3回目の緊急事態宣言でまたも「女性・非正規」へシワ寄せがいく深刻事態  統計のウラ側を読む

現代ビジネスに6月4日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/83752

統計上では大幅改善

新型コロナウイルスの蔓延による経済活動の停滞で減少が続いていた「雇用」が持ち直している。

総務省が5月28日に発表した4月の「労働力調査」によると、企業などに雇われている雇用者数は5945万人と前年同月に比ベて29万人増加。2020年3月以来13カ月ぶりに増加に転じた。就業者数も6657万人と、13カ月ぶりに増加した。

宿泊業や飲食サービス業の就業者は引き続き大幅に減少しているが、医療・福祉関係や情報通信など新型コロナ下でも人手が必要になっている業界が就業者を増やしている。

また、非正規の職員・従業員が2039万人と20万人増加。2020年3月から続いていた減少がようやく止まった。正規職員については2020年6月から増加を続けており、そのしわ寄せが非正規に及んでいるとみられてきたが、遂に減少が止まった。

これまで減少が目立った「女性非正規」が1392万人と13万人、0.9%増加。中でも「女性パート」が887万人と19万人、2.2%も増えるなど、統計上では非正規雇用の状況が大幅に改善している。

しわ寄せは弱い立場へ

もっともこれには、「統計のマジック」という側面もある。

比較対象になっている1年前の落ち込みが大きかったためで、2年前の4月の「女性非正規」1450万人と比べると58万人も少ないし、新型コロナ前のピークだった2019年12月の1493万人と比べると100万人少ない。潜在的に100万人の非正規女性が仕事を失っている可能性があるのだ。

さらに「女性非正規」は景気の状況に敏感に左右されていることも分かる。1回目の緊急事態宣言が解除され、GoToトラベルなどで景気底入れが図られた2020年の秋には女性非正規の雇用が増加に転じ、11月には1446万人にまで回復した。ところが2回目の緊急事態宣言が出された結果、2月には1398万人にまで減っている。

4月の1392万人は確かに1年前と比べればプラスだが、水準としては多くない。再びしわ寄せが弱い立場の非正規雇用者、中でも女性雇用者に及び始めている可能性がある。

業種で見ても、女性労働者が多い「宿泊・飲食サービス」の就業者数はこの4月で353万人。2年前の419万人に比べて66万人、率にして16%も減った。

卸売業小売業も1081万人から1056万人に25万人減っている。女性の職場の就業状況は依然として厳しいと思われる。3回目の緊急事態宣言が長引いていることで、女性従業員、中でも非正規雇用者へのしわ寄せは一段と厳しさを増すことになりかねない。

困窮者に救いの手は伸びているか

困窮する人が増えている様子は、厚生労働省が発表している「生活保護の被保護者調査」の「申請件数」や「保護開始世帯数」の推移を見ても分かる。

1回目の緊急事態宣言が出た2020年4月に申請件数は24.9%も増加、開始世帯も14.9%増えた。その後、申請も開始も減少に転じていたが、2回目の緊急事態宣言が出た2021年1月から再び増加している。

申請件数は1月7.2%増、2月8.1%増、3月8.6%増となり、保護開始も1月8.2%増、2月9.8%増、3月8.7%増と大きく増えている。3月の保護開始世帯は2万件を突破した。

もっとも生活保護世帯数全体としては新型コロナの期間を通じてほぼ同数で推移しており、申請が通る人がいる一方で、打ち切られる人もほぼ同数いる状況が続いていると見られる。

仕事を失って困窮している人に十分な救いの手が差し伸べられているのかどうかは分からない。

あくまでも「余剰人員」として

経済的に追い詰められている人が多いことと関連があるのか、自殺者も再び増加傾向にある。

警察庁の統計によると、自殺者数は2020年7月に月次で前年同月比プラスに転じて以降、増え続けている。10月には45%増を記録、特に女性の自殺者が目立った。警察庁の調査では経済的な理由は少なく、病気理由が増えている。

新型コロナによって「巣篭もり」を強いられるなど精神的な圧迫感が大きな理由かもしれないが、失業や職場でのストレスが精神疾患に結びついていることも考えられる。2020年10月は完全失業率が3.1%と新型コロナ以降、最悪になった月だった。

自殺者は1月には前年同月比2.3%増にまで減っていたのだが、これも2月以降、再び増加傾向が鮮明になっている。2月は13.7%増、3月10.6%増、4月19.5%増といった具合だ。

政府は企業に対して雇用調整助成金などを支給することで、雇用を守らせることを政策の中心に据えている。この結果、完全失業率は最低だった2.2%(2019年12月)から前述のように2020年10月に3.1%にまで悪化したが、それ以上、大幅に失業者が増える結果にはなっていない。国が助成金を出すことで、企業に「余剰人員」を抱えさせているからだ。

新型コロナが収束して経済活動が元に戻るとするならば、抱えた人材が再び活躍できることになるが、ポスト・コロナで業態が変わったり、その企業が自力では人員を抱えることができなくなれば、むしろ今後、人員整理を行わざるを得なくなる。労働力統計の一見良い数字を喜ぶことができない理由はそこにある。