本格的に消費に火を付けたアベノミクス

時計専門誌「クロノス日本版」にいただいているコラム「時計経済観測所」では、毎回、時計と景気を結び付けた記事を書いています。少し古くなりましたが、8月発売の9月号に載った記事を、編集部のご厚意で以下に再掲させていただきます。クロノスのオリジナルページものぞいてみてください。→http://www.webchronos.net/

Chronos (クロノス) 日本版 2013年 09月号 [雑誌]

Chronos (クロノス) 日本版 2013年 09月号 [雑誌]

 7月の参議院議員選挙自民党が圧勝した。自民党は改選議席を34から65に増やし、非改選の50議席と合わせて115議席を獲得。公明党と合せて135議席と、過半数の122議席を大きく上回った。これでいわゆる「衆参のねじれ」は解消、与党は両院で多数を占めることとなった。自民党の圧勝は安倍晋三首相が進める経済政策「アベノミクス」への期待の表れと言えるだろう。「たくさんの国民の皆さんに、経済政策を前に進めていけという大きな声をいただいた」
 選挙結果を受けて安倍首相はこう語った。そのうえで、デフレからの脱却を急ぎ、経済の再生に取り組む姿勢を強調した。
 選挙戦の最中、野党はアベノミクス批判を展開したが、決め手に欠いた。「株価の上昇で潤うのは一部の金持ちだけで、庶民の生活は苦しくなっている」。せいぜい、そうした批判が精一杯だった。では、アベノミクスによる株価の上昇で潤っているのは、本当に一部の金持ちだけなのだろうか。
 野党がアベノミクス批判で使ったのが、「百貨店の高級品は売れているが、スーパーの生活必需品は売れていない」というもの。確かに5月まではそうした傾向が見えなくもなかった。前号でも触れたように百貨店での「美術・宝飾・貴金属」の売り上げの伸びが目立っていたからだ。
 高級品の販売好調がいずれ消費全体に火を付けるだろうと見られていた5月中旬。1万6000円に迫っていた日経平均株価が急落した。その後も株価は一進一退が続いたのである。株価の右肩上がりの上昇が一服したことで、いったい消費はどうなるのか。一時のミニバブルとして終わってしまうのではないか。消費の行方が注目された。
 選挙戦終盤の7月18日、日本百貨店協会が6月分の販売動向を発表した。それによると全国百貨店売上高(店舗数調整後)は前年同月比7.2%増と大幅に増えたのだ。株価の下落にもかかわらず、「美術・宝飾・貴金属」の売り上げも16.3%増と高い伸びを続けた。時計の販売などが引き続き好調だったのである。ハンドバッグなどの「身のまわり品」も14.0%増だった。株価の軟調は高額品消費にほとんど影響しなかったと見ていい。
 しかも、生活必需品の消費も大きく増えていることが明らかになった。投票日の翌22日に、日本チェーンストア協会が発表した6月のスーパーなどの売り上げは驚きの数字だった。全体で前年同月比5.1%増加、既存店ベースでも2.7%の増加になったのだ。
 既存店ベースでは3月に1.7%のプラスになったものの、4月も5月もマイナスだった。2.7%増という数字は過去2年間で最大の伸び率だ。
 食料品では肉や惣菜の販売が好調だった。また、家具やインテリア、家電製品を中心に住関連商品も大きく増えた。6月の百貨店とスーパーの売り上げの伸びは、株価の上昇で一部の高級品だけが突出して売れていたものが、消費全体へと広がっていることを如実に示していた。
 こうした消費好調の傾向が続くのは間違いなさそうだ。6月末に支給されたボーナスは、バブル期以来の高い伸び率を示したとされ、ボーナス増が消費を押し上げている。また、7月以降の全国的な猛暑によって、クーラーなどの家電製品や夏物衣料なども大いに売れた。中元商戦でも例年より高めの商品が好調だった。
 アベノミクスによる円安は、輸入品価格を押し上げている、とマイナス面が指摘されるが、現実には国内消費を増やすことに貢献している。円安で海外旅行が割高になったため、夏休みは国内旅行へのシフトが起きた。JTBの集計では、夏休みの国内旅行者数は過去最高だった。もちろん、日本を訪れる外国人旅行者も急増しており、これに伴って国内消費が盛り上がっている。時計や宝飾品は旅行者による購入が大きな割合を占めるが、この夏は、こうした日本国内を旅行する人の大幅な増加が追い風になるだろう。アベノミクスが軌道に乗れば、消費をされに押し上げることになるかもしれない。
◆クロノス日本版9月号(8月発売)