若者を呼び戻す「儲かる漁業」は夢ではない! 「6次産業化」と「資源管理」を訴える三陸漁業生産組合の取り組みをレポート

農林漁業の1次産業化の現場レポート第2弾です。仲間に連れて行ってもらった東日本大震災の被災地、大船渡の漁業生産組合の取り組みをご紹介します。11月21日にアップした現代ビジネスのオリジナルページには関連のリンクが張ってありますので、是非ご覧下さい。オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34114


「漁業に若い人を呼び戻すのは簡単だ。漁業を儲かる産業にすればいいんだ」---岩手県三陸漁業生産組合の瀧澤英喜組合長はこう語る。

 瀧澤氏によれば、岩手県の漁業者の4割は販売金額が300万円未満の低所得で、4割が60歳以上の高齢者だという。重労働で低収入となれば漁師の息子ですら跡を継がない。何とか儲かる漁業を作り上げていきたい。そんな思いで、漁獲から加工・販売までを一貫して行う「6次産業化」に取り組む生産組合を今年5月に立ち上げた。

 参加したのは漁業者10人。大船渡市越喜来から7人、大船渡から1人、釜石から2人が加わった。水産業協同組合法に基づいて岩手県に申請。岩手県内で、漁業者による生産組合が認可された初のケースとなった。

国の支援を当てにしていてもダメだ

 まず取り組んだのがタコの生産加工販売。組合員がカゴ漁で獲ったタコを、煮ダコなどに加工、それを鮮度を保つことができる急速冷凍機(CAS)で冷凍して、都会の居酒屋など飲食店や一般の消費者向けに直販するのだ。

 ちなみに、一般の消費者向けには地元のネット直販会社「三陸とれたて市場」(八木健一郎代表)を通じて販売している。「三陸とれたて市場」は2001年にスタート。2004年に法人化した。今や、三陸を代表する有名産直サイトだ。

 最初の「取り扱い商品」をタコに定めただけに、生産組合のイメージキャラクターもタコにした。商品に貼るラベルやメンバーが持つ名刺にも真っ赤なタコが描かれえいる。

 タコの漁期が終わった秋以降は、新しい食材開発に取り組んでいる。地元で「ケツブ」「サクラガイ」と呼ばれるツブ貝の一種をむき身にして冷凍パックにしたものを、居酒屋向け食材として開発。試験的に都会の飲食店に出荷している。さらに三陸に戻ってくるサケを漁獲し、加工品の製造・販売なども行いたいとしているが、漁獲許可など越えなければならないハードルは高いという。


 東日本大震災ではこの地域の漁業設備も大きな被害を受けた。船や漁具を失ったり、冷蔵庫を流されたりした。「国の支援を当てにしていても中々俺たちのところには来ない」と腹をくくって、自ら生産組合を立ち上げることにした、という。そうした姿勢が多くの共感を呼び、ヤマト福祉財団などから支援が寄せられた。

大きく育て、高い値段で売ればいい

 瀧澤組合長は「漁業は儲かる産業になれる」と確信を持っている、という。その大きなきっかけになったのが、今年9月にノルウェー政府の招きで、岩手と宮城の漁業・水産関係者と共に視察した同国の漁業の成功を目の当たりにしたことだった。(参照:視察をまとめた河北新報の特集記事)

 ノルウェーで瀧澤氏が最も驚いたのは「資源管理の徹底ぶり」だった、という。日本の漁船に比べてはるかに大きい2000トンクラスの船で出漁し、魚を500トンも獲れば港に戻ってくる。これは資源管理のために初めから漁獲枠が割り当てられているからだという。日本の場合、漁船は魚を見つければ根こそぎ取ってしまう。船ごとの枠がないため、獲ったもの勝ちになるのだ。

 ノルウェーの漁業者はサバ漁で大きな利益を上げているが、大半が日本向けの輸出。魚価の高い3歳魚以上のサバを、一番良い値段で売れる時期に獲っている。漁獲枠が決まっているので、単価の高い魚を獲ろうというインセンティブが働くわけだ。

 三陸沿岸は名高いサバの産地だが、日本では4〜5歳魚まで残っているマサバは少ないという。大きく育つまで待てずに獲ってしまうからだ。

 また、ノルウェーでは漁労から漁港での水揚げ作業までを徹底して機械化し、2000トン級でも乗組員は8人ほどだという。日本は400トン級の漁船に30人以上も乗っているのだそうだ。

 生産組合で扱うタコにしても、1キログラムだったタコが2年待ては10数キロに育つという。本来は資源管理を徹底して、大きく育て、高い値段で売ればいいのだが、「目先の収入を優先して待つことができない人が多い」(三陸漁業組合の遠藤誠理事)のだという。

漁業の産業化が進む可能性

「多くの国民に、漁業の発展には資源管理が大切だという事を知ってもらうのが第一歩だ」と三重大学生物資源学部の勝川俊雄准教授は言う。

 農林水産省水産庁のOBなどには漁獲割り当ての導入を主張する人もいるが、現場の水産庁は消極的だ。「日本には漁業者が20万人いて、それも沿岸の小規模漁業が中心。ノルウェーとは状況がまったく違う」(水産庁幹部)というのだ。

 背景に漁協など漁業団体の根強い反対などを指摘する声もある。しかし、農業と同様、現状のままでは国際的な競争力を付けることもできず、ジリ貧に陥るのは火を見るよりあきらか。声の大きい既得権者に押され、産業化のビジョンを描けずにいる。

 そんな水産庁も、漁業(1次産業)と水産加工(2次産業)、販売・飲食などのサービス(3次産業)を組み合わせる(1+2+3=)6次産業化には前向きだ。「震災を機に、漁業がダメになっても、水産加工がダメになっても、お互い生きていけないことを痛感した地域が多い」(前出幹部)というのだ。

 もともと、漁業者と水産加工業者の仲が悪いなど、共に力を合せて事業に取り組むムードに欠けていたきらいがあるのだが、震災復興をきっかけに東北地方沿岸の漁業の産業化が進む可能性があると見ているようなのだ。


 三陸漁業生産組合のタコの絵が付いた商品のラベルには「世界三大漁場 いわて・三陸大船渡」とキャッチコピーが書かれている。自分たちの目の前に広がる海は世界有数の価値を持つ、という誇りの表れだ。

 その世界有数の資産をどう活用し収益を生み出していくのか。現場の取り組みに注目していきたい。