「陰謀史観」秦郁彦著(新潮新書) 

最近とみに「陰謀論」ばやりだ。経済書ビジネス書のコーナーではそうした陰謀論がベストセラーとして並んでいる。読めば面白いことこの上ない。そんな「陰謀史観」の変遷をたどったのが、この本だ。幕末から「欧米の陰謀」をベースにした著作が流行し、それが世の中の維新ムードにつながったという話や、戦前の軍部による「陰謀」「策謀」の分析など、陰謀論の構造を考えるうえで、面白い。
だが、すべてを陰謀で説明できるほど世の中は単純ではない。「国際金融資本の陰謀」「米国の陰謀」というレトリックですべてを説明する手法は、所詮抗っても無駄だという「思考停止状態」を産む。どんな国家にも、組織にも「戦略」はある。それを実現するための「戦術」もある。「米国の陰謀だ」と言うのなら、それに対抗できる陰謀を日本もめぐらせてみてはどうだろう。

陰謀史観 (新潮新書)

陰謀史観 (新潮新書)