成田、羽田の一体化で アジアのハブに返り咲く

羽田空港の国際線が増え、海外出張も便利になりました。とくに東京西部・南部に住む人にとっては格段に便利になったのではないでしょうか。また、深夜発の便ができたことで、欧州早朝着などが可能になり、日程短縮も楽になりました。グローバル化が進む世界の中で日本経済が闘うには、インフラである「空港」の整備が不可欠です。WEDGE11月号に掲載した連載記事「復活のキーワード」を編集部のご厚意で以下に再掲します。オリジナル→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2326

 日本経済を復活させるには、世界からヒト・モノ・カネをいかに呼び込むかがカギとなる。その入り口とも言える象徴的な存在が「空港」である。

 国際線旅客利用者数の空港別ランキングで見ると、2006年には、香港国際空港が世界5位で4327万人、次いで6位が日本の成田空港で3386万人、7位がシンガポール・チャンギ国際空港の3336万人だった。つまり、香港、東京(成田)、シンガポールがアジアの三大ハブ空港だったわけである。つい6年前のことだ。

 当時すでに、アジアでの「ハブ争い」は熾烈さを増していた。1998年に香港が大規模な国際空港を完成させ、01年には韓国の仁川国際空港が開業。タイも06年、バンコクに新しいスワンナプーム国際空港を開いた。チャンギ空港も06年に格安航空会社専用ターミナルを開業、08年には「ターミナル3」もオープンさせた。空港の大規模化は、自国の旅客需要を賄うためではない。アジアへやってくる世界中の人々の玄関口になることを狙ったのだ。

 遅まきながら日本も、07年に当時の安倍晋三内閣が「オープンスカイ」「アジア・ゲートウェイ」といった構想を掲げた。柱は羽田空港の国際化。国土交通省などの抵抗を押し切って、「国際線は成田、羽田は国内線」という不文律を打ち破った。10年秋に国際線ターミナルが完成。11年度には724万人が国際線を利用した。だが、他のアジア諸国の大規模な投資戦略に比べれば月とすっぽん。小手先の対応と言えた。

 11年の国際線旅客数の空港別ランキングでは、香港が5274万人で世界3位に躍進、シンガポールが4542万人で7位を死守したものの、成田は2633万人で13位へと後退した。その代わりにタイのスワンナプームが8位、韓国の仁川が9位となった。成田はアジアの三大ハブから陥落してしまったわけだ。

 成田空港では格安航空会社専用ターミナルの建設などが進んでいるが、夜間発着ができないうえ、空港の大規模な拡張の余地はない。羽田では国際線ターミナルの拡張などが行われているが、沖合へのさらなる再拡張など本格的な大規模化には時間がかかる。運用の見直しだけで発着回数を増やしていくのには限界があり、このままでは簡単にアジアのハブを奪還できない。

 そんな手詰まりの中で、参考になるのが、英・ロンドンの空港戦略だろう。ロンドンには空港が5つある。メインのヒースロー国際空港のほかに、ガトウィック空港、ロンドン・シティ空港があり、50キロ近く離れた場所にスタンステッド空港、ルートン空港がある。後者2つは格安航空会社が主に利用しており、格安航空会社ライアンエアーがスタンステッドを、イージージェットがルートンを本拠地にしている。

 ヒースローの11年の国際線旅客数は6468万人。世界一の座を守り続けるために拡張を続け、今ではターミナルは5つになった。それでも収まらない国際定期便はガトウィックに。北米路線の定期便のほか、チャーター便も多くがこの空港を使う。ガトウィックの旅客数は2992万人で世界11位。何と成田よりも多いのだ。これに金融街シティや新興ビジネス街カナリーワーフに近いロンドン・シティ空港は、欧州大陸などからのビジネス客を主体とする中小型機が発着する。

5つの空港を使うロンドンの戦略

 ロンドン周辺の5つの空港を機能分化させ、相乗効果を上げているのだ。5つの空港を「一体」ととらえて戦略を練っているのだ。ロンドンが世界中からヒト・モノ・カネを集めることができているのも、こうした空港戦略の成功が背景にあると見ていいだろう。

 では、ロンドン・モデルをどう日本に応用するか。成田と羽田を一体として戦略を練り直すべきだろう。まだまだ国際線は成田、国内線は羽田といった機能分化の考え方がしみこんでいる。

 都心の会社から旅立つビジネスマンにとって、羽田の国際線が増えれば圧倒的に利便性は高まる。実際、羽田を深夜に飛び立って、欧州の早朝に着く便や、米西海岸の夕方に着く便、羽田を早朝に発って、ニューヨークに早朝に着く便など、新しい運航パターンが生まれ、海外出張をより効率的にこなすことができるようになった。

 一方で、東京の東部や千葉、茨城など首都圏に住む人たちにとって、羽田よりも成田の方が便利な人たちも少なくない。にもかかわらず、成田の国内線は極端に少なく、不便なのだ。

 ハブ空港のハブは自転車などの車軸のことを言う。ハブから車輪に向かって伸びるのがスポークだ。ハブ空港が機能するにはスポークが無くてはならない。国際線だけのスポークではなく、国内線のネットワークの中心であることも重要なのだ。

 今、日本には地方空港がひしめいている。様々な形態の空港をすべて合わせるとその数は100を超える。「オラが町にも空港を」ということで、地方自治体が採算度外視で量産した結果だ。航空会社の収益が厳しくなったこともあり、定期便が飛ばない空港も少なくない。そうした空港に香港や仁川からチャーター便などが就航、結果的に、香港や仁川といったハブに客を吸い取られるスポークの役割を果たす結果になっている。

 成田と羽田の一体化を進め、より強力なハブにしていこうという取り組みがないわけではない。成田と羽田の交通網整備構想もその一環だ。

 京成電鉄京浜急行を結ぶ都営地下鉄浅草線の短絡新線を建設し、成田─東京駅─羽田を結ぼうという計画だ。成田─東京が37分、東京─羽田が22分で結ばれるというが、成田から羽田に移動しようと思えば1時間かかる。

 いっその事、成田と羽田を結んでしまえと、両空港間をリニアモーターカーで直結させるという壮大な構想もある。東京湾の下をくぐる大深度地下のトンネルで両空港を結び、時速約300キロで走行すれば、所要時間は約15分という。09年に当時の松沢成文知事のもと、具体化に向けた報告書を神奈川県がまとめている。経済波及効果は2兆9000億円というが、試算された建設費は1兆3000億円と巨額だ。

 私たちが見慣れた地図はメルカトル図法で描かれている。一見、ニューヨークから東京もシンガポールも距離がそれほど違わないように感じるが、現実の地球はまったく異なる。「正距方位図法」という距離と方位を正しく示す地図で見れば、日本は、北米からアジアへの途上にある。まさに「ゲートウェイ」なのだ。欧州からの距離を見ても、決して不利な位置にはいない。

 つまり、東京の空港がアジアのハブになれないのは地理的に不利だからではなく、ハブ化戦略に失敗したからに他ならないのだ。巻き返しに向けて、戦略を練り、一気呵成に挽回しなければならない。

                               ◆WEDGE2012年11月号より