伝道師・江島健太郎「Quora」日本代表が目指す新しい“知の集積”  フェイクのない言論空間を作りたい

現代ビジネスに4月2日に掲載されました。是非ご覧ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71547

情報伝達や言論活動がインターネットによって大きく変わったのは言うまでもない。だが一方で、真実かどうか分からない情報や意図的な誤情報、いわゆる「フェイク・ニュース」がネット上に氾濫することになったのも事実だ。ネット上に嘘のない言論空間や正しい情報だけが流れる場はできないのか。

2010年に、知識共有プラットフォームを目指して米国でスタートしたSNSサービス「Quora」の日本代表でエバンジェリスト(伝道師)の肩書きを持つ江島健太郎さんに聞いた。

SNSにまともな言論空間はほとんどない

 新型コロナウイルスの世界的な感染爆発によって、なかなか直接会っての情報交換が難しくなる中で、ネット上の情報が一段と大きな影響力を持つようになっています。

江島 SNSソーシャルメディアの広がりで、ネット上に流れる情報量は大きく増えました。しかし、「言論空間」としてまともな存在になっているものは、まだほとんどないのではないでしょうか。

新聞など旧来のジャーナリズムは中立公正を重視し、両論併記を心がけるなど、言論が守るべきルールを保ってきました。ところが、SNSなどのネット上の場合、議論というよりも、自分に似た意見に同調し、「信念を強化」する場になっています。

 他人の意見を聞かなくなっている、と。

江島 ええ。自分の意見と同じ人をフォローしたり、つながったりする事で、自分に近い意見しか入ってこなくなります。自分と違う他人の意見はどんどん聞かなくなって、閉じこもっています。

 自分が気に食わないニュースについて「フェイク・ニュースだ」と攻撃するパターンですね。

江島 今、世界の政治情勢を見ていると、過激な指導者を一定の熱心な人たちが支持し、一方でまったく支持しない人との間には、大きな断絶が生じている。世界の分断と言われますが、これはSNSなどネット上の言論の広がりによって、こうした分断を生んでいるのではないかと考えています。

正しい情報を元に、知的な議論ができる場はできないか、と長年考えてきました。

Q&Aで専門知識を共有化

 そしてQuoraに出会った。

江島 はい。QuoraはもともとFacebookの初代CTO(最高技術責任者)だったアダム・ディアンジェロが作った会社が始めたサービスです。アダムは、すでにFacebookで資産を得ているので、経済的な大成功を追い求めるのではなく、世の中にとって価値のある事をやりたい、と言って生まれたのがQuoraです。

「知識を深めて広める」と言うのがミッションで、Q&Aスタイルで、それぞれの人の脳に眠っている知識をオンライン上に引っ張り出す事で共有財産化する事を狙っています。ウイキペディアとやろうとしている事は同じです。

 Q&Aの形をとっているのですね。

江島 専門家の知識を引き出すのにQ&A形式は大きな力を発揮します。ただ、あるテーマについて原稿を書いてください、と言うよりも、質問が的を得ていれば、より良い回答が引き出せます。ツイッターと同じように短い文章で「質問」を出すと、それに専門知識を持っている人たちが答えるわけです。

素晴らしい質問をする質問者を評価する仕組みも導入しています。パートナーと呼ぶ会員に奨励金を出し、質問する人を増やす工夫をしています。

実名性にこだわる

 誤った情報やフェイクニュースを防ぐことができるのですか。

江島 実名性にこだわっています。回答者が実名で答えることによって、誤情報やフェイクがかなりの部分防げます。

Quoraには実名で、専門家や有名人が多く参加しています。英語版ではバラク・オバマ氏やヒラリー・クリントン氏などの政治家もユーザーに名を連ね、政策に対する質問などに答えています。

日本人では宇宙飛行士の野口聡一さんもユーザーです。Quoraは専門性の高い領域が狭い質問に強い特徴があると思います。

 実名にすることできちんとした議論ができるようになりますか。

江島 当初、実名にすると日本人は本音を言わないのではないか、という危惧があったのですが、杞憂でした。もちろん、良い回答か、読むに値するコンテンツかどうかは評価しなければなりません。

Quoraの仕組みではAI(人工知能)を使って自動的に評価を行う仕組みを導入しています。ただ現実にはAI任せでは無理なので、人も評価に加わっています。犯罪に繋がる専門知識などが広がることは避けなければなりませんから。

フェイクニュースを排除したい

 日本ではQuoraの知名度はまだこれからのようですが。

江島 全世界で月間のユニークビジター数が3億人を超える巨大プラットフォームになっています。日本語版は2017年11月にスタートしました。アカウント数などは公表していませんが、日本でも誰でも知っているプラットフォームになっていくと思います。

 新型コロナウイルスに関する情報を扱うQ&Aも増えているようですね。

江島 テーマ別に知識を共有できる「スペース」という機能があり、日本語版でも2019年4月からリリースしました。同じ興味やバックグラウンドを持つ人たちが集まり、情報を交換したり、専門分野に特化した知識コンテンツをシェアし合う仕組みです。

すでに「新型コロナウイルス情報室」というスペースを立ち上げています。医師や研究者などの専門家が集まることで、デマやフェイクニュースを排除し、正しい情報交換、意見交換ができると期待しています。

 

【江島健太郎(えじま・けんたろう)】 香川県生まれ。1998年、京都大学工学部卒業、日本オラクルに入社。その後、インフォテリアに移り、インフォテリアUSA設立のためシリコンバレーへ渡米。パンカクに参画、ニューヨークにてEast Meet Eastを創業し、その後帰国。Quoraのユーザーだったことがきっかけで、米Quora社の日本進出を担当することに。

森友問題「麻生財務相」辞任を阻止した「財務省」の悪知恵

新潮社フォーサイトに4月1日に掲載された拙稿です。オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/46732

 世の中は新型コロナウイルスへの対応一色の様相を呈して来た。ニュースもSNS上も新型コロナ関連の情報が溢れている。

 もちろん、新型コロナとの闘いは目下の最重要課題なので、そうした議論や情報は必要だが、だからと言って、本来ならば世の中を揺るがす問題が、新型コロナ対策にかき消されることになってはならない。

コンプライアンスなど全くない〉

 その1つが森友学園問題だ。2018年3月に自殺した赤木俊夫・財務省近畿財務局上席国有財産管理官が残した遺書と手記を、赤木さんの妻が2年を経た2020年3月に公表。国を相手取って訴訟を起こした。夫が自殺するに至った公文書改ざんの「真実」を法廷で明らかにしたい、というのが遺書公表と訴訟の狙いだという。

・・・この続きは、会員登録をすることで読むことができます。是非登録ください・・・

「全体がひとつの旅館」でまちおこしに成功した城崎温泉

雑誌Wedgeに連載中の『Value Maker』、WEB版のWedge Infinityに再掲載されています。是非ご覧ください。オリジナルページ→

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/17040

 文豪・志賀直哉の「城(き)の崎(さき)にて」で知られる兵庫県豊岡市城崎温泉には、一風変わった「おきて」がある。

 それぞれの旅館やホテルにある温泉の浴槽の大きさが一定の広さ以下に制限されているのだ。

 旅行客は温泉宿の湯に入るのではなく、もっぱら浴衣(ゆかた)、に着替えて手ぬぐいを持ち、温泉街に7つある「外湯」へと出かけていく。たいがいの旅館がフロントでバーコードの付いたカードを渡し、客は外湯の入り口でそれをかざして無料で入浴する仕組みだ。

 川沿いに柳の木が植わり木造3階建ての旅館が並ぶ温泉街を、浴衣でそぞろ歩くのは何とも情緒がある。最近は欧米を中心に外国人観光客の間で大人気の観光スポットになっている。

 実は、浴槽制限には昔からの城崎温泉の哲学が隠されている。「まち全体がひとつの旅館」という考え方だ。それぞれの旅館は「客室」で、駅が「玄関」、道は「廊下」、土産物屋は「売店」で、外湯が「大浴場」。スナックやバーもまちなかに並ぶ。

 有名温泉地の大ホテルによくある、スナックやカラオケからラーメン屋まで館内にそろっているというスタイルとはまったく逆なのだ。温泉街全体が豊かになり、まちとして活気にあふれることで、皆が潤う。そんな「共存共栄」が基本になっている。

 このコンセプト、昨日今日に始まったものではない。大正14年、1925年5月に発生した北但(ほくたん)大震災によって、城崎の温泉街は完全に破壊され、発生した大火によって、ことごとく焼失した。当時の温泉旅館の主(あるじ)たちは、街路を整備し、元の木造建ての旅館を再建すると共に、共存共栄のルールを決めたのだ。今も、まちなかには「共栄なくして共存なし」といったキャッチフレーズが貼られている。

 そんな城崎のコンセプトが、ここへ来て新たな花を開き始めている。まちなかに新しいお店が次々とオープンしているのだ。老舗旅館を継いだ若手経営者を中心に、自分たちのまちに「再投資」するようになっている、というのだ。大きなきっかけは、外国人旅行者の急増だ。世界の観光地としてどう城崎温泉を磨いていくのか。そう考える経営者が増えているという。

 「まちのクラブサロンを作ろうと考えたんです」というのは、創業160年の老舗旅館「西村屋」の7代目である西村総一郎社長。44歳。そんな若手経営者のリーダー格だ。メインストリートに面した西村屋本館の隣に、「さんぽう西村屋本店」という新しい施設を建てたのだ。まさに温泉街の中心である。

 1階は遅い時間まで夕食が食べられるレストラン「さんぽうダイニング」、2階はソファーやライティング・デスクが置かれ、飲み物やスナックを用意した「さんぽうサロン」。都会のホテルによくある「クラブ・ラウンジ」を、まちなかに作ったのである。この「サロン」、どこの宿に泊まっている客でも定額2000円(税別)で閉店まで何度でも出入りできる。

 城崎温泉は外湯巡りが名物だが、これまで外湯から外湯へと歩く途中で、のんびり休憩する場所が少なかった。特に冬は雪や寒さをしのぐ場所が欲しい。そんな時にのんびりできる、まさにリビングが誕生したのである。

 1階の入り口には但馬の名産品や西村屋のオリジナル商品などを扱う「さんぽうギフト」も設置した。西村屋の料理人が厳選した松葉蟹と但馬のを合わせた「蟹山椒」は売り切れになるほどの人気商品になった。

 「さんぽう」の名前の由来は「三方良し」。客と店と地域がそろって潤うという精神を表している。まさに、城崎温泉の精神そのものを体現した店名なのだ。また、敷地内には三柱(みはしら)神社があり、そこには火とかまどの守り神である三宝荒神が祭られている。そんな地域の神様への感謝の心も含まれているという。

次々に新店舗

 「さんぽう」だけでなく、城崎には新しいお店が次々にオープンしている。同じく老舗旅館のときわ別館などが出資して作った「ときわガーデン」もそのひとつ。外湯の「地蔵湯」の隣にできた。日本海の海産物や地物野菜などを大きなコンロで焼くバーベキューレストランで、クラフトビールもそろえた。こだわりのコーヒースタンドも併設して、外湯巡りをする人たちがテイクアウトできるオシャレなお店になった。

 昨年10月には、つちや旅館が消防署の跡地を利用して作った「UTUROI TSUCHIYA ANNEX」がオープン。カフェとギャラリー、2階には素泊まり専門の客室を作った。日本画家の山田毅氏が描いた作品に囲まれた空間でくつろぎ、地元の食材にこだわったサンドイッチとコーヒーが楽しめる。

 今、城崎の旅館は深刻な人手不足に悩んでいる。外国人旅行者の急増などで、宿泊希望者はいるにもかかわらず、配膳をする客室係などが足りないため、予約を断るケースまで出ている。
 
 そんな中で、旅館は素泊まりで、まちなかのレストランで食事をする外国人客などは、むしろ大歓迎なのだ。そのためには、オシャレで旅行者に好まれる飲食店が不可欠だ。ときわガーデンやUTUROIのオープンはそうした流れに乗っている。

 そのほか、駅前の土産物店だった太田物産が改装して始めた「キノサキ・バーガー」も人気のお店になった。地元の但馬牛100%使用というこだわりが、外国人旅行者にも受けている。地元の人たちが一押しの寿司店「をり鶴」も改装して、リニューアル・オープンした。

80万人を目指す

 地域の人口減少、高齢化によって失われつつある活力を取り戻すには「2011年に50万人泊を切った年間のべ宿泊者数を、2020年には何とか80万人泊にしたいという目標でやってきた」と西村社長は語る。日本の人口が減る中でも国内の宿泊客数を維持しながら、海外からの宿泊客数を増やす以外に手だてはない。そのためにも、まちが一丸となって温泉街に磨きをかけることが重要になる。

 温泉街のメインストリートは、自動車が自由に走れるため、せっかくの情緒が台無しになっている、と長年言われ続けた。温泉旅館の主たちが要望を続け、温泉街を迂回するバイパス道路の建設が県の計画に盛り込まれた。車が通らなくなれば、温泉街という「旅館全体」の価値が上がる。

 「旅館業は多額の設備投資が必要な分、客単価や稼働率が上がり、損益分岐点を超えると一気に潤う」と西村社長は言う。まち全体の付加価値を高めることで、まち中の皆が潤っていく─。生産性の低さが指摘される日本の宿泊業や小売業にとって、城崎温泉のモデルから学ぶことは多い。(Wedge2019年7月号より)

「五輪延期ショック」到来…!ここにきて消費の底が抜け落ちる 上半期は「強烈な減退」を覚悟せよ

現代ビジネスに連載中の『経済ニュースの裏側』に3月26日に掲載された拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71366

2月の百貨店売上高12.2%減

10月の消費増税以降、大きく落ち込んでいた消費の底が抜けた。新型コロナウイルスの蔓延で、日本を訪れる旅行客が激減、インバウンド消費が落ち込んだことが追い打ちをかけた。日本百貨店協会が3月24日に発表した2月の全国百貨店売上高は3661億円と前年同月比12.2%も減少した。

対前年同月割れは5カ月連続で、増税直後の2019年10月の17.5%減以降、11月6.0%減、12月5.0%減、1月3.1%減とマイナス幅が縮小していたが、2月は再び2ケタの減少となった。前々回の消費増税で税率が5%から8%に引き上げられた2014年4月の12.0%減に匹敵する激震が襲った。

とくにインバウンド消費は壊滅的。訪日旅行客が百貨店で免税手続きをして購入した売上高は110億2000万円と、前年同月比65.4%減と3分の1に落ち込んだ。JINTO(日本政府観光局)の推計によると、2月に日本にやってきた訪日外国人旅行者は108万5000人。前年同月比58.3%減と半分以下になった。

1月27日以降、中国政府が団体海外旅行を禁止したことで、中国からの旅行客が87.9%減とほぼ10分の1となったことが響いた。外交関係が悪化していた韓国からの訪日旅行者も79.9%減となった他、台湾44.9%減、香港35.5%減、シンガポール24.9%減など、アジアからの旅行者が一気に落ち込んだ。

とくに日本で買い物する金額が大きい中国からの旅行者の激減は、百貨店の売り上げを直撃した。

訪日客によるインバウンド消費が多かった大阪の百貨店で売り上げ減少が大きく、21.0%も減った。次いで観光スポットの多い京都が18.4%減、神戸が14.4%減だった。大型クルーズ船の寄港や韓国からの旅行者が多かった福岡も13.8%減少した。また、コロナウイルスへの感染者が広がり活動自粛がいち早く行われた札幌は25.8%減と百貨店消費が凍りついた。ウエートの大きい東京も12.8%減だった。

商品別では外国人観光客に人気の化粧品が26.4%減と大きく落ち込んだほか、ハンドバッグなど「身の回り品」が16.7%減。暖冬の影響で冬物が売れなかった「衣料品」が15.9%も落ち込んだ。高級品消費の動向を示す「美術・宝飾・貴金属」も6.6%減とマイナスになった。

先に行くほど深刻化

しかし、2月の消費激減はまだ序の口かもしれない。

2月1日から日本政府は、新型コロナの蔓延が始まった武漢市を含む湖北省からの外国人入国を規制したが、中国と韓国からの入国制限強化に踏み切ったのは3月9日。2月段階では減ったとはいえ、かろうじてインバウンド消費が残っていた。

実際、百貨店で免税で購入した客の数は13万4000人と66.5%減ったが、それでも中国本土からの旅行者の免税購入が最も多かった。3月はこの中国からの旅行者による購入がさらに激減することは明らかで、インバウンド消費はさらに落ち込むことが確実だ。

一方、国内の消費の落ち込みも3月はさらに大きくなるとみられる。2月の百貨店売上高から免税売上高を引いた「国内売上高」は7.8%減だった。

安倍晋三首相の要請で3月2日から全国の小中高校などが一斉休校になり、会社などにも在宅勤務が広がったことから、3月は国内消費の落ち込みがさらに顕在化することになりそうだ。

4月に入って新型コロナの蔓延が収まるかどうかは微妙な情勢だ。

4月は桜のシーズンで本来ならば海外からの旅行客が押し寄せるシーズンで、訪日旅行客の数は春節よりも多く、夏休みの7月についで2番目に多い月だ。

今年は4月の訪日客が3月以上に落ち込む可能性が高く、インバウンド消費をあてにしていた観光地や百貨店などは大打撃を被ることが確実だ。

消費減税論、復活か

東京オリンピックパラリンピックの1年延期が決まり、夏に向けた消費回復のシナリオも潰えた。2019年に3188万人と過去最多を記録した訪日旅行客数は、オリンピックとパラリンピックに伴う観客や関係者の増加もあり、増加を見込んでいた。

政府は2020年に4000万人突破を掲げていたが、1、2月の累計で前年よりも29.2%も減少しており、目標達成は絶望的になった。

自民党公明党は国民1人当たり10万円の現金や商品券を給付する緊急対策を検討しているが、仮にそれが全額物品購入に回ったとしても、消費を底上げする力には乏しいとみられる。

国際的な人の移動が新型コロナ前に戻るにはかなりの時間を要するとみられ、インバウンド消費が早期に元に戻る可能性は低い。

消費税率を引き下げる案も検討されたが、「消費を下支えする効果は乏しい」(自民党幹部)との声が多く、当面、見送りになった。

もっとも、新型コロナが終息し、消費が下げ止まった段階になれば、消費を回復させる効果があるという声も根強く、追加の景気対策としていずれ消費減税が打ち出される可能性は消えていない。

2019年4月や2019年10月の消費増税が消費に与えたインパクトは大きく、消費を本格的に回復させるには、給与など所得の増加と並んで消費税率の引き下げが効果的だとみられる。

いずれにせよ2020年前半は猛烈に進む消費の減退をどう食い止めるかが大きな課題になる。

関西電力事件・第三者委員会報告、「闇」はこれで完全に暴かれたのか  頑迷で呆れた内向き体質

現代ビジネスに連載中の『経済ニュースの裏側』に3月20日に掲載された拙稿です。是非ご覧ください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71221

75人が金品を受けとり

これで関西電力の「闇」は完全に暴かれたのだろうか。

関西電力の役員らが原子力発電所のある福井県高浜町森山栄治・元助役(故人)から多額の金品を受け取っていた問題を調べていた「第三者委員会(委員長・但木敬一検事総長)」が3月14日に調査報告書をまとめた。

金品を受け取っていた社員は75人と、これまでに公表されていた23人から大幅に増えた。また、受領した金品の総額は3億6000万円相当(昨秋の公表では3億2000万円相当)に上ったことが明らかになった。

これを受けて、事件発覚後も居座ってきた岩根茂樹社長が同日付で辞任、後任に森本孝副社長が昇格した。これで関電は幕引きを図りたいということだろうが、関西電力の「体質」が問われるのはこれからだろう。

「返却の意思等の種々の弁解は可能としても、ユーザー目線で見れば容赦できない背信行為であり、深刻なコンプライアンス違反というしかない」「今回金沢国税局の調査が入った後においても、本件は取締役会でも論議されず、監査役会も取締役会に報告せず、世に公表する道も取らなかった。そのつけも決して軽くはなかったことを肝に銘じるべきである」

委員長の但木氏は200ページにおよぶ報告書の最後に自らの名前で「結語に代えて」を書き、こう苦言を呈している。

受け取った金品への課税まで会社が補填

報告書には、これまで明らかになっていなかった驚きの事実も明らかにした。

受け取った金品について金沢国税局から指摘され、個人所得として修正申告した豊松秀己元副社長ら4人について、関電が税負担分を役員退任後に補填することを決めていた、というのである。報告書にはこうある。

「豊松氏は、2019年6月21日開催の株主総会終結をもって取締役を退任したが、同月22日付で原子力関係を委嘱業務とするエグゼクティブフェローに就任している。そのエグゼクティブフェローの報酬は月額490万円であり、当該報酬には、取締役副社長執行役員の基本報酬をべースとして設定された基本報酬(月額370万円)に加えて、(i)本件金品受領問題に関し豊松氏が納付した修正申告に係る追加納税分の補填(月額30万円)及び(ii)過去の経営不振時の役員報酬カットに対する補填(月額90万円)の趣旨も含まれていた」

受け取った金品への課税まで会社が負担して当然だと考える社風が関電には根付いていた、ということだろう。業績不振で役員報酬をカットする企業は多くあるが、それを退任後に補填するなどという話は聞いたことがない。呆れてモノが言えない、というのはこのことである。

「社外から経営者を呼べ」

報告書では「再発防止策」として、経営陣に社外の人材登用を求めている。「当委員会は、関西電力の内向きの企業体質が本件問題を招来した根本的原因と結論付けた。

何十年もの月日を経て形成されたこの内向きの企業体質を変えるためには、劇的な意識改革が必要である」というのだ。

そのうえで、取締役会長に社外の人材を充てることが重要だとしている。それも「お飾り」ではなく、コーポレートガバナンスの実効性を担う役割を果たさせるべきだ、としているのだ。報告書にはこうある。

「取締役会長は、社外者ではあるものの、関西電力内部に自ら深く手を入れいち早く社内の事情を把握する必要があり、そのための時間と労力を割ける者とすべきである」

おそらくこれを受けて、関電は6月の定時株主総会で社外から会長を迎えることになるだろう。だが、この人物をどうやって選ぶのか。

これまで、機能しなかった社外取締役や社外監査役が、いずれも関西財界の「お友達」で、しかも関西電力と取引関係があったり株式を保有してもらっているなど、到底「独立性」があるとは思えない人たちだった。取締役会での役割も形だけだったことが分かっている。

いくら会長を外から選んでも、独立性のない、関電のやり方を追認する人では体質改善はおぼつかないだろう。

「指名委員会等設置会社」とは

報告書を受けて、経済産業大臣が、関西電力に「業務改善命令」を出した。そこでは、「新たな経営管理体制の構築」として以下の点が示されている。

・指名委員会等設置会社への移行の検討も含めた外部人材を活用した実効的なガバナンス体制の構築
原子力事業本部に対する実効的なガバナンス体制の構築
・監査部門の体制強化及び事務局機能の拡充

電力会社にとって経産大臣からの「命令」は絶対である。取締役の許認可権も経産大臣が握っている。ここまで書かれると、独立社外取締役過半数を占める「指名委員会等設置会社」への移行が不可欠だろう。

日産自動車など不祥事を起こした上場企業は、経営監視機能や大きな方針決定を担う取締役と、日々の執行を担う「執行役」を分離する「指名委員会等設置会社」への移行を行なっている。次期社長の決定権限を現社長が失うことになるため、伝統的な企業の間には抵抗があり、これまで導入する企業が少数にとどまっていた制度だ。

関電のような電力会社は本来、外部からの監視機能が働くこの仕組みを導入すべきだったのだが、結局は会社を揺るがす不祥事が起きるまで、内輪の論理に安住していたわけだ。

果たして、関電は変われるのか。株主総会に向けてどんな経営体制が提案されるのか、今後も目を光らせておくべきだろう。

「含み損はすでに3兆円」日銀だけが買い支える日経平均の先行き不安  新型コロナ対策で「禁じ手」を連発

プレジデントオンラインに連載中の『イソヤマの眼』に3月20日に掲載された拙稿です。是非ご覧ください。オリジナルページ→https://president.jp/articles/-/33835

思い切った追加金融緩和に踏み出した日銀

深刻化する新型コロナウイルスの蔓延は、世界の金融システムを壊すところまで我々を追い込むのだろうか。

世界で株価が乱高下を繰り返し、原油価格も17年ぶりの安値を付けるなど、市場を大きく揺さぶっている。主要国の政府や中央銀行は、思い切った財政出動や、金利の引き下げ、量的緩和などに踏み切り、金融システムの崩壊を必死で支えている。

日本銀行も3月18日と19日に予定していた金融政策決定会合を急遽16日に前倒しして緊急開催し、大幅な量的緩和策の拡充に踏み切った。ETF(上場投資信託)の買い入れを、これまで年間約6兆円保有残高を増加させるとしてきたものを倍増させ、「年間約12兆円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買い入れを行う」とした。

また、不動産投資信託(J-REIT)についても当面年間約1800億円を上限とする水準にペースを上げるとした。コマーシャルペーパー(CP)や社債も合計2兆円の追加買い入れ枠を設定。増額分の買い入れを2020年9月末まで実施することで、企業の資金繰り不安を解消する策を取った。

さらに、2020年9月末までの時限措置として、「企業金融支援特別オペ」を導入し、民間企業債務を担保にして最長1年間、ゼロ%金利で資金供給できるようにした。

市場は「マイナス金利の本格化」を求めていた

かなり思い切った追加金融緩和だったが、市場の反応は冷たかった。

 

当日の、3月16日の東京株式市場では政策決定会合の前倒し開催というニュースを受けていったんは日経平均株価が上昇したものの、緩和策の内容が伝わると大きく下げ、結局429円安の1万7002円で引けた。

翌17日の日経平均株価も荒い値動きとなり9円高で取引を終えたが、18日は284円安となり、3年4カ月ぶりに1万7000円を下回った。

株式市場が反応しなかった最大の理由は、マイナス金利政策の「深掘り」を見送ったことにある。米国のFRB連邦準備制度理事会)が前日の3月15日に臨時の会合を開き、事実上のゼロ金利政策量的緩和策を同時に導入する異例の危機対応に乗り出した。

当然、これによって日本と米国の実質金利差が縮小するため、円高が進行し、株安が続くという見方が広がった。これを止めるためには日本もマイナス金利を本格化させることが必要だと市場は考えたわけだ。

政策決定会合後に会見した黒田東彦日銀総裁は、必要ならば「躊躇なく追加的な緩和措置を講じる」と発言した。現在マイナス0.1%になっている「政策金利」についても「深掘りは可能だ」と語った、というのだ。

民間金融機関を支える「補助金」的な性格

実は、日銀はマイナス金利政策を取っているとは言っても、民間金融機関が日銀に預ける「当座預金」のすべてにマイナス金利を適用しているわけではない。残高のうち「政策金利残高」と呼ばれるごく一部分にだけマイナス0.1%の金利を適用しているのだ。基礎残高と呼ばれる部分にはいまだに0.1%のプラス金利を付けているし、基礎残高と政策金利残高の中間は「ゼロ金利」にしている。

2020年2月の日銀当座預金の平均残高は377兆円にのぼる。このうち半分以上の208兆円には0.1%のプラスの金利が付き、146兆円がゼロ金利、マイナス金利が適用されているのは、わずか22兆円。当座預金全体の6%弱にすぎないのだ。

黒田総裁は「躊躇なく」深掘りすると言っているが、そもそも日銀の言うマイナス金利政策自体、「本気度」が疑われてきた。日銀から民間金融機関に当座預金金利として年に2000億円が流れている計算だが、民間金融機関の経営を下支えする一種の「補助金」的性格を持っている。

市場は日銀の「本気度」を見つめている

日銀は、本気でマイナス金利を導入した場合、地方銀行など体力のない銀行の経営が成り立たなくなることから、「百害あって一利なしだ」と考えている幹部が少なくない。本気でマイナス金利政策を「深掘り」できるかどうかは微妙なのだ。欧州中央銀行などが行っているマイナス金利政策とはだいぶ様相が違う。

 

それでも米国がさらなる金融緩和に踏み出した場合は、日銀も「次の一手」を温存しておく必要があったということだろう。場合によっては日銀もマイナス金利部分に手をつけざるを得なくなるだろう。だがそれが表面的なものなのか、本気でマイナス金利に踏み込んでいくものなのか、現状ではわからない。もちろん市場は日銀の「本気度」を注視しているわけだ。

企業の議決権が「公的機関」に握られている

マイナス金利の代わりに日銀が好んで使うのがETFの買い入れだ。すでにETF購入残高は30兆円近くに達するとみられる。上場企業の株式を組み込んだETF購入によって、すでに東証上場企業の5割で日銀が上位10位以内の「大株主」になっているとされる。

年金の資金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)と肩を並べており、日銀やGPIFが事実上の筆頭株主になっている企業も少なくない。今後、日銀がETFの購入を倍増させれば、さらに日銀とGPIFの持ち株比率が上昇する可能性が高い。民間企業の筆頭株主中央銀行と政府機関という歪んだ資本市場になっているのだ。

日銀が実質的に保有する民間企業の株式の議決権は、ETFを運用する金融機関によって行使される。日銀は「議決権行使の指針」を公表しており、運用の受託金融機関は、「本行の経済的利益の増大を目的として議決権を行使するものとする」とされ、それ以外の目的での議決権行使はしてはならないことになっている。また、「株主の利益を最大にするような企業経営が行われるよう議決権を行使するものとする」とも定められており、日銀は直接ではないものの、「物言う株主」になっているわけだ。GPIFも同様で、企業の議決権が公的機関に握られる形になっている。

だが、日本企業の経営を巡る不祥事が相次いでいる中で、コーポレートガバナンスのあり方が問われ、株主総会などでの株主提案が増えている。そんな中で、日銀やGPIFの議決権行使がキャスティングボートを握るケースが増えているのだ。

株式市場のあり方で見ても、株価の下落時に、せっせと日銀とGPIFが買い支える、何とも歪んだ構造が定着しているのだ。この歪みはかねてから指摘されてきたが、新型コロナの蔓延という「非常時」ということで、改善されるどころか、さらに深みにはまっていくことになった。

なお日銀の黒田総裁は3月18日の参議院財政金融委員会で、日銀の保有するETFについて、「現時点での日経平均株価を基に試算すると、含み損は2兆~3兆円になる」と述べている。

「平常ベース」に戻す術が考えられていない

政府の財政出動でも次々と「禁じ手」が繰り出されている。全国の小中高校を休校にしたことで、仕事に行けなくなった保護者に休業補償手当を支給することに踏み出したが、対象が「フリーランス」などにも拡大。消費の底割れを防ぐために国民全員に給付金を支給するという検討も始まった。中小企業への納税の猶予や、所得税定率減税、消費税率の引き下げなど、まさに「何でもあり」の大盤振る舞いになりつつある。

 

新型コロナの蔓延で経済活動が一気に凍りつきつつあるため、非常時の対策を打たなければならないのは間違いない。だが、誰も「バラマキだ」と批判できないムードの中で、なし崩し的に「禁じ手」がまかり通っていっていいのだろうか。

いずれ新型コロナは収束する。その時に、思いっきり緩めた金融をどう締め戻すか。じゃぶじゃぶに支出した財政政策のツケをどう回収していくか。消費減税に踏み切った場合、経済に影響が出ないようにどうやって税率引き上げを実施するか。金融や財政を平常ベースに戻す術も考えて緊急対策を打つ必要がある。なりふり構わない対症療法を繰り出し続けることで、かえって金融システムや国家財政を破綻させることになっては元も子もない。

「新型コロナ」蔓延であなたの「給与」はどうなる?

新潮社フォーサイトに3月18日に掲載された拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/46662

 新型コロナウイルスの世界的蔓延による経済活動の急激な縮小が、連日大きく報道されている。

 実際、大小各種イベントの中止、海外からの訪日旅行客の激減による観光産業や外食産業、航空・鉄道業、小売業などの売り上げ減少に留まらず、多くの産業・業種で深刻な影響が全国的に拡大している。

 蔓延が長引けば、企業業績に大打撃を与え、雇用や給与を揺るがすことになるのは火を見るより明らかだ。

 政府は休業による所得減への補てんなどにも踏み出す姿勢を見せているが、果たしてあなたの給与はどうなるのか。

「ベアゼロ」は7年ぶり

 3月決算の大企業の場合、影響を受けているのが年度後半の2カ月ほどということで、前半が好調だったところは、そこそこの決算内容で踏みとどまる見通しだ。

 トヨタ自動車が2月6日に今期(2020年3月期)の業績見通しを修正し、それまで営業利益が前の期に比べて2.7%減の2兆4000億円としていたものを、1.3%増の2兆5000億円に上方修正した。一転増益後に新型コロナの蔓延が深刻化しており、この見通しのまま期末を迎えられるかは不確定だが、影響が出ても増益は維持される、というのが市場の見方だ。

 ところが、3月11日のトヨタ労働組合への春闘の回答は厳しいものだった。基本給を底上げ改定する「ベースアップ(ベア)」を見送ると回答したのである。賃上げ額は総額で月8600円、一時金は6.5カ月の満額回答だったが、「ベアゼロ」は7年ぶりのこととなる。

 アベノミクスで企業業績が好転したのを受けて、安倍晋三首相は2014年の春闘から、ベアを産業界に呼び掛けてきた。円高修正による業績好転分を給与の形で働く人たちに分配することで、低迷していた消費を底入れさせ、消費産業の業績が好転することで、さらに給与増に結び付ける——。いわゆる「経済の好循環」を、経団連会長など財界首脳に訴えたのである。

 「官製春闘」と揶揄される場面もあったが、結果は2014年から6年連続のベア実現となり、給与や賞与の増加にまがりなりにもつながってきた。大企業を中心とする給与増を、今後、どうやって中小企業にも広げていくかが焦点の時に、景気の腰折れ懸念が出てきたわけだ。

 きっかけの1つは2019年10月の消費増税、そしてもう1つが新型コロナの蔓延による経済活動の停滞だ。

昨年すでに給与は頭打ち

 厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査をみても、2014年から名目賃金は増加に転じ、2018年までは5年にわたってプラスが続いた。ところが、昨年半ばからこの賃金上昇にも陰りが見え始めていた。

 2019年の1人当たりの現金給与総額(名目賃金)は、パートを含む全産業平均で月額32万2612円と前の年に比べて0.3%減少し、6年ぶりのマイナスになったのである。

 「働き方改革」の広がりによって残業代など「所定外給与」が0.8%減少、賞与など「特別に支払われた給与」も1.0%減少した。ちなみに、物価の上昇率を差し引いた「実質賃金」は0.9%減となり、2年ぶりのマイナスだった。

 パートを除く「一般労働者」の現金給与総額(名目)は、0.3%増の42万5203円と7年連続のプラスになったが、給与が低いパートの比率が31.53%(前の年は30.88%)に上昇したこともあり、全体ではマイナスになった。

 なぜ、2019年は年間を通して給与が頭打ちになったのだろうか。

 現金給与総額の増減を産業別にみてみると、厚労省の資料にある16の産業のうち、8つで増加、8つでマイナスになった。最も増加したのは、「鉱業、採石業等」の6.3%で、次いで「建設業」が2.7%だった。

 一方でマイナスが大きかったのは、「教育、学習支援業」の2.6%減、「卸売業、小売業」の1.4%減、「情報通信業」の1.3%減、「複合サービス事業」の1.2%減、「飲食サービス業等」の0.9%減などだった。

 だが、人手不足が続いている「建設業」などで給与が増えているものの、もともと低賃金の人が多い業界だったし、今後の給与増が課題であるサービス産業の人たちの給与は、さらにマイナスになっていた。

 もっとも、2019年の給与減少は、時給などの賃金単価が下がっているというよりも、労働時間が減少していることが大きい。「働き方改革」で残業を減らしたり、休日取得を奨励している企業が多いからだろう。

 「総実労働時間」は、パートを含む全産業で、月139.1時間と、前の年に比べて2.2%減っている。パートを除く一般労働者は、164.8時間と1.7%減った。

 片や、パートの労働時間は83.1時間と2.6%も減っている。短時間労働のパートが増えたためなのか、景気減速で全体として労働時間が減っているのかは判断がつかないのが現状だ。

 パートを含む全体では、16の産業区分のうち、「鉱業、採石業等」を除く15の産業で総労働時間が減少している。長時間労働が問題と指摘されていた「飲食サービス業等」で、3.1%と最も大きく減っているのが目を引いた。

 つまり、2019年12月まで、働き方改革に景気の減速感なども加わり、労働時間が減少、給与が頭打ちになり始めていたことが分かる。これはもちろん、今回の新型コロナの影響が出る前の話だ。

どこまで所得補償は広がるか

 では今年に入って以降はどうなのだろうか。

 厚労省が公表しているデータは、3月6日に発表された2020年1月分の速報値までだ。これによると、パートを含む全産業の現金給与総額は、名目で1.5%増(実質で0.7%増)となっている。「所定外給与」が1.8%減っているものの、「特別に支払われた給与」が10.4%増えており、特定業種の賞与など何らかの特殊要因がありそうだ。

 問題は、新型コロナの影響が本格化した2月、3月以降の給与がどうなるか、だろう。

 「保護者の皆さんの休職に伴う所得の減少にも、新しい助成金制度を創設することで、正規・非正規を問わず、しっかりと手当てしてまいります」

 2月29日、記者会見に臨んだ安倍首相は、全国すべての小・中・高校などに春休みまでの臨時休校を要請したが、その際、子どもの学校が休みになることで働けなくなる保護者への所得補償を打ち出した。

 政府が個人の所得を補てんする政策は極めて異例で、実際にどこまでを対象とするかなど難題も多い。

 こうした混乱を避けるためか、とりあえず厚労省は3月2日、保護者が仕事を休んだ場合に、1人当たり日額8330円を上限に賃金相当額を支払うことを決めた。

 フリーランスの場合は、労働基準法の「労働者」ではなく、個人事業主の請負契約などになっているケースが多く、当初は一律の所得補償は考慮されていなかった。メディアなどで「休業フリーランス悲鳴」といった報道が相次いだこともあり、政府は半額の日額4100円を支給することとした。

 ここまで来ると、何でもありの状態で、今後、どこまでも所得補償の話が広がっていく可能性が強い。新型コロナの蔓延が理由になっているため、バラマキ政策だという批判も、今回は上がっていない。

 だが、それでも2019年水準の給与や所得が100%補償されることはないだろう。

 企業で働く人の場合、3月以降は残業代がゼロになる可能性もあり、現金給与総額が大きく減ることは確実な情勢だ。

 今後、企業の業績が悪化すれば、年間の賞与が減額されるなど、さらに給与が落ち込むことになりかねない。

 リーマンショック後の2009年は現金給与総額が3.8%減少、残業代など「所定外給与」は13.5%、賞与など「特別に支払われた給与」は11.8%も減った。

 実は、その前年2008年の現金給与総額平均月額33万1300円は、いまだに突破できていない。

 パートを除いた「一般労働者」に限ってみても、2008年の41万4449円を上回ったのは、10年後の2018年のことだ。

 今回の新型コロナの蔓延が長期にわたれば、リーマンショック時を上回る給与の減少になるかもしれない。そうなれば、低迷している消費がさらに落ち込むのは必至だ。

 米国がゼロ金利政策を取り、大幅な財政出動を決めるなど、世界各国の当局が、経済の底割れを防ぐ対策を打ち出している。

 日本も、日本銀行が前倒しで政策決定会合を開き、ETF(上場投資信託)の買入額を倍増させるなどの量的緩和策を打ち出したが、株価は今ひとつ反応薄だった。

 今後、本格的なマイナス金利政策に踏み込むことなどが必要になるだろう。また、政府も所得税の減税や、給付金の支給、さらには消費税の時限的な税率引き下げなどに動くことになりそうだ。