「やめられない止まらない」岸田内閣の「分配」しまくり政策の行く末 財政悪化、円安、輸入価格高の悪循環

現代ビジネスに4月29日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/94918

バラマキ政策を始めるのは簡単だが、いったん始めてしまうと、それをやめるのは難しい。岸田文雄内閣は「7月の参議院選挙に勝つまでは」を半ば合言葉に、国民に分配しまくるバラマキ政策を続けている。7月の選挙で勝ったら180度舵を切ってアメを取り上げ、国民に負担を求めることができるのかどうか。

岸田文雄首相は4月26日、記者会見を開き、「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を打ち出した。「私は、2段階のアプローチで万全の経済財政運営を行ってまいります」と大見えを切り、1段階として予備費を使った支援策、第2段階として、補正予算を組んでの対策を取る姿勢を示した。

その具体策のひとつが、ガソリン価格の上昇抑制を狙った石油元売り会社への補助金拡大だが、まさしくこれが、止められなくなった政策の典型だ。

経産省補助金にこだわる理由

2022年1月にガソリン価格を全国平均で172円程度に抑えるとして、石油元売り会社に補助金を出し始めた。ガソリン価格には上乗せで税金がかかっており、価格上昇時にはその税金を外す「トリガー条項」が付いているが、経済産業省は減税には後ろ向きで、石油元売り会社への「補助金」を出す形にこだわった。目的税は役所の「第2のポケット」だから、それを手離すのに抵抗しているわけだ。

補助金は、当初は1リットル当たり最大5円で、3月末までの時限措置だった。実際、1月27日~2月2日分として払われた補助金は3.4円、2月3日~9日分は3.7円だった。

ところが、2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻すると、原油価格は大きく上昇を始める。ニューヨークの原油市場ではWTI先物価格は7年7ヵ月りに100ドルを突破した。これに対して岸田内閣は補助額の上限を25円に引き上げる道を選んだ。その後、3月末までとしていた期限も4月末までに延長した。しかし、原油価格の上昇は収まらない。

4月26日の「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」に盛り込まれたのは、石油元売り会社への補助金の上限を35円に引き上げること。さらに172円だった「基準価格」を168円に引き下げた。もはや止められないどころか、国際市場価格の上昇につれて、補助金をどんどん積み増しせざるを得なくなっている。さらに4月末だった期限も9月末まで延長することになった。

この5ヵ月間で、石油元売会社に支給する補助金は1兆5000億円に達するという。しかも、国際市場価格が上昇を続けた場合、上昇分の半分を国が追加で助成することも盛り込んだから、価格が上昇すればするほど、補助金も必要になるということだろう。

とりあえず、9月末に期限を区切っているものの、だれもそこで終わるとは思っていない。35円の補助金を止めれば、ガソリン価格が168円から203円に飛び跳ねることになる。ジワジワ上がるのと違い、その衝撃は大きい。

国が何があっても手放そうとしないもの

価格が上昇しているのはガソリンだけではない。輸入小麦の価格上昇も激しく、すでに小麦粉の値上げによるパンやパスタの値上がりが起きている。これに対しても岸田首相は「9月までの間、政府の販売価格を急騰する前の水準に据え置きます」と記者会見で表明した。

輸入小麦は国が一括して買い上げ、民間製粉会社に売却する「国家貿易」が行われている。

輸入価格に手数料とマークアップと呼ばれる差益分が上乗せされて販売価格が決まる。通常は、輸入価格よりも販売価格は高いから、その差額が国内小麦農家の保護などに使われてきた。ところが、販売価格を引き上げられないと、輸入価格の方が高い「逆ザヤ」が生じる。もちろんこれは国が被ることになるわけで、財政支出で補うことになる。

価格を抑えるために国が負担を増やすのは簡単だが、価格が下がらない限り、止めることができなくなるだろう。

これまで国が続けてきた政策でも止められなくなっているものが少なくない。雇用調整助成金もそのひとつ。新型コロナの蔓延で影響を受けた企業が、余剰人員を抱え続けた場合、政府がその人件費の一部を雇用調整助成金として支給、失業者の発生を抑え込む政策だ。

これも何度も政策の期限がやってきたものの、新型コロナの蔓延が収まらないことから、延長が繰り返されてきた。

2022年3月末までだった期限は6月末に延長されているが、これもさらに延長されることが確実視されている。7月の参議院選挙前に給付を打ち切れば、選挙にマイナスになるという声が自民党内に根強くあるためだ。

当然、政府が支出する金額も膨らみ続けている。2020年4月から2022年4月22日までに支給決定された雇用調整助成金は総計5兆5948億円にのぼる。

国民生活に打撃を与える「分配重視」

政府・日銀が続ける「大規模な金融緩和」政策も、出口を失っている。本来は物価上昇に対して打つべき手は「利上げ」だが、日銀は金融緩和を続ける姿勢を崩さない。

金利が上がれば、企業経営に影響を与え、景気にマイナスになるというのが建前だ。利上げに動き出した米国との間で金利差が拡大し始めており、円安に拍車がかかっている。それでも政策転換できないのは、政策を変えることによる政権への打撃が大きいからだろう。

岸田首相の言う「分配重視」は、国民には心地よい政策には違いないが、国家財政の悪化が続けば、さらに円安が深刻化し、輸入物価の上昇で、国民生活は大きな打撃を被ることになるだろう。

「日経平均は見た目以上に下落している」円安もインフレも放置し続ける"岸田政権の大失策" これが本当の日本株の姿…金建てにすると「実質26%」も下がっている

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止まらない円安、迫るインフレの影

猛烈な円安が進んでいる。東京外国為替市場では4月20日に一時、20年ぶりに129円台を付けた。急激なインフレが進行している米国のFRB(連邦準備理事会)が量的緩和の縮小を決め、金利を引き上げる姿勢を鮮明にしている一方、日本銀行は「円安は日本経済にプラス」だとして大規模な金融緩和策の継続を表明。これによる日米金利差の拡大から為替が円安ドル高へと進んでいる。

2月24日にロシアがウクライナに侵攻して戦争が始まったことで、エネルギー価格も大幅に上昇。ロシア産天然ガスに依存しているドイツなど欧州諸国ではガスや電気料金が急上昇しており、インフレに拍車をかけつつある。日本はロシア産エネルギーへの依存度はそれほど高くないものの、全LNG液化天然ガス)輸入の8%程度をロシアに頼っている。石油やガスのほとんどを輸入に依存している日本にとって、エネルギー価格の上昇はインフレへと結びつく。しかも円安で輸入品価格はさらに上昇、日本でもインフレの影がひしひしと迫っている。

巨額の日本国債を抱え込んでいるから、金利を引き上げられない

大規模緩和を続けるという日銀の姿勢は、このインフレ懸念を放置するということにほかならない。黒田東彦総裁が就任以来言い続けてきた2%の物価上昇率が統計数字に表れていないことから、日本でインフレは起きていないというわけだ。3月の消費者物価指数は7カ月連続で上昇した。前年同月比0.8%の上昇に止まっているが、庶民感覚としては輸入品を中心に値上げが続き、すでに物価上昇が始まっている。

実際、3月の国内企業物価指数は前年同月比9.5%も上昇、指数は1982年12月以来39年3カ月ぶりの高水準になっている。企業が本格的に最終価格への転嫁を始めれば、日本の消費者物価も大きく上昇することが予想される。

それでも日銀がインフレ抑制策、つまり金利の引き上げに動かないのは、9年におよぶ大胆な金融緩和の中で、日銀が巨額の日本国債を引き受けて抱え込んでいることが主因だとの見方も出ている。金利上昇は債券価格の下落を意味するので、債券価格が大幅に低下すれば日銀は債務超過に陥るため、金利引き上げができないという指摘だ。この結果、円安を放置する結果になっている。

日経平均は「見た目以上に」下落している

周知の通り、日本はGDP比率で見ると先進国の中で最悪の財政状況だ。いわゆる国の借金(国債及び借入金並びに政府保証債務)の残高は2021年12月末で1218兆円。年間のGDPの2倍である。しかも新型コロナ対策で大幅に財政支出を増やしたため、財政を立て直すメドはまったく見えていない。そうした、日本の財政状態への不信感も円安が進む一因だ。急速に進む円安は日本の国力が大きく落ちていることを如実に示している。

「いやいや、日本売りという割には日本株の下落は大きくない」という声もある。確かに129円まで円が売り込まれた4月20日日経平均株価終値は2万7217円。年初1月4日の終値は2万9301円だったから7%の下落だ。この間、新型コロナの再拡大や、ウクライナ戦争の勃発など日本経済を大きく揺さぶる問題が起きた割には下げは小さいとも言える。

だが、ここで注意が必要なのは、日経平均株価は「円建て」だということだ。日に日に弱くなっている通貨で表示されている。これまで国内物価が変わらないので、円の使用価値が目減りしていると感じないが、世界の投資家からすれば、円安が進んでいる分、日本の株価は安くなっている。つまり、日本人が気がつかない間に、日経平均は「見た目以上に」大きく下落しているのだ。

「金建て」で日経平均を見ると大幅に下落している

ドル建ての日経平均株価で見てみるのもひとつの方法だが、ドルも通貨である以上、それ自体が弱くなったり強くなったりする。そこで、人類の歴史と共に価値保存に使われてきた「金(ゴールド)」建てで日経平均株価を見てみたらどうなるか。

2021年1月1日(前年の最終売買日の終値)の日経平均株価を100として指数化したもの(青線)と、日経平均株価をその日の金小売価格で割った指数(赤線)を比較してグラフにしてみた。当初はほぼ同じ波形を描いていたが、2021年10月ごろから金建て指数の下落が始まる。円安が進んだ分がこの指数に反映されているとみていいだろう。

4月25日現在、日経平均株価の指数は96.9と1年4カ月前に比べてわずかに下落した水準にすぎない。ところが、「金建て」で日経平均株価をみると76.6。大幅な下落を演じているというのが日本株の実態なのかもしれない。

分岐点の2021年10月に岸田内閣は発足している

ところで、分岐点となった2021年10月というのは何があったのか。岸田文雄内閣の発足である。「新しい資本主義」を打ち出し、これまでの路線とは違った経済運営を掲げてスタートした。総裁選に出馬した当初の段階では「新自由主義的政策は取らない」と従来の規制改革による成長戦略を否定。金融所得課税の強化など富裕層に負担を求めて庶民に分配する「分配重視」を打ち出した。

これは市場関係者から猛反発を食らう。財界人の一部からは「新しい資本主義は社会主義ではないか」と言って声まで上がった。岸田首相が金融課税強化に触れるたびに株価が大きく下がる「岸田ショック」が起きた。

結局、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の具体的な中味は半年たっても明らかになっていない。負担をどこに求めるかを明示しないままに、新型コロナ対策という名の「バラマキ」を続けている。岸田首相の側近は、「何よりも7月の参議院選挙に勝つことが第一」と明言しており、選挙にマイナスになるような政策は打ち出さないという姿勢だ。ちなみに7月の参院選を乗り切れば、衆議院を解散しなければ3年間は選挙がない。選挙に勝利してから具体的な政策を打ち出す、ということなのだろう。

財政支出をすればするほど、円安は進む

ところが経済の動きは待ってくれない。円安によって物価の上昇に拍車がかかりつつある。これに対して岸田内閣は「財政出動」で物価を抑えるという施策に打って出た。ガソリン価格の上昇を抑えるために、石油元売り会社に補助金を出し始めたのだ。当初は1リットル5円だった補助金の上限を3月から25円に引き上げたものの、原油価格の上昇に飲み込まれ、4月26日には1リットル35円に引き上げることを表明した。岸田内閣は「市場」に対して、まさに戦いを挑んでいるのだ。

だが、皮肉なことに、そうやって財政支出を膨らませれば、国家財政はさらに悪化し、結果として円安が一段と進むことになる。円安が進めば輸入原油に依存する円建てのガソリン価格はさらに上がる。自ら足元を掘り崩しているような政策をとっているわけだ。これも選挙に勝つまで、ということなのだろうか。

気づかないところで「日本株売り」が進んでいるかもしれない

4月26日の日本経済新聞の「一目均衡」というコラムに編集委員川崎健氏が「上滑りの『新しい資本主義』」というタイトルで記事を書いていた。その中で、「岸田氏に最も近い側近で、新しい資本主義の発案者と目される木原誠二官房副長官の発言」を取り上げている。これまで岸田首相が発言してきた「金融所得課税の早期引き上げ」「自社株買いの規制」「四半期開示義務の廃止」について明確に否定した、というのだ。もっともこの発言は、野村証券が主宰する機関投資家向けのテレビ会議でのことで、市場向けのリップサービスの可能性も十二分にある。木原氏は、市場をなだめておかないと選挙を戦えないと考えたのではないか。

それくらい岸田首相就任後の株価下落は深刻だ。前述の金建て日経平均株価の指数を、岸田首相が就任した2021年10月4日を100としてみると、我々が日頃見ている円建ての日経平均株価との差が歴然とする。4月25日現在、円建てでは6.5%の下落にすぎないが、金建てにすると26.1%の下落である。我々が気がつかないところで、深刻な「日本株売り」が進んでいるのかもしれない。

 

日本経済は「中国依存度」を下げられるのか―経済安保法案で「分断」が加速 ウクライナ侵攻で迫られる頭の痛い事態

現代ビジネスに4月23日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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世界情勢と乖離する経営者の感覚

「世界は自由主義専制主義への分断が進む。中国はロシアと共に完全に向こう側に行く。その感覚が日本企業の経営者には薄いのではないか」

今国会で成立する見通しの経済安全保障推進法案に関係する幹部官僚はこう語る。日本企業が早急に中国依存度を下げることが重要だと言うのだ。

経済安保法は、経済の幅広い分野で国に監視・規制権限を与える国家統制色の強い法律だ。

当初は、軍事転用できる機微技術の国外流出を防ぐ目的で議論が始まったが、最終的には、1)重要物資のサプライチェーン強化、2)サイバー攻撃に備えた基幹インフラへの事前審査、3)先端技術の官民協力、4)軍事転用可能な技術の特許非公開――という幅広い権限を政府に与える内容になった。しかも、具体的な規制対象などは政令や省令で定めればよいことになっており、国に幅広い裁量権を与えている。

サプライチェーン強化では「特定重要物資」を国が指定、その品目については取引に関わる企業を政府が調査することができるようになる。半導体や医薬品が対象になると想定されているものの、どこまで広がるか分からない。

「基幹インフラ」については14業種が対象で、サイバー攻撃による機能停止や情報流出を防ぐために、安全保障上、脅威となる国の製品や設備が使われていないか、導入時に政府が事前審査を行うことができるようになる。電気、ガス、石油、水道、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカード、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、航空、空港と幅広い業種が含まれる。

「安全保障上、脅威となる国」として、中国やロシアが想定されているのは明らかだ。

ウクライナ侵攻が背を押した統制ムード

企業の経済活動に国が目を光らせ、規制を強化することにつながるため、当初は、企業経営者や野党などから懸念する声が上がった。ところが2月24日にロシアがウクライナに侵攻すると、この法案に対するムードは一変する。

経団連など経済団体は3月14日に声明を出したが、「各分野の基本指針や政省令に委ねられている制度の具体化にあたっては、事業者に過度な負担が生じることのないよう、対象をできる限り絞り込むべきである」との注文を付けたものの、「法案の早期成立を求める」とした。立憲民主党も賛成に回り、法案は4月7日に衆議院を通過した。今国会で参議院で可決成立する見通しだ。

法案が早期成立に向けて動いたのは、冒頭の官僚が言う「分断」が一気に進み始めたからに他ならない。経済界は経済活動の自由度が損なわれないことを期待しているものの、分断の進行と共に、政府の統制色が強まっていくことになるだろう。

自由主義陣営の一員として、ロシアへの経済制裁に乗り出しているが、今後、敵対国家であるロシアからの輸入を政府が制限していく可能性が強い。ロシアからの輸入品はLNG液化天然ガス)や原油などエネルギーやレアメタルなどの資源が多いが、今後、禁輸措置と共に、この法案によって、レアメタルの一部の流通が国家統制下に置かれる可能性も出てきそうだ。

経産省はすでに、石油やLNGに加え、発電用石炭、製鉄用石炭、半導体製造用ネオンなどのガス、自動車の排ガス浄化用パラジウム、合金鉄の7品目について、確保対策が必要な重要物資として対策を検討し始めた。LNGの場合、ロシア産は日本の総輸入量の8%程度と大きくないが、代替調達先を短期間で見出すのは難しい。パラジウムなどの希少金属も同様に代替先の確保が課題だ。

中国との関係をどうする

ウクライナ戦争は2ヵ月経っても収束するメドが立っておらず、西側諸国によるロシアへの経済制裁は今後も長期にわたり続く見通し。経済制裁に同調しない国も少なくなく、経済制裁がどれぐらいロシア経済に打撃を与えているかも不透明になっている。

実際、一時は「紙屑になる」と言われたロシア通貨ルーブルは開戦前の水準に戻っている。今後、ロシアだけを世界経済から排除することは難しくなり、「専制主義国家」の連合体が強固に形成されていく可能性が出てきそうだ。

そのカギを握るのが中国である。米国は中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)製などの排除を求めており、日本も経済安保法の成立を受けて、これに追随するだけでなく、幅広く中国機器の輸入に制限をかけていく可能性もある。中国がロシアとの連携を深めれば、経済制裁の対象に中国も加えよという議論が出てくる可能性もある。

今や、日本と中国の経済的な結び付きは極めて太くなっている。冒頭の官僚が「感覚が薄い」と苛立つのも、新型コロナ禍を通じて、中国との関係がより強くなっているからだ。

中国は上海でロックダウンを行うなど新型コロナの蔓延再拡大が起きており、今後、経済成長がマイナスに転落する懸念もあるものの、昨年までは世界に先駆けて新型コロナの影響から立ち直っており、必然的に日本からの輸出も大きく伸びていた。日本と中国の間の2021年の貿易額(輸入と輸出の合計)は前年比18%も伸びた。

この中国との関係を見直すとなると、経済的な打撃は計り知れない。今後、「分断」の進行によって、自由貿易が世界全体を潤わせるという戦後の世界の価値観が大転換していくことになるのだろう。

貧しい日本人に旅行させるより、外国人観光客を受け入れた方が経済対策になる…「県民割」は本当に必要か 国民を納得させる「エビデンス」を示していない

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https://president.jp/articles/-/56809

何のための「旅行代金肩代わり」なのか

「新型コロナ対策」と言えば、どんな政策も通ってしまう、そんなムードが国や地方自治体を覆っている。財源がふんだんにあるわけではないのに、その政策で何を実行しようとしているのか、政策目的が曖昧なまま進んでいる。

その典型が「県民割」だ。新型コロナウイルスの蔓延拡大が終息するどころか、第7波が懸念される中で、旅行代金の一部を助成する「県民割」や「ブロック割」が実施されている。高水準の感染が続いている東京都や大阪府、愛知県などは、さすがに「県民割(都民割、府民割)」の実施を見送っているが、都民や大阪府民などの「不公平感」は強く、国の「Go To トラベル」の再開に合わせて、実施する方針などを示している。

そもそも、個人の旅行代金のかなりの部分を国や自治体が肩代わりするという「政策」は何のために実施しているのだろう。ホテルや旅館などの宿泊業者や旅行業者を救済することなのか、あるいは景気対策なのか。

両方同じではないか、と思われる読者もいるかもしれない。だが、業者救済と景気対策は明らかに違う。業者救済の政策は、新型コロナの「終息」とは関係なく、むしろ蔓延が深刻で業者が打撃を受けている時にこそ必要だ。一方、新型コロナで打撃を受けた経済を回復させるための政策なら、その手を打つタイミングが重要になる。つまり、新型コロナが終息したタイミングで、一気に景気を回復させる「起爆剤」にする必要があるからだ。

Go To トラベルは実施する「時」を誤った

もともと、Go Toトラベルは後者が狙いのはずだった。新型コロナの蔓延で緊急事態宣言が出された2020年。4~6月期の経済の未曾有の落ち込みから回復させる「起爆剤」として考えられ、7月22日から実施に移された。4万円の宿に実質2万円で泊まれるとあって、旅行者が急増。観光地の人出は一気に増加したため、それが新型コロナの深刻な感染拡大につながったとされ、中止に追い込まれた。それでも1兆円近い予算を使った。

苦境に喘いでいた宿泊事業者や旅行業者が大きく息をついたのは言うまでもない。その後も業界は「Go To再開」を要望し続けている。結果として、業者救済につながったのは良いとして、新型コロナ後の景気回復の切り札だったと考えると、政策として打ち出すタイミングを誤った、と言っていい。「新型コロナ対策」とひとくくりにするが、新型コロナの蔓延を抑えるのとは真逆の政策を打ってしまったわけである。その後、政府は、新型コロナ対策の「柱」として「人流」抑制にこだわり続けることになる。

経済対策としては有効だからこそタイミングが重要

一方の旅行業界は、猛烈なインパクトがあった「Go Toトラベル」が忘れられない。政府も業界の要望を受けて、2021年度以降も数兆円にのぼる予算措置を続けている。残念ながら再開ができないので執行されず予算を余らせる結果になっている。

Go To トラベルという政策自体は、予算執行額の何倍もの経済効果が期待できる経済対策として有効なものだろう。政府が支出した分だけが業者に渡っておしまいではなく、消費者がさらにお金を使ってくれるわけだ。

だからこそ、その政策を打つタイミングが重要なのだ。政府がGo Toトラベルを再開できないのは、新型コロナが終息したと言える段階ではないことを如実に示している。

ところがである。Go To トラベルのミニ版とも言える「県民割」が全国に広がっている。実施していないのは前述の大都市だけだ。首長の強い意思で他県には追随していないが、住民の不満は高まる一方だ。そのうち、なし崩し的にすべての都道府県が実施するようになるのかもしれない。しかし、新型コロナが完全に終息していない中で、旅行を奨励することは、新型コロナの感染再拡大を自ら引き起こすことにつながりかねない。少なくとも、政府が2021年に強調し続けた「人流増加」が感染拡大の原因というのが事実とすれば、拙速な人流増加策のツケは必ず回ってくる。

エビデンスがないから、人々は出かけるようになった

そんな中で、多くの国民の行動は大きく変わっている。米国などのように人混みの中でも皆がマスクを外すということはないが、旅行先もレストランも客がだいぶ戻っている。政治家や専門家が危機感をあらわにしても、オミクロン株は重症化率、死亡率とも低いので、まあ大丈夫だろうと見切っている人が増えたように見える。

これまで2年にわたって政府は次々と新型コロナ対策を打ち出したが、結局、国民を納得させる「エビデンス(証拠)」を示せていない。2021年の春から夏にかけてデルタ株が広がり、医療がひっ迫した時は、国民の間に危機感が広がり、ワクチン接種に大行列ができた。さすがに人流も一気に減った。外食を取りやめた人も多かった。だが、2021年秋に一気にデルタ株の感染者が減っていった理由が何だったのか国民を納得させるエビデンスが示されていない。

最近では、感染拡大と人流の増減には因果関係がないという研究も出ている。また、感染対策が進んだためか、飲食店でクラスターが発生するケースは激減している。飲食店で酒を出さないことや時間制限することが助成金支給の条件にされたが、それがどれだけの意味があったのか、明確なエビデンスは結局、示されていない。

だからこそ、人々は旅行に出かけるようになっているのだ。日頃一緒にいる家族どうしならば、たとえ県境を越えて旅行してもリスクは高まらないと感じている。

巨額の予算を使って、今やるべきことなのか

そうした人々の意識の変化、新型コロナウイルスとの向き合い方の変化が起きている中で、県民割やGo To トラベルをやる必要性があるのか、という問題もある。県民割がなかったら旅行をしないのか、という疑問点だ。しかも、それを巨額の予算を使ってやるべきなのか、である。過度な財政支出をすれば、それはいずれ増税などの形で国民負担に戻ってくる。そのツケを払わせられる時には、当然、景気の足を引っ張ることになるのだ。

もし、政府が、もはや新型コロナの蔓延を抑え込むよりも経済対策が重要だとの結論に達したのならば、一気に景気対策として「起爆剤」のGo To トラベルを実施するのもいいだろう。だが、それはあくまでも「起爆剤」として使うべきで、何度も実施しては蔓延拡大で中止し、また再開を繰り返すというような使い方はしてはならない。それをやると、結局、Go To トラベルという第2の助成金に依存する業者が増えていくことになる。

業者救済ならインバウンドを受け入れるべきだ

今、日本は猛烈な円安に直面している。旧来型の製造業経営者などはいまだに「円安はプラス」と言っているが、明らかに輸入物価の高騰が続き、庶民の暮らしはどんどん悪化する。内需型のサービス産業が多い日本では円安になっても給与が増えるわけではないので、輸入物価が上がれば、代わりに他のものの消費を諦めることになるだろう。真っ先に削られるのが旅行や外食かもしれない。Go To トラベルをやってもそれに伴って使うお金が減れば、政策の経済波及効果も小さくなっていく。

確実に言えることは、円安で外国人観光客にとっては日本がパラダイスになっていることだ。業者を救済するのならば、今はまったく受け入れを止めている外国人旅行者に門戸を開くことだろう。大挙して観光客が訪れ、お金を落としていく。この時、日本の事業者はいかに外国人にお金を落とさせるか、考えればいい。宿泊料をドル連動で引き上げて行っても、日本の物価は安いので、旅行者にとっては割安な旅行先に見えるはずだ。

円安で確実に貧しくなっていく日本人に旅行させるGo To トラベルよりも、外国人観光客に一気に門戸を開くことの方がはるかに大きな経済対策になるだろう。コロナと共に生きていくのなら、そうやって日本が稼いで、医療体制が崩壊しないようにヒト・モノ・カネを医療分野に注ぎ込んでいくことを考えるタイミングに来ているのかもしれない。

日本大学の「新たなガバナンス体制」が大学改革の「基準」になる? 他は「うちは日大とは違う」と言えるか

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日大の答申書とは

取引業者から受け取ったリベートなど約1億1800万円を税務申告せず、約5200万円を脱税したとして所得税法違反の罪に問われた日本大学前理事長、田中英寿被告を懲役1年、執行猶予3年、罰金1300万円として東京地裁判決が4月13日、確定した。被告側、検察側も期限までに控訴しなかった。

田中被告側が控訴しなかったのは執行猶予付き判決となり、実刑を免れたからに違いない。現金を受け取った事実関係なども争わなかった。

だが、これで問題が終わったわけではない。大学の理事長が出入り業者からリベートを受け取っていた事実については、田中被告は訴追されていないが、理事長として明らかに職務上の権限を乱用していたことは明らかだ。要はそうした理事長の暴走を許してきた日大のガバナンス体制の問題が残っている。

日大は体制を一新して、田中前理事長らに損害賠償請求するとした報告書を文科省に提出した。体制一新、つまりガバナンス体制の抜本的な見直しについては、大学が設置した「第三者委員会」が3月31日に「元理事及び前理事長による不正事案に係る調査報告書」を大学に提出、同日、大学に置かれた「日本大学再生会議」が加藤直人理事長あてに「答申書」を出した。

答申書では、「一人の者による専横を許さず、民主的に選出されたリーダーの下に遵法精神と品位を持った法人運営を行う」ことを指針とし、具体的なガバナンスの改革方針を示した。

日大の新体制を決める方式

ガバナンスの最大の焦点はどうやって理事長を選ぶ仕組みにするか。その上で、理事長が暴走しないようチェック機能を働かせるか、だ。新体制では、外部有識者過半数を占める「理事長選考委員会」が、理事会に候補者を推薦、理事会はそれを「最大限に尊重」して理事長を選ぶ。選考委員会の委員長には外部有識者が就くとしている。

現在の加藤理事長は辞任が決まっているが、不祥事を受けた今回の後任理事長の選定に当たる「理事長選考委員会」は3分の2を外部有識者とし、選出する新理事長についても「日本大学の出身にこだわらないこと、及び、これまで日本大学の学校運営に何ら関与したことがない学外者から迎える」としている。理事長の任期を1期4年2期までとした。

理事会を構成する理事については、学外の学識経験者7人、卒業生や元教職員3人に加え、理事長1人、学長1人、副学長3人、理事長指名理事2人、学部教員4人、付属校教職員1人、大学職員2人の24人を例示。概ね3分の1を学外者にするとしている。理事の任期については1期4年とした上で、理事長や学長などを除くその他の理事については70歳を定年とする。

また、評議員会については、現在の100人を超える人数を大幅に減らして40−50人とし、3分の1程度以上を学外者にする、としている。また、理事長や学長、副学長、などが評議員を兼務することも認めない。その上で、評議員会に、理事や理事長の解任権限を与える。

この提言に沿って日大は人選に入り、7月1日に新体制を発足させるとしている。

文科省の報告書では「何も変わらない」

実は、日大がこの新しいガバナンス体制を表明する直前、文科省の特別委員会が学校法人のガバナンス制度の見直しに関する報告書をまとめていた。大学など学校法人のガバナンス改革は長年の懸案事項になってきた。

いくつかの会議体を受け、法改正に向けての議論が2021年7月に文科省が立ち上げた「学校法人ガバナンス会議」で始まったが、そのタイミングで日大事件が勃発。2021年12月にまとまった提言では、「他の公益法人と同等のガバナンス」をという閣議決定を受けて、財団法人や社会福祉法人と同様、評議員会を監督機関、理事会を執行機関とするガバナンス改革が提言された。

ところが、評議員会の権限を強めることに一部の私立大学経営者などが猛反発、自民党文教族などを動かした結果、文科省は提言を棚上げして「学校法人制度改革特別委員会」を設置、議論をやり直していた。その報告書が3月に出されたのだ。

その報告書では、理事長は理事会で選ぶべきだとは明記されたが、理事をどうやって選ぶのか、明確に示されなかった。

「理事の選任機関として、評議員会その他の機関(評議員会、理事会のほか、役員選考会議、設立団体、選挙実施機関など任意に置かれる機関を含む。)を寄附行為(=定款)で明確に定めるよう法的に措置すべきである」とされただけだった。

現在でも多くの大学が理事の選任方法などを寄付行為で定めており、「何も変わらない」という結論だった。

俄然注目「日大基準」

そこで、俄然注目されることになったのが「日大のガバナンス体制」だった。前述の通り、理事や評議員のそれぞれ3分の1を学外者にする「日大基準」は今後、大学のガバナンスのデファクト・スタンダードになっていく可能性が高い。また、理事長が不祥事を起こした場合には、日大のように学外者から理事長を選ぶ、ということが公然のルールになるだろう。

学校法人経営者にすれば、「寄付行為」で定めれば良いという話で胸を撫で下ろしていたところに、「日大基準」が出てきて、寄付行為のルール設定が格段に難しくなった。12月の改革会議の提案は法律で評議員会が理事を選定することを求めていたが、どういう理事を選ぶかについては大学の判断に任せる姿勢だった。

経営者たちは寄付行為で決められれば大学の自由度が増すと考えたようだが、実際は逆。寄付行為の内容については文科省が逐次チェックすることになっている。しかも法律で寄付行為の記載内容を定めれば、役所の権限はさらに強くなる。自由なようでいて、文科省の「指導」がモノを言うようになるのだ。

今後、「日大方式」のガバナンス体制が、他の私立大学にも求められていく可能性が強い。3分の1を学外者に、と言うのは大学経営者からすればハードルは高くないが、理事長選考委員会の過半数が外部というのは衝撃的だろう。しかも不祥事を起こせば、外部から理事長がやってくる。文科省が、そこに官僚OBの天下りを夢見ているかどうかは、現段階では分からない。

中国の新型コロナ蔓延「都市封鎖」で、世界の「高級品市場」は激変する スイス時計輸出先として急速な鈍化

現代ビジネスに4月9日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/94172

ポストコロナ旗手の躓き

中国で新型コロナウイルスの感染が拡大、上海市で実施されている外出制限が解除される見通しが立たなくなっている。感染者は過去最多を更新し続けており、都市封鎖によって経済活動が事実上ストップしている。上海の工場からの部品出荷が止まった影響で、日本国内の工場の操業が止まる例も出始めている。

これまでポストコロナの経済回復を主導してきた中国の躓きは、ウクライナ戦争の影響を受けている世界経済にも大きく影を落としている。

鈍化が言われてきたとはいえ、経済成長が続いていた中国の購買力は大きい。新型コロナは2019年秋に中国・武漢で確認され、急速に広がったが、中国は政府の徹底した封じ込め策によって、世界での蔓延拡大を横目に2020年夏には経済活動が再び活発化していた。

感染者が確認されるとその地域を徹底して封じ込める中国政府の「ゼロ・コロナ」政策が奏功してきたと見られていた。ところが、ここへきてオミクロン株が急拡大。上海のみならず中国各地で感染爆発が起きているもようだ。中国政府は引き続き「ゼロ・コロナ」政策を堅持し、都市封鎖などに踏み切っているが、感染は一向に収まらない.

そんな中で、懸念されているのが中国経済の失速だ。特に世界の高級ブランド品などの一大需要地として急成長してきただけに、その失速による高級ブランドメーカーのダメージは計り知れない。

2年前の首位、今や米国に引き離される

その典型がスイス製の高級時計だ。スイス時計協会の輸出統計によると、2020年に中国本土が輸出先ナンバーワンに躍り出た。長年、香港がトップだったが、国家安全維持法の施行による民主化の後退で、「自由市場」としての香港の地位が揺らぎ、スイス時計の輸出も激減した。また、世界2位の市場だった米国が新型コロナの蔓延による都市封鎖の影響で高級時計需要が激減したことも大きかった。

2021年は米国経済が新型コロナから急速に立ち直ったことから、スイス時計の輸出先は、中国本土と米国のトップ争いとなった。クリスマス商戦が空前の活況を呈した米国が、わずかながら中国本土を抑えて、世界首位の市場となった。米国向けスイス時計の輸出額は2020年比1.55倍に急拡大、中国本土向けも1.24倍に拡大したものの、米国に首位の座を譲った。

2021年のスイス時計の輸出総額は222億9670万スイスフラン(約2兆9600億円)と2020年31.2%増加、新型コロナ前の2019年の217億1770万スイスフランを上回った。スイス時計輸出の急回復が世界の高級品市場の復活を象徴、2022年は米国と中国がさらに牽引して活況を呈するかに思われた。

ところがである。同じ統計の2022年1-2月の累計を見ると、大きな変化が表れている。米国は前年同期間比35.1%の増加が続いているにもかかわらず、中国は2.6%の増加にとどまっているのだ。世界への輸出額全体では15.7%増えているので、中国の「異変」が目に止まる。中国経済の影響が大きい香港向けも0.3%の増加にとどまっている。

中国向けスイス時計輸出の急速な鈍化は、中国の高級品需要の鈍化を示しているのかもしれない。さらに今回の新型コロナに伴う都市封鎖の影響が加われば、中国での高級品需要は一気に落ち込む可能性もある。

そしてウクライナ侵攻の追い打ち

2月末に始まったウクライナへのロシア侵略戦争の影響はまだスイス時計協会の数字には表れていない。2021年のロシア向けのスイス時計輸出額は17位で、2億6000万スイスフラン(約345億円)に過ぎないが、新型コロナ前の2019年と比べて30.6%も延びるなど、ロシア人富豪は高級品の上得意だった。今年1ー2月の累計でも前年比11%伸びていた。だが、ロシアへの経済制裁によって、おそらくこの需要は消えるだろう。

ウクライナ戦争によって世界経済全体がどんな影響を受けるかはまだ分からないが、戦場になっていない米国は、もしかすると戦時経済に沸くことになるのかもしれない。そうでなくても米国では消費経済が過熱気味で、インフレが進行している。

2022年の高級品市場は中国経済が大きく鈍化する一方で、米国の伸びが続くことになれば、米国市場が首位を維持することになるのだろう。1ー2月のスイス時計の輸出累計でも米国向は35.1%増の高い伸びを続けている。

そんな中で、日本の高級品市場はどうなっていくのか。スイス時計の輸出先としては日本は4位で、2021年は前年比19.1%増えた。

もっとも新型コロナ前の2019年と比べると11.9%少ない水準で、日本の高級品市場は世界と比べて新型コロナからの立ち直りが遅れていることを示している。

問題はウクライナ戦争によってエネルギー価格が急上昇していることで、経済への大打撃が予想されている。その上、為替の大幅な円安が進行している。物価上昇によって消費が落ち込むことに加えて、円安によって輸入高級品の価格が上昇、さらに需要の足を引っ張る可能性がありそうだ。

今や日本製品の輸出先として最大になった中国の経済が鈍化すれば、さらに日本経済が悪化する可能性もある。

これで「第2の田中理事長」は防げるのか?「ガバナンス改革」の大幅後退 文科省報告書は軒並み「先送り」ばかり

現代ビジネスに4月2日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/93978

日大・田中前理事長裁判は終わったが

日本大学の田中英寿前理事長に、懲役1年、執行猶予3年、罰金1300万円の有罪判決が下った。医療法人の前理事長らから受け取ったリベートなど約1億1800万円の所得を隠した所得税法違反である。日本最大規模の学校法人を牛耳り、捜査関係者から「疑惑のデパート」と揶揄されてきた田中前理事長が遂に罪に問われることになった。

東京地裁の判決で、裁判長は「国内最大規模の学校法人の理事長がみずから主導して大学の関係業者から謝礼の趣旨で多額の現金を受け取っていた。現金は自宅で保管し所得から除外して確定申告するよう妻に指示していて、単純だが大胆な手口だ」と厳しく指摘した。

だが、今回の判決は、日本大学の理事長という立場を利用して出入り業者などから現金を受け取ったこと自体が裁かれたわけではない。あくまで所得として申告しなかった「脱税」が裁かれたもので、しかも執行猶予付きの判決だった。実刑を免れた田中前理事長は控訴しない意向だと報じられている。

日本大学は前理事長との「決別」を現理事長兼学長が宣言したものの、その学長が就任祝いとして高級背広を前理事長から受け取っていたことが明らかになった。日大は近く弁護士らによる委員会が再発防止の観点からガバナンス体制を抜本的に見直すなど施策を公表、文科省に報告することになっている。果たしてどんな体制への移行を示し、ガバナンス体制を刷新するのか。

だれが理事長を選任するか未だ不明

この事件の発覚と相前後するように文科省で学校法人のガバナンスのあり方を見直す法改正が議論されてきた。7月には文科省に「学校法人ガバナンス改革会議」が立ち上がったが、そのタイミングで日大事件が発覚、理事が逮捕される事態になった。

改革会議はガバナンスの専門家で構成され、財団法人や社会福祉法人などと同じ仕組みの導入を昨年末に提言したが、学校法人経営者らが反発。これを受けた文科省が「学校法人制度改革特別委員会」を新たに設置、議論をやり直していた。自らの審議会が出した提言を反故にして再度別の審議会を立ち上げるというのは前代未聞で、文科官僚がいかに大学経営者らに頭が上がらないかを示した。

その特別委員会の報告書が、田中判決とほぼ同じタイミングで出てきたのである。新聞各紙は「学校法人改革、評議員会のチェック機能強化」としたが、昨年末の提言からは大きく後退する内容となった。

問題は、この特別委員会報告書の提言案に沿った法改正が行われたとして、日大の田中前理事長のような「理事長独裁」「独断暴走」を避けられるようになるかどうかだ。

ガバナンスの要諦は権力を握る人の選定方法を透明化し、その人の監督を行い、暴走した場合、クビにできるかどうかだ。今回の報告書では、これがまったく明確ではない。

理事長を理事会で選ぶべきだとはしているが、理事をどうやって選ぶのか、明確にしていない。報告書では「理事の選任機関として、評議員会その他の機関(評議員会、理事会のほか、役員選考会議、設立団体、選挙実施機関など任意に置かれる機関を含む。)を寄附行為(=定款)で明確に定めるよう法的に措置すべきである」とされていて、誰が理事を選ぶのか明言するのを避けている。

財団法人などは評議員会の議決で理事を選定しているが、これにあくまで抵抗する内容になっている。閣議決定で「他の公益法人と同等のガバナンス」を導入するとされたにもかかわらず、「学校法人は特殊だ」という理屈で、「緩い」ガバナンスが許容されることになるのだろうか。

報告書の通りならば、理事を、理事長が圧倒的な力を持つ「理事会」で選ぶこともできるし、理事長が指名した「役員選考会議」で選ぶこともできる。設立団体が選んでも、選挙で選んでも、構わないと書かれている。つまり、「現状通り」ということだ。

理事会が相互監督すると言っても理事長に事実上選ばれた理事が、理事長を解任できるはずはない。まさに日大で起きたことが繰り返される可能性がある。

大学経営者の声に弱い文科省

評議員会を監督機関として機能させるため、これまで理事による評議員の兼務を認めていたものを兼職禁止とすることが盛り込まれている。財団法人などの評議員会はもともと執行機関である理事会を監督するために設けられているので、当たり前のことだが、学校法人改革としては一歩前進だろう。

ただし、一部の学校法人経営者からは、評議員会を従来どおり「諮問機関」と明示せよという異論が出ている。諮問機関ならば議決機関ではないので、理事会は意見を聞けば済む。今後、報告書はパブリックコメントに付されるそうなので、学校法人経営者が大量の意見を出して、さらに後退させることになるのかもしれない。

報告書には繰り返し「ガバナンス構造の現代化」という言葉が出てくる。つまり、現状のガバナンス構造が時代遅れだと認めているわけだ。にもかかわらず、今回の報告書は他の公益法人にまったく追いつかないガバナンス体制を提言している。

大学など学校法人は、他の財団などに比べてより公益性、公共性が高い組織である。現状、権限を持つ人々が居心地が良い制度改革でお茶を濁せば、将来に大きな禍根を残すに違いない。