという企業は確実にコロナ後も生き残れるかもしれませんが、コロナを乗り切れば元に戻れると思って昔のやり方を踏襲する、昔のやり方に戻る企業に未来はないと思います。

 長々とありがとうございました。ここで皆さんの質問をいったん受けたいと思います。


内木場重人(フォーサイト編集長) ありがとうございました。データを提示していただくと説得力がありますね。質問がいくつか来ています。

 磯山さんのお話の中で、ANAのボーナスカット、収入3割減とありましたが、それに加えてグループ外への出向、家電量販店や自治体でもANAの社員の出向に手を挙げているところがありますが、こうした動きは他の大手企業にも広がっていくでしょうか。

磯山友幸 広がっていくとは思います。ただそれが本当に良い方法なのかは、考えた方がいい。つまりANAに籍をおきながら他所の会社にいくというのは、今の雇用調整助成金と同じで、出向先の企業に雇用を抱えさせる政策です。アメリカだったら絶対そんなことをしないで、一時帰休をしたり、あるいは完全に解雇したりすることで、その人たちが自分の力で余力のある企業に移っていくようにさせる。それがいいと思います。

 余力があってANAの人たちを受け入れることができるのであれば、そこが採用すればいいだけの話で、会社が音頭を取って出向させるというのは、短期間のうちに終息して元に戻るという前提で行っていることだと思うのですが、本当に航空会社はコロナ前の経営状態に戻るのか、仮に1~2年でコロナが終息したとしても、航空業界は激変しているのではないかと思うので。我々も会議のためだけに出張するのは不要だと、この半年間でわかってしまったわけですから、今までの企業のあり方と、コロナ後というのは全然違うはずです。

 それに合わせた人の採用、人の雇用を考えるというのが、本来やるべきことで、そのように進めた企業が生き残るでしょう。現状維持を狙って、一種の弥縫策に終始したところは、非常に苦しんでいくことになるのではないかと見ています。

内木場 なるほど、ありがとうございます。今の話に関連した質問がきていまして、これも最後におっしゃっていましたが、菅政権の打ち出しているDXで経済効率はあがるのでしょうか。特に公益セクターなどの分野では本当に効果があるのでしょうか。

磯山 まだ菅さんのDXは、誰がどこまで何をやるかというのがまったく見えてないので、今の段階で評価するのは難しいのですが、ただDXに着眼したというのはいいことだと思います。

 DXは単純にデジタル化することではなく、今までの仕事の仕方、役割のあり方を根底から全部、もう1回ゼロベースで考えなおすことです。ですから、今までだったらヒエラルキーがあって、ヒラの職員から課長補佐、課長、審議官、局長を経ないと物事が決まらない形になっていたものを、フラット化してそこの責任者が決め、あとは局長なり事務次官が最終的に決算すれば済む。フラット化した役所の社会に変わっていければ、効率化が進むということです。

 ただ霞が関をまわっていると、「ペーパーレスが進みました」と言っていても、実はペーパーで提出されたものをエクセルに入力して、それをプリントアウトしてハンコを押しているみたいなことを未だにやっているのです。それでは、まったく意味がない。

 フラット化が進むかどうかというのは、ひとえに、誰にどういう権限を与えて、今までの仕事の仕方をぶち壊すか、それを政治家ができるのか、逆に言えば政治家がそこまで業務の流れを把握できるか、業務を把握したうえでデジタルを使うことで効率化できるか、それをわかるか、それをやる力があるか――と、本当の効果を得るためには、何段階かのハードルがあるように思います。

内木場 10万円給付のときにも、ネットで申し込んだけど、それをすべて印刷して手作業で確認していたということもあったようでした。ああいう状況を見ると、DXなどの掛け声をかけても改革が進むのかというのは不安な感じはありますよね。

磯山 本当は今の政府のほかに、新しい政府をもう1つ作って、そちらに新しい仕組みを少しずつ移してくということをした方が、もしかしたら早いかもしれませんし、もしくは地方分権で、都道府県に一気に権限を降ろして、すべてそこでやらせた方がデジタル化は一気に進むかもしれません。

内木場 ほかにも関連した質問がいくつかあります。日本企業の生産性を上げるにはどのような政策、対策が必要でしょうか。これは菅政権がどのような対策を打つべきか、それが果たして期待できるのかどうか、につながると思うのですが、これはいかがでしょうか。

磯山 菅さんが言っていた最低賃金を上げるというのは、もしかすると逆転の発想ではあるのですが、効率化をしていくための大きなファクターになるかもしれません。

 日本企業の生産性は、製造業を中心に議論をしてきたので、同じ時間のなかで1人の人が、今まで100個作っていた部品を120個作れるようになると生産性が20%上がったとされるのですが、今求められている生産性はそうではなく、生み出す付加価値、つまり高い値段で売れるかどうかがすごく大きいと思います。

 それは1万円だった宿泊費を1万5000円にしても客が来てくれるというような業務・商品改革です。それを企業にやらせるためには人件費を無理やり上げると、その人を雇えるための利益を上げなければならないので、生産性を改善せざるを得ない、生産性を改善しない企業はつぶれるということになるかもしれない。逆転の発想というか、ルートとしては逆ですが、それができれば、もしかしたら一番パワーがあるやり方ではないかなと思います。

内木場 幸いにも日本は新型コロナの流行が欧米に比べて抑え込まれており、経済活動の制約が少ないですけれども、第2波、第3波があるアメリカや再びロックダウンを取らざるを得なかったヨーロッパと比べると、相対的に日本の競争力を引き上げることになるのでしょうか。短期的な話かもしれませんが、磯山さんの見解をお伺いしたいです。

磯山 やはり、何をやるかにかかっていると思うのですが、単純に日本の企業が元のままでいるという決断をすると、今、ヨーロッパの国とかアメリカの企業はロックダウンをしたからといって寝ているわけではなく、猛烈に改革をしているので、1週間会社に行かなくても事業がまわるようなことを実際に行っています。表面上、街から人がいなくなって経済が止まっているように見えても、それなりに企業活動が続いているっていうのが、実は欧米だと思います。

 ですからGDPの落ち込みが大きいとはいえ、日本と比べても、日本の5倍落ち込んでいるのかといえばそうではない。そこはやり方を変えて、生き抜いていくってことを欧米はやっている。いろいろなものへの改革、変革、ポストコロナに向けた企業のあり方っていうのを彼らはむしろ考えています。

 そのなかで日本は影響が少ないからラッキーだったか、というのはむしろ逆で、これで改革が遅れる、ポストコロナをにらんだ企業再編とかが遅れるということになると、蓋を開けたら欧米に比べて圧倒的に生産性の低いまま日本だけが取り残される、ということになってしまうのではないかと思います。

内木場 逆にここで気を引き締めないと、ということですね。

磯山 ポストコロナでどういうふうにマーケットが変わるのか、人々の行動が変わるのか、ニーズが変わるのかを真剣に考えて企業が変わっていかなければなりません。

内木場 コロナの完全な終息はこの1~2年では期待できない状況が続くということになると、去年までインバウンドで潤っていた百貨店やホテル、観光業が、壊滅と言えば言い過ぎかもしれませんが、とんでもない状況になっています。コロナが続くという仮定で、どういう対策を取ったらいいのか、取るべきなのか、あるいは対策を取ろうとしている動きがあるのかどうか、いかがでしょうか。

磯山 昨日、テレビに出演して、その番組の中で取り上げられていましたが、東京の老舗百貨店が御用聞きサービスを始めたのです。今までのデパートのビジネスモデルというのはいろんなイベントをやったり、遊園地や美術館をつくったりして集客し、モノを買ってもらう業態だったわけですよね。しかし、密を回避しなければならない状態では人が集められないので、そのビジネスモデルは終わっている。それでも、お得意様のニーズをきちっととらえるお帳場方式とかお得意さん方式のビジネスモデルを復活させることが大事なんですって言っていました。昨日出てきた百貨店はなんと、おばあちゃんたちが百貨店に電話して「今晩すき焼き食べたい」っていうと、売り場のおねえさんがカゴをもって材料を集め、タクシーを使ってそれを運んでくれるという。タクシー代3300円はお客さんの負担というサービスです。それってすごいアナログですよね。

 ただ、3300円も取ったら、ウーバーイーツに勝てません。だから、ITやAI(人工知能)を使ったりして瞬時に何歳の男性と女性何人で、予算いくらで、すき焼きと入力したら、メニューが出てそれが自動的に配送されていくような、そういう新しいことを考えるのが今必要なときだと思います。が、なかなか一歩飛び出すということができなくて、昔ながらのものに戻る。原点回帰は大事だとは思うのですが、それは形を変えた原点回帰でなければならなくて、今の技術、テクノロジーをきちんと使って、人々の生活スタイルが変わったことに合わせるということはどこの企業でもやらないといけないことなのではないかと思います。

内木場 飲食店もお店を開けないから、お客さんに材料を買っておいてもらって料理人が出張して料理をつくるとか、そんなサービスを始めたところもあるみたいですから、百貨店も飲食店とコラボして新しい事業、サービスを始めるとか、そんなことを考えていく必要があるのかもしれません。

磯山 ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミストの矢嶋康次さんが言っていたのですが、これからはITを使って人々やすべてのものがつながるということがキーワードになる、と。中国ではそれが実際に起きているのですが、たとえば、キーワードを入力するだけで料理人まで派遣してくれるとか、材料だけじゃなくて鍋釜全部持って料理人まで来て、テーブルセッティングをしてくれて、総計でいくらです、とか。注文する側はスマホ上で選んでいくだけで、すべてができてしまう。または予算を入れるだけで、AIが好みを把握してくれるという時代に変わっているのに、日本企業はサービスラインがぶつぶつに切れていて、横につながっていない。それが日本企業の弱さだというふうに彼は分析していました。

 それを企業経営者にいくら説明しても、全然わかってくれないんです、ようやくコロナで皆さんがわかってくれるようになったんじゃないかな、と。だからこのコロナをチャンスに変えて、企業の変革にしていかないとダメなんじゃないかなと思います。

内木場 中国は数字だけ見ると、急激な回復をしている、これはいち早く感染流行の抑え込みに成功したという以外に、何か要因があるんでしょうか。今の磯山さんの話のなかにヒントがあるのかもしれませんが。何か経済の構造改革とか、日本が見習うべきものがあるのでしょうか。

磯山 おそらく中国の方が科学的というか、データに基づいて対応しようと、最初からしていたような感じがします。感染者をデジタル的に把握して、どこにどういう人がいるのかわかるとか、ビッグデータというかビッグになる前の個別データと思いますが、それを1カ所で管理し、個人の行動を把握することで対策をした。

 民主主義とかプライバシーの問題とかが壁になっているから日本はできないという意見もありますが、僕らが思っている以上に中国の方が新しいテクノロジーを使って、分析をしたうえで対策をとっているのではないかと。政府が民主主義的でないからそういうことができると言いがちなのですが、もう少し冷静に見てみると、中国はそういうところが進んできているのではないかと思います。

内木場 個人的にも気になるんですけれども、また、磯山さんに伺うのもどうかというのもありますが、経済にも関係するので……。オリンピックは来年開催されるのでしょうか。磯山さんにお答えいただきたいのですが……。

磯山 菅さんは「絶対やる」という方針ですね。すでに3兆円ほどお金を使ってしまっていますので、これでオリンピックをやらないということになると、いろんなところで責任問題とか、そのあとのお金の処理をどうするだとか、議論が沸き起こるでしょう。東京都に本来、赤字分を負担させるはずでしたが、都もお金がなくなっていますので、どのぐらいの効果があるのか別にしても、とりあえずやらないと収まりがつかないことを政府はよくわかっています。

 特に官房長官だった菅さんは、なにがなんでもやると、8月ぐらいからずっと言い続けています。国際オリンピック委員会IOC)が無理だと言い出さない限りは、感染対策をやったうえで仮に無観客になったとしてもやる……。例えば観客は厳重にチェックしないと国内に入れないなどの対策を取りながら、オリンピックをやるっていうのが、可能性としては一番高いと思いますね。

 ただ、ひとえに日本ではこれ以上、感染が爆発して死者が増えるとか、医療崩壊が起きないという前提です。1~2月のインフルエンザ流行のピークのときを、今ぐらいの感じの患者数で乗り切ることができれば、大丈夫だと思うんですけど、感染者が東京で1日400~500人になって死者が毎日2桁になるような状況が続いてしまうと、ムードが一変すると思いますので。

内木場 他の世界の参加国、特にヨーロッパは、冬になると第3波に襲われるのではと言われていますよね。無観客にしても、参加したくてもできない国、選手を送り込めない国っていうのが出てくるとIOCがどう判断するのかなという。

磯山 IOCも逆に言うと、やらないと絶対的に損失を回収できなくなってしまうので、やりたいという方向は一致していると思います。

 ただ、この間アメリカから帰ってきた日本人ジャーナリストが言っていたのですが、帰国したときには2週間自主隔離を求められたんだけど、日本からアメリカに行ったときにはフリーパスだったと言うんですよね。ということは、アメリカの中では日本はもう汚染地帯じゃないというぐらいの判断をされているのではないかと、言っていました。日本がこのままの水準で推移すれば、外国人の選手も日本に来ることに抵抗がないということはあるかもしれません。

 それは感染の広がり具合というか……、日本は運が良くてこうなっているのか、ちゃんとコントロールできてこうなっているのかというのは、非常に議論の余地があると思いますが。

内木場 最後にもう1つだけ。テクノロジーでできることの知識が、今の経営者では少ないのではないか、経営陣全体が同じような経歴なので、発想の転換ができにくい、発想に限界があるように感じます。こうした状況を踏まえると、菅政権が言っているようにDXを進めるにあたって、経営陣の多様性は欠かせないと思うのですが、ポストコロナで経営のあり方は変わっていくのでしょうか。

磯山 例えばコーポレートガバナンスコードというのがありますが、モデルとしての目標みたいなものなので、経営者のポートフォリオみたいなもの、バラエティ、多様性みたいなものをこういうふうにすべきですとすれば、日本企業はもしかすると変わってくるかもしれませんね。

 たとえばIT系の企業は、20~30代で役員のポストにつけるなど、やらなければ回らないわけです。60歳のおじいちゃんが、私も60歳に近いですけれど、ITの開発の担当になったって、過去の知識では追いつかないわけですよね。ですから若い人たちや女性など多様な人材を登用する、ダイバーシティと言われていますが、何のためのダイバーシティなのか、今問われている。つまりまともに経営をしていこうと思ったら、ダイバーシティがあるべきだ、じゃなくて、ダイバーシティをしていないと対応できないのです。ポストコロナに対応した、変革を進めていく企業というのは、放っておいてもダイバーシティになって、若い能力の高い人たちをどんどん取締役に入れていくということが、普通に起きるというふうに思います。またそういう企業が生き残っていくので、必然的に社会全体として見れば変わっていくというふうに、私は楽観的に見ています。

内木場 長い時間、どうもありがとうございました。

女性の「自死」が急増中…そのあまりにも「やりきれない」理由とは? 「経済崩壊」が目の前まで迫っている

現代ビジネスに11月26日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77712

 

39.9%増の衝撃

もはや緊急事態である。新型コロナウイルス感染者の数ではない。急増している自殺者だ。

警察庁が11月9日時点の数字として発表した2020年10月の自殺者数(速報)は、2153人と前年同月比39.9%増加した。

新型コロナ蔓延以降、4月の17.6%減、5月の15.0%減と大幅に減っていたものが、7月の2.6%増から、増加に転じた。

この統計は、速報値発表後に死因が特定されるなどして数字が変わるが、最新数値での前年比較では8月17.8%増、9月10.0%増と大きく増加。それが10月になって39.9%増という、少なくとも2012年1月以降、見たこともない増加率になっているのである。

そうした中でも「女性」の自殺は、かつてない増加を示している。8月に前年同月比42.2%増を記録して世の中を驚かせたが、10月は何と82.6%増。昨年10月の1.8倍である。厚生労働省の調査では、女性の中でも40歳代の人の自殺が142人と前年同月の2.29倍に達していることが明らかになっている。

このデータについて厚生労働省は、「新型コロナウイルスの影響が長期化する中、仕事やDV=ドメスティック・バイオレンス、育児や介護の悩みなどが深刻化していることが背景にある可能性がある。また芸能人の自殺を伝える報道の影響を受けているおそれもある」としている。

確かに、8月、9月の増加時は、芸能人の自殺が相次いだことから、その影響を指摘する声もあった。だが、これだけ「異常値」が長引くと、そうした一過性の問題ではないと思われる。明らかに新型コロナの影響、それも経済的な影響だと考えるべきだろう。経済的に追い詰められた人たちが、将来に絶望し、自ら死を選んでいるのではないか。

「女性」「非正規」の大幅減

総務省が発表する「労働力調査」を見ると、女性が職を失って経済的に困窮しているのではないか、と伺わせるデータがある。

2013年1月以降、増加を続けてきた「雇用者数」の前年同月比は、今年4月以降マイナスに転じた。明らかに雇用情勢が急変したのである。以後、9月まで6カ月連続で減少し続けている。

ところが、不思議なことに、正規雇用の従業員は増え続けているのだ。その一方で、大幅な減少となっているのが「非正規雇用」。中でも女性の非正規雇用が激減している。9月のデータだけをみても、1年前に比べて73万人、4.8%も雇用が減っている。女性パートだけ見ても26万人の減少だ。立場の弱い非正規雇用の女性が職を失っていることが、このデータからもはっきりと見てとれる。

この傾向は4月以降続いており、非正規雇用の女性の失業が長引いている様子が浮かび上がる。パートの場合、社会保険の加入対象にならないように働いている人も少なくないため、雇い止めで失業しても、失業保険などが受け取れないケースが多いとみられる。

パートやアルバイトが職を失った場合に、救済策として助成金を支給する仕組みも国は作ったものの、飲食店や小売店など零細事業者では手続き申請を行う知識が欠如していることもあり、なかなか支給が広がっていない。

こうした世代では総じて預金額が少ないこともある。つまり、職を失ったことで、一気に生活困窮に追い込まれている可能性が高いのだ。

まず生活が成り立つように

自殺者を増やさないために、相談窓口の整備などを行うことも必要だが、現状の場合、とりあえずの生活を成り立たせるための支援の仕組みが不可欠だ。

雇用調整助成金や失業給付、生活保護などの仕組みを総動員して、生活が瓦解するのを何としても防ぐことが重要なのだ。ひとり一律10万円を給付した特別定額給付金を、本当に困窮して資金が必要な人に給付する新たな仕組みも早急に導入するべきだろう。

収入が減少して生活に困窮する人たちに市区町村の社会福祉協議会が「緊急小口資金」を貸し付ける仕組みもある。これを使った人もすでに100万人を大きく超えている。月20万円を3カ月間にわたって貸与する制度などだが、新型コロナの影響が長期化していることで、その資金も枯渇する人たちが出始めている。手元の資金を供給する仕組みを大幅に拡充することが求められている。

とりあえず、足元の生活資金が確保できたとしても、それだけで十分なわけではない。「将来への希望」を持ち続けられるようにしなければ、経済的な要因で自殺する人は減らない。新しい仕事を供給することや、新たな仕事に就くための職業技術の取得支援などで、先の見通しが立つようにするのも政府の重要な役割だろう。

今回の新型コロナによる経済への打撃は、飲食店や小売店、宿泊業といった「現場」に近いところを襲っている。この点、金融危機によって銀行や輸出企業などから始まったリーマン・ショックと大きく違う。雇用調整助成金など、比較的規模の大きい企業が利用することを前提とした救済策では間に合わないことが判明している。自営業者を含めた経済的に弱い存在、社会的な弱者が真っ先に打撃を受けているわけだ。

新型コロナの感染者が再び増加する「第3波」が現実となり、東京都などは再び営業自粛要請を行うことを決めた。それによって再び、飲食店の女性パートなどが仕事を失うことも予想される。弱者を生活困窮に追い詰めないための、新たな救済策を早急に打たなければ、さらに自殺者が増えることになりかねない。

時計市場でも中国本土の存在感が強大に

時計雑誌クロノスに連載されている『時計経済観測所』です。11月号(10月3日発売)に掲載されました。WEB版のWeb Chronosにもアップされています。是非お読みください。オリジナルページ→

https://www.webchronos.net/features/53730/

 

 新型コロナウイルスの世界での蔓延がなかなか収息しない中で、発生源とされた中国の経済活動が真っ先に回復している。財務省の貿易統計によると、日本から中国向けの輸出は今年1月から6月まで対前年同月比でマイナスが続いていたが、7月は8.1%増と大幅な伸びになった。

 輸入はいまだにマイナスが続いているため、輸出と輸入を合わせた7月の貿易額は9.7%の減少だが、米国の21.6%減に比べれば遥かに小さい。

2020年最大の貿易相手国になる中国

 中国との貿易額は2月に47.0%減と真っ先に落ち込んだ。武漢などでの都市封鎖が広がったためだが、この時、米国はまだ3.7%減にとどまっていた。それが、中国が3月に4.4%減に急回復したのとは対照的に、米国は10.5%減と2桁のマイナスに沈み、5月には40.3%減と最悪の落ち込みになった。

 中国と米国は日本にとって貿易相手国の双璧だ。2018年には中国がわずかながら米国を上回ったが、2019年は再び米国が最大の相手国になっていた。米国での新型コロナが収まらず、経済活動が本格的に再開できない状態が続けば、2020年は中国が最大の貿易相手国になることはほぼ間違いない。

 新型コロナの打撃から真っ先に立ち直った中国が、世界経済の中で存在感を一段と増すことになるだろう。

 同様に、世界の高級時計市場においても中国の存在感が一層高まることになりそうだ。本欄でお馴染みのスイス時計協会の統計によると、7月のスイス時計の輸出額は、中国本土向けが2億4200万スイスフラン(約279億円)と前年同月比59.1%増という大幅な伸びを記録した。新型コロナで中国のディーラーの輸入が止まっていたものが、一気に復活したということだろう。

 7月単月としては中国本土向けがぶっち切りのトップで、ついで米国の1億9060万スイスフラン(前年同月比0.6%減の219億円)が続いた。トップ常連だった香港は42.9%減と大幅なマイナスが続いており、3位に後退した。香港は中国政府による国家安全維持法の制定によって、米国をはじめ欧米諸国が貿易面での特権を取り消すなど、「自由貿易都市」としての色彩が一気に失われている。

 1月から7月までのスイス時計輸出額の累計を見ても、中国本土がトップで、前年同期比でも4.2%減まで持ち直している。2位は米国(前年同期比は26. 8%減)、3位は香港(同51. 3%減)、4 位は日本(同34. 9%減)となっている。このままでいくと2020年の年間でも中国本土がトップとなり、スイス時計の最大市場に躍り出ることになりそうだ。

 だが、中国が高級時計の最大の市場になることには、日本の高級時計販売店は複雑だろう。ここ数年のインバウンド消費を支えてきた中国人観光客が入国制限の影響で、ピタリと途絶えてしまっているからだ。

想定外の打撃が追い打ちに

 日本政府観光局(J NTO)の推計によると、日本を訪れた訪日外国人は4月以降7月まで99.9%減が続いている。2019年は3188万人と過去最多を記録したが、2020年はこのままでは400万人強にとどまる可能性もある。

 外国人消費額は2019年に4兆8135億円に達し、オリンピック・パラリンピックが開かれる予定だった2020年には8兆円に達するという皮算用だったが、1-3月の7071億円を最後に4-6月は調査すら中止になっており、昨年対比でも4兆円が消えることになる。8兆円の目標からすれば、7兆円が夢と消えることになりそうで、訪日外国人を期待していた小売店にとっては大打撃どころの話ではない。

 中国本土向けの時計輸出の増加も、香港や日本で中国人旅行者が購入していた分が、国内に回帰していると見ることもできる。海外からの旅行者に売り上げ、利益を依存してきた百貨店などは、当面の間、試練の時となる。

 加えて、日本国内の消費減退も影を落とすことになりそうだ。ひとり一律10万円の定額給付金で、生活にまだ不安を感じていない層の人たちが、家電商品と並んで時計なども購入している。10万円という金額で買える、日頃ならば我慢しているような「ちょっとした贅沢品」
に消費が向いているのだ。

 だが、企業の赤字決算が続々と表面化するなど、景気悪化が明らかになり、年末の賞与などが大幅に減額される企業などが出てくると、人々の財布のヒモは一気に締まると予想される。政府が何らかの追加対策を取らなければ、年末商戦は惨憺たるものに終わる可能性がある。

 

「霞ヶ関をぶっ壊す」ことができなければ、「デジタル庁」発足は失敗する 人材もいない、縦割りや序列も壁になる

現代ビジネスに11月19日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77489

「既存の府省の寄せ集めでは本末転倒」というが

菅義偉首相が就任早々「目玉政策」として掲げたデジタル庁のあり方を巡る議論が本格化してきた。自民党のデジタル社会推進本部(本部長・下村博文政調会長)が「デジタル庁創設に向けた第1次提言」をまとめ、11月18日に平井卓也デジタル改革担当大臣に申し入れた。

自民党としての提言では、デジタル庁を「内閣直属で、強い権限を有した常設組織」とすることを求め、「予算一括計上と執行権限、これまでの前例に囚われない十分な機構・定員を与える」べきだとしている。

これまで霞ヶ関に新しい組織が作られる場合、権限を握る各省庁からの出向などで、調整機能を担う組織になるケースが多かった。

提言では、「デジタル庁が単に既存の府省の寄せ集めでは本末転倒であり、政府・地方公共団体・民間のデジタル化をけん引する強力な司令塔機能を付与する必要がある」と、デジタル庁に権限を集約するよう求めている。

果たして「デジタル庁」は旧来の霞ヶ関の枠組みを超えた「スーパー官庁」となり、行政サービスのデジタル化を一気に進めることになるのか。

実現すれば行政組織の作り直しだが

提言では、「システム」「マイナンバー・データ」「個人情報/セキュリティ」「デジタル庁の機能」「組織」「予算」など41項目の政策を掲げた。「地方公共団体でバラバラに整備・運用されている情報システム」を国が主導して共通化することや、「マイナンバーを中心としたマスターデータ」を整理し、「マイナンバーカードとの一体化を進め、将来的に健康保険証を廃止する」ことなども盛り込んだ。

「(国民が)利便性を実感できるというユーザー目線で改革を進めること」を基本とすべきだとし、具体的な施策のひとつとして、こう述べている。

「デジタル庁は、個人、法人、事業所、土地、不動産等、社会の基本データたるベース・レジストリを整備し、国全体のデータ戦略の企画・推進を担う。その際、他の行政機関が参照できるように整備を進めることで、行政手続において一度提出した情報は二度と提出しないワンスオンリーの実現など、住民の大幅な利便性向上と行政コストの削減を実現する」

企業や個人が自身で収支データをクラウドに入力するだけで、それが税務申告や助成金申請に使われ、申請書の作成や行政側の処理に膨大な人手をかける必要を無くそうというわけだ。

もし、これが実現すれば、壮大な行政機構を「作り直す」ことになるが、焦点は、それを支える「人材」を確保できるかどうか、だろう。少なくとも、霞ヶ関の中にはそれを実現できるようなデジタル人材はほとんどいない。

デジタル化を担える人材を採用できるのか

提言では、人材確保について、こう述べている。

「デジタル庁においては、これまでの霞ヶ関の組織文化・前例に囚われることなく、幹部職含め、若手からの抜擢含めて、官民問わず適材適所の人材配置を行う。その際、デジタル庁設置において、各府省から振替られた機構・定員等に影響されない人事配置とする」

「民間等における実務経験(DX 戦略、PM、UI/UX、データ戦略等)を有したIT人材を採用・確保するとともに、柔軟かつ魅力的な人事・給与・評価制度、執務環境を整備する。その際、デジタル庁での実務経験が、その後のキャリア・アップ等につながるような制度・環境も整備する」

旧来型の霞ヶ関の序列に従っていては、デジタル化を担える若手人材の採用はおぼつかない。

実は、現在も政府にはCIO (最高情報責任者)という役職が存在し、民間人を充てている。「内閣情報通信政策官」というのが正式名称で、大林組の元専務で情報システム担当などを務めた三輪昭尚氏が就いている。

台湾で2016年に、天才プログラマーと言われたオードリー・タン(唐鳳)氏を35歳の若さで、閣僚級の「デジタル担当政務委員」に抜擢したことが有名だが、三輪氏は就任時66歳、現在68歳である。

今回の自民党提言でも、この政府CIOと政府CIO補佐官制度を見直すことを求めている。その上で、デジタル庁に、CIO、CTO(最高技術責任者)、CDO(最高データ責任者)、CSO(最高セキュリティ責任者)などを置き、「ジョブ・ディスクリプション」を明確にしたフラットな組織を求めている。

霞が関に「フラット」という発想はない

こうした「フラットな組織」という発想は霞ヶ関にはまったくない。これまでも役所を新設する際は、長官や次長、局長、審議官、課長といった役職を決め、民間人を採用する場合にはそこに当てはめるという手法をとってきた。

役所が作る幹部名簿を見れば、役職名の頭の位置が微妙にズレており、役職の序列を示している。すべてがヒエラルキーなのだ。これを壊すのは至難だ。提言をしたデジタル社会推進本部の甘利明座長も「そこが一番難しい」と会見で語っていた。

霞ヶ関の「序列文化」を壊すことに猛烈な抵抗が起きるのは必至だ。だが、それができなければデジタル庁は、旧来の省庁の中に調整官庁がひとつ増えただけ、で終わるに違いない。

提言取りまとめの実務を担った推進本部事務総長の小林史明衆議院議員は、「まずは準備室の段階から『人事部』を作って、CIO、CTOに相応しい能力を持った民間人材を発掘、ヘッドハントするくらいのことから始める必要がある」と強調する。

霞ヶ関主導で組織を作ってから民間人を募集するのでは、結局、旧来型の組織になってしまうというわけだ。

菅首相が言う「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」の肝は、デジタル化ではなく、デジタル化に合わせて組織や仕事のやり方を根本から見直すことにある。

デジタル庁のトップにふさわしい、霞ヶ関の既得権を握る在来省庁を「ぶち壊す」胆力と政治手腕を持った人材を探し出せるかどうかが、デジタル庁成否のカギを握ることになる。