国会は本当に国民の声を代表しているか!? 民主・自民ともにお蔵入りを望む国会事故調「7つの提言」

7月24日、東京電力福島第一原子力発電所事故に関する政府の事故調査・検証委員会(政府事故調)が最終報告をまとめました。7月5日には国会に設置された事故調査委員会(国会事故調)も報告書を出したほか、東京電力や民間組織も調査報告をまとめており、それぞれの立場からの調査報告がほぼ出揃ったことになります。何のために調査を行なったのでしょうか。言うまでもなく、過去の教訓に学び、二度と同じような悲惨な事故を起こさないためです。これらの報告書をベースにして、今後、原子力発電をどうしていくのか、安全対策はどうするのか、政府の危機管理をどう手直ししていくのか、真剣な議論を行うことが私たち国民に課せられた使命ではないかと思います。ところが、どうも、報告書をまとめてオシマイ、というムードが漂っているのです。現代ビジネスにアップした記事を、編集部の御厚意で以下に再掲します。
オリジナルページ→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33076

 国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)がまとめた提言が、棚上げされたままお蔵入りする可能性が強まっている。国会事故調は7月5日に、衆参両院議長に640ページに及ぶ報告書を提出、その中で、国会に原子力規制機関を監視するための常設委員会の設置など、7項目にわたる「提言」を盛り込んだ。

 国会の下に民間人による調査委員会を設置したのは、憲政史上初の試みだったが、それだけに、その報告書をどう扱うかといった規定も慣行もない。国会の機能を劇的に変えると期待された試みだったが、玉を投げ返された国会の動きは鈍い。

 東京電力福島第一原発の事故については、政府や東京電力なども、それぞれ事故調査委員会を立ち上げ、報告書をまとめている。しかし、政府や東電はあくまで当事者であることから、独立した組織として作られた国会事故調の報告書が注目されていた。

過去の自民党の政策決定責任もヤリ玉に

 国会事故調は昨年末に与野党の賛成により法案が成立、委員の人選や事務局スタッフの公募を行い、まったく新しい時限的な組織として作られた。法律ではおおむね6ヵ月以内に報告書をまとめることとされたため、委員会は報告書を両院議長に提出した段階で解散した。

 のべ1167人に900時間を超えるヒアリングを行ったほか、東京電力や各省庁などに資料提出なども求めた。こうした資料の保管や今後の扱いについても法律に定めがないため、事務局の一部が存続し、今後の対応に備えている。つまり、報告書の扱いも、報告書をまとめるための資料の扱いも、両院議長に委ねられているわけだ。

 といっても議長が独断で決められるわけではない。議院運営委員会で取り扱いが議論されるのが筋なのだが、一向に進む気配がない。国会事故調の設置では与野党各党が合意した。政府の事故調では不十分とする野党側の主張に、与党も理解を示した結果だった。ところが、報告書の提言をどう扱うかとなると、なかなか与野党の溝が埋まらないのだ。

 目先の国会では消費税増税を盛り込んだ税・社会保障一体改革関連法案の扱いが最大の焦点になっている。そんな中で国会事故調の報告書の扱いに関心を示す議員はごく少数だという事情もある。だが、最大の問題は報告書の中味だというのだ。

「福島原子力発電所事故は終わっていない」という書き出しで始まる報告書は、「この事故が"人災"であることは明らか」だと結論付けている。当時の菅直人首相の行動に対しても、官邸の過剰介入だとして他の報告書に比べて厳しい筆致で書かれている。報告書が出た直後、菅氏は「首相官邸の事故対応に対する評価や東電の撤退をめぐる問題など、いくつかの点について私の理解と異なるところがある」とする文書を発表。内容に不満を示した。

 そんな、菅氏に厳しい報告書に対して、民主党が背を向けているというのだ。それが「議院運営委員会でで民主党が動かない本当の理由」(民主党議員)という。

 では一方の自民党はどうかと言うと、こちらも腰が引けているという。報告書が示している「人災」の責任の所在として、事業者である東京電力などと並べて「歴代及び当時の政府、規制当局」といった表現がある。つまり、原発を推進してきた自民党政府の責任も問うているわけだ。

 この報告書を受けて、国会の中で議論が行われれば、過去の自民党の政策決定責任もヤリ玉に上がりかねない、という危惧が生じている、というのだ。つまり、民主党自民党も報告書をお蔵入りさせたいと本音では思っているというのである。

報告書を扱いあぐねる国会の姿

 事故調は国会の機関といいながら、独立性を重視したため、委員会の議論には政府関係者や国会議員は関与しなかった。その結果、国会が予想した以上に"過激な"報告書が出てきたということだろう。党派色を排除することを重視したために、逆に、報告書提言の実行を強く支持するという政党もいなくなってしまったのだ。

 報告書の7つの提言は、国会に「行動」を求める内容になっている。一般の国民からすれば正論と思える内容だが、では誰が主導権を取って提言を実行に移していくのか、となるとまったく話は違ってくる。

提言の内容は以下の通りだ。

提言1) 規制当局に対する国会の監視: 国民の健康と安全を守るために、規制当局を監視する目的で、国会に原子力に関わる問題に関する常設の委員会等を設置する

提言2) 政府の危機管理体制の見直し: 緊急時の政府、自治体、及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め、政府の危機管理体制に関係する制度についての抜本的な見直しを行う

提言3) 被災住民に対する政府の対応: 被災地の環境を長期的・継続的にモニターしながら、住民の健康と安全を守り、生活基盤を回復するため、政府の責任において対応を早急に取る

提言4) 電気事業者の監視: 国会は、事業者が規制当局に不当な圧力をかけることのないように厳しく監視する

提言5) 新しい規制組織の要件: 規制組織は、今回の事故を契機に、国民の健康と安全を最優先とし、常に安全の向上に向けて自ら変革を続けていく組織になるよう抜本的な転換を図る

提言6) 原子力法規制の見直し: 原子力法規制について抜本的に見直す

提言7) 独立調査委員会の活用: 原子力臨時調査委員会(仮称)を設置する。また国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとする。

 これらの提言に対して、真正面から向き合い、実行に移そうとすれば、政党自身が、従来の電力事業者や規制当局との関係を再整理しなければならなくなる。つまり、政策の軸足を事業者サイドから需要家サイドに切り替えられるかどうか、という大きな壁にぶつかるのだ。

 憲政史上初の試みとされた国会事故調。政府の行動に文句を付けるだけの役回りから脱皮し、国会自らが国民の声を吸い上げ、政府に変革を求めていく役割へと変わる一歩になるかと思われた。だが、実際に出てきた事故調報告書を扱いあぐねている国会の姿をみると、国会自体が本当に国民の声を代表しているのか、という憲政の基本に疑問符を投げかけているように思える。