一体なぜ…? ヤフーとアスクルに経営権をめぐる騒動が起きていた! ソフトバンク・グループの中でいま何が

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https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65909

社長退陣要求

東証一部上場のオフィス用品通販大手「アスクル」で経営権を巡る騒動が勃発した。発行済み株式の45%を握る筆頭株主のヤフーが6月末、突如としてアスクル岩田彰一郎社長に退陣を要求していたことが、このほど明らかになった。

アスクル側は指名報酬委員会や取締役会など正規の手続きを経て決定した取締役候補であることを理由に、ヤフー側の要求を拒否。8月2日の定時株主総会に向けて7月16日に公表した総会招集通知には、岩田社長を含む取締役10人の選任議案を掲載した。

これに対してヤフー側は、この会社提案に対して、株主総会で反対する意向を会社側に伝えた模様だ。

ヤフー側は会社側提案に代わる株主提案などを期日までに提出しておらず、株主総会で会社側提案に反対する場合は、修正動議などを出して岩田体制に代わる取締役を選任する可能性もある。もっともその場合、ヤフー以外の株主は事実上、投票に参加できないことになり、上場企業の手続きとしては極めて異例だ。

6月にはLIXILグループなどで経営権を巡る争いが表面化したが、大半は会社側提案に対抗して株主提案が出されたり、少数株主の保有する株式を買い取るTOB(株式公開買い付け)などの手続きが取られている。

アスクルは文房具大手プラスの事業部としてスタート、1997年に会社を設立した。オフィス用品通販で急成長し、2004年には東証一部に上場した。社長の岩田氏はプラスのアスクル事業部の部長などを務めるなど当初から事業に関与、会社設立以来、社長を務めてきた。

2012年に一般消費者向け通販サイト「LOHACO(ロハコ)」を立ち上げるため、ヤフーと業務資本提携、ヤフーが大株主となった。その後、ヤフーが45%まで株式を買い増しし、国際会計基準IFRSの連結対象にしている。

もっとも、業務資本提携では両者の関係を「イコール・パートナー」としたうえで、上場企業としてアスクルの独立性は維持することが明記されているという。資本では議決権の大きな割合を握ったとしても、経営の独立性は保証するとしたわけだ。実際、ヤフーの宮坂学・前社長との間ではこの約束が守られ、良好な関係が維持されていたと言う。

「ひ孫」会社が上場…?

状況が変ったのは、ヤフー社長が宮坂氏から川邊健太郎氏に代わった昨年以降。2018年秋にヤフー側からLOHACO事業の分離を求める提案がなされ、2019年1月にはLOHACO事業をヤフーに譲渡するよう正式要請があったという。アスクル側は、この提案を社外取締役などにも諮ったうえで、今後成長が見込めるLOHACO事業の売却はアスクルの既存株主の利益につながらないとして正式に拒否したという。

それ以降、岩田社長への退陣要求を強めているとされ、ヤフーの意思に忠実な社長へのすげ替えを画策しているとみられている。アスクル側はこうした行動自体が、業務資本提携に反するとして強く反発しているという。ヤフー側が株主提案などを正式に出さないのは、この業務資本提携契約があるためとみられる。

金融関係者によると、業務資本提携には、相互の信頼関係が崩れた場合には、ヤフーが持つアスクル株式を買い戻すことができるという契約も含まれているといい、アスクル側は株の買い戻しも検討している模様。ヤフー側が売却に応じれば、大手ファンドや取引先企業などに幅広く株式保有を求めていくことになる見通しだという。

もっとも、現実的にはヤフーがアスクルの株式売却に応じることは難しいとみられる。アスクルの業績は、連結決算によってヤフーの決算に大きく貢献しており、アスクルを切り離した場合にはヤフー自体の企業価値が低下することになりかねないからだ。もともとヤフーがLOHACO事業の譲渡をアスクルに求めたのも、ヤフーの通信販売事業を強化してヤフーの株価上昇を狙ったものとみられる。

ヤフーが突如として強権的にアスクルの支配権を得ようとしている背景には、ソフトバンク・グループが進めているグループ再編があるとみられる。

ソフトバンクGは電話事業のソフトバンク(以下ソフトバンクKK)を子会社化したうえで上場。ソフトバンクG傘下だったヤフーは、ソフトバンクKKの傘下に変更された。さらに、ヤフーは今年10月に「Zホールディングス」に社名変更し、新設する「ヤフー」がその傘下に置かれる予定。アスクルはZホールディングスの傘下に入ると公表されている。

グループの組み換えによって傘下上場企業の株価を引き上げ、ソフトバンクGの株価を引き上げることを狙っているのではないか、という見方も出ている。

グループ再編によって、頂点のソフトバンクGからソフトバンクKK、Zホールディングス、アスクルと「ひ孫」会社までが上場する形になる。

かねてから「親子上場」は世界の資本市場の常識から外れた形態として問題視され続けてきたが、「ひ孫」までが上場を続けることになるわけだ。

上場企業傘下に上場企業を何重にも連ねるソフトバンクGのグループ形態は、上場を審査する東京証券取引所金融庁会社法学者なども疑問視し始めている。

公務員のボーナスが7年連続で増えたワケ

プレジデントオンラインに7月12日にアップされた記事です。オリジナルページ→https://president.jp/articles/-/29312

 

平均支給額は67万9100円

多くのビジネスパーソンが心待ちにしていた夏のボーナスが大半の企業で支給された。日本経済新聞社の調査(上場企業など580社が対象)では、全産業の平均支給額は83万9844円。前年比0.4%減となり、7年ぶりにマイナスとなったという。米中貿易戦争などの影響で企業業績が頭打ちになっていることを背景に、電機や鉄鋼、繊維などの業界で比較的大幅な減額になり、全体を押し下げた、という。

そんな中で、6月28日に支給された国家公務員のボーナスは大きく増えた。内閣人事局の発表によると、「6月期末・勤勉手当」の平均支給額は67万9100円。前年に比べて4.1%増加し、7年連続のプラスになった。

2018年8月の人事院勧告に基づいて法律が改正され、「期末手当」の支給月数が0.1カ月分増加したことが大きい。また、「勤勉手当」の支給月数も0.87カ月から0.895カ月に増えた。

霞が関では公文書改ざんや統計データの不備、障がい者雇用率の誤魔化しなど、不祥事が相次いでいる。ところが、成果評価であるはずの「勤勉手当」だけはちゃっかり増えているのだ。何とも皮肉ではないか。民間企業で不祥事が起きて大幅赤字にでもなれば、ボーナスカットどころか、ボーナスゼロになることすらある。

不祥事を起こしたのは一部の職員で、大半の公務員には関係ない、というかもしれないが、それは民間とて同じ。会社が傾けば、自分に非が無くても報酬は減る。そんな「民間の常識」からかけ離れた公務員のボーナスは、国民感情からすれば納得いかないに違いない。

事務次官は約323万円、局長クラスは約246万円

今回の国家公務員ボーナスの4.1%増という高い伸びについては、特殊事情があると内閣人事局は言う。これまで冬に厚めに支給していた期末手当を、今年から夏冬均等に変えた結果、今回の平均支給額が大きく増えたように見えているというのだ。その影響を除いた実質の増加率は平均額(成績標準者)で0.9%の増加だとしている。もちろん、0.9%の増加にしても民間のマイナスからみれば天国だ。

官民どちらのボーナスの方が高いのか低いのか、なかなか簡単には比較できない。平均支給額だけを比べると、公務員の67万円は民間の83万円に比べてかなり低いようにみえる。だが、公務員の集計対象は管理職を除いた一般行政職(平均35.5歳)だけで、管理職を含んでいる民間企業や地方自治体の平均支給額に比べて低くなる。金額ベースでは単純比較できないのだ。実際、公務員でも、事務次官は約323万円、局長クラスは約246万円と高額のボーナスを手にしている。

「民間並み」の実態は「民間大企業並み」

国家公務員のボーナスが7年連続で増え続けている背景には、公務員給与・ボーナスを「民間並みに引き上げる」という政府の方針がある。毎年8月に公務員の給与見直しについて勧告する人事院勧告でも、あくまで前提は「民間並み」ということになっている。

「いや、うちの会社では社員に平均67万円なんて払われていない」「そもそもボーナスなんて雀の涙」といった中小企業で働く人の声も多いに違いない。実は、人事院の言う「民間並み」というのは「民間大企業並み」というのが実態なのだ。

人事院の調査は、事業所従業員数50人以上の企業を対象にすることになっているが、実際に調査する1万社のうち約4000社は500人以上の大企業、さらに4000社は100~500人の企業になっている。50~100人の企業は2000社程度になっているのだ。つまり、圧倒的に大企業のウエートが高く、その分、比較対象とされる民間給与・ボーナスの水準が高くなる仕掛けだ。

「民間は公務員より高い」と主張し続けるのか

厚生労働省が9日発表した5月の毎月勤労統計(速報)によると、基本給や残業代などを合わせた1人当たりの現金給与総額(名目賃金)は27万5597円と前年同月比0.2%減った。物価の影響を加味した実質賃金も1.0%減で、名目、実質ともに5カ月連続でマイナスになった。

毎月勤労統計は調査方法の不備や、対象の入れ替えなどで政権への「忖度(そんたく)」があったのではないかといった問題が指摘され、統計としての信頼が大きく揺らいでいる。それでも5カ月連続のマイナスというのは無視できない「傾向」だろう。

民間ボーナスの7年ぶりの減少や、毎月の給与の減少を、8月の人事院勧告がどう捉え、どんな公務員給与の見直し勧告を出すのか。よもや、それでも公務員の給与は安いといって引き上げ勧告を出すことはないだろうが、またしても詭弁を弄して、民間は公務員より高いので、それに合わせると言い続けるのだろうか。

「国の借金」は1100兆円を超えている

周知の通り、日本政府は慢性的な赤字体質を続けている。国債の返済や利払いなどを除いた通常ベースの歳出が、税収で賄えているかを示す「プライマリーバランス(PB)」は、いまだに赤字が続いている。国債発行残高など「国の借金」は1100兆円を超えた。

安倍晋三内閣は当初、2020年度にPBを黒字化することを目標としてコミットしてきたが、事実上、これを断念している。一方で、2018年度の一般会計税収は60兆4000億円と、これまで最多だったバブル期の1990年度(60兆1000億円)を超え、過去最高になった。10月には消費増税も控えており、2019年度の税収も大きく増える見込みだ。

にもかかわらずPBが黒字化しないのは、ひとえに歳出を抑える努力をしていないからだ。景気対策を優先して公共事業などを大幅に増やしていることもあるが、霞が関の人件費や、霞が関が行う政策経費を削減しようという動きにならない。

政府が「スリム化」する方向性はまったく見えない

2019年度の公務員人件費(予算)は5兆2826億円と、前の年度に比べて349億円増加する見込みだ。国家公務員の人数も57万8000人と1000人増える。まったくスリム化する方向性は見えないのだ。一時、自民党も野党も、公務員人件費の2割削減を掲げ、マニフェストなどに盛り込んでいた。最近ではすっかりそうした主張も下火になっている。税収が増える中で、リストラ機運が失われているのだ。

6月、自民党行政改革推進本部(本部長・塩崎恭久衆院議員)が、霞が関の政策立案に関わる部署の「業務量調査」を行った。「国会答弁回数」や「所管委員会への出席時間」、「質問主意書への答弁書数」「審議会開催回数」「訴訟での被告件数」を調べ、定員1000人当たりの「業務量」で集計した。結果、圧倒的に厚生労働省の業務量が多いことが判明した。

赤字を垂れ流しながら給与を増やす会社と同じ

自民党がそんな前代未聞の調査をしたのは、官僚任せにしておくと業務がどんどん膨らんでいく傾向があるため。予算を取って来る課長は評価されても、事業を止めて予算を圧縮しても誰からも褒められない。そうした「構造上」の肥大化にストップをかけようという狙いがある。

提言を受けて政府は「業務の抜本見直し推進チーム」を官邸に設置する方向だ。

赤字を垂れ流している会社がリストラも行わず、業務見直しもしないで、毎年ボーナスや給料を増やしていたらどうなるか。民間ならば早晩、倒産を免れない。「民間並み」のボーナスや給与をもらうのが当たり前だと思うのならば、民間並みの危機感を持ち、「働き方改革」を行っていくべきだろう。

国家公務員でも優秀な人材には高いボーナスを支払うことに誰も異論はないだろう。だが、そのためには、全体の仕事の仕方を見直し、本当に必要な事業に絞り込んだうえで、優秀な人材を確保するために、高い給料やボーナスを支払う。そうした仕組みを、国が破綻する前に作る必要がある。

「労災支給決定」減少でも「労災請求」増大のワケ

新潮社フォーサイトに7月12日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→https://www.fsight.jp/articles/-/45600

 

 世の中は「働き方改革」ばやりだ。一律、深夜残業を禁止したり、夜決まった時間になると消灯するなど、残業圧縮に乗り出す企業も多い。本来、「働き方改革」は仕事のやり方を見直して生産性を上げるのが狙いのはずだが、今はともかく残業を減らせという「労働時間短縮運動」となって広がっている。

電通で起きた1つの“事件”

 もともと政府が「働き方改革」を掲げたのは、人口が減少していく中で、生産性を上げなければ経済成長はあり得ないという危機感からだった。安倍晋三内閣は「女性活躍促進」を掲げて女性の労働市場参入を促し、「一億総活躍社会」を掲げて働き続ける高齢者を増やしてきた。名目GDP国内総生産)を増やすには労働投入量を増やすか、生産性を高めるかが必要になるが、ここ数年の伸びは労働投入量が増えた結果だ。65歳以上の就業者は800万人を超え、就業者数は実数で過去最多になっている。

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韓国が「反日運動」すればするほど、経済に大打撃となりかねないワケ

7月11日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65814

いま起きていること

観光やビジネスで韓国から日本を訪れる訪日客の数が目に見えて減少している。

日本政府観光局(JINTO)の推計によると5月の韓国からの訪日客は60万3400人と前年同月比5.8%減った。対前年同月でのマイナスは3カ月連続で、1月~5月の累計でも前年同期比4.7%のマイナスになった。

韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射問題や、元徴用工裁判で賠償を命じられた日本企業の資産差し押さえなどを巡って、文在寅ムン・ジェイン)政権が韓国国民の反日感情を高めていることが背景にあるとみられる。

昨年夏ごろから訪日客が頭打ちになり、減少する月が目立っていたが、3月には5.4%減、4月には11.3%減と減少が鮮明になった。韓国経済の後退も一因であることは間違いないが、日韓関係の悪化が陰を落としている。

6月以降、日韓関係はさらに悪化している。7月に入って日本政府が打ち出した半導体材料の輸出手続きの厳格化方針に対して、韓国政府は元徴用工問題への「報復」だとして猛反発。韓国国民の一部では、日本製品不買運動や、日本訪問を忌避する動きが出始めている。

6月、7月の訪日客も大きな増加は見込めないことから、2019年は年間を通しても前年割れになる可能性が強い。

韓国からの訪日客が年間を通してマイナスになるのは東日本大震災が起きた2011年の対前年比32%減以来。2012年には年間200万人を突破、以後増加を続け、2018年には年間753万人が日本を訪れていた。

ヒトもモノも

隣国である韓国との間の人の行き来は歴史的に多く、2013年までは訪日外客数の国別でトップであり続けた。その後、中国からの観光客が激増、2014年は台湾に次ぐ2位、2015年以降は中国に次ぐ2位を占め続けている。2018年は中国の838万人に次ぐ2位だった。

2019年に入ってからも、中国からの訪日客は依然として高い伸びを示している。1~5月の累計ではトップの中国が10.8%増の365万人でトップ、韓国は2位を保っているものの、4.7%減の325万人に留まっている。

一方、日本から韓国を訪れる人の数が今後どうなるかも注目される。トラベルボイスの集計によると、2018年1年間の日本人の韓国向け出国者数は294万8500人と27.6%増え、大幅な伸びを記録した。日本から海外への出国者数全体が増加傾向にある中で、とくに韓国への出国が目立った。台湾は3.7%増の196万9200人、香港は4.7%増の128万7800人だったという。

韓流ドラマの根強い人気やKポップ歌手の日本ファンの増加などもあり、若い層を中心に韓国を訪れる人が増えていた。今後、こうした若年層などの旅行者が、反日運動などのニュースが流れることで渡航を自粛するケースがどれだけ出て来るのか、その影響が懸念される。

ヒトばかりでなく、モノへの影響も心配だ。

半導体材料の輸出手続きの厳格化などによって、今後、日本から韓国への輸出がどれだけ影響を受けるか今のところは分からない。

カネも止まる…?

JETRO日本貿易振興機構)がまとめた韓国貿易協会のデータによると、日本から韓国への2018年の輸出は546億ドルと前年に比べて0.9%減少した。一方、韓国から日本への輸入は305億ドルと13.9%増加した。韓国側からみれば、日本との貿易赤字が続いており、日本への輸出拡大を進めたいところだろう。

日本製品のボイコットなどによって日本製品の輸入が減ることは、短期的には貿易赤字の削減に効果がある可能性もある。だが、基幹素材である半導体材料の輸入などが滞れば、結果的に韓国の主力輸出品である半導体などの日本への輸出も落ち込むことになりかねない。

両国関係の悪化は、双方の経済にマイナスになるのは間違いない。日韓の貿易量は前出の統計によれば、2014年の日本向け輸出額(537億ドル)、日本からの輸入額(321億ドル)とほとんど大差がない。つまり、両国の貿易量はここ5年、停滞していると見ることもできる。やはり政治の世界の関係悪化が、経済に影を落としているとみるべきだろう。

だとすると、今回の日本側の措置に対して韓国が過剰に反応し、「敵対色」を強めた場合、2019年後半から貿易量が激減する可能性もある。もちろん日本経済への影響もあるが、輸出依存度の高い韓国経済にとって、より深刻な打撃になる公算が大きい。

ヒト・モノだけでなく、カネの動きにも影響を与えそうだ。日本企業の韓国への2018年の投資件数は、韓国産業通商資源部の集計で、13億100万ドルと前の年に比べて29.4%減少した。

元徴用工裁判で、日本企業の資産が差し押さえられたことで、日本企業が対韓投資を躊躇する可能性もある。2019年8月には差し押さえ資産が裁判所によって現金化されると報じられており、一段と日韓関係に暗雲が広がる可能性もある。

政治が事態をエスカレートさせることは、両国経済にとって何らプラスにならないということを双方の国民は痛感すべきだろう。

「百年安心」がウソだと大騒ぎする前に 百歳まで安心に生きられる制度を議論せよ

ビジネス情報誌「エルネオス」の7月号(7月1日発売)『硬派経済ジャーナリスト磯山友幸の《生きてる経済解読》』に掲載された原稿です。是非お読みください。

 

エルネオス (ELNEOS) 2019年7月号 (2019-07-01) [雑誌]

エルネオス (ELNEOS) 2019年7月号 (2019-07-01) [雑誌]

 

  今の年金制度では、老後は二千万円の赤字という金融庁の金融審議会・市場ワーキンググループの報告書にあった「試算」を巡って、永田町で醜い争いが続いている。金融担当大臣でもある麻生太郎副総理兼財務相に至っては、報告書を全部読まずに答弁するは、自分は年金をもらっているかどうかも関心はないは、大いに男を下げた。しまいには報告書の受け取りを拒否し、「なかったこと」にしようという態度に、国民は大いにシラケている。
 一方で、この報告書で政府を追及しようという野党も情けない。政府は「二千万円の赤字」を隠そうとしているとか、年金は「百年安心」と言ってきたのはウソだったとか、とにかく七月の参議院選挙を前に、少しでも安倍晋三内閣にダメージを与えようという姿勢がみえみえだ。多くの国民は、そんなアジテーションに乗るほどバカではない。与野党とも政治家は国民をナメている。
 政府与党が言い続けてきた現行制度の「百年安心の年金」とは、二〇〇四年の年金制度改正で、マクロ経済スライドという仕組みを導入し、これによって年金制度自体は壊れないとしたものだ。多くの人は忘れているが、厚生年金の保険料は二〇〇四年から二〇一七年まで毎年引き上げられ、「上限」の一八・三%(労使折半)になった。また、基礎年金の国庫負担も二分の一に引き上げられたほか、政府が持っていた「年金積立金」百四十七兆円を取り崩し、百年後に一年分の年金支給額に相当する二十五兆円が残るようにするとした。
 一方、マクロ経済スライドは、財源の範囲内に給付水準を自動調整する仕組みだ。政府は当初、この見直しによっても、現役サラリーマン世帯の平均所得の五〇%を支給することができるとしていたが、実際には難しい。「財源」である年金保険料を支払う現役世代が予想以上に減れば、給付は減っていくことが明らかなのだ。
 つまり、百年安心は、制度が百年安心なのであって、百年安心して生きられる年金がもらえると言っているわけではない。これは与野党議員でも年金制度を少しでも勉強したことがあれば、知っているはずのことだ。

超富裕高齢者も含めた
「平均」は庶民感覚より上振れ

 では、「二千万円の赤字」はどうか。
 問題になった金融庁の報告書は、年金額の過不足を「試算」するためにまとめられたものではない。年金だけで十分な生活はできないということを前提に、老後に向けた資産形成や金融資産の運用を考えましょうと訴え、そのための制度整備を求めている。毎月五万四千五百二十円足らないというのは、あくまで「前段」で、しかもそれは厚生労働省の試算にも使われたものだった。報告書を作った委員からすれば、「いやいや、言いたいのはそこではない」ということなるに違いない。
 しかし、毎月五万四千五百二十円、三十年で二千万円という「赤字」の数字自体、乱暴な試算だ。これは総務省の家計調査の高齢者世帯の「平均支出」と、年金の「平均」支給額を単純比較したもの。あくまで、実際に高齢者世帯が使っている金額の「平均」なのだ。平均というのは猛烈に消費している富裕高齢者の消費も含まれているから、庶民感覚からすれば、大きく上振れしている。
 六十歳の平均貯蓄額は二千九百万円だから、「平均」で見れば二千万円の赤字は何ら問題ないということになるが、これも「平均」のマジックで、六七%の人は二千万円以下。四人に一人は百万円以下である。
 多くの国民は、もらう年金だけで豊かな老後生活を送れるなどとは思っていない。だから、高齢者の貯蓄額が世界有数の水準にまで積み上がっているのである。家計消費の「平均」は全体の中心的な水準である「中央値」よりも高いが、「豊かな老後」を送ろうと思えば、二千万円でも足らない、ということになる。一方で、今の年金だけでも十分にやっていけるという高齢者もいる。庶民の本音からすれば、「収入に合わせた生活を送るしかない」というところで、年金だけに依存しているわけではない、と考えている人も多いだろう。元気な間は働き続けて、少しでも収入を得る、という人も少なくない。現在六十五歳以上で働いている就業者は、八百万人を超えている。
 ただし、問題は、「自助努力」だけで十分な生活を送ることができない人たちをどう救っていくか、という点だ。いわゆる「公助」である。年金以外に蓄えや収入の道がない人や、年金制度の枠外に置かれている人も少なくない。だからといって「若い頃に年金保険料を払わなかったのだから自業自得」と切り捨てるわけにはいかない。

最低保障年金などの
制度の見直しを真剣に議論せよ

 制度がいくら「百年安心」だと言ってみたところで、困窮する国民が生まれるようでは意味がない。憲法二十五条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めていて、この規定は文明国家としての日本の誇るべき条文である。年金だけでも、健康で文化的な最低限度の生活が送れないのは大問題なのだ。
 現在の年金の平均受給額は、国民年金で月額五万五千円、厚生年金で月額十四万七千円。これも平均なので、実際にはこれよりも少ない人がいる。その金額で十分な生活が送れると言えるのかどうか。また、今後、年金支給額が減っていった場合、生活が成り立つか。
 本来、そうした最低保障年金などの制度の見直しを真剣に議論するのが政治家の役割だろう。年金支給額を増やそうと思えば、財源を確保しなければならない。増税をすれば、年金保険料を支払う現役世代にさらに負担がのしかかる。年金積立金を増やそうと思えば、株式などでの運用を本格化する必要がある。その株価が上昇するには、国の経済自体が成長しなければならない。
 財政赤字が続き、国の借金が一千百兆円を超える中で、単なる分配論だけでは年金を安定的に支給することは難しい。経済政策すべてを「年金を増やす」ために整合的な政策に変えなければならない。
 そうした議論は、現状の制度を批判するだけでは生まれてこない。選挙の争点にするのは構わないが、単に批判だけでなく、実現可能な「対案」を示すのが野党の役割だろう。与党を批判するだけの野党に政権を任せても、結局何もできないというトラウマが日本国民の中にあることを、野党は忘れてはいけない。

弁護士のおいしいビジネス? 企業の「第三者委員会」は信用できるか  レオパレス21報告書は辛うじて合格

7月4日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65670

 

不祥事が起きるたびに、企業が設置するのが一種のパターンになっている「第三者委員会」。最近では様々な事故や事件に対して、学校や行政機関が正しく対応したかなど、調査する際などにも設置される。

だが、その報告書をみていると、本当に「第三者」による中立公正な調査で、原因究明や再発防止策の提言が十分なのか、疑問を感じるものも少なくない。

突っ込みに欠けるレオパレス21報告書

そんな「第三者委員会報告書」のあり方に目を光らせ、評価をして「格付け」の形で公表しているグループがある。「第三者委員会報告書格付け委員会」。委員長は弁護士の久保利英明氏、副委員長は同じく弁護士の國廣正氏が務め、総勢9人。弁護士5人、学者2人、ジャーナリスト2人が無償奉仕で報告書を読み、格付けしている。

その格付け委員会が6月末、21回目になる格付け結果を公表した。対象にした報告書は、賃貸アパート大手「レオパレス21」が設置した「外部調査委員会」が2019年5月29日に公表した「成功不備問題に対する調査報告書」。同社が建設したアパート物件で施工不良が相次いで発覚、同社とアパートの賃貸借契約を結ぶオーナーによる集団訴訟に発展している。

施工不良の物件は5月になってもあらたに1138棟が確認され、5月末時点で1万6766棟にのぼると報じられている。問題が拡大する中で「外部」者が調査した報告書が公開されたわけだ。

格付けを行った格付け委員会の委員8人(利益相反から1人は参加せず)の結果は、AからDとFの5段階の評価で、2人がC、6人がDを付けた。Fはそもそも報告書の体をなしていない「不合格」という扱いなので、この報告書は「辛うじて合格」という評価に集中した。

評価基準は、日本弁護士連合会が2010年に公表した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」をベースにしており、委員構成の独立性や中立性、専門性から、調査スコープの的確さや十分さ、原因分析の深度、企業の社会的責任や役員の経営責任への適切な言及といった項目を考慮して評価している。

企業体質にまで踏み込んだか?

レオパレス21の外部調査委員会については、3人全員が元検察官で、会社との利害関係はない点に一定の評価はあったものの、建築関係の専門家が委員に加わっていない点について専門性に欠けるという指摘が多かった。

久保利氏は「専門性には大きな疑問符が付く。本件のような建築物に関する施工不良、建築基準法違反が問題とされる事案で、なぜ同一事務所の弁護士のみで委員会を構成するのか説得力はない」と手厳しい。

また原因について2006年に代表取締役社長を退任した深山祐助氏に責任があるという報告書の結論について、疑問視する声も多かった。

「2006 年以降の経営陣、とりわけ 2010 年から直近まで代表取締役社長を務めた深山英世氏を対象としてどのような調査を行い、どのような事実が認定され、どのような原因が究明されたのかは記載されておらず、2006 年以前と比較して踏み込み不足の感が否めない」(弁護士の竹内朗委員)という指摘が多くの委員から挙がった。

ジャーナリストの塚原政秀委員も、「2010年2月から社長を務めた深山英世氏(5月30日に引責辞任)ら役員のヒアリング内容は必ずしも、具体的に書かれておらず、その的確性や十分性に疑問符が付く。当然、英世社長らからもヒアリングしたと思われるが、調査時点での最高責任者の具体的記述が報告書にないのは、非常に残念である」と指摘した。

さらに、「調査の過程で、レオパレス 21 に資料提供を求めても存在していないとして入手できなかったとする重要資料がかなりあった。しかしながら本報告書ではこの問題に対しては、このような事実が存在したとあるだけで、それ以上に企業体質、企業風土の問題まで掘り下げられた検討はなされていない」(弁護士の齊藤誠委員)と企業風土についての言及もあった。

本当に第三者

もっとも、Dが大半を占めたレオパレス21の外部調査委員会報告書が取り立てて問題が大きかったというわけではない。

2014年の設立以来、これまで格付け委員会が格付けを行った21件では、厚生労働省の「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の報告書や、東亜建設工業の「地盤改良工事の施工不良」問題に関する報告書には全委員一致で不合格のFが付いた。

また、DとFの評価に集中した報告書も過去に4回あった。

一方、雪印種苗種苗法違反問題の報告書では、「Aが1人、Bが8人」という高い評価を付けたほか、三菱自動車工業の燃費不正問題の報告書は「Bが5人、Cが1人」といった比較的高い評価もあった。

日弁連がガイドブックをまとめているにもかかわらず、それに準拠しない第三者委員会や報告書がまかり通るのは、第三者委員会を設置するのが問題を起こしている企業の取締役会や経営者であるケースがほとんどのため。委員には会社から多額の報酬が支払われている。

短期間にそこそこの人数の弁護士を動員できる大手中堅の弁護士事務所によって「第三者委員会ビジネスともいえる分野が出来上がっている」(久保利弁護士)面もあり、経営陣に厳しい報告書を出せないという事情があるとみられている。格付け委員会の格付けについては、業務妨害だと苦情を言う弁護士もいるという。

三者委員会というと、あたかも第三者が中立的な立場から問題点を指摘するものだと期待させられる。だが、それが本当に機能するためには、第三者委員会を引き受ける委員らの「覚悟」が必要であることは言うまでもない。

厳しい報告書は一見、企業にとって痛手に思えるかもしれないが、それによって再発防止が図られれば、企業の将来にとっては大きなプラスになる。

"年金は貰わないと損"という日本人の歪み 資産家には本来、受給の資格はない

プレジデントオンライン6月28日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→https://president.jp/articles/-/29171

 

「毎月の赤字額は約5万円」の本当の意味

質問した野党議員も回答した大臣も、報告書をきちんと読んでいなかったに違いない。例の「老後、2000万円赤字」問題である。

金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループ(座長・神田秀樹学習院大学大学院教授)は6月3日、「高齢社会における資産形成・管理」と題する報告書を公表した。「はじめに」にも記載されているが、この報告書の目的は、「個々人においては『人生100年時代』に備えた資産形成や管理に取り組んでいくこと、金融サービス提供者においてはこうした社会的変化に適切に対応していくとともに、それに沿った金融商品・金融サービスを提供することがかつてないほど要請されている」として、金融サービスの許認可権を握る金融庁に、資産形成のための制度見直しを急ぐよう求めている。

その前提として使われたのが、高齢夫婦無職世帯の平均の年金収入と消費支出の差。「毎月の赤字額は約5万円となっている」と報告書は述べている。さらに「収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取崩しが必要になる」としていた。

老後の生活費赤字は「年金制度の問題」か

翌4日付けの朝刊各紙は、その「前提」に焦点を当てたものが多かった。日本経済新聞朝刊は5面の3段記事で「人生100年『2000万円不足』 金融庁 年金以外の資産形成促す」というタイトルだった。日本テレビのニュースでも「金融庁『年金では足りない』資産運用促す」といったトーンだった。テレビの情報番組はさらに刺激的で、「老後『2千万円が不足』金融庁が驚きの報告書 年金だけでは足りない!?」(FNN)といった取り上げ方が目立った。

野党から批判の声が上がると、金融担当相を兼ねる所管の麻生太郎副総理兼財務相が記者会見で「赤字というのが不適切だった」と早々に修正した。だが、それでも野党は収まらなかった。週明けの6月10日に行われた参議院での質疑で、立憲民主党蓮舫議員が質問に立った。

「総理。日本は一生懸命働いて給料を貰って、勤め上げて退職金を貰って年金を頂いて、それでも65歳から30年生きると、2000万円ないと生活が行き詰まる、そんな国なんですか」

冒頭から声を荒らげた。この質問自体、新聞の見出しやテレビのタイトルを前提にしたものだったに違いない。いつの間にか、老後の生活費が月5万円赤字になるのは年金制度が問題だからだという話にすり替わっている。

攻める方も守る方も「いい加減」な論戦

蓮舫氏は麻生大臣に「この報告書、読みました?」とも聞いた。

麻生大臣は正直と言うか、脇が甘いと言うか、次のように答えた。

「冒頭の部分、一部目を通させていただきました。全体を読んでいるわけではありません」

公表から1週間が経過し、野党から批判の声が上がっているにもかかわらず、やはり、読んでいなかったのだ。

ところが、蓮舫氏も不思議な発言をしたのだ。

「これだけ国民の間で怒りが蔓延して大問題になっている。読んだら5分で終わる報告書を読んでいない」

報告書は50ページである。5分で読むには1ページ当たり6秒で読む必要がある。ネット上などで、当該部分しか読まずに質問していたのは明らかだと批判されたのは言うまでもない。その後、麻生大臣は、問題の報告書の受け取りを拒否するという奇策に出た。自ら諮問しておきながら、内容が気に入らないから受け取らないというのは、審議会制度を根本から揺さぶる。結局、最後まで報告書を読まなかったから、報告書の真の狙いを理解する前に「拒絶」してしまったのだろう。攻める方も守る方もいい加減なのだ。

7月の参議院選挙を控えて、とにかく安倍晋三首相と与党を攻撃したい野党と、問題を小さくしたい政府・与党。ただそれだけの不毛な論戦だった。

「年金制度は100年安心」はウソではない

今回の騒動は、国民が年金問題を改めて考える良い契機にはなった。自民党公明党はこの10年あまり「年金制度は100年安心」と言い続けてきた。年金保険料の負担率の上限を決め、経済情勢に合わせて支給額を見直す「マクロ経済スライド」を導入したことで、確かに年金制度自体は「100年安心」で、崩壊することはなくなった。だが、それは、100歳まで長生きする高齢者が安心して暮らせると言っているわけではもちろんない。

野党が「100年安心」と「95歳まで生きたら2000万円赤字」という報告書の前提数字を連動させ、「年金詐欺だ」と騒いだのは悪質だが、多くの国民が「老後に向けて2000万円は蓄えないとマズイのか」と思ったのは間違いない。報告書には「平均的な姿をもって一概に述べることは難しい面があるが」と断ったうえで、金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯で2252万円であるとしている。

平均でみれば、保有する金融資産の取り崩しで、95歳までやっていけるということが書かれているのだ。支出額が実際に使われている消費支出を使っているので、収支がバランスするのは、当たり前と言えば当たり前だ。

だれが「年金だけでOK」と考えているのか

今回の議論を聞いている多くの国民も醒めている。「老後の生活は年金ですべてまかなえる」と考える人が、いまどれほどいるだろうか。

日本の貯蓄率は欧米に比べて高い。それは年金だけでは生活費が不足するという認識が一般的だからだ。一方で、貯蓄がなければ、年金だけで生活するしかない。

高齢世帯のうち、貯蓄をつくる余裕のなかった人、特に自営業などで国民年金しか受給できない人は、働ける限り働いている。生活費の不足を補うためだ。国会議員に言われなくても、すでに自助努力しているのだ。

それでは年金は何のためにあるのか。

年金は「保険」であって、「貯金」ではない

厚生年金の正式名称は「厚生年金保険」である。国民年金も掛け金は「保険料」だ。本来、年金は「保険」であって、「貯金」ではない。老後、生活が立ち行かなくなった人には年金(保険金)を支払うが、十二分の所得や資産のある人には支払わない、あるいは減額する、そうした弱者を助ける制度が前提になっている。

世界で初めて老齢年金保険制度をドイツの宰相ビスマルクが導入したのは、鉱山労働者が退職後、身体を患い生活が困窮するのを助けるためだった。困窮世帯が増えることで社会主義が浸透することを避けるのが狙いだったとも言われている。つまり、貧困対策、困窮者救済が年金制度の当初の狙いだったわけだ。

金持ちも「年金は貰わないと損」と考えている

戦後の日本の年金制度では、あたかも掛け金が貯金であるかのような宣伝がなされてきた。現役時代の50%以上の所得を補償しますというのが最たるものだ。だから、豊かな生活を送るのに十分な所得や資産のある高齢者でも、年金は貰わないと損だと考えるようになった。自分は年金を掛けてきたのだから、貰って当然というわけだ。

だが、日本の年金制度は支払った掛け金を積み立てている「積立方式」ではなく、保険料がそのまま現在の高齢者の年金給付に充てられる「賦課方式」になっている。貯金ではないのである。

増税より保険料増のほうが実施しやすい

政府が、年金をあたかも貯金であるかのように国民に思わせてきた理由がもうひとつある。増税に反対する国民も、社会保険料負担の増加は受け入れてきたからだ。いずれ自分の年金給付として戻ってくると思うから、反対が小さいわけだ。

例えば、国民所得のうち、どれだけが租税負担と社会保障負担に回されてきたかを示す「国民負担率」をみると、これが鮮明だ。平成元年度(1989年度)の租税負担は27.7%、年金や健康保険などの社会保障負担は10.2%だった。それが実績が出ている最新の29年度(2017年度)では、租税負担は25.3%、社会保障負担は17.6%である。税負担はむしろ低下しているのに、社会保障負担は大きく増えたのである。国民負担率合計は42.9%と過去最高を更新している。

さすがに年金や健康保険の保険料をこれ以上引き上げることは難しい。後は消費税など租税負担を増やしていくしか方法はない。

今回の報告書を巡る問題は、財務省の深謀遠慮が背景にある、という指摘もある。「老後は2000万円の赤字」というのを喧伝し、十分な年金を支払うためには、もはや増税しかないと言いたいというのだ。老後の豊かな生活を国が保障すべきだと言い始めれば、当然、その分の負担は国民自身が負わなければならない。高負担なくして高福祉はない、というのは当たり前の話だろう。