時計販売も好調な韓国経済 懸念される「危機」は来るのか

時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載している「時計経済観測所」。時計と景気を関連付けて分析するユニークなコラムです。隔月刊の雑誌も素敵な編集ですので、是非、本屋さんで手にとってみてください。クロノス→http://www.webchronos.net/

Chronos (クロノス) 日本版 2014年 03月号 [雑誌]

Chronos (クロノス) 日本版 2014年 03月号 [雑誌]

 韓国の2013年の輸出額と貿易収支の黒字額が過去最高となった。昨年の韓国の輸出額は5597億ドル(約58兆円)と2.2%増え、過去最大となる一方で、輸入は5155億ドル(54兆円)と0.8%減少。貿易収支は442億ドル(4兆6000億円)の黒字となった。携帯電話や半導体、自動車の輸出が好調だったことが大きい。
 輸入は、原材料が3.7%減少したことが輸入額全体の減少に寄与した。韓国は日本以上の「貿易立国」で、経済の輸出への依存度は高い。それだけに貿易黒字の増加は韓国経済にとってはプラス。昨年の韓国経済はまずまずのできだったということだろう。
 輸入は全体としては減少したが、その中で、消費財は7.5%増と逆に大きな伸びを示した。好景気を背景にブランド品などの消費が盛り上がり、消費財の輸入像につながったのだ。これは時計輸入にもはっきり表れている。
 スイス時計協会がまとめた、スイスから韓国向けの時計輸出を見ると、昨年1月〜11月の累計輸出額は4億9670万スイスフラン(約570億円)と前年同期に比べて12.4%増えた。1年前の同じ期間はその前年に比べて25.3%増と大きく伸びており、それに比べれば伸び率は純化している。それでも2ケタの伸び率である。特に昨年11月はその前のとしの同じ月に比べて57.2%増と、際立って大きな伸びを示した。年末商戦を控えていたこと、ウォン高によって購買力が増したこと、が大きく輸入を増やすきっかけになったものとみられる。
「韓国の消費者はこれ以上、輸入品の“カモ”になるべきでない」
 昨年秋、韓国の大手新聞「中央日報」日本語版の社説には、こんな一文が踊っていた。韓国では独占輸入業者が高く買わされていると批判していたが、「何よりブランド品ならよいという消費形態が変わらなければならない」と韓国の消費者の行動を戒めていた。日本人同様、高級ブランド好きの国民性なのである。スイスからの高級時計の輸入が大きく増えているのも、そんな背景があるのだ。
 輸出で稼いでいるうえに、高級品輸入が伸びていると言えば、韓国経済は好景気に沸いているのではないかと思いきや、必ずしもそんな楽観的な声ばかりではないようだ。
韓国経済に危機が迫っていると警鐘を鳴らす向きが増えているのだ。先の輸出額の増加にしても、統計はドル建てで、ウォン高ドル安による為替レーンのマジックで、大きく増えていると言われている。また、輸入全体が減少している背景には、国内設備投資の減少などがあるとの見方もあり、貿易黒字は「不況型の黒字」だという指摘すらある。
 また、輸出好調の恩恵を受けているのが特定の業界に偏り、国内全体に寄与していないため、一部の大企業関係者にだけしか恩恵が及んでいないという声もある。2012年の段階で、サムスングループと現代自動車グループの営業利益だけで韓国企業全体の利益の30%を突破したという。財閥企業に利益が集中している経済構造は不安定だというわけだ。
 ウォンの為替レートはうなぎ登りで、世界的な金融危機に陥った2008年のリーマンショック以来のウォン高・ドル安、ウォン高・円安水準になっている。年明けには、中央銀行である韓国銀行の金仲秀(キム・ジュンス)総裁が、海外資本の流出入などのモニタリングを強化し、必要な場合は適切な金融・為替市場の安定化措置を取ると述べた、と報じられた。
 米国の量的緩和の縮小で、韓国市場に流入していた資本が逆流出しているとの見方が強まっているのだ。また、日本のアベノミクスで円安が進み、日本と競合する半導体などの競争力が低下すれば、貿易黒字が一気に小さくなる可能性も出てくる。一見好調に見える韓国経済だが、実は危うさを秘めているというのである。
 仮に、韓国経済が一気に冷え込むとすれば、間違いなく輸入時計の売り上げに影響が出始めるだろう。今後、統計が出てくる12月や2014年1月のスイスからの韓国向け輸出額に異変が生じるのかどうか、注目すべきだろう。
◆クロノス日本版3月号(2014年2月発売)