お上主導で祝日だらけ 効率の悪い日本の“休み方”

朝夕のラッシュアワーの混雑と、日本の会社の休日の少なさは、がむしゃらに働いた高度経済成長期とあまり変わらないのではないでしょうか。まだまだ発展途上国並みのカルチャーを引きずっているように思います。しかも、どうにかしてラッシュの混在を緩和しよう、もっと長期間の休暇を取るようにしよう、という発想の転換ができていないように思います。成熟社会となったと言われる日本。もうそろそろ今までの常識を覆す発想の転換をする時期ではないでしょうか。月刊誌WEDGEの連載の10月号に書いた記事を編集部のご厚意で以下に再掲します。
オリジナルページ→ http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2247?page=1


 「日本人はそんなに長時間働いて、人口もドイツの1.6倍なのに、GDP(国内総生産)はたかだか2倍ちょっと。生産性が低いんじゃないのか」

 四半世紀以上も前の学生時代、ドイツ人学生に言われた言葉が忘れられない。当時は日本のGDPは米国に次いで2位、ドイツは3位だった。しかも、日本人の働き過ぎが批判されていた時代だ。ドイツ人学生はやっかみ半分で言ったのだろう。

 その後、日本はバブル経済に突入、「24時間戦えますか」という三共(現第一三共ヘルスケア)の栄養ドリンク「リゲイン」のCMソングが大ヒットしたりした。日本の経済成長を支えた一因が長時間労働にあったことは自他共に認めるところだ。

 当時、「ドイツ人は働かない」というのが定説になっていた。組合が強いため、残業は拒否、長期休暇をたっぷり楽しみ、手当も充実している。ちょうど日本と正反対といえる状況だった。

 当時の日本の、1人当たり年間平均総労働時間は2200時間を超えていた。ドイツは1600時間あまりだった。そんな日本の長時間労働は国際的にも非難を浴びたのは言うまでもない。銀行が土曜休業になったのをきっかけに、週休2日が一気に広がっていった。とにかく、労働時間の短縮が国家を挙げての課題だったのだ。

 労働政策研究・研修機構の調査によると、2010年の年間総労働時間は1733時間。ドイツの1419時間には及ばないが、遂に米国(1778時間)を下回り、イタリア(1778時間)やニュージーランド(1758時間)よりも短くなった。長引くデフレによって残業が大幅に減少したことも要因だが、ともあれ、労働時間の短縮は着実に進んだのである。

実感のわかない休日の多さ

 実は、休みとなる祝祭日の数も日本が抜きん出て多い。英国は8日、ドイツ、フランス、米国は10日だが、日本の祝日は15日ある。しかも正月は休日である元日だけでなく、2、3日を加えた三が日を慣例的に休む会社が多い。一斉休業日が日本は多いのである。

 だが休みが多いと言われても、実感がわかない人がほとんどだろう。欧米並みの長期休暇など夢のまた夢、というのが実態ではないか。

 あなたの今年の夏休みは連続何日だったろう。保険会社や旅行会社のアンケートでは平日ベースで3〜4日という答えが多いようだ。土日を入れて1週間取れれば良い方といったところだろう。昔に比べれば休めるようになったという声は聞くものの、欧州で一般的な、夏2週間+冬1週間のバカンスというのは日本では実現していない。

 なぜか。日本では“お上主導”の労働時間短縮だったため、週休2日の導入や祝日の増加といった「一斉休業日」を増やすことに力点が置かれてきた。国民の祝日には「海の日」や「みどりの日」が加わり、さらに増やすべきだ、という議論もある。

 この「一斉休業」重視が、長期休暇の実現を阻害しているのだ。日本人の横並び意識も指摘されるが、「休みは全員一斉が当たり前」ということになると、他の人が働いている時にひとりだけ有給休暇を取ることは精神的に難しい。日本は欧米諸国に比べて有給休暇の取得率が極端に低いと言われる。

 多くのサラリーマンが感じていることだが、祝日が増えることによって仕事の能率が落ちているのではないか。8月の夏休みシーズンが終わったと思ったら、9月に2回、10月に1回、11月に2回の連休がやってくる。この時期、欧州では休みが少なく、クリスマス休暇に向けて、猛烈にアクセルを踏んで働く時期なのだが、日本ではアクセルを踏んだかと思うとブレーキをかけなくてはならない。

 いっそのこと、国民の祝日を公休日にするのを止めてしまうのはどうだろう。一斉に休む日を減らし、その分、自由に休める有給休暇日数に加えるのである。年間35日の有給休暇をそれぞれが自由なタイミングで取るようになれば、欧米型の長期休暇も実現する。

 工場では一度生産を止めると再スタートに時間がかかるなどロスが大きい。祝日に合わせて工場を止めていたら生産効率が大きく落ちてしまう。このため、祝日も稼働させ、従業員は交代勤務にするといった工夫をするところが増えている。ゴールデンウィークのような飛び石連休を、大工場を抱える製造業企業が連続休業にしてしまうのもこのためだ。

 小売業も年中無休が当たり前になって、交代制でシフトを組み、休みを取るケースが増えている。市役所なども土曜日に開庁する自治体が増えている。全国民が一斉に休む日、というのはもはや幻想かもしれない。

労働時間ではなく質に違いがある

 ドイツ人学生に「生産性が低いのでは」と言われた頃、日本の1人当たり名目GDPは世界6位。主要国としては米国に次ぐ2番目で、当時のドイツは18位だった。その後の日本は、労働時間が短くなるのと時を同じくして、GDPは頭打ちとなっていった。働く時間が短くなって、生産性も落ちたのである。

 11年に1人当たり名目GDPで日本は18位に転落した。ドイツは20位だった。GDPの国際比較はドル建てのため、日本は大幅な円高になっているため換算すると見た目が良くなる。それぞれの通貨で過去と比較すると、日本の11年の1人当たり名目GDPは366万円と四半世紀前の1.3倍に過ぎない。これに対してドイツは3万1436ユーロと25年間で2・4倍に拡大している。

 長期休暇を楽しみ、さらに労働時間短縮を進めているドイツの方が、1人当たりGDPの伸び率が高いというのは何を意味しているのだろう。単に労働の時間量ではなく、労働の質、つまり働き方に大きな違いがある、ということではないか。

 10年前に欧州に赴任した頃、ドイツ人銀行家に「日本の銀行員は1日に何時間働いているか」と聞かれたことがある。「多い人は12時間以上でしょうね」と言うと、それは不可能だ、という。「集中して仕事をしたら12時間なんて働けるはずがない」というのだ。暗に“労働の質”に違いがあるのではないか、とほのめかされた。

 かつて大ヒットした「リゲイン」のCMソングが、今年復活した。往年のメロディーに乗せる替え歌を募集したのだ。「24時間戦えますか」というかつての名キャッチコピーの部分には「力を合わせ前に進もう」といった文句が当てはめられていた。もはや長時間労働=元気とするムードは日本社会から消えた、ということだろうか。

 バリバリ働きさえすればいい、という段階を踏み出したように見える日本。休むときは大いに休み、働く時は大いに働く。そんな生産性を上げる効率的な働き方を追求する時代が来たのかもしれない。

◆WEDGE2012年10月号より