景気「悪化」なのに「消費増税」は本当に必要か

新潮社フォーサイトに5月17日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/45348

5月20日のHUFFPOSTにも掲載されました。

景気の曲がり角にもかかわらず、安倍内閣は予定通り2019年10月から消費税率を8%から10%に引き上げるのだろうか。

ついに「景気悪化」をはっきりと示す調査結果が現われた。内閣府が5月13日に発表した、3月の景気動向指数(CI)の速報値である。

2015年を100として景気の現状を示す「一致指数」が99.6と、前月より0.9ポイントも下がり、指数の推移から機械的に決まる基調判断が「悪化」となったのである。基調判断が「悪化」となったのは、2013年1月以来6年2カ月ぶりのことだ。

アベノミクスの終焉」が顕著に

6年2カ月前の2013年1月というのは、第2次安倍晋三内閣が前年12月末に発足した直後。その頃から安倍首相は大胆な金融緩和を含む「アベノミクス」を打ち出し、為替の円安が進んだことで企業収益が大きく改善した。

景気動向指数は2016年10月から2018年8月まで23カ月連続で「改善」が続いた後、2018年9月から12月は「足踏み」となり、2019年1月と2月は「下方への局面変化」となっていた。景気動向指数でみる限り、「アベノミクスの終焉」が顕著になったと言ってもよいだろう。

5月20日には1-3月期の国内総生産GDP)の速報値が発表されるが、マイナス成長に転落するのか、プラスを維持するのかが注目される。企業収益を中心に景気は底堅いという見方がある一方で、中国向け機械輸出が激減しているなど「輸出」に陰りがみえていることや、個人消費も力強さが欠けていることから、エコノミストの間でも判断が分かれている。

5月中に出される政府の月例経済報告は、これまで景気の現状を「回復」としてきただけに、その表現がどう修正されるかも焦点になる。

実は、アベノミクスの成果として注目されてきた「6年2カ月前」から好調を続けている別の統計がある。総務省が毎月発表している「労働力調査」だ。4月26日にひと足早く3月分が公表されたが、こちらは、就業者数、雇用者数共に「75カ月連続の増加」となった。75カ月連続というのは2013年1月以降、対前年同月比でプラスが続いていることを示している。

職に就いている人の総数である「就業者数」は6687万人。1997年6月の6679万人を昨年5月に更新、10月には6725万人を記録したあと、高水準を保っている。企業に雇われている人の数である「雇用者数」も2018年10月に5996万人と過去最多を更新、3月も5948万人と高水準が続いている。アベノミクスの効果で500万人の雇用を生んだと安倍首相らが強調するのは、この数字である。

だが、この雇用の伸びもいつまで続くか分からない。2017年4月から同年12月までは「正規職員・従業員」の伸び率が、「非正規職員・従業員」を上回っていたが、このところ再び「非正規」の伸びが大きくなり、2018年9月以降7カ月連続で非正規の伸びが高い月が続いている。

3月の数値でいえば、正規の伸びが0.6%増なのに対して、非正規は3.1%増といった具合だ。役員を除いた雇用者に占める非正規の割合は38.8%と過去最高を記録した。安倍首相は「同一労働同一賃金」の導入などによって、非正規を無くすと訴え、「働き方改革」に旗を振って来たが、数字で見る限り、逆の結果になっているわけだ。

消費は盛り上がっているのか

正規雇用が増えているのも仕方ない面がある。というのも就業者や雇用者が増えたと言っても、その多くが「高齢者」や「女性」だからである。65歳以上の「高齢者」の就業者数は2018年9月に886万人の最多を記録、3月も884万人だった。

一方で、15歳から64歳以下の就業者は1997年6月の6171万人をピークに減少し、3月では5803万人になっている。もっとも、同年代の男性就業者は3187万人で、ピークだった1997年6月の3632万人から12.3%、445万人も減った。この間、働く女性が大きく増え、就業率も昨年11月に70.5%の最高を記録したが、減少数を穴埋めできていないのだ。

高齢者や女性の非正規雇用者の割合が大きく高まっていることで、もう1つ大きな問題がある。非正規の場合、一般に所得が低いため、就業者の増加がなかなか消費の増加に結びつかないのだ。

総務省の3月の家計調査では、勤労世帯の消費支出(2人以上の世帯)が1世帯当たり30万9274円と、前年同月に比べて名目で2.7%、実質で2.1%増加したという。一方で、実収入も名目で2.0%、実質で1.4%増えたとしている。

もっとも、消費で増えているのは、相変わらず「通信費」や「交通費」で、「被服」や「保健医療」は減少している。調査結果を見る限り、本当に消費が盛り上がっているのかは、なかなか判断が付かない。

加えて、「米中貿易戦争」の余波で、比較的好調だった企業収益に急ブレーキがかかっている。半導体製造装置などの中国向け輸出が激減。中国経済が大きく変調していることを如実に示している。こうした輸出企業の業績悪化もあって決算発表がピークを迎えた2019年3月期の企業収益は、3期ぶりに減益になったもようだ。日本経済新聞の途中集計によると、連結純利益は2%減となっている。焦点の2020年3月期がどうなるか、さらに減益が続くようだと、ボーナスなどへの影響は必至で、可処分所得が増えず、消費がさらに減退する可能性が出て来る。

税収は増えるのか

そんな景気の曲がり角にもかかわらず、安倍内閣は予定通り2019年10月から消費税率を8%から10%に引き上げるのだろうか。

前回の消費増税(5%から8%への引き上げ)時には、国の消費税収は2013年度の10.8兆円から2014年度は16兆円へと5.2兆円増えたが、税率から単純に逆算した消費総額は16兆円も減少した。2015年度には増税前の水準には戻ったものの、それ以降、消費は伸び悩んでいる。

今回、このまま税率を引き上げれば、10兆円前後の消費減退が起きる可能性はある。その分、増税後の景気対策に予算を投じているので、前回のような消費減退は起こらないというのが政府の期待だろう。

だが、2013年はアベノミクスの効果もあって、企業収益が大幅に改善、株価が上昇するなど、先行きへの期待もあった。足元の消費も好調で、増税半年前から増税直前までに駆け込み需要が盛り上がった。

増税まで半年になる中で、今ひとつ駆け込み需要が盛り上がらないのはなぜか。政府の対策で慌てて購入する必要がないと思っているのか、足下の景気が悪く消費に回るおカネがそもそも少なくなっているのか。はたまた、安倍首相のことだから、またしても増税を延期すると「期待」している国民が多いのか。

もちろん、高齢化で増え続ける国の歳出を賄うことは重要だ。2019年3月末で年度末としては初めて「国の借金(国債及び借入金並びに政府保証債務残高)」は1100兆円を突破した。財政再建が待ったなしであるのは間違いない。

だが、税率を引き上げれば税収が増えるのかというとそうではない。

リーマンショック直後の2009年に国の税収は38.7兆円というバブル後最低を記録した。それが2018年度には59.1兆円になる見込みだ。過去の税収のピークであるバブル最盛期の1990年の60.1兆円を超えることはできなかったが、所得税法人税の伸びで税収は大きく増えた。

財務省は、2019年度は消費増税をテコに、62.5兆円というバブル期超えの税収を見込む。果たして思惑通りに税収が増えるのか。税率を上げて消費が大きく減退し、税収も思ったほど増えなくなるのか。景気の先行きに暗雲が漂う中での消費増税に、懸念が深まっている。

 

「薬の副作用はコントロールできる」私はなぜ起業したのか

 4月29日のNewsPicks「ミリオンズ ~100万人に1人の人材への挑戦~」に掲載された記事です。オリジナルページ→

https://newspicks.com/news/3834767/body/

 
「#03 古川綾(マディア代表取締役)」
基礎は大塚製薬で学んだ
「今の基礎はすべて最初に就職した大塚製薬で学びました」――。薬の副作用情報のプラットフォーム作りなどを手掛けるコンサルティング会社「マディア」の代表取締役、古川綾さんはそう振り返る。
大塚製薬に16年半勤めた後、外資系のコンサルティングファームPwCに転職、その後2010年にマディアを立ち上げた。まさにホップ・ステップ・ジャンプのキャリアだが、そのすべての基礎は、最初の職場で学んだというのである。
 
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ドンも機関投資家には勝てない時代に?

5月15日付のCFOフォーラム「COMPASS」に掲載された拙稿です。オリジナルページ→

http://forum.cfo.jp/?p=11961

 住宅設備大手のLIXILリクシル)グループは、4月18日、創業家出身で会長兼最高経営責任者(CEO)の潮田洋一郎氏が取締役を退任すると発表した。リクシルでは、昨年(2018年)秋に突然、瀬戸欣哉社長兼CEOが退任することが発表され、それまで取締役会議長だった潮田氏が11月から代表執行役会長とCEOを兼務していた。

 ところが、発表直後から指名委員会では、社内取締役として唯一委員を務めていた潮田氏が主導して、事実上、瀬戸氏を解任したことが表面化。瀬戸氏が辞意を表明したという説明が潮田氏からなされていたとされ、社外の弁護士らによる調査にまで発展していた。


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「言う事を聞け!」ふるさと納税で4市町だけを除外した総務省の強権

5月16日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64660

泉佐野市の徹底抗戦

国民に人気を博している「ふるさと納税」だが、その対象から4つの自治体だけを除外するという強硬措置に総務省が打って出た。

5月14日の総務省の発表によると、6月からのふるさと納税の制度見直しに伴い、大阪府泉佐野市と佐賀県みやき町静岡県小山町和歌山県高野町の4市町を対象から外すことを決めたという。6月1日以降、これらの市町に寄付しても、ふるさと納税制度上の税優遇は受けられなくなる。

総務省が4市町をいわば「村八分」にしたのは、「返礼品を寄付額の3割以下の地場産品に限る」とした総務省の「指導」に従わなかったため。言う事を聞かなかった自治体への「懲罰」の色彩が濃い。

泉佐野市は「さのちょく」と名付けたふるさと納税特設サイトを設置、通販サイトを思わせる返礼品の品ぞろえや、返礼品が寄付額の3割を超す高い「還元率」が人気を集めてきた。2016年度に寄付受け入れ額が34億8400万円とベスト8に登場、翌2017年度には135億3300万円を集めてトップに躍り出た。2位だった宮崎県都農町の79億1500万円に大きな差を付け、ダントツの人気を誇った。

泉佐野市は関西国際空港の対岸にあり、タオル産業などがあるものの、人気を集めるような特産品に乏しい。他地域の製品や輸入品でも、地元の業者が取り扱っていることを理由に返礼品とし、一時は、「何でもそろう納税サイト」の色彩を強めていた。

こうした「過剰な返礼品競争」に待ったをかけたのが総務省。返礼品の調達価格を30%以下に抑えることや、地場産品に限ることを繰り返し通達。これに従わない場合には、制度適用から除外すると脅しをかけていた。これに泉佐野市は真っ向から反発してきたわけだ。

泉佐野市のサイトには千代松大耕市長のあいさつ文が掲載されている。総務省の制度見直しに対して新キャンペーンを展開するあいさつだが、それはまさに宣戦布告だ。

「新制度を詳しく見ていくと、総務省は国民には見えづらい形で、返礼品を実質的に排除する意思、そしてふるさと納税を大幅に縮小させる意図で新制度を設計しているとしか思えないルールとなっています」

そのうえで、制度が変わるまでの5月31日まで限定として、返礼品に加えてアマゾンギフト券を配る「300億円限定キャンペーン」を展開している。中には返礼率50%に加えて10%のアマゾンギフト券を上乗せし返礼率が実質60%になるものもあった。

総務省に逆らい続けたわけだ。

反乱の芽を潰す

除外決定を受けて泉佐野市は以下のようなコメントを報道関係者向けに出した。

「本日、総務省の報道発表において、本市がふるさと納税の6月からの新制度に参加できないとの発表がありました。本市は、新制度に適合した内容で参加申請を行っていたため、非常に驚いています。なぜ本市が参加できないのか、その理由・根拠を総務省に確認し、総務省のご判断が適切なのかどうか、本市としてしっかりと考えたいと思います」

驚いていますとしているが、実際は除外を覚悟していた。

というのも、除外された4市町には、すでに総務省による「ペナルティー」が課されていたからだ。

石田真敏総務相が3月22日の閣議後記者会見で、今回除外された泉佐野市など4市町に対する2018年度の特別交付税の2回目の配分額を事実上ゼロにしたことを明らかにした。

ふるさと納税で多額の寄付金を集めたことで、財源に余裕があるとみなし、交付税を受け取らない「不交付団体」並みの扱いにしたのだ。

「財源配分の均衡を図る観点で行ったもので、過度な返礼品を行う自治体へのペナルティーという趣旨ではない」と石田総務相は述べていたが、言う事を聞かない自治体への嫌がらせであることは明らかだった。新制度からの4自治体の除外は、総務官僚の明らかな「意趣返し」とみていいだろう。

そんな「懲罰」まで食らっていたからこそ、制度改正で除外されることを予測した泉佐野市は、総務省にケンカを売るようなキャンペーンに乗り出したのだ。当然、このキャンペーンは人気を博しており、相当な金額のふるさと納税を駆け込みで集めることになりそうだ。

今回の総務省の措置に対して、泉佐野市がどんな対抗策に打って出るのかはまだ分からない。だが、総務省は第二の泉佐野市を生まないための手を、今回打っている。

多額のふるさと納税を集めている43の市町村に対して、新制度の適用を6月から9月までの4カ月としたのだ。言う事を聞かねば9月をもって除外するぞ、と言わんばかりの「恫喝」である。

「地場産品」かどうか疑わしい物を返礼品にしている自治体や、旅行券などの金券を返している自治体に、「イエローカード」を出しているわけだ。今後は総務官僚が返礼品をひとつひとつチェックして、これは地場産品かどうかチェックし、改善を求めていくという。

多額の寄付を集めている自治体は、さまざまな工夫を凝らしているところが多い。どうやってふるさと納税による寄付を集め、それをどう使うかは、まさに自治体が考えるべきことだろう。

納税者は住民税のうちの2割余りを、自らの意思で他の自治体にほとんど自己負担なしで寄付できるのがこの制度の面白いところだ。応援したい自治体に納税者の意思で税金を再分配できるからだ。

国家官僚のための地方自治

実は、このふるさと納税制度については、総務官僚は当初から導入に反対だった。というのも、国が集めた税金を地方交付税交付金として自治体に配分する権限を総務省が握っているからだ。その分配権は総務官僚の力の源泉になっており、自治体に部長などの幹部として出向したり天下ることを可能にしている。

ふるさと納税が拡大していけば、総務省による交付税交付金の分配権に穴があくことになりかねないわけだ。高額の返礼品で寄付の獲得競争をしていることを役所に常駐する記者クラブの記者を使って過度にアピールするなど、ふるさと納税批判を水面下で煽ってきた。

ふるさと納税は増えたと言っても2017年度で3653億円に過ぎない。地方税の税収総額は39兆円を超える。総務省が権限を握る地方交付税交付金も15兆3500億円にのぼるのだ。

ふるさと納税制度ができて、地方自治体の姿勢が変わった点がある。歳入を増やすために、自ら努力するようになったのだ。

これまでは国から来る交付金補助金をどれだけ多くもらうかが自治体にとっての「増収策」だったが、創意工夫で税収を劇的に増やすことがこの仕組みによって可能になったのだ。住民からの税収よりも、ふるさと納税による寄付収入の方が上回っている自治体もいくつも出始めている。

交付金分配権によって自治体の生殺与奪の力を握って来た総務省からすれば、たとえ少額でも、蟻の一穴となって、自治体が自立するようなことになっては困るわけだ。

泉佐野市のような派手なケースが出てくれたおかげで、総務省は言う事を聞かない自治体を「村八分」にする力を得た。泉佐野市の対応が正しいかどうかではなく、地方自治にも、民主主義にも悖るような権限を総務官僚が握っていることを問題視すべきではないか。地方自治とは何か、国民もメディアも考えるきっかけにすべきだろう。

「生産性」を高めたければ「休み方改革」の議論を!

新潮社フォーサイトに5月10日にアップされた拙稿です。オリジナルページhttps://www.fsight.jp/articles/-/45303

 

 10連休という超大型のゴールデンウィークが終わった。海外旅行を楽しんだり、行楽地へと繰り出したりして、10連休を満喫した人も多かったに違いない。一方で、むしろ前例のない「稼ぎ時」になったことで、ほとんど休みらしい休みが取れなかった人もいたのではないか。

126日は休むことに

 世は「働き方改革」の時代。モーレツに働くだけでなく、残業時間を削り、休暇を取得することが奨励されている。この4月から施行された改正労働基準法では残業の上限を決めただけでなく、年次有給休暇のうち5日を取得させることが企業に義務付けられた。国を挙げて「休み」を奨励しているわけだ。

・・・以下、新潮社フォーサイトでお読みください(有料)https://www.fsight.jp/articles/-/45303

部下に有害と呼ばれたリクシル会長の末路

プレジデントオンラインに5月10日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/28596

窮地に立たされている創業家出身の潮田CEO

住宅設備大手のLIXILグループ(以下リクシル)の経営権を巡る争いが佳境を迎えている。

会長兼CEO(最高経営責任者)で創業家出身の潮田洋一郎氏と、潮田氏に事実上解任された前CEOの瀬戸欣哉氏が経営権を巡って、株主の委任状争奪戦、いわゆるプロキシーファイトを6月下旬の株主総会に向けて繰り広げることになりそうだ。

近く、リクシルの指名委員会が「会社側」の取締役候補を決定する。リクシルは指名委員会等設置会社で、社外取締役が主体となって設けられている「指名委員会」が候補者を決める仕組み。一方で、瀬戸氏側も、取締役候補8人を選ぶ「株主提案」を提出している。株主総会でどちらが多数を得るかが焦点になる。

こうしたプロキシーファイトに発展した場合、通常は「会社側提案」が有利になるケースが多い。金融機関など日本の大株主が会社側提案を支持する傾向が強かったためだ。

ところが、今回の場合、潮田氏は窮地に立たされている。

事の発端は、昨年10月末、社長兼CEOだった瀬戸氏の退任が発表され、それまで取締役会議長だった潮田氏が、会長兼CEOに就任、社長には社外取締役の山梨広一氏が就くことになった事だった。前述のようにリクシルは指名委員会設置会社で、潮田氏と山梨氏はそのメンバーだった。

「不透明」なCEO交代を機関投資家が疑問視

瀬戸氏の解任を決めた指名委員会では、潮田氏は「瀬戸氏から辞意を伝えられた」と説明、一方の瀬戸氏は、「(解任は)指名委員全員の総意であると説明された」と自らの意思ではないことを強調している。

そうした「不透明」なCEO交代について、欧米の機関投資家から疑問の声が上がった。世界最大の資産運用会社米ブラックロックや英投資会社マラソン・アセット・マネジメントなどがリクシルの取締役会に対してコーポレートガバナンス企業統治)のあり方を厳しく問う書簡を送っていたことが、2月になってメディアの報道で明らかになったのだ。

リクシル側はCEO交代の経緯を調べた弁護士による「調査報告書」の概要を2月25日に公表、3月7日には一部の機関投資家向けに説明会を開いた。会社側は交代の手続きに法的な不備はないことを示そうとしたわけだが、逆に、火に油を注ぐ結果になった。指名委員会のメンバーだった潮田氏と山梨氏が自ら会長、社長に就いたことがガバナンス上、重大問題だとする声が強かった。

しびれを切らしたマラソン・アセットなど機関投資家4社は3月20日に共同で「臨時株主総会の招集請求を行った」と発表。潮田氏と山梨氏の取締役解任を議題とするとした。これにはリクシル統合前のINAX創業家の伊奈啓一郎氏も賛同、共同提案者に名前を連ねた。

追い詰められた潮田氏らが選んだ「奇策」

当初、リクシル側は5月中下旬に臨時株主総会を開催するとしていたが、追い詰められた潮田氏らは「奇策」に出る。

4月18日、5月20日の取締役会で取締役を辞任すると発表したのだ。通常ならば、6月の定時株主総会をもって退任すると発表するものをわざわざ5月にしたのだ。5月中旬で辞任してしまえば、取締役解任を求める臨時株主総会を開催する意味がなくなるからだとみられる。臨時株主総会で仮に取締役を解任されれば、潮田氏はリクシルの経営に関与することが今後一切できなくなる可能性もある。

さらに取締役の辞任発表のリリースにはご丁寧にもこんな一文があった。

「なお、両名からは、現時点で、潮田氏においては代表執行役会長兼CEO、山梨氏においては代表執行役社長兼COOの各役職を辞任又は退任する意向は示されておりません」

取締役は辞めるがCEOは辞めないと読める発表文に、記者からの質問が相次いだ。会見した潮田氏は会長兼CEOも辞任する意向を示したが、期日は6月末の株主総会ということになっている。

業績悪化の責任は「瀬戸氏にある」と攻撃

退任会見では同時に、業績修正も発表した。45億円の黒字予想だった2019年3月期の業績見込みを大幅に下方修正、イタリア子会社での損失計上で530億円の最終赤字に転落するとし、これらの業績悪化の責任が「瀬戸氏にある」と攻撃してみせたのだ。しかも、自身が辞める理由を「瀬戸氏をCEOに任命したこと」とした。

どうやら潮田氏は完全に引退する気はさらさらないのだろう。会見でも、要請があれば引き続き経営に関与する考えも示唆している。

問題は、近く公表される「会社側」の取締役候補者の提案がどんなものになるかだ。潮田氏の影響力が残るのか、それとも瀬戸氏や機関投資家が納得する人物が候補として挙がってくるのか。

現在の指名委員会は社外4人と社内1人の5人の取締役で構成される。委員長はバーバラ・ジャッジ氏で、英国の経営者協会で会長を務めるなど英米で要職を歴任し、2015年にリクシル社外取締役になった女性だ。

さらに元警察庁長官の吉村博人氏、作家の幸田真音氏、公認会計士リクシルの監査委員会委員長の川口勉氏が社外取締役だ。社内取締役の指名委員は菊地義信氏。LIXILグループの母体企業の一つでトステム出身者だ。トステムは潮田氏が創業家である。

所有株式が3%以下でも「オーナー」然とふるまえた

瀬戸氏や伊奈氏ら株主提案を行っている「反潮田」派の人たちは、指名委員会が、菊地氏を通じて潮田氏の影響下にあるのではないかと疑っている。

大型連休前に、リクシルの上級執行役らで編成する「ビジネスボード」のメンバー14人のうちの10人が、指名委員会に文書を送ったことが明らかになった。

報道によると、そこには「潮田氏のビジョンは従業員や株主、すべてのステークホルダー(利害関係者)にとって有害なものに思える」と書かれているといい、経営幹部が公然と潮田氏に反旗を翻した格好になっている。

こうした経営権を巡る騒動が表面化するのは、日本企業のコーポレートガバナンスが大きな変革期に来ていることを示しているのではないか。

おそらく20年前だったら、創業家の「大物」が社長のクビをすげ替える事に誰も異論を挟まなかったに違いない。仮に創業家出身の会長が大株主でなくても、である。実際、潮田氏は創業家出身と言っても、個人で所有する株式は発行済み株式数の0.15%、信託財産で議決権行使の「指図権を留保している」とされる株式を加えても3%に満たない。それでも「オーナー」然としてふるまえるのが、かつての日本企業だった。

一連の騒動の発端は「実力者の独断専行」

その背景には、銀行や生命保険会社といった大株主が、ほぼ無条件で会社側に投票する「モノ言わぬ株主」であり続けたからだ。株式持ち合いといった仕組みによって事実上、経営者に白紙委任されていたのだ。

日本のコーポレートガバナンスの改革は2000年前後から進んだが、株主の行動が変わらない中で、ガバナンスの仕組みだけ変えても、実態は同じだった。指名委員会等設置会社は2003年に施行された。いわゆる監督(取締役)と執行(執行役)を完全に分離する欧米型を目指した。指名委員会の設置も義務付けられたが、現実には指名委員会がガバナンスの要として機能したとは言えなかった。

まっさきに導入してガバナンス先進企業と言われた東芝も一例で、実力者である会長(社内取締役)と、役人OBなどの社外取締役で構成された指名委員会は、事実上、会長の方針を追認するだけの機関になり、むしろ会長に権限が集中した。今回のリクシルも同じ構図で、瀬戸氏を解任した当時は委員長だった潮田氏に権力が集中していたとみていい。

ひと昔前ならば、社長の指名権を握る「実力者」の思うがままだったのだが、ここへきて騒動に発展したのは、機関投資家の行動が大きく変わったことにある。

「会社側提案」が無条件に通る時代は終わった

2014年以降、導入されたスチュワードシップ・コードによって、生命保険会社や年金基金などの機関投資家は、加入者の利益を第一に議決権行使を行うことが求められるようになった。この結果、会社側提案に無条件で賛成できなくなったのだ。

さらに、個別の議案での議決権行使の内容を開示する機関投資家が激増。会社側提案だからといって株主の視点から疑義のあるものには賛成しない傾向が強まった。例えば、リクシルの主要株主でもある第一生命保険の場合、2018年4月から6月に開かれた株主総会1799社のうち会社提案について1件以上反対した会社は204社にのぼった。何と11.3%である。

今回のように海外投資家が厳しい目を向ける中で、リクシルの会社側提案に日本の機関投資家が無条件で賛成することはありえなくなっているのだ。

リクシルの指名委員会による会社提案が、瀬戸氏らの株主提案よりも、機関投資家からみて優れているものにならない限り、会社提案が否決される可能性は十分にあるとみていいだろう。

潮田氏はCEO復帰を目指す瀬戸氏の経営手腕に対する批判を強めているが、機関投資家からみて瀬戸氏より優れた人物を会社側が提案できるかどうかが焦点になる。これまで不信感を買った潮田氏の影が見える人事案が出てくるようなことがあれば、機関投資家が一斉に反発するのは必至だ。

なぜ…?消費増税「駆け込み需要」が今ひとつ盛り上がらないワケ

5月9日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64518

期待の駆け込み需要は不発?

2019年10月に予定されている消費増税まであと5カ月に迫った。

前回、消費税率が5%から8%に引き上げられた時は、引き上げの2014年4月をはさんで、消費には劇的な変化がみられた。増税前には、少しでも安く購入しようという「駆け込み需要」が盛り上がったのである。自動車や住宅、高級宝飾品などが飛ぶように売れ、業界も好況に沸いた。

一方で、増税後はその反動減で売れ行きが落ち込んだのは言うまでもない。それまで比較的好調だった消費は、増税を機に大幅に減少、その後も今日まで低迷が続いている。

今回、消費増税にあたって安倍晋三内閣は、同じ轍を踏まないということを前面に出して景気対策などを打ち出した。増税後にプレミアム商品券を発行するなど、いわゆる「反動減」対策を準備している。

ところが半年を切ったにもかかわらず、「駆け込み需要」そのものが今ひとつ盛り上がっていないのだ。

例えば自動車。日本自動車販売協会連合会が5月7日に発表した4月の新車(登録車)の販売台数は23万0954台と前年同月比2.5%増えた。今年に入ってプラスが続いているとはいえ、駆け込み需要による大幅増を期待していた業界関係者は肩透かしを食った格好になった。

実は前回の増税の半年前に当たる2013年10月の新車販売台数は26万4587台と前年同月比で17.3%も増えていた。その前月の9月も13.3%増である。

今回は9カ月前に当たる2019年1月から2.3%増→2月1.3%増とプラスだったものの、3月には4.7%の減少となっていた。前回とまったくムードが違うのである。

前回は、増税3カ月前に当たる2014年1月は27.5%増→2月15.0%増→3月14.5%増と2ケタの伸びが続いたが、果たして今回は「駆け込み需要」が起きるのかどうか。

前回伸びた住宅も高級品も

次に住宅。建築費や住宅建材・資材にかかる消費税が上がれば、金額が大きいだけに消費者の負担が増える。このため、駆け込み需要が大きくなるもののひとつだ。

国土交通省の新設住宅着工戸数をみると、3月の着工戸数(4月26日発表)は7万6558戸で、前年同月10.0%増えた。10%増という数字だけをみると駆け込み需要が盛り上がっているように思えるが、ちなみに前回の消費増税時には、5カ月前に当たる2013年11月が着工件数のピークで、9万1475戸と9万戸を超えていた。前年同月比では14.1%増だった。

着工戸数の中味にも大きな違いがある。今回の3月の着工が伸びた主因は分譲マンションが前年同月比69.5%増、分譲一戸建てが7.1%増など、分譲住宅が大きく増えたことが背景にある。駆け込み需要を狙ってマンションや分譲住宅の販売業者による着工が急増したことが分かる。問題はそれが順調に売れているのかどうかだ。

一方で、持家一戸建ての着工戸数は前年同月比8.9%増。2013年11月は22.6%増だったことを考えると、大幅に下回っている。住宅でも駆け込み需要は不発に終わっているとみてよさそうだ。

もうひとつが高級高額品。宝石や美術工芸品、高級時計などである。不要不急の買い物ではない一方、金額が張るため2%の税率引き上げでも負担額の増加はバカにならない。

日本百貨店協会がまとめた3月の全国百貨店売上高によると、「美術・宝飾・貴金属」部門の売上高は6.7%増だった。1月の2.2%減、2月の2.7%増に比べると大きく伸びている。

もっともこの部門の消費を支えているのは中国などからの外国人観光客による免税手続きによる買い物のため、実際にどれだけ国内消費者の駆け込みが含まれているかは不明だ。

前回の消費増税6カ月前である2013年10月には、同部門の売り上げは前年同月比19.7%増で、その後も11月21.0%増→12月15.5%増→2014年1月22.6%増→2月24.5%増と大幅な増加が続いた。増税前月の2014年3月には113.7%増、つまり前年の2.1倍という売れ行きを示し、宝飾品売り場のショーケースから品物が消えた、と言わるほどの「駆け込み需要」の威力だった。

果たして、これから5カ月の間、デパートで宝飾品が飛ぶようにうれるような「駆け込み」は再現されるのだろうか。

景気が悪いまま税率引き上げしたら

ではなぜ、「駆け込み」需要が起きないのか。はっきりとは分からないが、いくつかの可能性が考えられる。

まず、政府が取った「反動減対策」が多岐にわたりよく分からないこと。増税前に慌てて買わなくても、増税後の税制改正などのメリットを利用すればよいそれほど損をしないという風にみている消費者が多いのかもしれない。

もうひとつは、消費増税されてもその分ぐらいは値引きしてもらえる、という期待が消費者にあるのかもしれない。前回は小売店などが消費増税分をおまけする「消費税還元セール」を行うことを政府は「禁止」した。増税分の値引きのしわ寄せが立場の弱い納入業者などに行くのを防ぐため、消費者にきちんと負担させるよう求めたのだ。

ところが今回は「還元セール」は禁止されていない。増税される2%分を販売店などが負担するケースも多くありそうだ。

本当に消費増税が実行されるか疑っている国民もいるかもしれない。安倍首相は過去に2度の延期をしているほか、4月になっても「首相側近」とされる萩生田光一自民党幹事長代行が消費増税の延期はあり得るという趣旨の発言をしている。

さすがに民間ではシステム改修の準備なども進んでおり、再度の延期は難しい情勢だが、世界的に景気が不安定さを増している中で、「よもや」と考えるひとがいるのだろう。

もうひとつは、消費税率を考えるまでもなく、消費の現状が悪いということも考えられる。駆け込み消費をしようにもカネがない、あるいはそもそも消費するつもりがない、というものだ。

還元セールなどを期待する向きは、消費増税前後で消費行動が変わらないとすれば、駆け込み需要がない分、反動減もない、ということになる。

ところが、そもそも消費力が弱りに弱っているのだとすれば、駆け込み需要はないにもかかわらず、増税後の消費減退だけが起きる可能性もある。そうなれば、消費増税をきっかけに、経済の息の根が止まりかねず。日本にとって最悪の結果になる可能性もある。