中国人観光客急増で伸びる「国内外需」

隔月で発行される時計専門誌「クロノス」に連載中の「時計経済観測所」。時計を通じてみえる「景気」の行方などを解説しています。クロノスはウェブ版もあります。→http://www.webchronos.net/

Chronos (クロノス) 日本版 2014年 09月号 [雑誌]

Chronos (クロノス) 日本版 2014年 09月号 [雑誌]


外国人観光客の急激な増加が続いている。日本政府観光局(JNTO)の推計によると4月の訪日外客数は123万2000人と単月としては過去最高を記録。5月も109万7000人と過去2番目を記録した。1年前の同じ月と比べた伸び率は4月が33.4%増、5月が25.3%増で、いずれも極めて高い伸びを示した。

アベノミクスによって円高が修正され、日本への旅行費用が相対的に安くなったことが引き金。アジアを中心に、昨年以来、日本旅行ブームが続いていることが大きい。長年にわたるデフレによって日本のモノやサービスの価格が大幅に安くなっており、外国からの旅行者にとっては安い価格で買い物や食事が楽しめる絶好の観光地になっているのだ。何せ、都心のレストランでもランチなら2000円も出せば、前菜、メイン、デザート、コーヒーのコースが楽しめる。首都の一等地で20ドルのコースなど先進国はもとより、急速に物価が上がったアジア諸国でもお目にかかれない。

 外国人観光客の中でも、ここへ来て急増ぶりが目立っているのが中国からの旅行者だ。尖閣諸島を巡る問題などで日中両国間の関係が冷え込んだこともあり、一時は大幅に落ち込んだが、今年のはじめ頃から急回復している。4月は前年同期比90%増、5月は2倍だった。

 4月の中国からの訪日者数は19万人に達した。尖閣問題が起きる前のピークは2012年7月の20万4270人で、ほぼその水準にまで戻った。毎年7月が最も訪日外客数が多い月のため、統計は出ていないが今年7月に過去最高を更新したのはほぼ間違いないだろう。
 実際、街中でも大勢の中国人観光客を見かけるようになった。彼らが日本にやって来るひとつのターゲットは買い物。都会のデパートでは中国など、アジアからの顧客が目立つ。
百貨店でブランド物や高級宝飾品、時計などが売れている一因は中国人などの観光客による購買である。
 3月は消費税増税前の駆け込み需要で時計・宝飾品などの売上が激増した。小売店ではほとんど在庫がなくなるぐらい売れた店もあったようだ。消費税率が5%から8%となった反動で4月は、高額品販売の落ち込みは激しかったが、どうやら5月以降の落ち込みは予想よりも小さく収まっている。もちろん景気の先行きに対する見方が改善していることもあるが、一方で、重要な要素がある。国内での外国人旅行者による消費が下支えしているのである。
 なぜなら、海外からの旅行者は消費税増税の影響をあまり受けないからだ。高額品を買う場合には消費税の免税手続きをするケースが多い。もちろん手数料などもあって全額が戻ってくるわけではないが、国内に住む日本人に比べれば、消費税増税の影響は小さいわけだ。
 このコラムでもしばしば注目しているスイス時計協会の統計によると日本向けのスイス時計の輸出額は、3月が前年同期比31.5%増、4月が34.2%増だった。駆け込みで売れた分の在庫補充で輸入が急増したと見ることもできそうだ。その後は失速するかに思われたが、5月も9.8%増えている。日本への輸入を見る限り、高額時計の需要は底堅いということだろう。ここでも外国人観光客による購入が寄与していると見ていい。
 これまで日本は、海外での需要を狙って工業製品を海外に輸出することで経済を回してきた。いわば「輸出外需」が景気を支えるカギだったのだ。ところが今回の円安局面では、なかなか輸出数量が増えず、貿易収支の赤字が続いている。
 ところが、円安によって訪日外国人が増えたことで、それによる国内消費が盛り上がっている。外国人による内需、いわば「国内外需」が日本経済を支えるようになってきたのだ。
 外国人観光客の増加がまだまだ続きそうな中で、この「国内外需」をどうやって取り込んでいけるか。小売業やサービス産業の知恵が問われることになる。