口先介入をいくら繰り出しても 「円安」は止まらない

定期的に連載している『COMPASS』に2024年7月16日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://forum.cfo.jp/cfoforum/?p=31403/

 ドル円為替相場が2024年4月29日に付けた1ドル=160円を、6月26日に再び突破した。4月に1ドル=160円を突破した際は、政府・日銀が為替介入を実施し、瞬間的に1ドル=154円台まで戻したが、この間にドル売り円買いは9兆7,885億円を費やした。巨額の介入にもかかわらず、結局、円高基調になることはなく、円安阻止の効果は2カ月もたなかったということになる。

 

・・・この先をご覧になりたい方は、オリジナルページから会員登録をしてお読みください。よろしくお願いします・・・

最低賃金「1500円」で本当に「足りる」のか…日本の人手不足を急速に悪化させる「深刻な問題」

現代ビジネスに7月13日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ

https://gendai.media/articles/-/133646#goog_rewarded

2030年、1500円で妥当なのか

日本の最低賃金を決める季節がやってきた。厚生労働省中央最低賃金審議会の議論が始まり、7月末には都道府県別の最低賃金改定の「目安」が答申される。これを受けて都道府県の最低賃金審議会が8月に改定額を取りまとめ、10月から順次適用される。

2023年の最低賃金は全国加重平均で時給1004円と前の年から4.5%増えた。最高の東京都が1113円、最低の沖縄県徳島県が896円だった。「物価上昇を上回る賃上げ」を掲げる岸田文雄内閣は、最低賃金の引き上げも進め、2021年の3.1%増、2022年の3.3%増に比べて伸び率は上回ったものの、物価上昇率が3.7%に達したことから、2023年の実質的な伸び率は0.8%と、2022年の1.0%に及ばなかった。それだけに、今年の最低賃金がどれぐらい引き上げられるかに注目が集まっている。

2023年は6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2023」で、2022年に961円だった「全国加重平均1000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論を行う」とし、実際、1000円を突破した。その後、8月の新しい資本主義実現会議では岸田首相が「引き続き、公労使三者構成の最低賃金審議会で、毎年の賃上げ額についてしっかりと御議論いただき、その積み上げにより2030年代半ばまでに全国加重平均が1500円となることを目指してまいります」と、初めて1500円という目標を掲げた。もっとも、その達成時期を2030年代半ばとしたことには批判の声が上った。

そんなこともあって、今年の「骨太の方針2024」では、次のように書き込まれた。

「2030年代半ばまでに全国加重平均を1,500円となることを目指すとした目標について、より早く達成ができるよう、労働生産性の引上げに向けて、自動化・省力化投資の支援、事業承継やM&Aの環境整備に取り組む」

1500円の達成を前倒しするとしたが、その達成時期については明言していない。仮に5%ずつ引き上げても達成は2030年ということになる。

問題は物価上昇が続く中で、1500円という最低賃金で妥当なのか、という問題だ。最低賃金で働いてきるパートやアルバイトなど非正規雇用の人たちの生活困窮度は日に日に高まっている。株価や土地など資産価格の上昇で、持てる者と持たざる者の格差は広がっている。

せめて6%以上は

厚労省の審議会では、「春闘は(連合の集計で5.10%増と)歴史的な賃上げとなったが、社会全体に賃上げを広げていくことが必要だ。物価高が続いて労働者の生活は厳しさを増していて、最低賃金近くで働く人の暮らしは極めて苦しい」と、大幅な引き上げを労働側は求めたとNHKは報じていた。

一方で企業側は、政府が賃上げに積極姿勢を見せていることや、物価の大幅な上昇に配慮した発言が目立つ。日本商工会議所など4団体が毎年4月に出す要望は、「大幅な引き上げは反対」といった強いトーンの反対声明が例年のパターンだったが、今年は、「データに基づく明確な根拠のもと、納得感のある審議決定を」と慎重な言い回しに終始し、「反対」という言葉は避けている。

ただし、岸田内閣が「賃上げ」を政策目標に掲げていることについては、「政府の役割はあくまで環境整備であり、最低賃金制度の主旨を踏まえれば、これを以て賃上げ実現の政策的手段とすることは適切ではない」と苦言を呈している。

そうは言っても、政府としては、物価上昇率を下回る引き上げで済ます訳にはいかず、最低でも5%。実質3%の引き上げを達成しようと考えれば、6%以上の引き上げは必要になりそうだ。

この円安では

もうひとつ最低賃金を考える上で重要なのは、国際的な賃金水準との比較だ。かつては世界的に見ても賃金の高い国とされてきた日本だが、今は見る影もない。為替が大幅に円安になっていることが要因だ。インバウンド客が「安い日本」に引き付けられてやってくるのと裏腹に、日本で働く人にとっては「給料も安い」日本になっている。まして、最低賃金水準で働いている外国人労働者にとっては深刻な問題だ。

2021年10月の最低賃金(全国加重平均)930円を当時の為替レート(1ドル=111円)で計算すると、8.38ドルになる。2023年10月は1004円なので、円ベースでは74円、8.0%も最低賃金が上ったが、2023年10月の為替レートは1ドル=149円。これでドル換算すると6.74ドルである。ドル建てでは19.6%も下落していることになる。

 

今年はさらに円安が進み、1ドル=160円になっているので、仮に去年の6.74ドルの水準を維持しようとしたら、1085円で横ばいということになる。8%の引き上げだ。

少子化の影響で若年層の労働力が減ったこともあり、人手不足は急速に深刻の度合いを増している。そんな中で外国人労働者をどうやって呼び込むかが重要な政策課題になっている。仮に最低賃金の引き上げが5%にとどまり、1054円となった場合、1ドル=160円で換算すると6.59ドルとなり、1年前から2.2%目減りすることになる。

世界的に好景気が続いている中で、フィリピンやインドネシアなどの出稼ぎ労働者が、米国やオーストラリアなどに取られ、日本を選ばなくなりつつある。ひとえに給与が安く、稼げなくなっているからだ。

そろそろ日本も発想を変えて、最低賃金を「ドル建て」で決めてはどうだろうか。そうすれば、日本人の給与水準も国際相場にさや寄せして引き上げられていくだろう。

ちなみに米国の州の最低賃金(全米加重平均)は11.28ドル。1ドル=160円で換算すると1800円である。

 

「地方自治体に潤ってもらっては困る」絶好調のふるさと納税に総務省が"嫌がらせ"を繰り返す残念すぎる事情 2022年度の受入額は過去最高を更新

プレジデントオンラインに7月5日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/83436

総務省による「ふるさと納税」への嫌がらせ

総務省がまたしても「ふるさと納税」への嫌がらせを打ち出した。返礼品が寄付額の「実質」3割を超えているとして“問題自治体”の名前を公表したかと思えば、今度は「ポイント」を付与しているふるさと納税仲介サイトの利用を2025年10月から禁止するという。制度を監督する総務省ふるさと納税を振興するのが役割のはずだが、どうしてこうも邪魔をするのか。そこには地方への交付金分配権で自治体を支配したい総務官僚の利権がある。

「私どもから見ますと、やはりポイント付与による競争は加熱をしてきているのではないか」

松本剛明総務相は記者会見でこう語り、禁止によってふるさと納税の制度のあり方を「適正化」するとした。ふるさと納税を増やしたい自治体は、サイトの運営事業者と契約、寄付額の10%程度を手数料として支払っている。総務省の考えは、その手数料からポイントが出されていて、本来なら税金として自治体に入るものが寄付者の懐に戻っているというもの。ポイントを禁止すれば手数料が下がると考えているようだ。

これに対して「楽天ふるさと納税」を運営する楽天は真っ向から反発している。三木谷浩史・会長兼社長名で、新ルールに反対するオンライン署名を呼びかけ始めた。

運営企業と自治体はウインウインの関係だった

楽天は、ポイントは楽天自身が負担しているとし、「民間原資のポイントまでも禁止し、地方自治体と民間の協力、連携体制を否定するものであり、各地域の自律的努力を無力化するもの」だと強く反発している。

確かに、こうした企業はふるさと納税で儲けていてけしからんと言われれば、一理あるようにも思われる。しかし、自治体からすれば、ふるさと納税を集めるために、自分たちでホームページを作成したり、寄付者の多い都心で宣伝広告するよりも、集客力のあるサイト運営企業に手数料を支払って委託する方が合理的というのは理解できる。サイト運営企業が元々持つ、広い顧客層にいっぺんにアクセスできるわけだから、自治体の利用が広がるのは当然のことだろう。

運営企業も手数料を稼ぐには、寄付者を多く集めることが重要だから、広告宣伝費代わりにポイントを付与する。民間企業ならば当然行う営業戦略だろう。ある意味、運営企業と自治体はウインウインの関係が出来上がっていたからこそ、ふるさと納税受入額がどんどん増えているわけである。

ふるさと納税の受入額は2022年度に過去最高を更新

そんな民間企業の努力に役所がケチを付けたというのが今回の構図だ。ポイントを付けるサイトは禁止だと居丈高に命令し、民間企業がそれに従えば、次は手数料を「公定価格」にするとでも言い出すのだろうか。どう考えても、企業が営業の一環として付与しているポイントにまで総務省がケチを付けるのは行き過ぎだろう。

総務省がそこまでして仲介業者を抑えたいのは、ふるさと納税の受入額が増加の一途をたどっているからに違いない。

2023年8月に総務省が発表した「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)」によると、2022年度(令和4年度)の受入額は9654億円と前の年度の8302億円から大幅に増えて過去最高を更新した。2023年度の集計は2024年8月に発表されるが、初めて1兆円を突破したことはほぼ間違いない。さらに2024年1月には能登半島地震が起きて寄付への関心が高まったこともあり、さらに増えることが予想されている。東日本大震災が起きた2011年はまだふるさと納税が始まって数年目だったが、受入額は前年よりも一気に2割も増えていた。ふるさと納税の制度を使って被災地支援を訴える自治体も数多い。

「寄付文化は日本には根付かない」と言われていたのが…

かつては「寄付文化は日本には根付かない」と言われ続けてきた。だが、ふるさと納税制度ができたことで、確実に寄付の輪が広がってきたことは間違いない。さまざまな分野でクラウドファンディングが呼びかけられ、資金を集めることができている。2023年には「地球の宝を守れ」をキャッチコピーに、国立科学博物館が1億円の支援を求めるクラウドファンディングを実施したが、8月7日の開始からわずか9時間で目標の1億円を突破、11月5日の期限までに9億2000万円を集めた。寄付に応じた人は5万7000人に達した。国が予算をなかなか付けず困窮していた国立科学博物館の訴えに賛同し、寄付する人々が多くいたのだ。

もちろん、さまざまな返礼品が用意されていたが、これだけ多くの人の善意を「返礼品目当て」だと批判できるはずもない。また、仲介会社のレディーフォーは手数料をとって運営する民間会社だが、寄付の一部が手数料に回るのは問題だという人も少ないし、レディーフォーに寄付するにあたってポイント付与サイトから申し込んでポイントをもらう方法も広がっているが、それを批判する人はいないだろう。要は民間の創意工夫で資金集めを行い、成功しているのだ。

「返礼品なし」を選択する人も増えている

ふるさと納税も「納税」と言う言葉を使うから、税金で返礼品をもらうのはおかしい、という論理になるが、寄付をして、それが税額控除されている。寄付を受ける自治体の側が創意工夫して返礼品を用意したり、窮状を訴えて寄付を募るのは、批判される話ではないはずだ。

最近では、ふるさと納税の仕組みを使うが「返礼品なし」を選択する人も増えている。特に災害支援などの場合には返礼品を求めない人がかなり多い。前出の現況調査では、受入額9654億円に対して住民税控除額は6796億円。所得税の控除もあるが割合は小さいので、「実質負担2000円」の範囲を超えて寄付をしている人がかなりいることを示している。

とっかかりは返礼品だったかもしれないが、その地域を応援しようという人的ネットワークが着実に広がっている。各自治体も決まった返礼品だけでは飽きられるので新しい地元の特産品を加えるなど創意工夫している。

ふるさと納税の定着で、自治体の意識も大きく変わった。返礼品の人気が出ればその製品の生産者に大きなメリットになる。全国に知られることで、返礼品以外の受注も増える。事業者も返礼品に加えてもらえるよう、製品開発に力を入れる。従来、自治体が行ってきた産業振興よりもはるかに効果的なのだ。

総務省が握る「地方交付税交付金」の権限

もうひとつ、納税者意識を覚醒させることにつながっている面も大きい。ふるさと納税を募集する際に、その使途を選択できる自治体は1745団体と全体の97.7%に達している。「地域産業振興」だけでなく、「健康・医療・福祉」や「子ども・子育て」などを指定できるのだ。納税する側が税金の使途を指定できるのは、自分が納める税金がどう使われているかに関心を持つきっかけになる。自治体側も力を入れたい政策をアピールすることで、そこにふるさと納税で予算確保することができる。

総務省は、国民が納税意識に目覚めるのを恐れているのだろう。というのも、総務省自治体に「地方交付税交付金」と呼ばれるお金を配分する権限を握っている。その権限を背景に、地方自治体の運営や財政に口を出し、自省の官僚が副知事や副市長、部長などとして出向するポストを得ている。副知事を務めた官僚が知事選に出て知事になるというケースも少なくない。

地方自治体に財政的に自立されるのは困る

地方交付税交付金の目的は、財政力の弱いところを強いところの税収で補うことだが、1788ある自治体のうち、交付金をもらっていない財政的に自立しているところは、わずか77しかない。財政赤字だと交付金が国から来るが、努力して黒字になると交付金が打ち切られるという仕組みになっている。だからふるさと納税が導入される以前の自治体は、財政を立て直す努力はせず、霞ヶ関を回って総務省の言いなりになる方が得だと考えていた。

ところが、ふるさと納税は、総務官僚の意図とは関係なく、自治体に税金が移動する。自治体は初めて努力することで財源を増やせる手法を持つことができたのだ。

地方交付税交付金は2023年度で17兆2594億円。ふるさと納税の受入額はまだまだ小さいとはいえ、1兆円を超えてきたことで、地方が財政自立に向けて動き出す「懸念」が出てきている。地方自治体に財政的に自立されるのは困る、というのが総務省が嫌がらせを繰り返す本当の理由だ。

 

豊田章男・トヨタ会長に大逆風!取締役再任賛成率が「候補中まさかの最低」…目前まで迫ってきた「株主がトップをクビにする」株主総会

現代ビジネスに7月2日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/132910

モノいう株主の「トップ交代要求」

3月期決算企業2000社以上の株主総会が終わった。会社側から出される議案とは別に、いわゆる「モノ言う株主(アクティビスト)」など株主から提出された「株主提案」を受ける会社が大幅に増加。三井住友信託銀行の6月7日時点の集計では91社にのぼり、3年連続で過去最多を更新した。

株主提案は2010年頃から増加基調にあり、当初は株主還元の積み増しを求めるものが多かったが、2022年以降、急増するにつれて、会社提案とは別の取締役選任議案を出すなど、経営体制の刷新を求めるものが増えている。背景には長期間にわたる業績の低迷や、不祥事の発生などで経営トップへの批判が強まっていることがある。実際にトップ交代を迫られるところが出始めたのも、今年の特長と言えそうだ。

中堅証券会社の東洋証券が6月26日に開いた定時総会には、アクティビストであるUGSアセットマネジメントが、会社提案とは別の取締役候補者5人を提案した。この提案自体は否決されたものの、会社側提案も予定通りとはいかなかった。会社側は総会当日になって取締役選任議案から桑原理哲社長の再任案を取り下げ、社長の続投を断念するという異例の事態に直面した。総会前に送られた議決権行使書などから桑原氏が株主の過半数の賛成を得るのは難しいと判断した模様だ。

総会には7人の候補者を出したものの、常務執行役の櫻井歩氏も過半数が得られず否決、他の6人も50%を辛うじて超える票数で選任された。後任社長には、新しく取締役となった小川憲洋執行役員が選ばれた。

「一部の株主」への賛同広まる

衣料品ブランド「ニューヨーカー」を展開するダイドーリミテッドの6月27日の総会では、アクティビストで株式の32%を握るストラテジックキャピタル(東京・渋谷)が独自の取締役候補6人を提案した。このうち3人が可決された一方で、会社側が提案した6人のうち5人も可決された。辛うじて会社側取締役が過半数を占めたものの、今後、アクティビスト側の発言力が強まるのは間違いない。

株主提案の大半は否決されたものの、トヨタ自動車や日本製鉄、大日本印刷など大手企業にも出されていた。

大日本印刷の総会には、「マネックス・アクティビスト・マザーファンド」に投資助言を行うマネックスグループ傘下のカタリスト投資顧問が株主提案を行い、一橋ビジネススクールの教授である楠木建氏を社外取締役に選任することを求めた。

会社側は事前に株主提案に「反対」の意見を出していたが、専門が会社側が提案した候補者と重複することや、特定の株主が推薦する候補者を選任することが「取締役会の独立性と多様性の向上に十分な貢献を行うことは難しい」とするなど、かなりの紙幅を割いて説明している。過半の議決権を握っているからと言って数で押し切ることが難しくなっているという事情がある。

というのも、一部の株主の提案であっても、それが「正論」ならば、他の機関投資家に賛成の動きが広がる可能性が高いためだ。今回の大日本印刷への株主提案も、否決はされたものの、賛成に回った株主の議決権は27.7%に達した。

機関投資家も反対しづらい

取締役候補が株主提案で出されるところまでは至らなくても、会社側提案に機関投資家が反対するケースも目立った。

自動車の量産に必要な認証「型式指定」の検査不正問題に揺れるトヨタ自動車株主総会でも、経営トップに厳しい反応が出た。会社側が提出した取締役選任議案で、豊田章男会長の取締役再任議案への賛成率が71.93%と取締役候補の中で最低にとどまったのだ。また、副会長の早川茂氏も89.83%で、他の候補者8人がいずれも95%を超えている中で、明らかに賛成票が少なかった。

豊田氏の再任議案については、議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)と米グラス・ルイスの2社が、トヨタグループで相次ぐ不正の最終的な責任があるなどとして反対推奨していた。議決権助言会社は海外の年金基金など機関投資家に大きな影響力を持っており、実際、米国の複数の公的年金基金は反対票を投じたと表明していた。

議決権行使会社は業績悪化など一定の基準を設け、それに抵触すると、反対推奨する。例えば、過去5期の平均ROE株主資本利益率)が5%を下回り、かつ直近年度のROEが5%未満の場合は原則、経営トップ(社長や会長など)の取締役再任に反対推奨することになっている。海外の機関投資家の場合、日本企業の個別の財務諸表や経営体制を調査する体制を持っているところはわずかで、議決権行使会社の推奨に自動的に従うケースが多い。

また、日本の年金基金や生命保険会社などの機関投資家も、赤字が続いている場合など経営トップに反対票を投じるような投票行動基準を設けるところが増えている。また、議決権行使会社の意見も参考にする傾向が近年強まっている。

特に世間を騒がせる不祥事が起きた場合などは、トップに賛成票を投じにくくなっているのが現状だ。かつては会社側提案には無条件で賛成票を投じることが多く、「モノ言わぬ株主」と揶揄されてきたが、2014年に機関投資家のあるべき姿を示したスチュワードシップコードが定められて以降、行動が大きく変わってきた。

アクティビストの「正論」にこうした機関投資家が反対できなくなりつつあり、今後は、業績不振を続けたり、不祥事を起こした企業のトップが株主総会で解任されるようなケースも増えてくると見られる。

認証不正問題、本当に悪いのは国交省とトヨタのどちらなのか…欧米で使われる「アンフェア」の本当の意味 「大きな問題ではない」と見くびってはいけない

プレジデントオンラインに6月21日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/82926

豊田章男会長への賛成比率が12.64ポイントも下落

トヨタ自動車など自動車各社による「型式認証」を巡る不正の影響は予想以上に大きい。日本ではメディアの報道が控え目なこともあってか、あまり深刻に受け止める向きは多くないが、日本を代表するトップ企業の不正は、日本という国の信用も大きく揺るがしている。

それがトヨタ自動車株主総会にも表れた。6月18日に開いた株主総会では豊田章男会長ら10人の取締役選任議案などが諮られた。異変が起きたのは会社提案の第1号議案。取締役候補10人のうち、豊田章男会長への賛成比率が71.93%と突出して低かったのだ。2番目に低かった早川茂副会長でも89.53%の賛成票を獲得、佐藤恒治社長の95.44%など残りの7人は92%から97%の賛成票を得た。つまり豊田会長が突出して低かったのだ。1年前の株主総会での豊田氏への賛成率84.57%だったので、12.64ポイントも下落したことになる。

豊田氏に反対票が大きく増えた原因は認証不正であることは明らか。機関投資家に議決権行使を助言するインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイスが、選任議案に反対するよう推奨していた。ISSは認証不正について「(豊田氏に)最終的な責任があると考えるべきだ」と指摘していた。こうした反対推奨に、外国人投資家が従った結果だと見られている。

トヨタの経営に対する国際的な信用が毀損した

もっとも、トヨタ自動車株のうち「外国法人等」が保有しているのは21%程度。国内の機関投資家の一部も再任反対に動いた可能性が高い。国内機関投資家は議決権行使の基準を持っており、不祥事が起きた場合など責任がある取締役の再任に反対することなどが盛り込まれているためだ。

とはいえ、議決権行使助言会社が圧倒的に影響力を持つのは海外の投資家で、豊田会長への批判票がこれだけ多くなったということは、トヨタの経営に対する国際的な信用が大きく毀損きそんしたことを示している。

不正を巡る豊田会長の不用意な発言が不信感を広げた面もある。

6月3日に開いた記者会見での発言に朝日新聞が噛みつき、「トヨタでも認証不正 会長『撲滅は無理』『完璧な会社ではない』」という見出しを立てた。2022年にはグループの日野自動車で不正が発覚。2023年は子会社のダイハツ工業でも大規模な認証不正が露見して全車種の出荷を一時停止する事態に直面した。1月30日の会見では、ダイハツの問題はあくまで同社の風土の問題だとし、トヨタ自動車に関しては「私の知っている限りはない」(豊田氏)と発言していた。にもかかわらず不正が明らかになったことへの反省が見られないと映ったわけだ。

欧米の「アンフェア」は「人間のクズ」と同じ意味

さらに検査についても、国の基準よりも厳しい条件で検査していたと説明したことも、責任逃れのように受け取られた。6月の会見では国の認証制度について豊田氏は「このタイミングで私の口から言えない」としたものの、「(制度と実態に)ギャップはある」とも述べていた。ルールは破ったかもしれないが、ルール自体に問題があると言っているようにも感じられたのだ。

自動車雑誌などの専門誌などは、国の基準より厳しい基準で検査を行っていた点に触れ、国交省の頭が固いのだとトヨタを擁護するトーンの記事が掲載された。これに対して、国交省は、判明した不正行為6事例は、国の基準だけでなく日韓や欧州を含む62カ国・地域が採用する「国連基準」にも反しており、欧州などでも量産できない可能性が高いとする見解を公表したと報じられた。

欧米はこの手の「不正」に厳しい。偶然に起きた誤りは許すが、意図的な不正や改竄かいざんは徹底的に追求する。独フォルクスワーゲンの排ガス不正では、これまでに3兆5000億円を超える罰金や賠償金を支払わされた。競争を不正に勝ち抜こうとすることに欧米は厳しいのだ。日本では「アンフェア」という言葉を軽く受け流す傾向があるが、欧米で「アンフェア」と糾弾されるのは「人間のクズ」と言われるのに等しい。つまり、その代償は大きいのだ。

四半世紀前に起きた問題に酷似している

トップ企業が不正に手を染めていた事実は、日本という国に対する信用度を一気に落とす危険性を秘めている。かつて、1990年代後半に、日本の銀行の信用が地に落ち、金利を上乗せしなければグローバルマーケットで資金調達できない「ジャパン・プレミアム」問題が発生したことがある。バブル期には日本の銀行は世界ランキングの上位を占めるなど金融市場を席巻したが、バブル崩壊によって、日本の銀行などが公表している決算書はまったく信用できない、というムードが広がった。

日本の会計基準や銀行管理の基準がグローバル・スタンダードから食い違っていたこと、また見た目をグローバル・スタンダードに合わせるために様々な操作を行っていたことが発覚。「日本は信用できない」という烙印を押されたのだ。その後、日本は会計基準などをグローバル・スタンダードに合わせることを余儀なくされた。

自動車業界で起きていることは、四半世紀前に起きた問題に酷似している。

品質検査の偽装や書類改竄は「日本のお家芸

第二次世界大戦後、日本が経済大国へとのし上がってきた背景には「高品質」という評価を得たことがあった。当初は米国などの商品をモノマネした低価格品を売る国という評価だったが、独自に技術力を磨き、新製品を生み出して、いつしか、高品質のものを低価格で売る素晴らしい国という評価を勝ち取った。「メイド・イン・ジャパン」は品質を保証するブランドになったのだ。

ところがバブル崩壊後、品質を巡る不正が相次いでいる。この20年、品質検査の偽装や書類の改竄などが、まるで日本のお家芸のようになっている。2021年に社長が辞任に追い込まれた三菱電機では35年にわたって検査不正をしていたことが発覚。現場で不正を行うことが当たり前になっているなど、「組織的な不正だったと認めざるを得ない」と会見で述べていた。2022年10月までの調査では本社事業所で197件もの不正が発見されている。しかも、こうした不正が、本社の指示で行われていたものではなく、現場の判断で行われていたことが明らかになっている。

「日本の品質」に対する世界の評価は高くないのかもしれない

豊田社長が当初、トヨタでの不正は「私の知る限りはない」と言っていたのも正直な答えだったのだろう。だが、こうした現場の不正カルチャーが日本企業に広がっているとすると、事態はさらに深刻だ。それを一掃するのは並大抵ではないからだ。

かつて、コマツ社長会長を務めた坂根正弘さんが、「怒らないから問題をすべて報告せよと言ってもトップには上がってこない」と嘆いていた。それでも坂根氏は折れずに過去の負の遺産を処理すべく事実解明を進めた。三菱電機は洗いざらい調べ尽くしたと言っているが、それで不正カルチャーが一掃できたのかはまだ分からない。まして、これから不正の温床である社風改革を迫られるトヨタの場合、一朝一夕にはいかないだろう。

日々露見する企業の不正に慣れた我々が思っているほど、もはや「日本の品質」に対する世界の評価は高くないのかもしれない。為替がこれだけ円安になっているのも、日本のモノもサービスも、高い値段では売れなくなっていることの表れなのだと考えるべきなのだろうか。ルールは破っていても品質に問題はない、というのが日本人の主張だと分かったら、誰も「世界一の品質」だと言って買ってくれなくなるだろう。それほど、日本一の会社で発覚した不正の影響は大きいと覚悟しておかなければならない。

国民をバカにしている! 自民党が政治資金規正法改正で「外部監査強化」ではなく「第三者機関」にした許しがたい理由とは

現代ビジネスに6月15日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/131850

改正法案は可決の見通しだが

衆議院を通過した政治資金規制法改正案の参議院での審議が続いている。6月23日の国会会期末を控えて、自民党は早期の可決成立を目指している。公明党日本維新の会の主張を踏まえて修正した法案でもあり、この両党が翻意しなければ可決する見通しだ。

もっとも、この改正法が成立したからと言って、政治資金を巡る不正や不祥事が根絶できるとは到底思えない。野党も新聞各紙も「ザル法」だと厳しく批判している。国民民主党玉木雄一郎代表も「ザルに申し訳ないですね。ザルの方がもっと物がすくえる。(改正案は)もう穴が開きまくっている。裏金問題の対策にまったくなっていない」とまで言っている。

改正法では、政治資金集めのパーティー券について、購入者の氏名・職業を公開する基準を現行の「20万円超」から「5万円超」に引き下げたほか、政策活動費については、経常経費を除く全ての支出について項目別の金額や支出の年月を政党の収支報告書に記載することが盛り込まれている。自民党案では当初、20万円超を10万円超に引き下げるとしていたが、連立与党の公明党も納得せず、結局、岸田文雄首相の決断で5万円超に引き下げた。

岸田首相や自民党議員からすれば、これだけ譲歩したのだから国会で通るのは当たり前ということなのだろう。確かに一歩前進と見ることもできるが、これまで議論に上った会計責任者が逮捕された際の議員本人の「連座制」や、政策活動費の領収書公開、政治資金をチェックする外部監査の強化などは法案に具体的な条文は盛り込まれなかった。

付則には、政治資金に関する犯罪で起訴された場合に政党交付金のうち、その議員の人数割分を停止する制度を創設することや、政策活動費の支出の年間上限額を定めて10年後に領収書を公開すること、政治資金のチェック機能を強化するための「第三者機関」の設置などが盛り込まれている。だが、いずれも具体的な制度設計などは国会論戦では明らかになっておらず、「先送り」の感が否めない。しかも、成立したとしても、法律の施行が2027年1月1日となっており、それまでの間はパーティー券の規制は現状通りとなるため、ここにも批判が集まっている。

なぜ外部監査強化を避けるのか

ここで不思議なのは、政治資金のチェックに「第三者機関」が登場してきたことだ。政党交付金などはすでに監査法人などによる「外部監査」が導入されている。政治家本人が代表を務める政治資金団体の報告書でも、公認会計士や税理士による「外部監査」が行われている。当初、議論に上っていたように、そうした外部監査を強化するのではなく、なぜ新しい「第三者機関」にチェックさせるという話になったのか。

比較的まともに監査している政党交付金監査では、独立した第三者である専門家集団の監査法人がチェックをしている。不記載など不正の舞台になっている「政党支部」は本来、政党の組織だから、「連結決算」をきちんと導入すれば済む話だ。

会計士や税理士が行っている「政治資金監査」について、収入のチェックもなく、支出額と領収書を突き合わせる程度で、監査と呼べる代物ではない。これをきちんとした世間並みの「外部監査」にしていくだけで、資金の透明性、収支の正当性は担保できる。それなのに、監査法人公認会計士といった「外部の専門家組織」ではなく、新たに「第三者機関」を作ると言う。

当初、政治資金規正法改正の柱として「外部監査の強化」が俎上に上がった際、日本公認会計士の幹部らは対応に苦慮した。現行の政治資金監査が監査といえる代物でなく、それを強化するといっても簡単にはできないことを知っているからだ。協会の幹部が自民党の政策担当幹部を訪ね、「外部監査の強化」と言うのは止めて欲しいと非公式に申し入れた、という噂が流れている。要は、プロとして責任を負えないから、渦中から逃げた、と言うことなのか。本来、会計の専門家集団ならば、政治資金の透明化に向けて監査制度をどう構築していくか、申し入れたりアドバイスしたりすべきところだが、すっかり口をつぐんでいる。

「第三者機関」ほど当てにならないものはない

そこで登場したのが「第三者機関」だ。

企業が不祥事を起こすと最近は決まって第三者委員会などを立ち上げる。だが、その「第三者委員会」がくせ者なのだ。不祥事を起こした経営陣が委員を選んでいたり、第三者性に問題があるなど、独立性が疑われるケースが枚挙にいとまがない。つまり、第三者と言いながら都合の良いメンバーが選ばれているのだ。

そんな第三者委員会が出す報告書をチェックし、「格付け」をしているチームがある。弁護士の久保利英明氏や青山学院大学名誉教授の八田進二氏ら9人が手弁当で行っている「第三者委員会報告書格付け委員会」だ。この委員会が格付けした27件で、委員の総投票数224票のうち、Aという格付けを得た報告書は2件2票のみ。AからDまでの格付けで、CあるいはDと判定されるケースが圧倒的に多いのだ。さらに評価対象にすら該当しない不合格のFと判定されたのが15件で60票にのぼる。上場企業など世の中の関心が高い不祥事の第三者委員会ですらそんな体たらくなのだ。

政治資金の透明性をチェックする第三者はいったい誰が選ぶのか。チェックされる側の国会議員が選ぶのだとすれば、不祥事企業の経営者が選ぶ第三者よりも酷いチェック能力の乏しい機関になるのはミエミエである。

もちろん、きちんとチェックをされては困るから、外部監査の強化ではなく、第三者機関を作ることにしたのだろう。こんな法案を通して、透明化が進むなどと真顔で言う国会議員は、とことん国民を舐めているとしか言いようがない。

なぜ「給付金」ではなく「定額減税」なのか…給与明細に記載させるほど減税を強調する岸田首相が「隠したいもの」 ヒタヒタと国民に近づいている「負担増」

プレジデントオンラインに6月9日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/82481

「減税」にこだわった岸田首相

「定額減税」が6月から始まった。納税者本人と家族一人ひとりに4万円(国税3万円、地方税1万円)が2024年の税金から控除される。夫婦と子ども2人の4人家族ならば16万円というわけだ。

だが、この定額減税、仕組みは複雑で、2024年の所得税から減税額分を引ききれないと見込まれる場合は、その差額を推定計算して「調整給付」として現金支給されることになっている。それなら始めからコロナと同じ定額給付金にすればよかったと思うのだが、首相は「減税」にこだわった。しかし、調整給付を受ける人の数は2300万人にのぼると見込まれる。減税対象の納税者6000万人の4割弱に相当するのだ。

扶養者の対象把握などもあり、減税のための給与計算を行う企業や基礎自治体は大わらわ。そうでなくても忙しい経理部員は忙殺されている。そこに、減税額を給与明細に記載するよう政府が義務付けた。「減税の効果」を知らしめたい、ということなのだろう。

そもそも、この定額減税。岸田文雄首相肝いりの政策だ。2023年10月23日に国会で行った所信表明演説と2023年11月2日のデフレ完全脱却のための総合経済対策で表明した。「賃上げの促進と合わせてデフレ脱却を確実にすること」が目的とされた。

「実質賃金増加」に「減税」をぶつけて解散総選挙を打つシナリオ

首相就任以来、エネルギーや輸入品、食料品など急速に物価が上昇してきたことに対して、岸田首相は、「物価上昇を上回る賃上げ」を実現するとし、経済界や労働組合などに強く働きかけてきた。

当初、岸田首相は2023年秋にも解散総選挙を模索していた。2024年9月には自民党総裁任期を迎えるため、その前に解散総選挙で勝利、総裁続投というシナリオを描いていた。ところが、2023年7月ごろから物価上昇への批判などから岸田内閣の支持率が急落し始め、解散どころの状況ではなくなった。そこで打ち出したのが「デフレ脱却シナリオ」だった。

物価が上昇しても、それを上回って賃金が上がれば、消費は活発化し、企業が潤うことで、再び賃金が上がっていく。そんな「経済好循環」を岸田首相は思い描いた。2024年春闘で大幅な賃上げが実現すれば、それが4月の給与から増え、統計が出てくる6月には「実質賃金が増加」というニュースで沸き立つはずだった。そこに減税をぶつけ庶民の懐が暖まったところで、解散総選挙を打てば、与党に有利に働くと読んでいたのだ。

だからギリギリの段階まで6月の通常国会会期末での解散が検討されていた。

国民に見えにくい形で近づく「負担増」

ところが2023年12月に大騒ぎになった自民党安倍派パーティー券の収入不記載問題が燎原りょうげんの火のごとく自民党内に拡大。首相は対応に追われることとなる。首相が会長を務めてきた自民党の派閥「宏池会」を突然解散するなど、サプライズの一手も繰り出したが、自民党への批判は一向に収まらなかった。

結局、パーティー券収入が「裏金」化して議員に環流していた問題では原因追及はそこそこに一部議員に責任を負わせることで幕引きを図ったが、対策である政治資金規制法の改正では与党の公明党や関係が良好だったはずの日本維新の会からも批判を浴び、両党の修正案を「首相決断」で丸呑みする芸当を見せた。

これで解散に突き進むのかと思いきや、自民党内の反発は凄まじく、新聞各社は「解散見送り」と見出しを立てた。このままでは岸田首相は9月の総裁選には立候補できずに退任することにもなりかねないところまで追い詰められている。

しかし、そもそもなぜ岸田首相は「減税」にこだわったのか。

実は国民にはなかなか見えにくい形で「負担増」がヒタヒタと近づいているからに他ならない。すでに防衛費を5年間で43兆円に増やすことが決まっており、法人税所得税、たばこ税の引き上げを表明している。2027年度にはこの3税で1兆円強を確保する。当初は2024年度から段階的に引き上げていく予定だったが、25年度以降に先送りされている。

国民負担率の2022年度の実績は過去最高を記録

6月5日に国会で成立した「子ども・子育て支援法」による支援金制度の原資は、公的医療保険に上乗せして徴収されることが固まった。2026年度は6000億円、27年度は8000億円、制度が確立する2028年度以降は1兆円をこれで集めることになった。

要は、負担増が次々とやってくるわけだが、岸田首相は「実質負担は増えない」と言い続けてきた。保険料に上乗せ徴収されるのに「負担が増えない」と語るのは理解不能だが、給与が増えるので負担率は変わらない、という趣旨らしい。

首相は減税を打ち出した2023年10月23日の所信表明演説で、「国民負担率は所得増により低下する見込みです」と述べていた。国民負担率とは、税金と社会保険料の負担額を国民所得で割ったものだ。

ちなみに、財務省が2024年2月9日に公表したデータでは、国民負担率の2022年度の実績は48.4%と過去最高を記録した。にもかかわらず、首相の答弁に合わせるかのように、2023年度の「実績見込み」は46.1%、2024年度の「見通し」は45.1%という数字が出されている。だがこの「実績見込み」が曲者で、「低下する」という見込みが出されても、翌年の「実績」になったところで大きく数字が上昇するということが繰り返されてきたのだ。岸田首相が言うように、本当に負担が減るのか、来年2月のデータ公表が楽しみだ。

首相が思い描いた「好循環」にはなっていない

つまり、さまざまなところで負担が増えるのを隠し、「減税」という言葉を前面に出すことで、国民の批判をかわそうとしているように見える。それで選挙に打って出て、議席を確保しようというのが戦略だったのだろう。

だが現実は、首相が思い描いた「好循環」にはなっていない。4月の賃金増加率は2.3%と29年ぶりの高い伸びを記録したが、物価上昇率はそれを上回ったため、実質賃金は0.7%減と25カ月連続のマイナスとなった。6月に実質賃金プラスという岸田首相の「デフレ脱却シナリオ」がもろくも崩れたことが、解散断念の一つの理由かもしれない。

今後も、実質賃金が本格的にプラスになっていく環境にない。政府が電気代とガス代に補助する事業を5月使用分で終了したため、6月以降の光熱費は大幅に上昇する。エコノミストの多くは、実質賃金がプラスに転換するのは、早くて2024年秋という見方だ。

もっとも、それも楽観的な見通しかもしれない。

「ステルス増税」で国民の目を誤魔化そうとしている

一時1ドル=160円を付けるなど円安が進んだことで、輸入物価も上昇、再び物価上昇に拍車がかかってきた。輸入食料品などの価格高騰もあり、庶民の生活を圧迫している。これに対して消費者は、消費を抑えることで乗り切ろうとしているため、生活必需品を中心に消費が減少する懸念が強まっている。

それが企業の売り上げや利益にマイナスに響いてくれば、給与を増やす余裕はなくなる。特に中小企業の場合、輸入原材料やエネルギー代の上昇を価格に転嫁するのに精一杯で、従業員の給与を大幅に引き上げる余力に乏しい。経済の好循環ならぬ悪循環が始まりかねないのだ。

本来、物価上昇で庶民の生活が苦しくなった時こそ「減税」を行うのがオーソドックスな手法だ。コロナの最中に欧米先進国では消費税減税をする国が相次いだ。消費を喚起しようと思えば、本来は消費税率を引き下げる減税を行う方が、分かりやすく、効果も明白になる。だが、財務省はいったん税率を下げれば戻せなくなるとみて、消費税減税議論は封印している。

岸田首相はよほど「増税メガネ」と揶揄されたことが嫌だったのか、徹底して増税が国民の目に触れることを避けているように見える。代わりに「ステルス(見えない)増税」で国民の目を誤魔化そうとしているように見えて仕方がない。