ポストコロナで圧倒的に高まる? 中国の存在感

時計雑誌クロノスに連載されている『時計経済観測所』です。5月号(4月3日発売)に掲載されました。WEB版のWeb Chronosにもアップされています。是非お読みください。オリジナルページ→

https://www.webchronos.net/features/63540/

 

 新型コロナウイルスの蔓延は世界経済の「地政学」にも大きな変化を与えている。財務省が発表している貿易統計を見ると、日本と世界各国との輸出入の現況が分かる。それによると、2020年の日本から世界への輸出額と、世界から日本への輸入額の合計である「貿易総額」は136兆円あまりと前年に比べて12.4%減少した。輸出が68兆円と11.1%減、輸入が67兆円と13.7%減った。

上昇しつづける中国の重要度

 そんな中で「中国」の存在感が大きく増している。中国向け輸出は15兆円と2.7%の伸びにすぎなかったが、他の地域向けの輸出が激減しているからだ。2019年に最大の輸出先だった米国向けは12.6兆円あまりと17.3%も減少。この結果、中国向け輸出額を下回り、中国が最大の輸出先になった。

 もともと中国からの輸入額は米国からの輸入よりもはるかに多く、輸出と輸入を加えた貿易総額は2007年に中国が米国を抜いて以降、差が開いてきたが、その差がさらに広がった。

 ただし、輸出額から輸入額を引いた「貿易収支」を見ると、米国との間では約5兆1800億円の日本側の黒字なのに対して、中国との間では2兆4100億円あまりの赤字になっており、日本にとって米国が依然として重要な貿易相手国であることは変わらない。だが、新型コロナの影響から米国がどれぐらいのペースで脱却できるかによっては、中国の重要度がさらに上がっていくことになるかもしれない。

香港の首位陥落と存在感を強める中国

 そんな中国の存在感の高まりは、高級時計の世界にもはっきりと表れている。この欄でもお馴染みのスイス時計協会の集計による、2020年年間のスイス時計の輸出先では、歴史的に大きな変化が起きた。これまでスイス時計の最大の輸出先は、戦後長い間、香港がトップだった。香港は高級時計の世界最大の需要地だったわけだが、ついに昨年、その地位を明け渡した。統計によると、2020年の香港向け輸出額は16億9670万スイスフラン(約1986億円)で、2019年比なんと36.9%も減少、世界3位に転落した。香港に代わってトップに躍り出たのは、もちろん「中国(大陸)」である。2020年のスイスからの輸出は一気に20%も増え、23億9400万スイスフラン(約2800億円)に躍進した。新型コロナに伴う経済凍結で消費が落ち込んだ米国向けは19億8670万スイスフラン(約2326億円)と17.5%も減ったので、中国に大きく水を開けられて、2位にとどまった。

 香港は英国の植民地だった頃から、世界を代表する貿易都市として栄えてきた。1999年に中国に返還された後も「一国二制度」の方針の下で、それまでと変わらないアジアの貿易拠点、金融拠点としての地位を保ってきた。それがにわかに変わり始めたのは2014年の「雨傘運動」と呼ばれた民主化運動から。2019年には強権姿勢を強める香港政府に対してさらに激しい抗議運動が盛り上がったが、2020年6月に遂に中国政府が「香港国家安全維持法」を成立させ、民主派の弾圧に乗り出した。

 従来の「一国二制度」が風前の灯火となったことに西側諸国は強く反発。貿易上の最恵国待遇を取り消すなど対抗措置を強めた。この結果、香港の貿易都市としての地位が音を立てて崩れているのだ。貿易統計を見ても、日本から香港向けの輸出額は2015年には年間4兆2300億円と4兆円を超えていたものが、2020年は3兆4100億円にまで減少している。

 ちなみに、2020年のスイス時計輸出の総額は169億8410万スイスフラン(約1兆9884億円)と21.8%も減少した。これまでに経験したこともない、未曾有の減少だった。いずれ、新型コロナは終息し、経済活動が本格的に再開されることになるだろうが、その「ポストコロナ」の時代に世界の貿易地図はどう変わっているのか。やはり、中国の「独り勝ち」が鮮明になっていくのだろうか。

 

デジタル庁法案を審議する国会の驚くべき「非デジタル化」度 テレワークができず審議ストップも

現代ビジネスに5月6日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/82853

オンライン会議可能な部屋は参議院に1つ

デジタル庁を9月1日に新設する「デジタル庁設置法案」はすでに衆議院を通過、5月中にも参議院で可決され成立する見通しだ。日本政府のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化を進める菅義偉首相肝いりのプロジェクトだが、それを審議している国会自身の「非デジタル化」度は目を覆うばかりだ。

「英国議会からオンライン審議の参考人として要請されたので事務局に聞いてみたら、オンライン会議ができる部屋は参議院に1つあるだけで、衆議院はゼロという話でした。参議院の部屋は埋まっていたので、自民党本部に唯一あったオンライン会議設備のある部屋を利用しました」

厚生労働大臣を務めた塩崎恭久衆議院議員はこう語る。国会自身のデジタル化の遅れを痛感しているひとりだ。

新型コロナウイルスの蔓延で国会のある東京には3度目の緊急事態宣言が出されたが、期限の11日以降も延長された場合、国会議員はどう行動するのか。

秋までには衆議院総選挙があるため、連休中は選挙区に帰った議員が多い。小池百合子都知事が「東京には来ないでください」と呼びかける中で、国会審議のためには全国から議員が集まってくるという事態になりかねない。

なぜなら、国会にはテレワークをできる設備どころか、制度がまったく整備されていないからだ。

本会議はおろか、委員会すらオンラインで出席することはできないし、ましてや採決を遠隔地から行う仕組みはない。参議院の本会議場は押しボタンで投票できる仕組みは導入されているが、衆議院はいまだに紙に書いて正面の演壇の投票箱まで投票に行く明治以来の仕組みが続いている。よくテレビ中継で見る光景である。

「新型コロナより強烈なウイルスが蔓延するような事があった場合、議員が物理的に集まれず、国会の機能が止まってしまうことも考えられます」と塩崎議員は言う。

議員会館WiFiも未整備

そんな一部の議員が危機感を募らせたことで、ようやくというべきか、自民党内で議論が始まった。

塩崎議員が本部長を務める自民党の「党・政治制度改革実行本部」で国会DXについて、5月中にも提言をまとめる予定だ。第1弾として多くの議員が仕事をしている国会議員会館の「デジタル化」を求めるという。

国会議員には国からパソコンが貸与されているが、議員室からの持ち出しは原則禁止されている。イントラネットに接続されているというのが理由だが、実際にそのイントラネットでしか取れない情報があるのか、ほとんどの議員は知らないのが実情だ。

パソコンのスペックも低く、使い物にならないという理由で、デジタル化が進んでいる議員ほど、貸与パソコンを利用していない。会館のWiFiネットワークも未整備で、議員がそれぞれ通信事業者と契約しているのが現状だ。

第2弾は、議員会館や国会への入館手続きの簡素化を求める予定。霞が関の官僚はマイナンバー一体型の通行証で官庁に出入りできるが議員会館には入れない。いちいち紙の書式に記入して入館手続きをするか、議員事務所が持つ共用の入館証を借りている。一般の入館者も紙に記載して入館証を受け取っている。

これを民間のオフィスビルで使われているようにネットから事前登録し、QRコードを発行、スマホなどに届いたQRコードをかざして入館するように「デジタル化」することができるのではないか、というのだ。

議員会館のデジタル化の他にも課題は多い。国会図書館から議員が資料を取得する場合、今は印刷した「紙」で受け取るが、これをデジタルデータで受け取れないかというのだ。実は、これには著作権法の改正が必要になるとみられていて、党の「知的財産戦略調査会デジタル社会推進知財活用小委員会」に議論を投げている。

また、国会と官庁で使うパソコンソフトがバラバラで、互換性が低いといった問題も課題として取り上げている。余談だが、同じ国会でも衆議院参議院はバラバラに運用されているため、システムや制度が食い違っているものが少なくない。

デジタル庁法案の採決は「紙」?

「本丸」とも言える「国会」のDXについては、議員が国会にも持ち込むことができる「タブレット」を導入、ペーパーレス化を進めることから始めると共に、そのタブレットマイナンバーを使って本人確認をしたうえで「電子投票」できる仕組みを検討することも提言に盛り込む方向だ。さらには非常時も想定して遠隔投票もできる制度に変えるべきだ、という議論も出ている。

参議院だけが行っている押しボタン採決は、新型コロナの影響で本会議場に入る議員数を制限していることもあり、運用が一時停止している。衆参両院とも、タブレットから電子投票できる形にすれば、いくつかの場所に分かれていても投票が可能になる。

もっとも、こうした「国会DX」まで短期間のうちに進むかどうかは心許ない。というのも、国会の制度改革が各党の代表からなる「議員運営委員会」の権限だから。

改革を提言しようとしている「党・政治制度改革実行本部」のメンバーの中にも、国会での電子投票まで踏み込んだ提言を行うことが「越権行為にならないか」と尻込みする議員が少なからずいる。

議員運営委員会の議員の多くは国会運営の駆け引きに長けたベテラン議員が多く、デジタル化とはかけ離れた「伝統的な」国会運営を重んじる傾向が強いからだ。

果たして国会のDXは進むのか。デジタル庁法案の採決を投票用紙で行うとすれば、それこそ漫画だろう。

 

外食チェーンの「閉店ラッシュ」で、人員削減が続くかもしれない…!  緊張弛緩、でも深刻度は最大

現代ビジネスに4月29日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/82694

ついに3度目

新型コロナウイルスの蔓延が止まらず、3度目の緊急事態宣言が発令された。2回目の緊急事態宣言は飲食店への営業時間短縮など「時短営業」が柱だったが、今回は「酒の提供自粛」が加わったことから、居酒屋などアルコールの売り上げが大きい業態にとっては死活問題になっている。

「参りましたよ。20代の時の給与に戻りました」――。都心にあるパブレストランの支配人はこうぼやく。高齢者が客層の中核だったこともあり、営業自粛が解けても売り上げ低迷が続いていた。遂に給与を引き下げざるを得なくなった。「潰れて失業することを思えば仕方ありませんが、気が抜けます」と閑散とした店舗を見回した。

時短や休業で補償が出ると言っても、個人営業ならそれで生きていけるが、従業員を雇って家賃も支払っているとなると経営はかなり厳しい。飲食チェーンなど中堅や大手にも補償が出るようになったとはいえ、焼け石に水だ。

東京商工リサーチの集計によると、居酒屋を運営する上場主要13社の飲食店舗数の合計は、2020年12月末で6136店と、1年間前の7009店に比べて873店、率にして12.5%減った。

同社では「個人経営の飲食店などに比べ、大手が展開する店舗は面積が広く、スタッフ数も多い。都心部の店舗は、ランニングコストが大きな負担になっており、店舗営業を継続するより、見切りをつけて『スクラップ』を選択しているようだ」と分析。

2021年1月の2回目の緊急事態宣言などで、「取り巻く環境は厳しさを増しており、学生や主婦などのアルバイト、パートの雇用環境の悪化だけでなく、取引先への発注量の減少、都心部の空きテナントの増加など影響はさらに広がっている」としている。

「酒禁止」の衝撃

日本フードサービス協会の調査では、外食チェーン全体の2020年の売上高は15.1%減と、1994年の統計開始以来、最大の減少率だった。

中でも「パブ・居酒屋」は売上高が49.5%減と半減した。2回目の緊急事態宣言で今年1月の「パブ・居酒屋」の売上高は74.9%も減少、2月は70.7%減にとどまった。3月は比較対象である2020年3月が新型コロナの影響を受けていたが、そこからさらに39.7%も減少した。

3月末時点のチェーン店のパブ・居酒屋業態店舗は2341店と、1年前に比べて15%減った。そこに「酒禁止」が加わったことから、3回目の緊急事態が「致命的だ」という声が少なくない。

もちろん、外食チェーンワタミが居酒屋業態店を焼肉店に改装する戦略を打ち出すなど、業態転換も進んでいる。「密」になって大声で会話しがちな居酒屋業態は、仮に新型コロナが終息したとしても、早期に客足が戻ることにはならない、との判断がある。

外食チェーンなど飲食店の経営がジワジワと追い詰められる中で、その影響が社会全体に広がりつつある。

総務省の2月の労働力調査によると、雇用者数は昨年4月から11カ月連続で減少を続けている。ところが政府が「雇用調整助成金」を企業に手厚く支給していることもあり、正規雇用は9カ月連続で増加している。

つまり、そのしわ寄せはパートやアルバイトなどの「非正規雇用」に及んでいる。パートは1年前に比べて55万人、アルバイトは33万人も減少している。産業別就業者数を見ると、圧倒的に「宿泊業・飲食サービス業」の減少が大きい。2月の同産業の就業者数は359万人と1年前に比べて46万人、11.4%も減っている。

人員削減か、店舗の閉鎖か

3回目の緊急事態宣言で経営が限界に達する飲食店や外食チェーンが出てくると、雇用に大打撃を与えることになりかねない。緊急事態宣言はとりあえず5月11日までを期限としているが、専門家の間からは11日に解除すれば、夏にかけて再度感染拡大する「第5波」が起きかねないという指摘も出ている。

一方で、年明けの2回目に比べればはるかに厳しい自粛内容になっているにもかかわらず、人の流れは目立って減っておらず、大阪や東京での新規感染者の1日の判明数も減少に転じていない。5月11日に解除できない可能性が高まっていると言える。

そうした状況で、緊急事態がさらに延長されることになれば、飲食店の経営は限界に達する見通しだ。減給で耐え忍ぶどころか、本格的な人員削減に踏み切るか、店舗の閉鎖を決断するところも出てきかねない。

ワクチンの接種が思うように進まない中で、政府は従来通りの感染予防策を国民に求めるしか術がない状態が続いている。7月に開会式を迎える東京オリンピックも海外からの一般観戦客は受け入れないことを決め、国内観客についても、無観客などの可能性が探られている。

海外からのインバウンド客がオリンピック・パラリンピックをきっかけに大幅に増えると期待されていたが、そうしたオリンピック効果も見込めない。飲食産業だけでなく、百貨店などインバウンド消費に支えられてきた小売店も先行きが厳しい。

緊急事態宣言の発出に当たって小池百合子東京都知事は「短期決戦」を呼びかけていたが、短期戦でなければ経済がもたない、という現実もある。緊急事態宣言も3回目とあって、国民の間の危機感は今ひとつ高まらないが、経済への影響という意味ではこれまでになく大きい。

「中国やベトナムの出稼ぎを受け入れたい」菅政権が緊急事態宣言を渋った本当の理由  変異型はどこからやってきたのか?

プレジデントオンラインに4月29日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/45610

状況認識の甘さ、危機感の乏しさが露呈

4月25日、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に3回目の緊急事態宣言が出た。大阪府では2回目の緊急事態宣言を2月末に解除してから、猛烈な感染拡大が起きた。「まん延防止等重点措置」の効き目も薄く、4月13日には新規感染者の1日の発表が初めて1000人を突破。吉村洋文大阪府知事は緊急事態宣言の発出を政府に要請した。

また、3月に緊急事態宣言を解除した東京でも、後を追うかのように感染者が増加。大阪に追随して、緊急事態宣言が要請された。明らかに「第4波」の到来を招いてしまったわけだ。

しかし、菅義偉首相はその段階になっても「第4波」を頑なに否定していた。4月14日の参議院本会議で答弁に立った菅首相は、「現時点で全国的な大きなうねりとまではなっていないと考えている」とし、「関西圏など特定の地域を中心に急速に感染拡大が進んでいる。政府として強い警戒感を持って対応すべき状況にある」と述べるにとどめた。

ちょうど同じ日に、衆議院内閣委員会に出席していた政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、真逆の見方を示した。「いわゆる『第4波』と言って差し支えない」と述べたのである。はからずも菅首相の状況認識の甘さ、危機感の乏しさが露呈することになった。

どこから「変異型」ウイルスはやってきたのか

結局、政府は、知事らの要請に背中を押される形で、緊急事態宣言の発出に踏み切った。吉村知事が2回目の緊急事態宣言時の対応では不十分だとして、大型商業施設や娯楽施設の休業要請を口にし、政府もそれを認めざるを得なくなった。

第4波で急速に感染者が増えている理由として、「変異型」ウイルスのまん延拡大があると政府も専門家も指摘している。3月に2回目の緊急事態を解除した時には予想しなかった変異型が広がっていると言いたげだ。それではいったい、どこから変異型ウイルスはやってきたのか。

3月中旬の時点で、もともと変異型ウイルスが日本国内に存在していたと言うのならば、緊急事態宣言の解除をするべきではなかった、と言うことになる。一方、最近になって海外から入ってきたと言うのならば、その侵入を許した「水際対策の不備」が原因ではないのか。いずれにせよ、人災とまでは言わないにしても、政策判断の失敗が第4波を引き起こしたと言えるだろう。

指摘される「東京五輪」との関係

なぜ3月19日の段階で、21日をもって緊急事態を全面解除する決定を菅首相は下したのか。多くのメディアの世論調査では、緊急事態宣言を「延長すべきだ」とする回答が過半数に達していた。それでも菅首相は、病床使用率が低下したことを理由に解除に踏み切った。

 

多くの識者が指摘するのは東京オリンピックパラリンピックとの関係。3月20日に政府と東京都、大会組織委員会国際オリンピック委員会IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)による「5者協議」が開かれ、海外からの観戦客の受け入れを断念することを決めた。つまり大会自体は開催することを決定したわけだ。

3月25日には聖火リレーがスタートしている。「本当にオリパラはできるのだろうか」と多くの国民が懸念する中で、あえて、実施に踏み切る決断をするためにも、「緊急事態の解除」という演出が必要だった、というのである。

本当の理由は「海外からの労働者の受け入れ」ではないか

緊急事態宣言の解除には別の理由があったのではないか。可能性があるのは、海外からの労働者の受け入れだ。

日本の製造業の現場だけでなく、農業も小売業も、外国人労働者に依存している。多くは「留学生」や「技能実習生」として初めてやってくる外国人だが、緊急事態宣言で、その入国が規制されていた。

出入国在留管理庁の「出入国管理統計(速報値)」によると、2020年の11月も12月も、5万人を超える外国人が新規入国していた。1月7日に緊急事態宣言が出された後も、1週間以上にわたって入国を認め続けており、政府の分科会でも「水際対策が不十分だ」と指摘する声が上がった。結局1月も3万7000人の新規入国外国人が日本にやってきていた。

その新規入国者を見ると、12月は中国人の1万6778人とベトナム人の1万5454人が圧倒的に多い。1月は中国人の8942人に対し、ベトナム人の新規入国者は1万9905人に達した。事実上の出稼ぎ労働者を駆け込みで受け入れた、ということだろう。

2月の新規入国外国人は1469人、3月は2017人と年末までの20分の1未満に減少している。3月の緊急事態宣言の解除でそれまで受け入れられなかった新規の外国人労働者を入国させようとしたのではないか。実際、農作業が始まった地方では、外国人技能実習生などが入国できないために、人手が足らず、作付け面積を減らすところも出ていると報じられている。4月の統計にその数値が現れてくるのだろうか。

日本の水際対策は「甘い」

中国は新型コロナの封じ込めに成功しているとされ、ベトナムも感染者は他のアジア諸国に比べて格段に少ない。こうした国からの受け入れが、変異型の拡大につながったとは考えられない。では、なぜ、変異型が入ってきたのか。インドで急速に流行している二重変異型のウイルスもすでに国内で見つかっている。これはいったいどこから入ってきたのか。

 

やはり、「水際対策」の甘さが原因だろう。実は緊急事態宣言が出ていた2月、3月も、「再入国」の外国人は国境を通過していた。その数、2月は1万2355人、3月は1万7376人である。再入国者は日本に居住している中国人、韓国人、フィリピン人が多いが、2月にはネパール人が730人、インド人が726人、3月にはネパール人が1063人、インド人が882人、再入国している。さらに日本人は2カ月で6万人近く帰国している。

空港の検疫所で検査を行うものの、2週間の「隔離」は行われず、自主的な自宅待機が主流。公共交通機関も使わないように指示されるが、当局が監視しているわけではない。あくまでも入国した人たちの「良心」に任されているだけなのだ。

オーストラリアなどがスポーツ選手までも例外扱いせず、厳格に隔離しているのに対して、日本の水際対策は「甘い」のひとことなのだ。おそらくそうした帰国者の中に変異型ウイルスの保有者が潜んでいて、国内での感染源になったのだろう。

なぜPCR検査をもっと行わないのか

誰が感染源なのか、感染ルートはどうなっているのか、もはや日本では調べようがない状態になっている。発症者の半数以上が「感染経路不明」である。

というのも、日本国内では十分にPCR検査を行っていないからだ。厚生労働省は国内でのPCR検査の最大能力は1日18万5000件にのぼると発表している。しかし、実際の検査実施数は感染者が急増している4月末になっても10万件に満たない。なぜ、検査を行わないのか。

政府の分科会の委員で検査を大幅に増やすよう提言活動も行った小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹は、「感染症の先生たちと、私たち経済学者の間で、意見がまったく噛み合わない」と語る。

感染症学者は検査件数を増やして陰性者を大量に出すのは「無駄」だと考え、経済学者やおそらく国民の多くが感じている「陰性確認が増えれば経済活動ができるから有効だ」とする考えと相入れないというのだ。検査能力の問題というよりも、検査を拡大すべきだと専門家の「主流派」が考えていないため、実施に移されないというのである。

国民が危機感を抱かない背景には「不信感」がある

だからと言って、感染者との濃厚接触者などにターゲットを絞って検査をし、感染ルートを突き止めるという感染症学者の当初の作戦も、事実上破綻している。

 

ようやく民間のサービスなどもあって大学で学生が自由に検査できる体制を整える動きなどが出ているが、感染拡大から1年以上経ってそんな有様なのだ。一方で、ワクチンの確保やワクチン接種も進まず、英国や米国の接種率が4割を越す中で、日本は1%。そんな中で、感染拡大を防ぐには緊急事態宣言の再発出は遅すぎた、いや、3月の解除はするべきではなかった、ということになるだろう。

もっとも、菅首相や知事らがいくら厳しい言葉を発しても、国民の行動を変えることはできていない。宣言発出後も通勤時間帯の電車は混雑し、人流は減っていない。日本でも新型コロナによる死者はすでに1万人を突破した。にも関わらず、国民が危機感を抱かない背景には、政府の新型コロナ対策への不信感があるのだろう。

ワクチン打てぬまま診察か――コロナ「第4波」に丸腰で臨む医療現場で悲鳴続出

新潮社フォーサイトに4月28日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/47899

「丸腰で戦えということですね」――4月中旬、新型コロナウイルスの感染が爆発的に増えていた関西の中規模民間病院の医師はこうボヤいた。自治体からは新型コロナ患者の受け入れを要請されているが、一方で、医師や看護師を守るワクチンは届いていなかった。480万人にのぼる医療従事者へのワクチン接種が始まったのは2月17日。それから2カ月が経った4月16日時点で、1回目の接種が終わった人は119万8346人。2回の接種が完了した人は71万8396人と、全体の約15%に過ぎなかった。

 大阪では4月13日に新たな感染者確認が1日1000人を初めて突破、「第4波」の到来が深刻さを増していた。4月から「まん延防止等重点措置」が適用されていたが、大阪の感染者は減らなかった。病床があっという間に埋まっていく中で、医療従事者は臨戦態勢を余儀なくされたが、ワクチンはなかなか届かない。一方でテレビニュースは高齢者接種が4月12日から始まったことを伝えていた。

「ワクチン接種の済んだ高齢者を、ワクチンを打っていない医者が診察するというのは、ジョークではないか」

 首都圏の病院でもそんな声が聞かれた。首都圏のある市では、高齢者用に配布されたワクチンを医療従事者への接種に回すことにした。病院からの苦情に耐えられなくなったからだ。

 なぜ、こんなことが起きているのか。

「届いても打てない」事態が頻発

 1月に新型コロナ・ワクチン担当になった河野太郎規制改革担当相は、3月5日の記者会見でこう述べていた。「当初見込んでおりました優先接種の医療従事者370万人分の1回分の配送は4月中に完了する見込みです。その後、100万人程度、数が増えましたので優先接種の医療従事者は約480万人になりますけれども、5月前半にはこの2回分を含めた必要量の配送が終わるということになります」

 4月末には医療従事者の1回目の接種が370万人に達してもいいはずだったが、実際に接種を受けた人はその半数程度に止まった模様だ。もっとも、河野大臣が嘘をついているわけではない。河野氏は「配送が終わる」と言っているだけで、「接種が終わる」とは言っていなかった。ワクチンの供給が追いつかないと多くの国民が気を揉んでいるので、配送されれば、すぐに接種されるはずだと思い込みがちだが、実際はまったく違う。配られても接種ができない事態に直面しているのだ。

 真っ先に始まった医療従事者への接種は都道府県が責任を持ち、4月からの高齢者接種は市町村が責任を持つことになった。なぜそうした「分担」が決まったのかは河野大臣周辺に聞いても分からずじまい。「河野さんがワクチン担当大臣になった時には、すでにそういう分担が決まっていた」という。この分業が大混乱を招く一因になっている。

 つまり、国は自分たちの仕事は「ワクチンを配る」ところまでで、その先、つまり接種するのは自治体の責任だと思っているのだ。河野大臣ら政治家は有権者の批判に晒されるから、そうは言わないが、厚生労働省は明らかにそう思っている。厚労省はワクチンを配分するために「ワクチン接種円滑化システム(通称V-SYS=ヴイシス)」を新たに導入、ワクチン接種を行う医療機関や接種機関に必要な数量を入力させ、それに従って効率的に分配する仕組みを作ったが、これが完成したのは医療従事者向けの接種が始まった後の3月になってから。結局、医療従事者分のワクチンは都道府県の衛生主管部が紙の書式で厚労省の予防接種室に配送先と配送箱数を申告することが3月10日に通知された。同時にV-SYSにも実際に使う医療機関のデータを入力しないと、配送に支障が生じるとされていた。多くの関係者が、このV-SYSの出来が悪いことが大混乱の大きな理由になっていると口を揃える。

 国は手に入った少ないワクチンを都道府県に分配した。3月22日の週と29日の週にはそれぞれ200箱のワクチンが国から都道府県向けに配送され、最多の東京は19箱、鳥取県島根県などは1箱といった具合だが、そこには接種の準備ができたかどうかという判断基準はなかった。その結果、配布したものの実際には接種する体制が整わず、ワクチンが冷凍保管されたままになっている県もあった。

 V-SYSがフル稼働するはずだった高齢者接種でも同じことが起きた。入力された必要数を届けるのではなく、都道府県を通じて市町村に配布したため、接種の準備ができていない市町村にもワクチンが届いたのだ。NHKが4月26日に報じたところによると、前週までに配送された107万2500回分のワクチンのうち、実際に使用されたのは7万4852人(4月25日時点)だけで、配送されたもののわずか7%にとどまっていた。そもそもV-SYSで実際の需要がリアルタイムで把握できていれば、準備のできたところから配送して、接種していくこともできたはずで、役所で滞留して使用されないなどという事態は起きなかったはずだ。

 また、ファイザーのワクチンは-75℃±15℃で保存して6カ月もつが、-20℃±5℃では14日しか保管できない。中核病院などには国から-75℃で保管できるディープフリーザーが配分されているが、小規模な医療機関では-20℃の冷凍庫で保管する。つまり配送されると時間との勝負になるのだ。また、接種できるように解凍した場合は、速やかに使い切るよう求められているため、高齢者向けで予約のキャンセルが出た場合などに廃棄されるものも出ているとされる。国は、高齢者に拘らず、医療機関従事者などに柔軟に打つように要請しているが、現場では混乱が収まっていない。

配った後は把握できない「ワクチン在庫」

 新型コロナが世界に広がる前から、新型ウイルス感染症の世界的なパンデミックが起こることは想定されていた。実際に鳥インフルエンザの蔓延なども起きており、日本でもパンデミックのリスクは認識されていた。ところが、ワクチンや治療薬などを全国民に行き渡らせるという事態を、まったく想定していなかったのではないかと思わせる混乱が続いている。問題はこうしたパンデミックを想定した対応策を平時に準備しておかなかったことだろう。

 予防接種の管理は市町村の責任で行われており、「予防接種台帳」に記録されることになっている。接種した「予診票」が市町村に回って台帳に記載されることで、誰が何の接種を受けたかが分かる仕組みになっている。「予防接種台帳」はようやくデジタルになったが、予診票は紙のままで、入力作業に自治体は膨大な費用をかけているのが実情だ。全国民へのワクチン接種の手順や情報の把握をどう行うのか、まったく決まっておらず、新型コロナの蔓延が始まった後になってシステム開発を始めている。V-SYSの開発に向けて入札が行われたのは昨年7月だったし、情報を管理するワクチン接種記録システム(VRS)の開発が始まったのは河野氏がワクチン担当大臣に就任した1月以降だ。

 V-SYSでは都道府県や市町村のどこに未接種のワクチン在庫が残っているのかも正確に把握できない。今や消費者が毎日のように使うオンラインショッピングや宅配便会社のシステムは、どこまで商品が配送されているかを把握するのは当たり前だが、直近で開発したにもかかわらず、そうしたシステムになっていないのだ。

 太平洋戦争で日本軍が敗退したのは「兵站」つまり「ロジスティックス」を軽視したためだと言われる。今まさに新型コロナとの戦いの中で、ワクチンの確保でも後手に回り、その配送や接種の仕組みも満足にできていない日本のお粗末ぶりは、先進各国とのワクチン接種率の差を見れば歴然としている。イスラエル62%、英国50%、米国42%に対して、日本はわずか1.6%に過ぎない(少なくとも1回接種のデータ)。新型コロナが終息した際には、この危機対応のお粗末さの原因が何だったのか、きちんと検証すべきだろう。

楽天、そして東芝。海外からの出資、買収の障害になる改正外為法 国の安全に関わる業種というけれど

現代ビジネスに4月22日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/82452

慌てて法改正したものの

日本企業に対する海外からの投資に関して、どこまで政府が関与するのか、混乱が起きている。

2019年末に成立し、2020年5月から施行された「改正外為法」では、海外企業が「指定業種」の企業に出資する場合、「届出」を行うことが義務付けられているが、その基準を従来の、持ち株比率「10%以上」から「1%以上」に厳格化した。

指定業種の対象は、「国の安全」や「公の秩序」「公衆の安全」「我が国経済の円滑運営」に関わる企業で、「武器製造」「原子力」「電力」「通信」などが国の安全を損なうおそれが大きい業種とされている。

安全保障上、問題になる「機微情報」、「機微技術」が流失したり、日本の安全保障を担う基幹インフラに外国の影響力が強まることを防ぐ狙いで、経済産業省財務省が主導して法改正が行われた。

もっとも、背景には、米中対立が激しくなったことで、中国への技術流出を懸念する米国から厳格化を求められたとも、「モノ言う株主」と言われるアクティビスト・ファンドから日本企業を守るために経産省が動いた、とも言われている。慌てて改正されたためか、この法律の運用で混乱が起きているのである。

楽天への出資で大騒ぎ

今年3月12日、楽天が増資を発表したが、その引受先に中国ネット大手の騰訊控股(テンセント)の子会社が含まれていた。

増資によって楽天株のテンセントの持ち株比率が3.65%になることが明らかになると、この外為法の「届出」がにわかに問題になった。楽天やテンセント側は、出資後も経営には関与しないという一文を契約書に盛り込むことで、純粋な投資として届出対象から除外される、と考えていたが、安全保障問題に関心を持つ自民党政治家の一部から疑問の声が上がった。

楽天側は、水面下で担当の省庁と接触、届出を事前に出すことを免除される「例外規定」の対象になるとの感触を得て、予定通り3月末までにテンセントの出資を受け入れた。

ところが、4月20日になって日本経済新聞が「改正外為法、事前審査免れ 中国テンセントの楽天出資」という記事を掲載、NHKも翌日、「政府、楽天への中国IT大手出資を調査へ 安全保障の観点から」というニュースを流した。

事前に届出しない場合、外為法では、事後に届出することを求めており、テンセントはそれに従った手続きをとったが、それを政府がことさら問題視しているような報道が相次いだ。

ロイターも「日米、楽天を共同監視」という記事を配信。「日本政府が外為法に基づいて楽天から定期的に聞き取り調査を行い、米当局と内容を共有することで、中国への情報流出リスクに連携して対処する」とした。「日米の顧客情報がテンセントを通じて中国当局に筒抜けになる事態を警戒」しているという。

潰れ去った東芝買収

同じタイミングで、原子力事業を持つ東芝の話も浮上した。英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズ東芝を買収して非上場化するという話が4月に入って報じられたが、結局、CVCは具体的な買収提案を出せず、交渉が中止されることになった模様だ。

CVCの元日本代表だった東芝の車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)が、モノ言う海外ファンドの攻撃をかわし、社長の座を保持するためにCVCに買収提案させようとしたのではないかとの見方が一気に強まり、4月14日に車谷氏は社長辞任に追い込まれた。

もともと海外ファンドであるCVCが、原子力事業や半導体事業の持ち分を持つ東芝を買収する場合、前述の外為法の規制に引っかかる。

明らかに事前の届出が必要になるが、これをどうクリアしようとしていたのか。CVCによる買収スキームでは、日本の政府系ファンドである産業革新投資機構(JIC)も買収に参加するという報道がなされ、経産省の一部が車谷氏の案を支援しているという見方が出ていた。

関係者によると、経産省幹部らは、CVCが東芝を買収する際には、原発事業を切り離すことで車谷氏側と話が進んでいたとされるが、そうでなければ外為法をクリアすることはかなり困難だったとみられる。

その後も、「JICや農林中央金庫などが参画する日本主導のファンド連合が、東芝に買収提案する方向で検討に入った」と日刊工業新聞が報じるなど、経産省の影がちらついている。この報道に対して農林中金は、「そのような事実はない」とコメントを出した。

政府に「機微情報」が判断できるのか

いずれにせよ、どういう条件をクリアすれば、外為法上、外国の出資が認められるのか、はっきりしていない。

「何が機微情報、機微技術なのかも明示されておらず、対象産業の幅も広い。役所の運用で特定の国からの投資は一切認めないという運用をするのであれば、法的に問題。事後の届出で出資は求められないと言われたら、経営は成り立たない」とIT系企業の幹部は言う。

新型コロナ禍からいち早く回復した中国企業の影響力が一段と強まる中で、経営危機に瀕した日本企業が中国企業に出資を仰ぐケースも相次ぐ可能性がある。その度に政府が口を出し、出資の可否をチェックすることになるのか。

そもそも「政府には先端技術に通じた人材がおらず、何が安全保障上の機微技術に当たるかを判断する能力はない」という指摘もある。

米中対立が深刻化する中で、この改正外為法をどう運用していくのか。政府内でも混乱が続くことになりそうだ。

「どんな状況でも東京五輪は決行」粛々と聖火リレーを続ける日本政府の無神経  もうワクチン接種は間に合わない

プレジデントオンラインに4月16日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/45194

笑福亭鶴瓶広末涼子宇野昌磨らがリレーを辞退

7月23日に予定される東京オリンピックパラリンピックの開会式まで100日を切った。3月25日には福島を起点に聖火リレーが始まったが、今ひとつ盛り上がらない。国際オリンピック委員会IOC)のトーマス・バッハ会長は4月14日、「7月23日に東京・国立競技場で待っています」と呼びかけたが、日本国民の多くが、いまだに「本当にやれるのか」と疑念を抱いているのだ。

スタートした聖火リレーも次々に問題が起きている。聖火ランナーに選ばれていた著名人の辞退も相次いだ。3月25日時点のNHKの報道では、この1年間で辞退や死去した著名人などのランナーは34都府県で91人にのぼったとされた。

1年延期されたことで、仕事のスケジュールが合わなくなったという理由が多かったが、オリンピック組織委員会の会長だった森喜朗氏の発言を理由に辞退した人もいた。辞退した著名人の中には、落語家の笑福亭鶴瓶さんや俳優の広末涼子さん、フィギュアスケート宇野昌磨選手などがいた。

リレーランナーの多くも「本当にやるの?」と思っていた

辞退者が相次ぐことになってしまった最大の理由は、「本当に聖火リレーを始められるのか」がギリギリまで分からなかったためだ。政府は3月18日に、3月21日をもって「緊急事態宣言」を解除することを決めた。国民の中には「解除すべきでない」という声もかなりあったが、病床利用率などが基準を下回ったとして解除に踏み切った。

解除を決めた後の3月20日夜には、政府と東京都、大会組織委員会IOC国際パラリンピック委員会(IPC)の「5者協議」が開かれ、「海外からの観客の受け入れ断念」を決めた。逆に言えば、海外からの観客は受け入れないが大会自体は開く、という方針確認だった。

「5者協議」は3月3日にも開かれ、メディアの一部は直前に「海外観客の受け入れ断念」を報じていたが、その段階では決定されなかった。緊急事態宣言の2週間延長が決まる中で、「大会をやる」という表明ができなかったのだが、聖火リレー出発の直前になって、ようやく「5者協議」で開催を確認したわけだ。強引にも見えた「緊急事態宣言」の解除は、そのためにもどうしても必要だった、という見方も根強い。

つまり、聖火リレーがスタートする直前まで、本当にオリパラが実施できるのか、半信半疑だった人が、リレーランナーにも多くいたということだ。実施されるかどうか分からないリレーのために仕事の予定を犠牲にするわけにはいかない、というのが著名人の事情だったのだろう。要は、政府がギリギリまで結論を出せなかったことに最大の原因があったとみていい。

五輪を盛り上げるイベントなのに、観衆はなし

聖火リレーが始まった後も混乱が続いている。

 

聖火リレーに関しては、沿道に多くの観客が集まることで、「密」な状態が生まれるとして、中止を検討する県もあった。実際に公道でのリレーを断念したり、規模を縮小する動きが広がった。特に、国が緊急事態宣言を全面解除するのに先立って解除した大阪府では、その後、「第4波」の感染拡大が発生。4月13日には1日の感染確認が初めて1000人を突破した。ちょうど同じ日に行われた聖火リレーは、公道での開催は中止。代替会場とした吹田市万博記念公園内を観衆なしで走るという異例の対応となった。

本来は、聖火リレーは大会に向けてムードを「盛り上げる」ためのイベントだが、新型コロナの蔓延防止を考えると「盛り上げる」ことができない、というジレンマに陥った。

「大会スポンサーの車両の音声の音量が大きすぎる」

そんな「盛り上げる」ための演出についても混乱が起きた。

4月7日と8日の2日間にわたって三重県で行われた聖火リレーについて、鈴木英敬知事が苦言を呈したのだ。7日に聖火リレーのセレモニーを行った際、大会スポンサーの車両の音声の音量が大きく、進行に支障をきたすほどだったとして、演出のあり方に疑問を述べたのだ。

鈴木知事は「感染状況がギリギリの中で県民に協力してもらいリレーを進めている。『盛り上げるぞ』という演出がすべて適切だったのか」「スポンサーの協力が不可欠なことは理解しているが、感染対策とリレーを両立させようという地域の気持ちに配慮してほしい」と記者団に述べたとNHKなどが報じた。

実は聖火リレーの「演出」を巡る報道でも、ネット上でちょっとした騒動が起きていた。3月25日に聖火リレーがスタートした際、東京新聞の原田遼記者がツイッターの個人アカウントで、南相馬市の県道でのリレーの様子を撮影した動画を公開。聖火ランナーの前を大音量の音楽をかけて走るスポンサーの宣伝車両を疑問視するツイートをした。さらに、東京新聞のウェブサイトでも「聖火リレー 大音量、マスクなしでDJ……福島の住民が憤ったスポンサーの『復興五輪』」という記事が動画付きで掲載された。このツイートや記事には、スポンサーや大会組織委員会を批判する書き込みが並んだという。

ところが、原田記者は3月28日にその記事や動画を削除する。その辺りの経緯については原田記者自身が東京新聞のサイトに率直に書かれているので、是非お読みいただきたい。

自粛ムードがなければ起こらなかった事態

背景にはIOCが放送や配信の権利を持たないメディアに対して求めていた「72時間ルール」があったという。

IOCの意向を受けた組織委員会は、「イベントから72時間経過するまでの間に限り、非独占的に、ディレイで(すなわちライブではなく)放送し、あらゆるプラットホーム(インターネットを含む)経由で配信することができる」と定めていた。それに従って、72時間を経過した段階で記事を削除したというが、ネット上ではなぜ削除するのかという疑問の声が上がった。

IOCに放映権料を支払うテレビ局や、スポンサー料をIOCや日本の組織委員会に支払ったスポンサーには、「独占的な権利」を保証することで、かなりの金額のスポンサー料を徴収している。鈴木知事が苦言を呈したような大音量の宣伝車両が聖火リレーで走るのも、スポンサーに高い代金を支払ってもらった見返り、というわけだ。

おそらく、通常の環境で行われる聖火リレーだったら、多少、スポンサーの車両が大音量で走っていても、「盛り上げるための演出」で済んでいたに違いない。ところが、新型コロナの蔓延拡大が止まらず、世の中の自粛ムードが高まっている中で、スポンサー車両の「から騒ぎ」ばかりが目立つ演出に、結果的になってしまった、ということだろう。

「オリパラはできないのではないか」が国民の本音

それもこれも、多くの人たちが、今の段階になっても「オリンピックは本当にできるのか」という疑念を払拭できていないことが背景にある。これは裏を返せば、新型コロナ対策が十分にできておらず、新型コロナを封じ込めることに失敗しているからに他ならない。また、政府自身が、どういう状況に持っていくことでオリンピックを実施する、という明確な方針を打ち出せていないからだ。

自民党二階俊博幹事長は4月15日のテレビ番組の収録で、「(感染が拡大した場合)その時の状況で判断せざるをえない。『これ以上、とても無理だ』ということであれば、すぱっとやめなければならない。感染症を蔓延させたら、何のためのオリンピックか分からない」と述べたとされ、「感染状況深刻なら中止も選択肢」という見出しで速報配信された。状況がどうなったら、中止をするのか、という明確な基準を示さずに、印象論として政治家が語ることで、国民の間には、「やはりオリパラはできないのではないか」という疑念が広がっている。

聖火リレーが走っていても、3分の1は「中止すべき」

NHKが4月9日から3日間行った世論調査では、70%の人が「緊急事態宣言を出すべきだ」と回答している。また、「東京オリンピックパラリンピックをどうすべきか」という質問では、32%の人が「中止する」と回答。「無観客で行う」(25%)、「観客の数を制限して行う」(34%)という回答の合計も半数を超えた。「これまでと同様に行う」と答えた人はわずかに2%だった。聖火リレーが走っている段階になっても、3分の1は「中止」すべきだと考え、そのほかの多くの人も、大会の形を従来とは違ったものにしないと開催できない、と考えているわけだ。

 

これに政府はきちんと答えていない、ということだろう。

オリパラのために緊急事態宣言を控えているのか

新型コロナワクチンの配布は高齢者3600万人への接種分は6月末までに行うと明言した。470万人の医療従事者の接種は5月には終わると政府は言っているので、合わせて約4000万人の接種がオリンピックの開会式前に行われることになる。逆に言えば、過半の国民はオリンピック前には接種が終わらない、ということになる。つまり、ワクチン接種で新型コロナを抑え込んでオリンピックを迎える、というシナリオはもはや想定できないことになる。

だとすると、どんな形で実施するのか。「新型コロナの1日の感染を何人以下に抑えた場合は観客を入れて開催する」「いつ時点で何人を超えた場合には無観客で開催する」、さらには「何日前に、どういう条件に該当したら、大会を中止する」といった明確な基準を示すことをしなければ、国民は本当に納得して、オリパラ開催を楽しめない。

緊急事態宣言を頑なに発出しないのは、オリパラを何としても実施したいからだ、と見えてしまうところに今の政権の対応のマズさが見える。