景気は「もう大丈夫」の段階でない

産経新聞が発行する日刊紙「フジサンケイビジネスアイ」の1面コラムが掲載されました。ご一読お願いします。
オリジナル→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130819/mca1308190501001-n1.htm


 内閣府が12日に発表した2013年4〜6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.6%増、年率換算では2.6%増となった。3四半期連続のプラスだったが、伸び率は民間の事前予測を下回った。消費税増税を最終判断する材料としてかねがね注目されてきたが、果たしてこれで増税しても大丈夫といえる状況になったのかどうか。

 昨年、社会保障・税一体改革関連法案が国会を通り、消費税増税が決まった際に、いわゆる「景気条項」が附則として盛り込まれた。実施半年前に増税の可否を最終決定することとなったのだ。それ以来、この4〜6月期のGDPをいかにプラスにするかが、増税が悲願だった財務省の最重要課題になっていた。

 その“努力”の跡が今回の速報値にはくっきりと表れている。実質GDPは内需が0.5%分、外需が0.2%分の押し上げる要因になったといい、内需主導のプラス成長だったことが鮮明になった。ところが、その内訳をみると、住宅投資も設備投資もマイナス。個人消費が0.8%増えたものの、最も大きく伸びたのは公共投資の1.8%増だった。

 安倍晋三政権が発足してすぐに決めた12年度補正予算に盛り込まれた緊急経済対策効果が4〜6月期に出てきたのである。それまでは財政支出を渋っていた財務省政権交代とともに大盤振る舞いに転じたのは、GDPを押し上げるため。その補正予算の効果が何とか4〜6月期の数字を押し上げた格好だ。まだまだ民間の投資には火が付いていないとみることもできる。

 もちろん、安倍政権の経済政策「アベノミクス」による景気回復期待は確実に高まっている。当初は高級宝飾品などを中心とした高額消費の好調が目立ったが、ここへきて衣料品や家電製品、総菜、外食といった一般的な消費まで盛り上がりをみせつつある。

 公共投資や消費によって、ようやく景気に火が付いてきた格好だが、今後これが企業の設備投資や給与の引き上げ、個人の住宅建設などに結びついていくかどうか、これからが正念場だとみていいだろう。

 足元では6月の住宅着工戸数が15%増と大幅に増えるなどプラス材料も出ている。その一方で、6月の鉱工業生産指数や機械受注がマイナスになるなど、不安材料もある。景気はもう大丈夫といえる段階には達していない。

 アベノミクスの大胆な金融緩和を支持するリフレ派の中からは、来年4月に消費税増税を実施すれば来年度はマイナス成長に逆戻りするという推計も出ている。果たして、今の景気回復の力強さはどれくらいなのか。11月上旬には7〜9月期のGDPの速報値が発表される。それまでには安倍首相も消費税増税に結論を出しているはずだ。振り返って、いま増税を逡巡(しゅんじゅん)しているのがおかしいくらい良い数字が11月に発表されることを期待したい。(ジャーナリスト 磯山友幸