財務省があえて言わない、じつは日本人の「国民負担率が過去最悪になっていた! マスコミも報じない…

現代ビジネスに3月4日に掲載された拙稿です。

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https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80816

かつてない上昇率

新型コロナウイルスの蔓延に伴う経済低迷で、生活に困窮する人が増えている中で、税金と社会保険料が重く国民にのしかかっている。

財務省が2月26日に発表した「国民負担率」によると、2020年度の実績見込みが46.1%と、前年度実績の44.4%から1.7ポイントも急上昇して過去最高になったことが分かった。過去最高を更新するのは5年連続だが、負担率の上昇幅はかつてなく大きい。

国民負担率とは、国民が支払う国税地方税と、年金や健康保険料などの社会保障負担の合計が、国民所得の何%を占めたかを示す指数だ。

2020年度に負担率が急上昇したのは、新型コロナによる経済活動の停滞で、国民所得が大きく減ったこと。財務省が負担率計算の前提にした国民所得は377兆円と6%、24.3兆円も減った。

税金の負担は国税を中心に金額が減ったとしているが、2019年10月に引き上げられた消費税率が通年できいたこともあり、所得対比の比率上昇は止まっていない。また、社会保障負担は19.9%とほぼ20%となった。

新型コロナ関連の経済対策では、ひとり一律10万円の特別定額給付が実施されたほか、GoToトラベルなど大盤振る舞いにも見える対策に多額の費用が投じられているが、ついぞ、所得税を減税するという声は政府からも国会からも出てこない。

3月2日の衆議院本会議で可決成立した2021年度予算は106兆円と過去最大である。もちろん、歳入を大きく上回る歳出予算のツケはいずれ増税の形で国民負担に回ってくることになる。まだまだ国民負担率は上昇することが確実な情勢なのだ。

実態を示さない報道

ところがである。この財務省の推計を報じた新聞報道はまったく書きっぷりが違っている。

「国民負担率44.3% 21年度見通し、1.8ポイント低下」。日本経済新聞の2月26日付けの記事の見出しである。

実は、財務省は国民負担率を発表する際、実績や実績見込みではなく、見通しを中心に説明している。財務省のクラブ詰めの記者はその説明を聞いて、見通し中心の記事を書いているわけだ。これは毎年のことである。

今年の発表の場合、財務省が発表した2021年度の見通しは44.3%となっている。20年度の実績見通しに比べると確かに1.8%の低下になる計算だ。

だが、問題はこの見通し数字はまったく「当てにならない」代物なのである。過去10年近く、「見通し」通りの数字に実績がなった例はない。しかも必ず、「見通し」よりも実績はかなり大きくなっているのだ。

実は「実績見通し」ですら、残り1カ月で締まる数字であるにもかかわらず、毎年外れている。必ず、見通しは負担率が過小になるような数字なので、実績見通しをベースにすると、「低下する」という見通しになるのだ。

例えば、今回の発表で「実績」が44.4%となった2019年度の場合、2年前の「見通し」段階では42.8%と発表されていた。その際の日本経済新聞の記事は「19年度の国民負担率は横ばい 財務省試算」という記事を書いていた。

財務省が発表した2018年度の「実績見通し」が42.8%だったので、それに比べて横ばい、という記事なのだが、2019年10月には消費税率が8%から10%に引き上げられることが予定されていた。それでも「国民の負担は横ばいですよ」という財務省のストーリーにまんまと乗せられていたのだ。

ちなみに、2018年度実績は44.1%で、2019年度実績は44.4%だったから、結果は横ばいではなく、しっかりと増加していた。もちろん過去最高を更新したのである。

財務省、眉唾説明

2021年度の国民負担率が大幅に低下するという財務省の試算は、国民所得が大幅に増えるという前提になっている。

国民所得が393.6兆円と4.4%増えるため、負担率が下がるというのだ。社会保障費の負担率は18.9%と1%ポイントも下がるとしているが、国民所得と比較すると実際の負担額も6000億円減る計算になる。地方税の負担率が大きく下がるとしている点も、現実味に乏しい。

 

新型コロナが早期に収束し、日本経済が力強く復活することは期待したいが、国民負担が財務省の言うように減るのかどうかはいつもながら眉唾ものと言っていいだろう。

財務省はいつもながら、国民負担率の国際比較という資料を同時に発表している。海外に比べれば日本国民の負担率はまだまだ低いのだ、という説得材料に使ってきた感が強い資料だが、最近では日本が断トツに低いとは言えなくなってきた。

米国の国民負担率は31.8%で、日本よりもはるかに低い。英国は47.8%だから、もうすぐそこである。健全財政を誇るドイツは税金が高いが、それでも54.9%である。日本が財政赤字をすべて国民負担にした場合、56.5%に達するというのが財務省の試算だ。

国民の負担を考えれば、本当に意味のある事業に絞り込むなど、歳出の効率化を進める必要があるが、政府も国会も新型コロナ対策を言い訳にタガが外れたように予算を膨らませている。

増税を狙って、「先々の国民負担は下がります」、「海外に比べればまだまだ低い」と言って国民の目をはぐらかすことに一生懸命になるのではなく、抜本的な歳出改革などで国の財政をどう立て直すか、財務官僚には知恵を絞ってもらいたいものである。

 

時計経済観測所/「『資産』としての高級時計」再び

時計雑誌クロノスに連載されている『時計経済観測所』です。3月号(2月3日発売)に掲載されました。WEB版のWeb Chronosにもアップされています。是非お読みください。オリジナルページ→

https://www.webchronos.net/features/60070/

リーマンショックと似た状況を生み出した新型コロナ不況

 今、新型コロナウイルスの蔓延で、世界は当時と似た状況に直面している。経済活動が凍りつく中で人々の生活や企業を守るため、膨大な財政支出と金融緩和が行われている。これだけお金を刷りまくれば、通貨価値が落ちるので、いずれインフレは避けられない。多くの資産家や投資家がそう考えるから、実体経済が悪いにもかかわらず、株高が進んでいるのではないか、と見られている。株だけでなく、貴金属や不動産、ビットコインなど非通貨資産の価格が急上昇している。「バブル」とみる向きもあるが、通貨価値が下がっているのだから、その通貨で示す価格がどんどん上がっていくのは、ある意味当然とも言える。

 第1回目のコラムの書き出しは、筆者が新聞社の支局長を務めたことがあるスイス・チューリヒの話から始まる。

《目抜き通りバーンホフ・シュトラッセの老舗時計宝飾店には、独特の機能がある、とスイスのプライベート・バンカーが教えてくれた。上顧客に売った時計を買い戻してくれるというのだ。彼らが決して大安売りのバーゲンセールをしないのは、「売る」ことだけが店の機能ではないからだという。

 1個数百万円から1000万円を超えるような時計は間違いなく「財産」だ。子や孫に受け継がれるだけでなく、さまざまな贈答にも使われる。腕にするだけで良いので、国家の危機や戦争となれば、簡単に持ち運ぶことができる。

 だが、いくら高級な贈答品をもらっても、それが換金できなければ意味がない。戦争などから無事に自分の財産を守り通せても、時計のままでは生活の糧にはならないのだ。骨董品店に持っていって換金するという手もあるにはある。だが、それでは買い叩かれるのがオチだ。

 チューリヒの老舗時計宝飾店は顧客に有利な価格で買い取るのだという。ご承知の通り、高級時計には個別に番号がふられているので、出自は明らか。自分の店で売ったものかどうかも一目瞭然だ。値引きをして売った商品ではないから、買い取り価格も高くできるわけだ。もちろん店に一定の「差益」は落ちる。

 銀行が軒を連ね合間に時計宝飾店があるのは何とも不釣り合いだと思える。だが、時計店も歴史的に一種の金融機能を果たしてきたと考えると、同じ場所にあるのは理に適っていることに気付く》

貴金属や高級時計、高まる“実物資産”志向

 今、再び、この話を噛み締める時が来ている。世界大恐慌の頃は世界の多くの国は金本位制で、通貨の価値は金によって裏打ちされていた。その後、ほとんどの国で通貨と金を交換する「兌換(だかん)」を停止、金本位制から離脱した。1971年に米国がドルと金の兌換を停止した「ニクソン・ショック」以降、世界各国の中央銀行は、金の保有高に関係なく、紙幣を発行するようになった。裏打ちがない、まさしく「ペーパー・マネー」だから、国家がぐらつけば、紙屑になるリスクもある。

 世界大恐慌並みと言われる今回の新型コロナ不況で増やし続けた通貨量をどこかで吸収できるのか。今後、金融政策の真価が問われることになるが、仮に「出口戦略」に失敗すれば、その国は深刻なインフレに直面することになりかねない。

 つまり、「資産」としての高級時計が注目されるタイミングに来ているわけだ。

 日本百貨店協会が1月22日に発表した12月の全国百貨店売上高によると、全体の売上高は前年同月比13.7%減と大幅に落ち込んだ。ところが「美術・宝飾・貴金属」の売上高は1.9%増加と、他部門が軒並み大幅なマイナスになる中で、3カ月連続のプラスを記録した。もしかすると、手元にあるキャッシュを貴金属や高級時計など実物資産に替えておく動きが、少しずつ始まっているのかもしれない。

 仮にインフレにならなくても、巨額の財政支出を回収するには増税が必要で、保有する資産への課税が強化される可能性は十分にある。そうなると当局に捕捉されない「資産」を求める動きも出てくるだろう。左腕に載せられる数百万円、数千万円の高級時計は、まさしく資産として有効ということになる。


 

ベトナム人労働者「激増」が示す、日本の解決できない「労働力不足」の現実 外国人労働者増加傾向は続く

現代ビジネスに2月25日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80555

「ビジネス上必要な人材等」

新型コロナウイルスの蔓延による経済停滞が続く中で、外国人労働者の数は減っているかと思ったら、増加が続いていることが分かった。

厚生労働省がまとめた2020年10月末時点の「外国人雇用状況」によると、外国人労働者の数は172万人と過去最高を更新した。1年前に比べて4%の増加で、2015年以降、2ケタの増加が続いてきたのと比べると、さすがにブレーキがかかっている。

日本国内での非正規雇用が大きく減る一方で、外国人労働者がむしろ増えているのは、「安い労働力」を求める企業が多いことに加え、いわゆる「3K職種」など日本人が忌避する業種で人手不足が続いていることがある。

日本で働く外国人と言えば中国人が圧倒的に多いというイメージに違いない。だが、この1年で大きな変動が起きた。中国人は0.3%増とほぼ横ばいだったにもかかわらず、ベトナム人が10.6%増と激増。

ついに中国人労働者の41万9431人を上回り、ベトナム人が44万3998人と最も多くなったのだ。ちなみにネパール人も総数は9万9628人と多くはないものの、1年で8.6%も増えた。

なぜか。新型コロナで入国を厳しく制限する中で、1回目の緊急事態宣言が明けた2020年6月から「ビジネス上必要な人材等の出入国について例外的な枠を設置」した。

入国後の14日間の自宅等待機期間中も、行動範囲を限定した形でビジネス活動が可能になるよう行動制限が一部緩和される「ビジネストラック」と呼ばれる枠と、自宅などでの14日間の待機は維持する「レジデンストラック」が設けれた。そのうえで、7月にはタイと並んでベトナムが真っ先にこの対象国に指定されたのだ。

また、10月1日からは、ビジネス上必要な人材に加えて、留学や家族滞在といった在留資格を得た外国人を対象に加え、全ての国・地域からの新規入国を許可した。その際に、「防疫措置を確約できる受入企業・団体がいること」が条件とされたが、これもベトナム人が急増する一因になった。

というのも多くのベトナム人の場合、ベトナムの「送り出し業者」と提携した「受入団体」が関与する事実上の出稼ぎ労働者がほとんどなので、その条件をクリア、ベトナム人の入国が大きく増えることになった。

政府の政策では「GoToトラベル」にばかり世の中の関心が向いたが、その間に着々と外国人労働者を受け入れる門戸が開けられていたのである。

その3割がベトナム人

さすがにこうした措置は1月に緊急事態宣言が再度発出された後、「一時停止」されているが、それでも統計数値の10月末時点以降も多くのベトナム人が入国している。

日本政府観光局(JINTO)の推計によると、11月に1万4700人、12月に1万5700人、1月にも2万人にのぼった。3カ月で何と5万人である。この3カ月間の入国者の総数は16万1900人だったので、その3割をベトナム人が占めたことになる。

ベトナムからは日本語学校などへの留学生も多いが、外国人労働者問題に詳しいジャーナリストの出井康博氏は「本当の目的は日本で働くための偽装留学生がかなりの割合にのぼる」とみる。また日本にやってくる前に送り出し業者などに手数料を払うために多額の借金を抱えてくる労働者も多いという。

留学生は週に28時間までアルバイトをすることができる。夏休みなどは週40時間まで働ける。もっとも、実際には複数のアルバイトを掛け持ちして、届出をせずに働いているケースも多いと見られる。

「偽装留学生」は大きな問題になったこともあり、2020年10月末時点で留学生などの労働者(「資格外活動」という分類)は1年前に比べて0.7%減っている。

一方で大きく増えたのが、「専門的・技術的分野の在留資格」で働く外国人だ。1年で9.3%増えた。2019年4月から「特定技能1号、2号」という在留資格が新しく設けられ、労働者として日本で働ける枠が広がったためだ。

また、技能実習生も4.8%増え、40万人を突破した。途上国などへの技能移転をする国際協力の一環として実習生を受け入れるというのが建前だが、実際には人手が足らない農業や漁業の現場で実習生として働いている外国人が多い。

コロナ下でも実は日本は人手不足

ではなぜ、新型コロナで働き口が減っていそうなのに、外国人労働者は増え続けているのか。外国人労働者がどんな業種で働いているかを見るとその答えが見えてくる。

私たちがよく目にする「飲食店・宿泊業」で働く外国人は1年の間に1.8%減とわずかながら減った。また、製造業も0.3%減である。一方、「建設業」が19.0%増、「医療・福祉」が26.8%増と大きく増えた。

建設業の現場は典型的な「3K(きつい・危険・汚い)」職場で、なかなか日本人の若者は働かない。現場の日本人の高齢化も急速に進んでおり、工事を進めるにはもはや外国人労働者なしには成り立たない、と言われる。

また、急速に需要が増えている介護現場などでも人手が足らず、外国人が戦力として期待されている。「医療・福祉」で働く外国人はまだ4万3446人だが、2年で1.7倍になった。今後も日本の高齢人口は増え続ける見込みで、日本人だけでは介護現場の手が足らないのは明らか。外国人労働者へのニーズは今後も高まるのは確実な情勢だ。

緊急事態宣言が解除されれば、経済活動が本格的に再開されるかどうかを待たずに、外国人労働者の入国が一気に増えることになるだろう。

新型コロナ対策でも露呈「霞が関DX」を阻むITゼネコン「ベンダーロックイン」

新潮社フォーサイトに2月22日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/47763

「ベンダーロックイン」という言葉をご存知だろうか。

 特定ベンダー、つまりIT(情報通信)会社にシステム開発を依頼した場合、その会社の独自仕様に依存した設計になってしまい、他ベンダーのシステムへの乗り換えが困難になることを言う。デジタル庁の創設など霞が関のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化に取り組もうとしている日本政府が直面しているのが、このベンダーロックイン問題だ。

 国の多くのITシステムは入札によって業者選定が行われるが、その大半がNTTデータNEC日立製作所富士通など、「ITゼネコン」と呼ばれる企業に落札される。こう呼ばれるのは、公共工事を受注する建設会社のゼネコンと同様、自社で受注した物を自社で完成させるのではなく、傘下の「下請け」や「孫請け」などに「投げて」工事を完成させるところが、そっくりだからだ。システム開発も基幹設計をITゼネコンがやっていればまだしも、それすら下請けなどにやらせている事例も少なくない。建設業で言うところの「丸投げ」である。

本当の狙いは「保守管理費」

 入札の結果、同じ仕様で価格の安いベンダーに発注することになるが、ここで「ベンダーロックイン」が大きな意味を持つ。最初の納入価格は、落札しなければ話にならないので、ライバルに負けない低価格を提示する。いったん落札してしまえば、保守管理費が毎年入ってくるので、そこで取り戻せばよい。それがITシステム開発の世界の一種の「慣行」として定着している。

 霞が関だけでなく、日本全国の地方自治体も状況は同じだ。

 首都圏のある中核自治体の場合、大手ITゼネコンに年間数十億円の保守管理費を支払っている。「役所の幹部にITの専門家がいないので、業者の言うがままになっています。自治体によっては外部からIT人材を中途採用していますが、なかなか機能していないようです」とその自治体の幹部は話す。

 つまり、ITシステムを構築する力を持つようなIT専門家がいないので、すっかり業者任せになっているわけだ。数年に一度、システム更新が必要だと業者に言われ、多額の追加投資を余儀なくされることも珍しくない。高いから他の業者に相見積もりを取ろうにも、「ベンダーロックイン」でシステム更新を他の業者がやることが事実上できなくなっている。

 もちろん、発注側にシステムに通じた人材がいれば、「ソースコード」と呼ばれるプログラム言語で書かれたコンピュータープログラムを見てシステムの内容を把握もできる。だが、そのソースコードを合わせて納品させる契約からして、結んでいない例も少なくない。

NEC野村総研の「ワクチン接種用システム」に大問題

 今、政府は、河野太郎ワクチン担当相の下で、ワクチン接種の「ナショナル・データ・ベース」システムの構築を急いでいる。ワクチンがらみのシステムとしては、厚生労働省が2020年夏から「ワクチン接種円滑化システム(略称「V-SYS」=ヴイシス)」の開発に乗り出し、昨年7月の入札の結果、NECが落札。システム作成に向けての調査や設計は野村総合研究所NRI)が担当した。

 ところが、このV-SYS、調達したワクチンを自治体の医療機関や接種会場に公平に配分するためのシステムで、いつ、誰に接種したかを記録することがまったく想定されていないことが年末になって判明する。厚労省は従来の予防接種と同じく、ワクチンを分配するところまでが国の仕事で、あとは自治体が接種を担当し、自治体が持つ「予防接種台帳」に記録すれば、接種情報は把握できると考えていたのだ。

 ところが、この予防接種台帳にも落とし穴があることが判明した。予防接種台帳自体は、ほとんどの自治体でここ5年ほどの間にデジタル化されたが、医療機関が接種した情報を自治体に報告するのはいまだに紙で行われている。多くは月に1回その紙を回収し、自治体が業者に委託して入力している。予防接種台帳に接種記録が更新されるのに2~3カ月はかかることが判明した。今後、国境を越えてビジネスマンなどが移動する場合、「ワクチン接種証明」の携帯が義務付けられる可能性があるが、その発行に3カ月もかかっていたのでは、お話にならないわけだ。

「デジタル庁vs厚労省」の綱引き

 1月中旬に河野行革担当相がワクチン担当相に任命されたのも、そのシステム問題が大きかったとみられる。河野大臣は就任早々、V-SYSとは別にクラウドを活用した情報システム開発に乗り出した。

 結局、自治体は、V-SYSと予防接種台帳、そして国の情報システムの3つに対応する必要が生じている。河野大臣は繰り返し「自治体の手間は極力省く。QRコードやバーコードを読み込んでもらうだけで済むシステムにする」と述べているが、自治体の疑心暗鬼は小さくない。

 国の情報システムではマイナンバーなどの個人情報と接種記録をつなげる必要がある。地方自治体が個人情報の名簿を用意するのだが、そこでもこんな問い合わせが自治体から寄せられていると言う。「マイナンバー付きの名簿データを吐き出させるには、システム改築が必要で、多額の費用がかかるとベンダーに言われたのだが、その費用は国が持つのか」――。

 考えれば、データを抽出できないデータベースシステムなどはありえない話だから、ベンダーは当然できるのだが、追加の手数料を払えと言っているわけだ。これも「ベンダーロックイン」のなせる業だろう。

 すべての自治体をつないで共通のデータベースを持つ取り組みは事実上初めてだ。河野大臣や平井卓也・デジタル改革担当相らは、今、構築を急いでいる「ナショナル・データ・ベース」システムを、デジタル庁の実質的な基盤にしていこうと考えているという。つまり、今回のワクチン接種のための情報システム構築は、デジタル庁の成否を占うことにもつながる。

 厚労省はそれまでやってきた紙をベースにした予防接種の仕組みを、そのままデジタル化することに腐心してV-SYSの開発に取り組んだ。つまり、V-SYSは今までの業務の流れをそのままデジタルに置き換えただけなのだ。だが、本当のDXは、システム導入と共に、これまでの仕事のやり方を見直すことが必要不可欠になる。

COCOA」トラブルの背景にも……

 政府にはIT総合戦略室という組織があり、民間人の政府CIO(内閣情報通信政策監)をトップに、民間のIT技術専門家を「政府CIO補佐官」として大量に任命している。「政府CIOポータル」に掲載されているだけで57人にのぼる。IT業界では名のしれた人物が顔を揃えている。この組織がそのままデジタル庁に移行するとみられている。

 デジタル庁を司令塔に各省庁のシステム担当者が置かれるが、その体制も見えている。各省庁にはすでに「府省CIO(情報化総括責任者)」が置かれ、その下に「CIO補佐官」がいる。

 ところが、厚労省のCIOは厚労官僚として上り詰めた幹部で、ITの専門知識はほとんどない。V-SYSの開発についても、現場の担当に任せきりで、厚労省CIOはほとんど情報を把握していなかったとみられる。ましてや政府のIT室には一切情報を提供しなかったとされる。専門家が集まっているIT室にもっと早い段階で相談が行っていれば、こんなドタバタにならなかったとみられているが、そこは役所の「縦割り」が大きな壁になっている事は想像に難くない。

 厚労省では、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」を開発したものの、そのAndroid版が事実上機能していなかったことが判明して大問題になっている。昨年6月にスタートしたこのアプリ、ダウンロードした場合、自分の1m以内に15分以上いた人が新型コロナウイルスに感染していることが判明した際に、濃厚接触者の可能性があることがアプリに通知される。ところが、厚労省の発表によれば、9月28日のバージョンアップの結果、接触が通知されない不具合がAndroid版で発生していたという。

 結局、このアプリの開発も業者任せで、厚労省にそれをチェックできるIT専門家が皆無であることが問題の根元にあると指摘されている。

 2020年7月に閣議決定した「骨太の方針2020」には、デジタル庁創設などで今後、政府が目指す「デジタル・ガバメント」のあり方についてこう書かれている。

「民間の人材・技術・知恵を取り入れ、徹底した見直しを行い、ベンダーロックインを避け、オープンアーキテクチャを活用し、個人情報の保護を徹底し国民の理解を得つつ、利用者目線に立ちデジタル化・オンライン化を前提とする政策システムへの転換を進める」

 デジタル庁は、従来の霞が関が行ってきた業者任せのITシステム開発を根本から突き崩すことができるのだろうか。

新型コロナワクチン接種開始 霞が関の管理システムに致命的「欠陥」

SankeiBizに連載中の「高論卓説」に2月17日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://www.sankeibiz.jp/business/news/210216/bsm2102162033007-n1.htm

 新型コロナウイルスのワクチン接種が始まる。まずは医療従事者が対象だが、その数は全国で370万人に上るとみられる。政府が4月にも開始するとしている高齢者向け接種の先行例として注目されるが、ここへきて大混乱が予想されている。

 厚生労働省は1回目の緊急事態宣言が明けた昨年夏から、ワクチン接種のためのシステム開発に着手した。7月には業者選定の入札が行われ、年末にはシステムの概要が地方自治体に説明された。ところがそこに大問題が潜んでいることが発覚する。

 厚労省が開発した「新型コロナウイルスワクチン接種円滑化システム(略称・V-SYS=ブイシス)」では、誰にいつ接種したかが把握できないことが分かったのだ。1日に何件の接種が終わったかもすぐには分からず、医療従事者が何件で、高齢者が何件かといった情報も知る術がない。厚労省用の資料にも「一元的な情報管理を通じてムリ・ムダ・ムラを予備的に排除し、予防接種の効率的、かつ着実な実行を支援するためのシステム」と説明されている。つまり、ワクチンを分配するためのシステムなのだ。

 厚労省がV-SYSを「不十分」とも思えるシステムに設計したのは、従来の役所の仕事の流れをそのままデジタル化しようとしたことに原因がある。通常の予防接種は国から地方に任された「機関委任事務」。つまり、ワクチンを調達してそれを地方自治体に公平に分配するところまでが「国の仕事」で、その後どう接種するかは自治体の責任というわけだ。

 概要説明を受けて、全国の自治体は接種の予約や接種券の発行・送付などを行うシステムの開発をはじめたが、委託先業者は自治体によってばらばらで、それらの情報をつなぐ仕組みにはなっていない。誰に接種したかを把握するのも自治体の責任になる。通常の予防接種では、自治体ごとに持っている「予防接種台帳」に記載されていく。厚労省は今回もこの予防接種台帳に記載し、それを自治体から報告させれば接種件数などの把握ができると考えたわけだ。つまり、全てこれまでのやり方と同じ「平時モード」を前提にシステムを作ったのである。緊急事態宣言を出しているものの、役所の頭は平時なのである。

 予防接種台帳はほとんどの自治体でデジタル化されているものの、予防接種した情報は紙で自治体に上がってくる。月末締めで集まってくる紙を業者に委託してシステムに入力させている。台帳に反映され情報として把握できるまで2、3カ月はかかる。国際的に必要になるかもしれない予防接種証明を出すにはなお時間がかかる。

 さらに問題なのは、高齢者やその後の一般の人への接種は市町村の役割なのだが、医療従事者への接種は都道府県の仕事になっていることだ。つまり、医療従事者は市町村が作るシステムとは別に情報把握する必要があるが、その仕組みはほとんどできていない。デジタル化に背を向けてきた“お役所仕事”の問題が、緊急時に露呈する最悪の事態になっている。

「ワクチン接種にも悪影響」気が遠くなるこの国のデジタル化の道のり  業者に責任を押しつける無責任体制

プレジデントオンラインに2月19日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/43446

COCOAの失敗は業者の問題なのか

呆れるばかりの失態だ。新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」のAndroid版が事実上機能していなかった問題である。しかも、厚生労働省がそれを公表したのは不具合発生から4カ月たった2月3日だった。さらにここへきてAndroid版だけでなくiPhone用のiOS版でも不具合が発生していたことが明らかになっている。

もちろん担当の田村憲久厚労相は平謝りだが、問題への対応が遅れたことについては「(外部からの問題)指摘を確認するのは委託先業者の責任」と業者のせいにしている。また、平井卓也デジタル改革担当相も「あまり出来の良いアプリではなかった」と苦言を呈した。本当にCOCOAの失敗はアプリを開発した業者の問題なのだろうか。

本題に入る前に、COCOAについて見ておこう。もともと接触確認アプリはIT(情報技術)技術者たちが2020年3月頃から独自に開発を始めていたが、米グーグルとアップルが各国1つに絞るよう要請してきたことを受けて、5月に厚労省が開発することになり、民間業者に開発を委託した。5月25日には安倍晋三首相(当時)が6月中旬に利用開始できると発表。実際、6月19日からスタートした。

アプリをダウンロードした場合、1メートル以内に15分以上いた人が新型コロナウイルスに感染していることが判明した際に、濃厚接触者として通知されるというのが基本的な機能だ。

接触検知がされなければ意味がない

利用開始当初から不具合が指摘されていたが、ソフトウェア開発ではつきものといえ、バージョンアップしながら問題を解消していった。そのバージョンアップで今回の問題が起きた。厚労省の発表によれば、9月28日のバージョンアップの結果、接触が通知されない不具合がAndroid版で発生したという。

開発業者は「GitHub(ギットハブ)」と呼ばれる共通プラットフォーム・サイトにシステム情報を公開していたが、そのGitHubに11月25日になって、「接触が検知されることはないと思われる」とする書き込みがあったという。発表では厚労省が不具合を業者から知らされ、問題を把握したのは今年1月25日だったとしている。

現在、アプリをダウンロードしている人は2500万人あまり。接触検知がされないなら、何のためにダウンロードしたのか分からない。田村大臣がともかくも陳謝するのは当然だろう。

どうやら厚労省や政府の体制に問題の根源がある。まずは、厚労省システム開発の専門家がいないことだ。筆者はかつて厚労大臣の懇談会のメンバーを無報酬で引き受けたことがあるが、15回ほど開いた会合で、地方のメンバーがオンライン参加するのに一度としてまともにつながったことが無かった。その際、作業は業者がやってきて配線や運用を担当したが、つながらないオンライン会議に厚労省の職員はなす術がなかった。5年前のことだ。

今では世の中で広く当たり前に使われているオンライン会議ですらこの有り様だから、システム開発など「高度な」話になれば、業者にすべてお任せ、丸投げとなるのは想像に難くない。

政府にはIT総合戦略室(IT室)というのがあって、民間人のCIO(内閣情報通信政策監)をトップに、民間のIT技術専門家を「政府CIO補佐官」として大量に任命している。現在「政府CIOポータル」というサイトに掲載されているだけで55人に上る。IT業界では名の知れた著名人が顔を揃えている。

そのほか、各省庁にも「府省CIO(情報化総括責任者)」が置かれ、その下に「CIO補佐官」がいる。もちろん厚労省にもCIOがいるが、歴代、ナンバー2の厚生労働審議官が兼務している。もちろん、厚労省幹部はITの専門知識はほとんどない官僚として上り詰めた人物だ。

政府に「IT室」はあるのに、連携が取れていない

政府CIO補佐官には人材がいるのだから、IT室に相談すれば良いのではないかと思うのだが、そこは霞が関の「縦割り」がそうはさせない。もちろん、文化の問題もあるが、それ以上に、予算は各省庁が持ち、システム開発にはそれぞれ出入りの業者がいる。もちろん入札をするのだが、そこは過去の実績がモノを言う仕組みで、だいたい「ITゼネコン」と呼ばれる大手通信・電機会社の独壇場になる。もちろん、実際にソフト開発するのはそうした「ITゼネコン」の下請け企業だ。まさに、かつての公共工事と同じ構図なのだ。それぞれの役所でそうした一種の利権が生まれているために、簡単にはIT室との連携は取れないのだ。

菅義偉首相が就任以来、「霞が関の縦割り打破」を掲げ「デジタル庁創設」を打ち出しているのは、こうした一種の利権構造が日本政府全体のデジタル化を遅らせているという危機感があるのは間違いない。

COCOAは有志の技術者たちが独自に開発に着手していたこともあり、ベンチャー企業に開発を任せることになった。報道によると、厚労省の新型コロナ感染者の情報管理をする「HER-SYS(ハーシス)」というシステムを委託していた「パーソルプロセス&テクノロジー」(本社・東京)に契約を追加する形で開発を委託。同社はIT企業「エムティーアイ」(本社・東京)に保守管理を再委託している、という。

厚労省にはシステムを使って「何がやりたいか」を伝えることぐらいはできても、システムの中身を吟味する専門能力を持った人物はほとんどいない。結局は業者任せになってしまったということだろう。

「ワクチン接種のシステム」でも不手際が起きていた

実は、新型コロナ・ワクチンの接種を管理するシステムの開発でも、厚労省の不手際が明らかになってきた。

 

厚労省は2020年夏からワクチンを届けるためのシステム開発に乗り出し、「ワクチン接種円滑化システム(略称「V-SYS」=ヴイシス)」の準備を進めてきた。7月には入札が行われ、NECが落札した。システム作成に向けての調査や設計は野村総合研究所NRI)が担当した。

ところが、このV-SYS、調達したワクチンを自治体の医療機関や接種会場に公平に配分するためのシステムで、いつ、誰に接種したかを記録することは想定していなかった。ワクチンの接種状況を日々把握したい菅内閣からすれば、ワクチンを届けて終わり、では話にならない。厚労省は従来の予防接種と同じく、自治体が接種を担当し、自治体が持つ「予防接種台帳」に記録すれば、接種情報は把握できると考えたのだ。

自治体の予防接種台帳はほとんどの自治体でここ数年の間にデジタル化が進んだが、医療機関で接種した記録を自治体に報告するのはいまだに「紙」で、月に1回回収したその紙を、業者に委託して入力している。つまり、予防接種台帳に記録が更新されるのに2~3カ月かかる。ファイザーのワクチンは2回打つ必要があるが、その間に引っ越した場合、把握できない。今後、国際間の移動をする場合にワクチン接種証明の携帯が義務付けられる可能性があるが、その発行に3カ月もかかっていたのでは、使いものにならない。

ワクチン先行接種の記録も「紙」

年末になってそれが分かった首相官邸は大騒ぎになったという。1月中旬に河野太郎・行革担当相がワクチン担当相に任命されたのもそのシステム問題が大きかった。河野大臣は就任早々、V-SYSとは別にクラウドを活用した「ナショナル・データベース」のシステム開発に乗り出した。

ここでも、厚労省の姿勢が問題になった。V-SYSの開発について、どうやら政府CIOやIT室に何の情報も上げていなかったようなのだ。担当の現場だけで進めて、厚労省CIOにすら情報が伝わっていなかったという指摘もある。また、河野チームが発足した後も、V-SYSの改修について徹底抗戦するばかりか、V-SYSの詳しいシステムの内容について、一切情報を提供しなかったとされる。河野チームがV-SYSの詳細な情報を知ったのは大臣就任から1カ月近くたってからのことだ。

2月17日、国立医療機関など100施設で4万人の医療関係者を対象とするワクチンの先行接種が始まった。うち2万人については詳細な記録を毎日付けることになっているが、その調査票がまたしても「紙」だという。医療機関で取りまとめて厚労省に送り、それを業者に発注して入力作業を行うそうだ。簡単なアプリを作ってスマートフォンから入力すれば、日々データが更新できそうだが、その結果がまとまるのも数カ月後になるのだろう。

この国のデジタル化の道のりは遠い。

新聞発行部数、ついに「1年で271万部減」の衝撃…! 新聞業界に追い打ちをかける「ヤバい問題」

現代ビジネスに2月18日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80347

3年で大新聞が丸々1つ消える勢い

紙の新聞の凋落が止まらない。かつては電車内で新聞を広げて読む人が目についたものだが、今ではすっかり見かけなくなった。

それもそのはず。日本新聞協会の調査によると、2020年10月現在の新聞の発行部数合計(朝夕刊セットは1部と数える)は3509万1944部と、3年前に比べて700万部あまり減少した。業界2位の朝日新聞(516万部)が消えた計算になる。

しかも、下げ止まる気配は全くない。2017年は前年比2.7%の減少だったが、2018年5.3%減、2019年5.3%減、そして2020年は7.2%、271万部減と年々減少率は大きくなっている。

新聞発行部数のピークは1997年の5376万5000部で、2000年以降は前年を上回ったことがなく、2008年あたりから減少率が大きくな利、ここ3年は目を覆うばかりの減少だ。まさにつるべ落としと言える。

いやいや、もはや新聞は紙ではなく、電子版の時代だから、紙の新聞が減っていくのは当然だ、という見方もあるだろう。

最も、電子版で成功していると見られている日本経済新聞の場合、ピークは2008年の305万部で、2020年6月の日本ABC協会公査による朝刊の販売部数は206万8712部。紙の新聞は98万部減った事になる。

日経新聞の公表では2020年7月1日現在の電子版の有料会員数は76万7978件なので、紙の減少を電子版でかなり吸収していると見ることもできる。筆者もそうだが、実際には紙の新聞をとっていても、ほとんど電子版しか使っていない読者もいるだろう。紙からデジタルへの流れは確実に起きている。

最も、それは電子版で先行している日経新聞ならでは、という見方もできる。最近は各社とも電子新聞に力を入れているが、まだまだこれからといったところだ。電子新聞に消極的だった読売新聞も最近は急ピッチで電子新聞の拡充を急いでいる。それでも、確実に紙の新聞離れは進んでいると見ていいだろう。

日本では紙ほどの売り上げは期待できず

だが、ここで新聞社にとって大きな問題がある。電子新聞は紙に比べて儲からないのだ。

電子新聞の購読料設定を紙の新聞並みになかなか設定できないのだ。つまり、電子版の方が収入が少なくなるわけだ。単純に紙から電子版へのシフトが進めば、高い購読料が安い購読料に置き換わるだけで、新聞社の経営は窮地に陥る。

 

欧米では電子化する事によって新規読者を獲得することができた。もともと全国紙といっても発行部数が日本の新聞に比べてかなり少なかった欧米の新聞は、電子化で新規読者を獲得できた。また、英語を使っているため、英国のフィナンシャルタイムズ(FT)などが電子化によって、世界中に購読者を広げることが可能になった。

日本の場合、多くの新聞社が「専売店」を抱えている。新聞の宅配は日本で大きく発達した仕組みで、欧米では宅配よりも新聞スタンドで購入する方が多い。日本の新聞社は紙から電子へのシフトが起きても、宅配を続けるために販売店網を維持しなければならない。当然、販売コストが大きな負担になってくる。

もうひとつ大きいのが広告だ。紙の新聞は、販売店を通じた購読料収入と紙面に掲載する広告料収入が2本柱で、新聞社によるがほぼ同額の規模になって収益を支えてきた。

紙の新聞の広告料はかつては1ページの全面広告で1000万円を超す価格になっていた。電子新聞では、そうした高額の電子広告は難しい。

また、紙の新聞しか無かった時代と違い、広告主側による広告効果の検証が厳しくなった。電子版の場合、どれぐらい効果があったか、検証するツールが様々発達している。広告を出す側もシビアになっているのだ。

欧米の新聞社のように紙の新聞への依存度が小さければ、販売店網や印刷工場を縮小して、一気に電子版で儲ける体制を築けるかもしれないが、なかなかそうはいかないのが実情だ。

記者のマインドもデジタルシフト

ここまで紙の新聞の発行部数が落ちているのは、新聞各社が紙中心からデジタル中心に経営をシフトさせる腹を括ったということかもしれない。紙の新聞は高齢読者に支えられているが、あと1世代経てば新聞はデジタルで読むのが当たり前、という時代になるだろう。実際、情報を発信する新聞社の編集局の意識も大きく変わってきたようだ。

日本経済新聞社は昨年、「COMET」という新しい編集システムを導入した。画面上で、テキスト記事だけでなく、写真や図版、動画を扱うことができるシステムで、完全に電子版を前提にしている。

もちろん、紙の新聞もこのシステムを使って編集するが、原稿を出稿する現場の記者や記事を受けて編集するデスクの多くは、紙よりも電子版を意識するように急速に変わってきているらしい。電子版の方が速報性が高いのはもちろん、読者の反応も早いからだ。取ったニュースをいち早く報じたいというのは新聞記者の本質的な欲求だ。

 

電子新聞用に書いた記事を紙の新聞用に再編集するわけで、紙の新聞は締め切り時点で電子版を切り取ったようなものになる。紙用に書き直す記者もいるようだが、基本は電子版と同じものを使うという。だいたい、分量の制限がない電子版の記事の方が長いので、物理的制約がある紙の新聞用には原稿を削る事になるようだ。

筆者も10年前まで日経新聞の記者だったが、当時とは隔世の感だ。当時の電子メディア版は新聞に掲載したものがそのまま転用されるのが基本だった。

新聞用に出稿する段階で長く書いても、編集作業の過程で大幅に削らてしまうことが多く、電子版になった際にはごく短い原稿が載るケースが多かった。

私も退職前はデスクをやっていたが、記者に「(1行11文字で)20行だけ送れ」なんていう指示をしていた。一生懸命取材したネタをフルに記事化することができないもどかしさを当時の記者は抱えていた。それが「電子新聞ファースト」になったことで、解消されたわけだ。

現役のデスクからは、「記者の力が落ちたこともあるが、コンパクトにファクツを伝える原稿を書けない記者が増えた」という声もあるが、情報発信量が増えたことは、読者からすれば歓迎すべきことだろう。

まだまだ「会社の幹部が紙を読んで記者を評価するので、紙重視の記者もいる」という声も聞かれるが、確実に新聞社のカルチャーは電子新聞にシフトしていっている。

欧米では得た情報を紙の新聞よりも先に電子版で伝える「ネットファースト」が20年くらい前から当たり前になっていた。紙重視の日本の新聞社はなかなか踏み切れなかったが、ようやく「ネットファースト」を公言する新聞社も増えてきた。

紙の新聞の激減が、新聞社のビジネスモデルだけでなく、記者たちのカルチャーも大きく揺さぶっている。