医療従事者の「労災認定」が急増している…ヤバすぎる長時間労働の現状 感染急拡大でさらに負荷高まる

現代ビジネスに7月29日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85654

「医療・福祉」での認定急増

新型コロナウイルスの東京都での新規感染確認者数が7月27日、2848人と、今年1月7日の2520人を上回り、過去最多を記録した。埼玉でも593人、沖縄でも354人と過去最多を更新。神奈川県も758人と1月以来の700人超えとなるなど感染拡大が広がっている。新型コロナ感染による重傷者数も増加傾向にあり、今後、急速な病床逼迫などへの懸念が一段と強まっている。

そんな中で、医療従事者の精神的負担が高まっていることが大きな問題になっている。新型コロナの感染防御に向けた対策を取っているものの、日々、感染リスクに直面している精神的重圧は想像以上に大きい。厚生労働省が年に1度公表している「過労死等の労災補償状況」にその状況が鮮明に表れている。

発表資料によると、2020年度にうつ病など「精神障害」で労災申請が出された件数は2051件と、2019年度の2060件とほぼ同水準だった。一方で、職務が原因だと因果関係が認められ労災として「支給決定」された件数は608件と前年度の509件から急増した。

中でも目立つのが「医療・福祉」業種での支給決定件数の増加。2019年度の78件から2020年度は148件へと2倍近くに増え、業種別(大分類)でトップに躍り出た。明らかに新型コロナの蔓延が医療・福祉の現場に大きな負荷をかけ、それが精神障害の引き金になっていることをうかがわせる。

他業種は減少だが

例年、支給決定件数が最も多い「製造業」は、100件(2019年度は90件)、「建設業」は43件(同41件)と増加は小さかった。また「宿泊業・飲食サービス業」は2019年度の48件から2020年度に39件に減少、「卸売業・小売業」も74件から63件とむしろ減っており、営業自粛など業務縮小の影響が大きかったことが背景にあるとみられている。

さらに細かく、「医療・福祉」の中を見てみると、「社会保険社会福祉・介護事業」の支給決定件数が79件、同じく「医療業」が69件となり、業種の「中分類」での上位1位2位を占めた。

介護施設など高齢者福祉施設では新型コロナのクラスター(集団感染)が発生するなど、長期にわたって厳しい感染対策が迫られた一方、病院や医院に比べてワクチン接種の開始が遅れたことから、精神的重圧が大きかったとみられる。また、新型コロナと直接戦うことが求められた医療業でも精神的に追い詰められる看護師や医師が多く出た模様だ。

医療業の「支給決定」69件のうち52人が女性で、中でも看護師の精神的負担が大きくなっている様子が見て取れる。支給決定の「職種」でも「保健師助産師・看護師」の支給決定件数が多かった。看護師の場合、交代制で勤務時間は管理されているものの、夜勤なども多く、通常でも大きなストレスを抱えているとされる。そこに新型コロナの「リスク」が加わり、精神的に追い詰められている。

政府対応の後手後手も

引き続き、「長時間労働」による過労が精神障害の原因になっていると見られる例が多い。支給決定者で月平均の残業時間が分かっている人329人のうち、100時間以上の残業をしていた人は122人と37%だった。前の年度は44%だったことを考えると、残業時間が少なめでも精神障害との因果関係を認められているケースが多いことになる。やはり、新型コロナによる精神的重圧の大きさが因果関係として認められているということだろう。

また、過労によって自殺に追い込まれたと認定された人は81人。前の年度の88人に比べて減ったものの、依然として高水準である。

一方で、過労によって脳疾患や心疾患で労災申請した人は784人と前の年度の936人から大きく減った。新型コロナの蔓延で経済活動が停滞していることが一因かもしれない。支給決定件数も194件と216件から減少している。

 

長時間労働」に対する世の中の関心が高まり、政府が「働き方改革」に音頭を取るなど時間短縮の動きが強まったこともあって、脳・心臓疾患による労災申請はこの10年あまり横ばいが続いている。

一方で「精神障害」による申請の増加傾向が急ピッチで続いた。精神障害での申請件数が脳・心臓疾患の申請件数を上回ったのは2007年だが、今では3倍近くにまで増加している。「パワハラ」などによる精神的な重圧に追い詰められたり、過重な労働から来る「ストレス」で精神障害となったり、自殺に追い込まれたりする例が後を絶たない。

「現場では新型コロナ対策への緊張感が続いており、精神的に限界に追い込まれている病院職員も少なくない」と首都圏で新型コロナと戦う医師は語る。

新型コロナの蔓延から1年以上が経っても終息にメドが立たないどころか、インド由来の変異株(デルタ株)の広がりで、感染が急拡大する様相を示している。デルタ株に対する水際対策の不備や、緊急事態宣言の不徹底、東京オリンピックの開催、ワクチン調達・配布の大混乱など、政府の対応が後手後手に回っている印象が拭えない。医療体制の拡充も遅々として進んでおらず、医療現場への負荷は減りそうにない。

「経営不在」「理事長独裁」の私立大学に歯止めはかかるか 文科省「ガバナンス改革会議」渋々発足

現代ビジネスに7月23日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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早くも骨抜き画策

私立大学など学校法人の組織体制を見直す文部科学省の「学校法人ガバナンス改革会議」が始まった。

理事の選解任権や予算決算の承認権を評議員会に与える「ガバナンスの強化」が焦点で、年内に審議結果をまとめて条文化作業に着手、2022年春に国会に私立学校法など関係法令の改正案を提出する。一方で、理事長や理事会へのチェックが強まることに私立大学経営者らが抵抗しており、これに乗った文科省も改革会議の「骨抜き」を画策しているという。

日本の私立大学は、長年にわたる国からの多額の補助金支給で「ぬるま湯」体質が続き、事実上「経営不在」の状況が続いてきた。一方、少子高齢化が進み大学の経営環境が厳しさを増す中で、教授会の位置づけを変え、理事会に経営権を集中する改革などが進められてきた。

そんな中で、一部の私立大学では「理事長独裁」による内紛が世の中を騒がせている。こうしたことから、学校法人の理事会のあり方を見直すべきだという指摘が与党などから高まり、政府は繰り返し「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で改革姿勢を打ち出している。

2019年6月に閣議決定された骨太の方針には以下のような記述がある。

公益法人としての学校法人制度についても、社会福祉法人制度改革や公益社団・財団法人の改革を十分に踏まえ、同等のガバナンス機能が発揮できる制度改正のため、速やかに検討を行う」

少なくとも社会福祉法人や公益財団法人並みのガバナンスに変えることを政府方針として示したわけだ。

それから2年がたった今年6月の骨太の方針にも「手厚い税制優遇を受ける公益法人としての学校法人に相応しいガバナンスの抜本改革につき、年内に結論を得、法制化を行う」と書き込まれた。学校法人が享受している「手厚い税制優遇」は「国民から隠れた補助金」(1回目の会議で配布された会議の「趣旨」)なので、それ相応のガバナンスを効かせる必要がある、というわけだ。

骨太の方針閣議決定された「政治の意思」で、所管する各省庁は真っ先に対応が求められる。この骨太の方針を受けて、文部科学省も渋々なら重い腰を上げたというわけだ。

爆弾が炸裂した

実は文科省は、ガバナンス改革について、今年3月まで「有識者会議」が開かれ、改革案を検討してきた。最大の焦点が「評議員会」の位置づけ。現状の学校法人では、評議員会は理事会の下に置かれる諮問機関と位置付けられ、理事が評議員を兼ねたり、学校法人に雇用されている事務局長などが加わっているケースも少なくない。これを、理事を選任する議決機関とし、理事会の上位に置くことを想定している。

もっとも有識者会議のメンバーには学校法人関係者が多数加わっていたため、抜本的な改革への抵抗が強かったことから、報告書は玉虫色の表現に終わっている点も少なくない。このため、今回スタートした「ガバナンス改革会議」では学校法人の理事長など現職の関係者は委員から除外したうえで、ガバナンスの専門家を集めた。

座長は日本公認会計士協会の会長などを務めた増田宏一氏で、メンバーには弁護士の久保利英明氏や日本監査役協会の会長を務めた岡田譲治・元三井物産副社長、慶應義塾塾長を務め改革派として知られる安西祐一郎氏、中央大学法科大学院教授の野村修也氏などが任命された。大臣直属の会議体という位置づけで、評議員会の強化など改革点を明確化したうえで、法改正を行うこととしている。

会議の設置趣旨やメンバーをみると、文科省も遂に改革派に転じたかのように見えるが、どうも様子が違う。担当の高等教育局私学部私学行政課が、「改革会議自体を骨抜きにするか、空中分解させようと画策しているのではないか」(関係者)との見方が出ている。

会議初日に早速、爆弾が炸裂した。メンバーリストに名前がある本山和夫・東京理科大学会長(元アサヒビール副社長)が初回にもかかわらず欠席したのだが、タイミングを同じくして月刊紙『FACTA』に東京理科大のガバナンスを巡る不祥事が掲載された。

東京理科大で松本洋一郎学長が任期途中で辞任し、後任が決まらない背景に、前理事長の本山氏の存在があると名指しされ、理事長として「独断先行」を繰り返してきたとされている。

3月末で理事長は退任したものの、後任に「子分」を据え、自身は「会長」として権力を握り続けているという。ガバナンス無視の人物がガバナンス改革を担うという悪い冗談のような話になっているのだ。

ゴリ押ししたのは文科省

取材してみると、この本山氏をメンバーに加えたのは文科省の事務方で、「大臣の推薦」だとしてゴリ押ししたのだという。文科省の事務方が東京理科大の混乱を知らないはずはなく、本山氏選任は意図的だというのだ。

実は、本山氏が出てくる前の段階で候補になっていたのが、聖路加国際大学でやはりトラブルの末に理事長を辞めたばかりの糸魚川順氏だったいう。糸魚川氏は、聖路加に長年君臨した日野原重明氏の死去後に理事長になると、やはり「独断先行」を続けていたとされる。トラブルは文科大臣にも報告されていたから、やはり事務方が知らなかったはずはない。

こうしたガバナンス改革を語る「資格」に疑問符の付く人物を改革会議に送り込んだ文科省の意図は、会議自体の信頼性を損なうことで、報告を無視する意向だったのではないか、と見られている。さすがに本山氏は委員を辞任せざるを得ないとみられる。

関係者によると、座長の増田氏がガバナンス会議の設置趣旨を公表するよう求めたにもかかわらず、文科省は最後の最後まで公開に抵抗したという。

他の省庁ならばホームページの冒頭に設置根拠や位置づけを書くのが普通だが、ようやくホームページに掲載された、趣旨を記載されたペーパーには、何と「参考」と書かれている。

会議で自分たちの意にそぐわない結論が出た場合には、会議の結論はあくまで参考だとして、自分たちのやりたいように法改正する準備をしているのだという疑念も改革会議メンバーの間に生まれている、という。

文科省自身が、私立学校の現職経営者の顔色を伺い、理事会のやりたい放題にを是認しようとするのは、文科省の官僚たちが大学法人の常務理事や事務局長などとして天下っていることと無縁ではないだろう。

「残念ながら最悪のシナリオを辿っている」東京五輪後に国民が被る大きすぎる代償  赤字を最後に補填するのは「税金」

プレジデントオンラインに7月22日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/48084

6月20日の緊急事態宣言解除による「人災」ではないか

残念ながら最悪のシナリオを辿っている。日本の新型コロナウイルス対策と東京オリンピックを巡る政府の対応である。

7月12日に4回目の緊急事態宣言が東京都に出されて以降も、新規感染確認者数の増加は止まらない。オリンピックの開会式まで1週間を切った7月17日の東京の感染者は1410人となり、年明けの第3波以来の規模となった。減少に転じる気配はなく、7月23日の開会式は最悪の感染状況の中で行われることになる。

いったい6月20日の緊急事態宣言解除は何だったのだろうか。あの時点では多くの人たちが再び感染拡大が起きることを懸念、まん延防止等重点措置に「緩める」ことに違和感を抱いていた。それでも政府は解除を決め、専門家もそれを追認した。明らかにその結果が開会式を前にした感染拡大である。政府の政策の失敗の結果だと言っていいだろう。あるいは「人災」と言えるかもしれない。

なぜあの時点で解除に踏み切ったか。病床に余裕があるということを理由にしていたが、感染が終息に向かっているというエビデンス(証拠)はなく、再拡大が懸念された。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は1000人超えを「残念ながら想定内」だと発言しているが、想定内だったのならば、なぜ解除を認めたのか専門家としての姿勢が問われる。

「解除」によって「中止の声」を封じ込めた

多くの国民が、6月20日の解除は、オリンピックを開催するためだったと感じている。6月20日の段階になっても多くの国民が「オリンピックはできるのか」と疑問を感じ、世論調査でも「中止すべき」という声が多数を占めていた。これに対して政府は緊急事態宣言を解除し、定員の50%か5000人の少ない方という観客上限を設けてスポーツやイベントなどを認めることで、オリンピック開催に道を開いた。その段階で菅首相は「無観客」も考えると明言していたので、この解除によって最悪でも無観客開催ができる状態に政府がもって行ったわけだ。つまり、6月20日に解除しなければ、国民の間から「中止」の声が強まっていた可能性があったのを、「解除」によって封じ込めたとみていいだろう。

その段階で菅義偉首相は「賭け」に出ていた。ワクチン接種が進めば、感染者が減り、開会式までに状況が一変するのではないか。まさに「ゲーム・チェンジャー」としてワクチンに賭けたわけだ。自衛隊による大規模接種会場の設置や、企業による職域接種の開始で、ワクチン接種は一気に進むかに見えた。内閣支持率もやや持ち直す気配が見えていた。ところが再びワクチン供給が滞り、自治体では予約を取り消す動きが拡大。再び怨嗟の声に満ちた。ワクチン接種をした高齢者の感染者数が大きく減少、ワクチンへの「賭け」が正しかったことが証明されつつあったタイミングでのつまずきだった。

失敗に終わった「インド株の水際対策」

また、インド由来の変異型ウイルス(デルタ株)が予想以上に拡大したことも菅首相が賭けに「負ける」要因になった。変異株によって若年層での感染が爆発的に増加、重症化する事例も出始めた。感染力も重症化度も従来株以上という当初の見立てが証明されつつある。変異型の流行は、菅首相にとっては不運のようにも見えるが、実際はこれも政策の失敗に起因していた。「水際対策」の失敗である。

「文藝春秋」8月号で、政府分科会のメンバーである小林慶一慶應義塾大学教授が水際対策の「失敗」を暴露している。インド株を日本に持ち込ませないために水際対策を強化するよう分科会で主張。「インド等からの入国者の停留(検疫法が定める宿泊施設での待機)を豪州、NZと同じように十四日間にすべきだと言った」のだという。これに対して厚労省は「三日間の停留のあとは、十一日間の自宅待機となっていて、合計十四日間は待機しているから大丈夫だ」と答えていたという。国内でインド株感染者が次々に確認されるに及んで、5月28日から10日間の停留に延長されたが、遅きに失したことで、感染爆発へとつながった。小林教授は「インド株の水際対策は失敗に終わりました」と結論づけている。

エビデンス」を示さないから、要請も無視される

小林教授は2020年夏の段階で、徹底的にPCR検査を実施することを政府に求める提言書を有識者と共にまとめた。検査の徹底でウイルス感染者を炙り出すことでウイルスを抹殺する戦略を求めたわけだが、結局、目立って検査数は増えなかった。結果、感染経路がほとんど解明できずにきた。感染経路や感染理由が明確に分からなければ具体的な対策のしようもない。飲食店が槍玉に挙げられ、アルコールが悪玉として排除されているが、多くの飲食店経営者などが酒を原因とする「エビデンス」が不十分だと感じている。

人々が納得できる「エビデンス」を政府が明確に示さないから、繁華街の飲食店で要請を無視して酒を提供す店が続出、若者を中心に店は満員盛況といった有様になっている。

そんな最中、西村康稔経済再生担当相が、要請に従わない飲食店に、取引先金融機関から改めて要請させることや、取引先酒販店に取引を停止するよう求めることを公表。そうした政府の「高圧的なやり方」に反発が広がった。西村氏は方針撤回に追い込まれたが、これも多くの国民が政府をもはや信用しなくなっていることの現れだった。

「安心安全な大会」が大きく揺らぎだした

菅首相は、まさしく壊れたテープレコーダーばりに「安全安心な大会を実現する」と繰り返して来た。ところが、その「安全安心」も大きく揺らいでいる。

選手団などからPCR検査で陽性になる人が続出。7月17日には15人、18日には10人が確認された。東京晴海の選手村の中でも感染者が確認されている。菅首相が国会答弁で繰り返した「国民と大会参加者の導線は完全に分ける」という施策も、「いい加減」であることが次々と判明している。到着ロビーでの動線が一般客と分離されておらず、トイレも同じだったことが野党の追及で明らかになった。また、ホテルに宿泊している経過観察中の記者などが15分以内ならコンビニに買い物に行けることになっていたことも分かった。ルールを破って外出している人も多く出ているという話も流れている。

国際オリンピック委員会トーマス・バッハ会長も小池百合子都知事に会った際に、「日本の皆さんのリスクはゼロ」と発言。参加者から感染者が出ている中での「根拠なき発言」にネット上では大炎上する事態になっている。

組織委が赤字を払えなければ、都民にツケが回る

菅首相は選挙しか興味がない」と自民党のベテラン政治家は言う。「会って飯を食っても選挙の話しかしない」と言うのだ。菅首相は、緊急事態宣言を出すかどうか、オリンピックをやるかどうか、無観客にするかどうか、もすべて「選挙に有利に働くかどうか」で決めてきたのかもしれない。菅首相からすれば、ワクチン接種を進めて「ゲーム・チャンジャー」にして、オリンピックを実施し、成功裏に終わらせれば、内閣支持率は一気に回復すると期待したのだろう。だが、残念ながら菅首相の思うようには進んでいない。

時事通信が7月16日に発表した世論調査(調査期間7月9日から12日まで)によると、菅内閣の支持率は29.3%と発足以来最低を記録、「危険水域」とされる20%台に沈んだ。不支持率も49.8%に急上昇した。これに続いて、ANNが7月19日に実施した世論調査でも内閣支持率が29.6%に留まった。ワクチン接種の進み具合について66%が「うまくいっていない」と答えており、菅首相の賭けが外れていることを示している。

「競技が始まれば、日本選手の活躍に熱狂して、やって良かったというムードに変わるんじゃないか」と幹部官僚は言う。だが、短い祭典が終われば、そのツケをどう処理するか、という問題に直面する。

無観客となったことで、観光収入など経済効果はほとんど見込めない。国立競技場の建設や道路工事などにすでに3兆円以上が使われたが、チケット収入もなく、赤字が残ることになりそう。赤字は組織委員会が負担できなければ東京都が被ることになっており、結局は都民に税金の形でツケが回る。各国の首脳などの来日キャンセルが続いており、いわゆる五輪外交のメリットもない。新型コロナ対策の経済政策もあり、国の借金は1200兆円を超えている。国民の大きな犠牲を横目に、オリンピックがいよいよ始まる。

東芝の株主総会で取締役会議長が 再任否決

CFO協会のWEBマガジン「CFO FORUM」に定期的に連載している『COMPASS』に7月15日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://forum.cfo.jp/cfoforum/?p=19216/

 2021年6月25日に開かれた東芝の定時株主総会で、取締役会議長の再任が否決されるという前代未聞の事態が発生した。様々な議案で株主提案が可決されるケース増えているとはいえ、伝統的な大企業で会社側提案の取締役、しかも議長という中核人物の選任が否決されたのは衝撃的だ。

 再任が否決されたのは永山治氏。中外製薬の社長として、スイスの製薬大手ロシュとの提携に踏み切るなど、先見性に富んだ経営者として知られる。同社会長を務めるかたわら、ソニー社外取締役にも就任、取締役会議長などとして同社の経営再建にも主導的な役割を果たした。2020年7月の東芝の総会で社外取締役として選出され、取締役会議長として、混乱が続く同社の立て直しに当たっていた。


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国民は従わせればいい? 国民感覚から遊離した「菅官僚内閣」  西村大臣「圧力」発言の「出所」

現代ビジネスに7月16日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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霞ヶ関の牢固な体質

「由(よ)らしむべし、知らしむべからず」――。駆け出しの新聞記者の頃、大蔵省(現財務省)などを取材していると、そんな言葉を口にする幹部官僚がいた。

論語」泰伯の言葉で、人民を為政者の施政に従わせることはできるが、その道理を理解させることはむずかしい、というのが本来の意味だそうだが、もっぱら当時の官僚たちは、為政者は人民を施政に従わせればよいのであり、その道理を人民にわからせる必要はない、といった意味で使っていた。

選抜された優秀な我々官僚組織に任せておけば良いので、新聞記者なぞを通じて国民に主旨を説明する必要があるのか、というわけだ。

さすがに昨今、そんな言葉を口にする官僚はほとんど見かけない。だが、今でもそうした「体質」が霞が関に残っているのだということを今回は痛感させられた。

西村康稔・経済再生担当相が発した、酒の提供自粛に応じない店舗への「圧力」に2つのルートを使おうとした問題である。

2つのルートとは、酒の提供を続ける店舗と取引のある金融機関と、酒を卸している酒販店。従わない店舗の情報を金融機関に知らせ、その金融機関が店舗に改めて自粛するよう「要請」する、あるいは酒販店に連絡して販売を止めるよう「要請」するというものだった。

金融機関は当然、居酒屋などの店舗に貸付を行なっているわけで、それを背景に「要請」するということは、従わないなら困っても助けないぞ、という事になる。さすがに、独禁法が禁じる「優越的地位の濫用」に当たるのではないか、あまりにも上から目線だ、といった批判が巻き起こり、西村大臣はすぐさま撤回に追い込まれた。

それでも酒販店ルートは残っていたが、自民党内からも批判の声が上がり、これまた西村大臣が撤回を表明するに至っている。

政権ぐるみの発想では

加藤勝信官房長官が西村大臣に注意したと語るなど、あたかも西村大臣の思い付きによるスタンドプレーであったかのような印象を与えているが、実際はそうではない。

西村大臣が金融機関からの働きかけを表明したのは7月8日のこと。記者会見での発言で大騒ぎになった。だが、その時点で、官僚機構を通じた指示が出ていた。

同日付の「内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長」から「各府省庁担当課室」宛の依頼文書を、山尾志桜里議員が入手、SNS上で公開している。そこには、「貴府省庁が所管する金融機関等が、融資先等の事業者等に対し、(中略)新型コロナウイルス感染症対策の徹底を働きかけていただきますよう、よろしくお取り計らいをお願いします」と書かれている。

また、同日、内閣官房と「国税庁酒税課」の連名で、「酒類業中央団体連絡協議会各組合」に出した事務連絡でも「酒類販売業者におかれては(中略)飲食店が同要請等に応じていないことを把握した場合には(中略)当該飲食店と酒類の取引を停止するようお願いします」とされている。

つまり、西村氏が発言した段階では、関係する複数の官僚組織が正式に議論した上で、行政文書を出していたのである。ちなみに金融機関は銀行から農協まで様々なので、関係する省庁は、金融庁財務省経済産業省農林水産省と多岐にわたり、文書を出すに当たって、事前に調整が行われていたことは明らかだ。

その後の報道では、こうした調整については菅義偉首相ら関係大臣に事務方から説明がされていたことも明らかになっている。

菅首相は9日午前の段階では西村発言について「承知していない」と述べ、あくまで西村大臣の発案であるかのような態度を示していた。

また、酒販業者への文書を出した財務省麻生太郎大臣は、説明を受けたのは9日だったとした上で、「違うんじゃねぇ。言っていることが分からないからほっとけ」と言ったとしているが、これも逃げ口上に聞こえる。

結局、国税庁の事務連絡を撤回したのは7月13日になってからだった。

もう国民は信じていない

7月12日に東京都に緊急事態宣言が再発出されても、人流はほとんど減っていない。7月14日には東京都の新規感染確認者が1149人と、5月13日以来の1000人超えとなった。インドで確認された変異ウイルス「デルタ株」が急速に広がっていることや、若年層での重症化が進んでいるといった報道にもかかわらず、人々の警戒心は高まらない。

しかも今回の緊急事態宣言はオリンピックが終わった後の8月22日までと長期にわたることで、居酒屋やバーなどにとっての休業要請はまさに死活問題。もはや政府の言うことには従えないとばかりに、深夜まで酒類営業を始めるところも出ている。

 

蔓延防止等重点措置を緊急事態宣言に切り替えた以上、「より厳しい措置」が必要だと考えた官僚が思いついたのが、2つのルートを使った「圧力」だったというわけだ。

この2つはともに「免許業種」で監督官庁が存在する。法的根拠はなくても「お上」の言うことには逆らえない業界である。それが分かっているからこそ、官僚たちはこの手を思いついたのだろう。

西村大臣も経産省の官僚出身。内閣官房をまとめる加藤官房長官財務省出身だ。菅首相は第2次以降の安倍晋三内閣で7年8カ月にわたって官房長官を務め、官僚機構を束ねていた。国民の側に立つ、国民視点の政治家が菅内閣の中枢にいないことが今回の問題の根底にあるのではないか。

今もって西村大臣発言への批判は収まらない。西村大臣は会見で「エビデンス(根拠)」という言葉を多用するが、多くの国民はその説明に納得できずにいる。

6月22日にいったん緊急事態宣言を解除したのも、オリンピックの開催を決めるためだったのだろうと多くの国民が感じている。案の定、新規感染確認者はそれをきっかけに増加に転じている。明らかに判断ミスだが、誰もその責任を取っていない。

菅政権発足以来、学術会議議員任命拒否問題でも理由は説明されず、河合案里議員夫妻による買収の原資になった自民党本部からの1億5000万円の拠出理由もまったく説明がないままだ。

財務省の公文書改竄問題で自殺した赤木俊夫さんが残したファイルも裁判所に命じられてようやく提出したものの、それまでその存否も認めていなかった。もちろん再調査も拒否し続けている。

「知らしむべからず」を続けている菅内閣の官僚体質では、到底、国民に寄り添う政治は望むべくもない。

 

夏の賞与たった0.025カ月減「民間より厚遇」なのに中堅官僚が次々辞めていく霞が関の根本問題 50歳になるまで課長になれない

プレジデントオンラインに7月12日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/47765

いつの間にか「民間水準」を上回っていた

国家公務員に6月30日、夏のボーナス(勤勉手当)が支給された。管理職を除く平均支給額はおよそ66万1100円で、去年に比べておよそ1万9000円減った。夏の賞与が減るのは9年ぶりだという。9年前の減少は東日本大震災で復興のために増税することとなり、政治家も官僚も痛みを分かちあうべきだとして給与カットが行われた。今回の引き下げは「民間企業との格差を解消するため」で、0.025カ月分引き下げられた。率にして約2.8%の減少である。冬のボーナスは昨年まで3年連続で引き下げられており、公務員も「冬の時代」になったかのように見える。

だが、「民間企業並み」にするためにボーナスを引き下げるということは、いつの間にか民間よりも待遇が良くなっていたということでもある。公務員は「薄給だ」という印象が強いが、実際にはこの20年あまり、民間の給与水準がほとんど上昇しない中で、公務員の給与はなかば自動的に上昇してきたことから、いつの間にか民間水準を上回っていたわけである。しかもしばしば「公務員の味方」と言われる「人事院」が引き下げを求めているのだから、官僚機構自ら「公務員天国」であることを認めているに等しい。

自衛官などの特別職は含まれていない

ちなみに、公務員給与が高いと書くと、現場の自衛官や警察官は薄給で世の中のために働いているのだ、という批判をする人がいる。だが、ここで内閣人事局が「国家公務員」と言っているのは、自衛官などの特別職をのぞいた霞が関で働く官僚たちのこと。しかも、各省庁の事務次官や局長、課長など管理職は含まれていない。ちなみに事務次官のボーナスは323万円、局長級で250万円、課長でも180万円前後と見られている。

この国家公務員のボーナスは、給与とともに民間の支給実績を調べて、それに準拠して決められる。独立した国の機関である人事院が政府に「勧告」を出し、政府はそれに従って増減を決める。基本的には4月の民間給与と、前年8月から7月までの民間の賞与を調べ、4月分の公務員の給与水準と比較して、改定を行う。毎年夏に「人事院勧告」が出され、それを政府が受けて秋の臨時国会に法案を提出、年末に給与改定が行われる。夏の賞与は昨年末の改定でほぼ水準が決まっていた。

「民間並み」にそろえることが本当に正しいのか

国家公務員に「民間並み」の給与・賞与を保証するのは、公務員はストライキなどを行う「争議権」が認められていないからだと説明されている。だが、この説明には異論もある。というのも、国家公務員は犯罪に手を染めるなどよほどのことがない限り、クビになることはない。企業と違って、業績が悪いからリストラが行われることはないのだ。

 

また、多くの場合、俸給表に従って毎年給与が増え続けていく仕組みだが、これもよほどのことをしない限り、降格されることがない。公務員も業務遂行の実績によって、ボーナスが増減する評価制度が導入されているが、ほとんどが優秀だという評価になっていて、ボーナスが大きく削られるような人はごくまれだ。つまり「身分保証」が民間とはまったく比べものにならないのである。

民間企業で働いている人には業績でボーナスが大きく増減したり、リストラでクビになったりする「リスク」があるわけで、本来そうしたリスクがほとんどない国家公務員よりもリスク分給与賞与が高くなるべきだ。つまり、公務員給与・賞与を「民間並み」にそろえることが本当に正しいのか、という疑問が湧く。

また、2.8%の減少という夏のボーナスの減少率が「民間並み」だったのか、というとそうでもない。経団連が集計した大企業の夏の賞与の1次集計によると、前年度比7.28%の減少だったという。新型コロナウイルスの蔓延による経済活動の冷え込みで、企業が財布のヒモを締めたことが背景にある。国家公務員の賞与が9年ぶりに減ったからと言って、決して「民間並み」の減り方をしたとは言えないのである。

中央官庁の中堅官僚が次々に辞めている

だからといって、国家公務員の給与を引き下げよ、と言っているのではない。一方で、中央官庁の中堅官僚が次々に辞めている、という事実もある。圧倒的に「仕事が忙しい」というのが理由で、行政改革担当相の河野太郎氏は公務員の残業の圧縮など「働き方改革」に旗を振っている。早朝から深夜まで働かざるを得ない官僚たちにとっては、給与や賞与は決して高くない、ということになる。

霞が関を離れる決断をした官僚に聞くと、「忙しいのが嫌だ」という声は実は少ない。プライベートの時間もなくなるほどの勤務体制に嫌気が差しているのは事実なのだが、中央官庁の官僚を目指した段階から、「忙しい」ことも、「給与が決してべらぼうに高いわけではない」ことも覚悟の上で入ってきている。

東大生の人気就職先であるマッキンゼーなどの戦略コンサルティング・ファームは役所の若手に比べればはるかに高給だが、仕事が楽なわけではない。猛烈に忙しく、早朝から深夜まで当たり前のように仕事をしている。

課長になるまで25年、下積み期間の長さに絶望

それでも役所に見切りを付けて辞めていくのは、仕事の忙しさが「無意味だ」と感じるケースが少なくないからのようだ。年功序列がいまもって崩れていない霞が関では、責任をもって仕事ができる「課長」になる年齢がどんどん高齢化し、今は50歳以上が多い。入省から25年くらいかかるのだ。その間、下積みが続き、大きな仕事を任せられることもどんどん少なくなっている。

かつては課長と言えば、大きな権限を握っていたが、今は局長や審議官にならないと実質的な決定権がない。つまり、役所に入ってもキャリアパスを描けなくなっているのだ。もちろん、その間、給与は少しずつ増え続けていくから、「安定」を求める人には天国のような職場かもしれない。

6月には通常国会で公務員の定年延長法案が可決された。段階的に65歳に引き上げられる。同時に役職定年制が導入されたが、若手の官僚たちはこれで課長になる年齢がさらに上がっていくのではないか、と危惧している。ますます下積みの期間が延びることになりかねないのだ。

給与体系を変えなければ、優秀な人材は来ない

今の若者には、「ひとつの会社で定年まで働き続ける」と考えている人はほとんどいない。若いうちにキャリアを磨き、いくつかの会社を転々としてキャリアアップしていく、という欧米型のスタイルに、少なくとも意識は変わってきている。そうしたキャリアデザインから霞が関は外れてしまったということなのだ。給与や賞与の支給方法も、同期入省ならほとんど横並びで、毎年少しずつ増えていく、という終身雇用年功序列賃金を前提にした仕組みを、そもそも若者が求めていないのである。

若くても活躍できるポストを与えられ、給与もそれなりにもらえる。そんな給与体系に変えなければ、優秀な人材ほど官僚を志望せず、育った官僚ほど中途で辞めていく事態は続くだろう。

2007年に第1次安倍晋三内閣が公務員制度改革に着手しようとした際、霞が関はこぞって反対した。「消えた年金問題」も安倍内閣公務員制度改革を潰すために官僚機構が流した「自爆テロ」だったという説もある。結果、第1次安倍内閣はわずか1年の短命に終わった。それ以降も、公務員制度改革は遅々として進んでいない。

改革派・川本裕子氏が人事院総裁に就任

だが、最近は優秀な官僚の間からも公務員の人事俸給制度を抜本的に変えないと、もはや優秀な人材が霞が関に来ないという危機感を露わにする人が増えた。一律横並びで昇進し給与も増えていく仕組みではなく、若くても抜擢でき、ポストによって給与も大きく差をつけ、実績によって賞与を弾むことができる仕組みが必要だというのだ。

 

菅義偉内閣は、人事院総裁に民間の川本裕子・早稲田大学大学院経営管理研究科教授を指名した。旧東京銀行を経てマッキンゼーコンサルタントとして活躍、さまざまな政府の委員を歴任した。政府の審議会では歯に衣着せぬ発言をする改革派として知られてきた。菅官邸が川本氏に人事制度改革の勧告を期待しているのかと思いきや、どうもそうではないらしい。官邸に近い自民党幹部によると、川本氏を選んだのは「女性だから」。菅内閣ジェンダーバランスに配慮しているということを示したかっただけだ、というのだ。

さて、川本氏が霞が関の人事のあり方にどんなスタンスで立ち向かうのか。今まで通り、霞が関ムラが喜ぶ給与引き上げ、賞与引き上げの勧告を出すだけの存在で終わるのか。大いに注目したい。

コロナで経済大打撃のはずが過去最高税収、で消費減税? 財政出動?  給付金等が回り回って

現代ビジネスに7月9日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85004

予想に反して

新型コロナウイルスの蔓延で経済が大打撃を受けた2020年度が、予想に反して過去最高の税収額を記録したことが分かった。

飲食など影響を受けた業種もあった一方で、「巣篭もり需要や米中経済の回復を背景に法人税収が上振れ」(時事通信)したことなどが理由に挙げられているが、2019年10月から消費増税の効果なども大きく、残念ながら「景気回復で税収が増えている」と単純に喜ぶことはできそうにない。

財務省が7月5日に発表した「令和2年度決算概要(見込み)」などによると、国の一般会計の税収は、前年度より2兆3801億円多い60兆8216億円となり、2018年度以来2年ぶりに過去最高を更新した。

消費税の税収が前年度より2兆6187億円も増加。20兆9714億円と過去最高を記録したが、これは消費税率10%が初めて年間でフルに寄与したことが大きい。

法人税収は4375億円増の11兆2346億円となった。昨年末時点の予想より3兆円以上も上ブレしたが、税収額としては消費税に初めて抜かれた。所得税も前年度より191億円多い19兆1898億円だった。

だからといって景気回復なのか

新型コロナでの経済への打撃は深刻だと予想されていただけに、税収が最高を更新したのは予想外とも言えるが、決して景気回復を単純に示しているわけではない。新型コロナ対策として注ぎ込まれた巨額の助成金などが、回り回って税収増につながっている効果が大きいように思われる。

まず、所得税。税収が増えたということは、所得が増えたということだが、企業で働く人たちが、給与が大幅に増えた実感はないだろう。また個人で事業をやっている人たちが、自分の給与を増やしたケースも少ないのではないか。つまり、所得が増えた実感がある人は乏しいだろう。

にもかかわらず所得が増えているのは、個人への特別定額給付金や事業者への持続化給付金、各種の休業補償金などの収入が増えているのではないか。それらが税務申告されているとも思えないが、いずれにせよ政府支出が家計に回り、結果的に所得税が増えたと言えるのではないか。あるいは、土地や株式など資産価格が上昇したことで、その売却収入が所得増につながっていたのかもしれない。

企業の法人税が予想を大幅に上回ったのは、家電業界など一部の業界で予想以上に需要が伸びたことも要因には違いない。

雇用調整助成金の効果

だが、一方で、雇用を維持するために政府が巨額の雇用調整助成金を支出したことで、本来企業が負担してきた人件費が「軽く」なった可能性もある。つまり、企業のコストを政府が肩代わりした結果、企業収益が予想ほど悪化せず、結果的に法人税収増につながったと見ることもできそうだ。なにせ、2020年度末までに累計で3兆1555億円も支出されているのだ。

企業経営者に聞くと、前年度は緊急事態宣言の発出で、営業活動などができなかったことで経費が大幅に減少したという。また、テレワークが広がったことで、オフィスの光熱費などが驚くほど削減できたという声も多い。こうした経費の激減によって、当初は赤字を見込んだ企業が、結果的に黒字決算になるところも少なくなかった。

このように企業収益が予想以上に落ち込まなかったことで、企業は人員に手をつけるリストラなどに踏み切らずに済んでおり、結果的に、合計額で見た個人の所得は減らなかったということだろう。

もちろん、これは合計の話であって、外食や宿泊など大打撃を被った業界で働いていた非正規雇用の人など、収入が激減している人も少なからずいる。新型コロナによって深刻な格差が生じているのは明らかだ。

だが、そうした全体として見た所得の維持が、消費に結びついていたことが消費税収の増加からも分かる。消費税収が増えたのは前述の通り、税率変更の影響が大きいのだが、それでも単純計算で逆算して消費額を試算すれば、若干ながら消費自体は伸びていることが分かる。ただし消費増税前の2018年度の消費額には及ばなかったと見られる。

総務省が発表する「家計調査」で消費支出の推移を見ても、定額給付金が支払われた2020年5月から夏にかけて実収入が大幅に増加。それにつれて消費支出も大幅に伸びていた。政府の様々な助成金が所得を押し上げ、消費も増やしたことで、回り回って結果的に税収も増えているわけだ。

つまり、2020年度に記録した最高の税収額というのは多分にイレギュラーな要素が大きい。税率引き上げと様々な頃な対策助成金の効果だ。

さて、2021年度以降

問題は、こうした対策が切れていく2021年度以降の景気の「実態」がどうなるか。そして税収増が続くかどうかである。新型コロナ対策費の巨額支出によって、いわゆる国の借金は1200兆円を突破した。いずれ、この借金返済に向けた増税などが議論になってくるだろう。そうなった時に景気回復を維持できるのかどうか。

まずは、ワクチン接種の進展で、経済活動が徐々に再開されることが期待される。本格的に「人流」の増加が認められるようになっていく中で、経済を大きく伸ばす「起爆剤」をどのタイミングで打つか。「GoToキャンペーン」のような政府支出でそれを行うのか。さもなくば、期限を区切った消費税減税に踏み切るのか。

当初予想された税収の大幅減少が起きたならば、国は手足を縛られ、財政出動も減税もできなくなるところだったが、今回明らかになった税収状況からすれば、思い切って消費を回復させるための消費減税などに打って出る余地が生まれている。

消費減税は野党が要望していることもあり、秋の総選挙をにらんで、もしかすると政権浮揚の起死回生の一打として現実味を帯びてくるかもしれない。