東証大証統合を金融庁がせかすワケ

本日11月7日朝刊で日本経済新聞が「東証大証が来秋合併」と大々的に報じました。残るは合併比率のみとのことですが、報道で大証の株価が急騰してしまいました。これではなかなか合併比率が決められないのではないでしょうか。斉藤CEO、米田COOで両者が合意したのは確かですが、財務省金融庁は黙って見ているのかが焦点です。来秋合併ということは、来春の人事でも両社長は続投するということですから。

今月2日にアップされた、「フジサンケイビジネスアイ」の1面コラムを以下に再掲します。
オリジナルページ → http://www.sankeibiz.jp/macro/news/111102/eca1111020503001-n1.htm


 このところ毎月月末が近づくと各紙の経済部記者は落ち着かない日々を過ごしている。東京と大阪の両証券取引所の社長の定例会見が、それぞれ月末に行われるのだが、懸案の両証取の統合問題が一向に決着しないからだ。3月の東日本大震災直前に日本経済新聞が「統合協議へ」と書いて以来、8回目の月末が過ぎた。「さっさと決めてくれ」というのが担当記者の偽らざる気持ちだろう。

 同様にいらだっている人物がいる。証取の監督官庁である金融庁畑中龍太郎長官だ。金融庁の官僚によれば、「統合しないのなら両社長ともクビ」と息巻いているそうだ。何としても、東証大証をくっつけたい意向らしい。

 なぜ金融庁が両証取の統合に躍起になるのか。実は、単純な理由だ。民主党政府は昨年決めた新成長戦略に「金融」を付け加えたが、その具体策が「総合的な取引所」の実現という項目だった。

 本来は所管官庁がバラバラの工業品取引所(経済産業省所管)や穀物商品取引所(農林水産省所管)の規制を一本化するというのが総合取引所構想だ。ところが、農水省などの抵抗が激しく、実現のメドは立っていない。だからといって何もしなければ、政治家に申し開きができない。ということで、金融庁は庭先の東証大証の統合に前のめりになっているのだ。

 もともと東証大証の統合は斉藤惇・東証社長の持論だったが、3月に日経が書いた段階では斉藤氏は動いていなかった。それまで慎重だった米田道生・大証社長が積極姿勢に変わったのが、日経が報道したきっかけだが、米田氏の背後に霞が関がいる、という解説も流れている。

拡大の好機? 官僚OBが天下るのは露骨過ぎだが…
 霞が関が証取に関心を持つのは、日本の資本市場の未来を考えてのことではない。天下りポストだ。年明けには財務省東証の斉藤社長を会長に棚上げし、後任社長に武藤敏郎・元事務次官を据えようと画策していた。世界的な競争にさらされている取引所のトップが官僚OBで務まると思っているところも時代錯誤だが、金融庁長官が取引所の社長をクビにできると考えているのも前時代的だ。両証取ともすでに民間の株式会社で、大証はれっきとした上場企業である。

 肝心の統合問題だが、残る懸案は統合比率だけで、現在の案に難色を示している大証側が妥協すれば、11月末の社長会見では合意発表に到達することができるだろう。最終的には持ち株会社の下に現物株を扱う東証と、先物を扱う大証がぶら下がる形になる。

 さすがに統合したての持ち株会社トップに官僚OBが天下るのは露骨過ぎる。だが再編は会長や社長、役員といった役職を作りやすく、天下りポスト拡大の好機になる。金融庁が統合をけしかける本当の理由が、そんなところにあるとすれば、寂しい限りである。(経済ジャーナリスト・磯山友幸