社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際の人口減少、しかし「なし崩し」の移民受け入れは危険だ 日本在住外国人が遂に300万人を突破

現代ビジネスに5月7日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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猛烈な勢い

日本に在住する外国人の数が遂に300万人を突破した。総務省が4月に発表した昨年10月1日時点の人口推計によると、「日本人」の人口は1億2119万人と、出生数の減少により13年連続のマイナスとなっており、総人口(日本人と外国人在住者の合計)に占める外国人の割合は2.5%を超えた。2%を超えたのは2019年のことだから、猛烈な勢いで外国人比率が高まっている。

1年間の日本人の減少数は83万7000人に達しており、過去最多を更新し続けている。出生数が75万8000人にとどまった一方で、人口の多い高齢世代を中心に死亡者が159万5000人に達した。一方で、出国者300万人を上回る325万人の入国者があり、入国外国人は1年で240万人も増えた。これも過去最多の記録だ。外国人の多くは日本に「出稼ぎ」にやってくる数年間の滞在が目的の人たちだが、一方で長期の在留資格を得て、日本に事実上「定住」し始めた人も多い。

厚生労働省の「外国人雇用状況」届出状況まとめによると、2023年10月時点で雇用されている外国人は204万8675人と初めて200万人を突破した。このうち30%が日本人の配偶者や永住者など「身分に基づく在留資格」を持っている外国人で、29%がいわゆる「高度人材」と呼ばれる大卒技術者など「専門的・技術的分野の在留資格」による外国人だ。

短期の「出稼ぎ」が目的と見られる「技能実習」は20%、学校に通いながらのアルバイトなど「資格外活動」が17%である。最近の傾向としては、短期の出稼ぎではなく高度人材などとして中長期的に日本で働く傾向が強まっている。

労働力不足はさらに深刻

背景には日本企業での深刻な人手不足がある。ひとりの求職者にいくつ求人があるかを示す「有効求人倍率」は新型コロナの最中も1倍を下回ることなく、その後も高水準を持続、今年3月末は1.28倍だった。今後、高校や大学を卒業する新卒者の人数も大幅に減少することが分かっており、企業は人材確保に頭を悩ませている。そうした中で、労働力としての外国人を求める企業が増えているのだ。

アベノミクス」を掲げて経済再生を目指した安倍晋三内閣も、人口減少の中で労働力を確保することに力を入れた。中でも高齢者の雇用を増やすことと、女性が働きやすくする制度整備などを通じて労働力確保を狙った。外国人についても技能実習制度の対象業種拡大などに取り組んだものの、安倍首相は「いわゆる移民政策は採らない」と言い続けた。

新型コロナが終息して経済活動が回復すると、労働力不足はさらに深刻になっている。外国人受け入れに向けた規制改革を求める声は企業から一段と強まったことで2019年に導入された「特定技能1号」「特定技能2号」という制度に基づいた外国人受け入れも進んでいる。12分野(2号は11分野)で外国人労働者を受け入れる制度で、2号になれば更新に上限はなく、実質的に永住でき、家族も呼び寄せることが可能になる。事実上の「移民解禁」にも見えるが、政府は頑なに「移民ではない」という。

だが、こうした「出稼ぎ」を前提にした制度では、外国人は「労働力」としてしか捉えられていない。いずれ本国に帰る人たちという建前だからだ。ドイツのような移民制度を採る国ならば、ドイツ語の習得やドイツ社会の基本的なルールを学ぶことを義務付けるなど「国民になる」ための準備が求められる。だが、日本で働く外国人労働者の場合、日本人コミュニティとの接点を持たず、日本語もできないままで数年を過ごすケースが多い。

さらに発展途上国にシフト

ここへ来て状況が大きく変わっているのが、猛烈な円安だ。円安によって日本円で得られる給与を自国通貨に換算した金額が大きく目減りしている。例えば多くの外国人が働く「最低賃金」の全国加重平均は2021年10月の時給930円から、2023年10月には1004円まで8%引き上げられたが、為替レートが1ドル=111円から149円に円安となったため、ドル建てに換算した時給は8.38ドルから6.74ドルに20%近く減少している。

こうした中で、日本で働く外国人の国籍も大きく変わってきている。かつては外国人労働者といえば中国人が圧倒的だったが、今や外国人雇用者で最も多いのはベトナム人。ネパールやインドネシアミャンマーといった国の労働者も大きく増えている。

経済成長した国の国民はなかなか日本に働きに来ず、経済力が比較的弱い国の人たちに大きくシフトしていっているのだ。このまま円安が進めば、経済成長著しいアジアから働き手を確保するのは難しくなり、さらに発展途上国にシフトしていく可能性が高い。つまり、円安で「出稼ぎ」先としての魅力が急速に色褪せているわけだ。

日本人の人口減少はそう簡単には止まらない見通しだ。あと10年もすれば人口減少年代が結婚出産適齢期に入ってくる。そうなれば出生数がさらに劇的に減少する可能性もある。2023年1月の施政方針演説で岸田文雄首相は「(人口減少で)社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」に立っていると述べた。

日本社会を壊さないためには、日本社会に適合しようという意思のある外国人を社会の一員として受け入れ、必要な日本語教育などを施して定住を促進していく移民政策に早急に舵を切るべきだ。

しかし、このままなし崩しで外国人が増え続けるのは社会不安を巻き起こすなど危険だ。ドイツなど移民先進国の失敗とその克服を真摯に学ぶべき時だろう。