「フォーク有料化」と言っている場合ではない…日本のリサイクルの「ヤバすぎる実態」

現代ビジネスに3月18日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81296

スプーン、フォークまで

スーパーなどのプラスチック・レジ袋の有料化に続いて、コンビニなどでもらえるスプーンやフォークの有料化が始まることになりそうだという。

3月9日に閣議決定された「プラスチック資源循環促進法案」では、プラスチック製のストローやフォークなどを無償提供する事業者に、ゴミの排出を減らすための基準策定を求めるほか、排出事業者への勧告や命令、公表など行う権限を所轄官庁の大臣に与えることなどが盛り込まれている。

排出されるプラスチックゴミを減らし、国際的に議論になっている海洋プラスチック問題などに対応するのが狙いだというが、本当にそれで効果が上がるのだろうか。

日本は海洋プラスチック問題とは関係がない、と思っている人が少なくない。だって日々、ゴミは分別して捨てているし、リサイクルされているではないか、というわけだ。実際、公表されている日本の廃プラスチックのリサイクル率は86%で、世界に比べても高い水準にあるとされる。

実は、ここに問題がある。86%の中味を見ると、58%が「サーマルリサイクル」と呼ばれるもので、焼却して熱を回収して再利用するというものだ。国際的には、これはリサイクルとはみなされない。

化学的に分解して再利用する「ケミカルリサイクル」は4%、原料として再利用される「マテリアルリサイクル」は23%なのだが、ここにもまだ問題が隠されている。23%の過半が輸出なのだ。かつては中国向けが多かったが、中国が受け入れを厳しく規制するようになり、今はインドネシア向けが多いという。

リサイクル原料として再生されるというのが建前だが、「実際には山積みになって放置されているケースも多く、海洋に不法投棄されたり、流出したりして、海洋プラスチック問題につながっているとみられているます」と廃棄物マネジメント会社のトップは語る。そうした焼却や輸出を除くと日本のリサイクル率は実態としては、世界的にもみてかなり低いことになる。

「輸出」という抜け道が厳しく

ところがここへ来て、大きな問題が起きている。国際条約で廃プラスチックの輸出が厳しくなったのだ。2021年には、改正されたバーゼル条約付属書が発効、「リサイクルに適さない廃プラスチック」を輸出する場合は、事前に相手国に通告して、同意を得ることが必要になった。また、「リサイクルに適さない廃プラスチック」の範囲が広くなり、実際には輸出するのが難しくなっているのだ。

日本の2020年の廃プラスチックの輸出量は82万1000トンと、前年比8.6%減った。2014年の167万トンから7年連続で減少している。

2020年はレジ袋の有料化で廃プラスチックの排出量が減ったから輸出も減ったのかと思いきや、そうではないという。新型コロナウイルスの蔓延による在宅勤務の広がりなどで、コンビニの弁当容器などのゴミが増え、「明らかに廃プラの排出量は増えている」(前述のマネジメント会社トップ)という。つまり、輸出量が減っているのは、輸出が難しくなってきたことが主因とみられる。

今後、プラスチックゴミを処理するためのコストは大幅に上昇していくとみられる。輸出ができなくなれば、国内でのリサイクル率を高めなければならないが、ゴミ処理業者の引き取り価格などが上がっていく可能性が高いという。つまり、企業の多くはどうやってゴミを減らすかが大きな課題になってきたわけだ。

そこで、冒頭の法案が効いてくる。これまでお客に無料でスプーンを渡しても、ゴミを処分するのは買った側で、家庭ゴミとして出せば無料だった。そのツケは自治体に回ってくるわけで、結局は税金で処分しているわけだ。

ところが、法案が成立すれば、今後、排出側の責任が問われることになる。回収を求められることになれば、プラごみの処分費用が排出企業に回ってくることになりかねない。

 

レジ袋の有料化も今後可能性のあるスプーンの有料化も、顧客に利用を自粛してもらう狙いと同時に、企業側の資金回収の道筋を付ける狙いもある。有料にしてコスト回収する道を作ることで、今後予想されるごみ処理費用の増加に対応させようとしているのだ。

最終的に家庭ごみ有料化へ

だが、有料化でプラごみの総量が減るかどうかは微妙だ。もちろん、有料にすることで、プラスチックの利用そのものを減らさなければと消費者に意識改革してもらうきっかけにはなるだろう。だが、プラごみの総量を劇的に減らすには、抜本的な対策を考える必要があるだろう。

最も効果が高いのは家庭で出すごみを「有料」にすることではないか。

もう20年近く前にスイスとドイツに赴任したことがあるが、ごみ対策は日本とは比べ物にならないくらい徹底していた。スイスの場合、自治体によって金額が違うが、チューリヒの場合、35リットルくらいの指定ゴミ袋に入れないとゴミは捨てられなかった。10枚で2000円くらいしたのを覚えている。当然、必死になってゴミの排出量を減らした。

一方で、リサイクル品は大きなゴミ箱が町中にあり、無料で捨てることができる。ただし、色の付いた瓶、缶などいくつもの種類に分別することが求められている。結果、スイスでは10年ほど前から、焼却するゴミの量をリサイクルゴミの量が上回っている。

ドイツはスイスに比べると緩かったが、飲料は徹底してリターナル瓶が使われていて、週末に空き瓶のケースを持って飲料販売店に買いに行くのが父親たちの役割になっていた。

ドイツのスーパーの店頭では、パッケージを開けてリサイクルボックスに捨てていく人が多かったが、いかに自分の家に持って帰るゴミを減らすか、つまり自分の家から出すゴミを減らすかに皆、心を砕いていた。欧州共通だが、スーパーの野菜や果物はほとんど量り売りで、プラスチックのパッケージなどには入っていない。

日本は高い技術力で高性能焼却炉を開発し、ゴミを焼却してもダイオキシンなどが発生しないものを生み出した。ゴミ焼却場に温水プールを併設してその熱を利用し、「リサイクル」と胸を張ってきた。

だが、本当にそれで地球環境を守っていけるのか。プラスチックゴミ問題を、日本人の生活スタイルのあり方を含め、根本的に考え直すきっかけにすべきではないか。