現代ビジネスに3月16日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→
https://gendai.media/articles/-/125916
幕引きを狙ったが
衆議院に続き参議院でも「政治倫理審査会」が開かれ、自民党安倍派を中心とする、派閥のパーティー券収入に関する、いわゆる「裏金」疑惑について、幹部議員が出席し、野党議員らの質問に答えた。岸田文雄首相は繰り返し「説明責任を果たすことが重要」と繰り返し発言しているが、果たして審査会の質疑で説明責任がはたされたのか。
「まったく真実が明らかになっていない」――。3月15日の参議院予算委員会で、前日の政治倫理審査会について、立憲民主党の田名部匡代参議院議員が岸田首相に、こうかみついた。岸田首相は、「説明責任が尽くされたかどうかは、国民の皆さんが判断されることであります」といったん突き放したものの、さすがにマズいと思ったのか。「まだ疑念が残るということであるならば、引き続き説明責任を尽くしていかなければならない」と述べた。世耕弘成・前自民党参議院幹事長らの大物議員の出席で「説明責任は果たされた」として幕引きを図ることを狙っていたが、疑惑追及はまだまだ続くことになりそうだ。
これまでも事あるごとに岸田首相は「説明責任」という言葉を使ってきた。朝日新聞は2月14日時点で、岸田首相が「説明責任」という言葉を102回繰り返したと報じている。例えば、「関係者が『説明責任』を尽くすことは重要で、『説明責任』を果たすよう党として促しており、これからも『説明責任』を尽くすよう促していきたい」と国会で発言。結局、裏金問題の実態解明に踏み込むこともなく「言葉だけが空虚に響く論戦」だと朝日に切り捨てられている。
アカウンタビリティのことですよ
そもそも岸田首相はどういう意味で「説明責任」という言葉を使っているのか。
どうやら、政治倫理審査会に出席したり、記者会見を開いて、「説明」をすることが、説明責任だと思っているようだ。「説明」する「責任」である。だから、当初、政治倫理審査会にすることを多くの議員が拒絶したことに対して、岸田首相自らが審査会に出ると言い出し、他の元派閥幹部も出ざるを得なくなった。これで、岸田首相としては「説明責任」を果たすことになると考えたのだろう。だから、まったく実態が分からない答弁でも「説明責任が尽くされたかどうかは、国民の皆さんが判断されること」と言ってはばからなかったのだろう。
だが、「説明責任」とは本来、そんなに軽い言葉ではない。
国会で「説明責任」という言葉が正式に使われるようになったのは1999年に国会で成立し2001年4月から導入された「情報公開法」の議論においてだったとされる。
「米国などで使われていたアカウンタビリティを『説明する責務』『説明責任』という日本語にしたのです。ですから、きちんと理解してもらうことが前提で、単に説明すれば良いという話ではないのです」
当時、法案作成に携わった元総務庁行政管理局長の瀧上信光・千葉学園常務理事は語る。情報公開法の第一条には「(政府の)諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」という一文がある。
アカウンタビリティを説明責任と訳すのは今では広く定着しているが、元々、アカウンタブル、つまりアカウント(会計)できるという言葉の派生語である。アカウンタビリティはアカウントとレスポンスィビリティ(責任)の合成語という説明もよくされる。企業が決算書を作ったり、有価証券報告書で、細かく事業の内容を説明し、お金の流れを明らかにするのと同様、説明責任を果たすというのは自らの説明を裏付ける資料や証拠が不可欠なのだ。
肝心のことは「記憶にない」「私は知らない」で逃げおおせようとするのは、決して「説明責任」を果たしていることにはならないのだ。
本来ならば……
今回の問題では、派閥から裏金としてキックバックを受けた4800万円の収入を自身の政治団体の政治資金収支報告書に記載しなかった疑いで安倍派の池田佳隆衆議院議員が逮捕され、4300万円が不記載で、略式起訴された谷川弥一衆議院議員は議員辞職した。谷川氏には罰金100万円と公民権停止3年間の略式命令が下っており、3年間は立候補できない。政治家にとっては厳しい判決だ。
ところが、不記載金額が4000万円未満だったその他の多くの議員については、東京地検特捜部は立件を見送っている。金額で立件するかどうかを決めるのは地検の判断として致し方ないとして、立件されなかったから政治家として問題なし、ということにはならない。本来ならば議員資格を失うような不正行為なのだ。
何かキックバックの金額決定や不記載に関わったとなれば、法的にはともかく、政治家として道義的倫理的な責任は逮捕・議員辞職した2人と変わらない。少しでも責任を認めれば、議員辞職するしかなくなるため、何を聞かれても、知らぬ存ぜぬで押し通す他ない、ということなのだろう。
キックバックされたカネを何に使ったか。その「説明責任」もまったく果たされていない。地元の県議会議員や市議会議員に配ったと説明した議員もいたが、「選挙期間中であろうとなかろうと事実上の買収だ」と国会議員の秘書から地方自治体の議員になった元政治家も呆れる。区議会議員らに資金を配った柿沢未途・元法務副大臣は逮捕・起訴され、当初は買収の意図を否定したものの、結局、一審有罪となり、懲役2年、執行猶予5年の判決が下った。確定すれば5年間は立候補できなくなる。つまり、派閥からキックバックを受けた議員たちは、そのカネを何に使ったかも、口が裂けても言えなくなったわけだ。
テレビ中継を通じて、何を聞かれても、真実を語らない国会議員たちの姿を見て、子どもたちはどう思うのだろうか。もはや政府不信の域を越えて、政治家への絶望感が漂ってくる。