消費税率の再引き上げは危険! データで明らかになった消費の弱々しさ

税収を増やす必要があるのは十分理解しています。税率を将来にわたって引き上げなくて良いというつもりもありません。しかし、必要なのは税収であって、税率を引き上げた結果、せっかく明るさが見えた景気を潰しては意味がないはずです。百貨店売り上げなどのデータを見る限り、やはり足元の景気は強さが失われているようです。ここで再増税すると一気に失速してしまうかもしれません。現代ビジネスに書いた原稿です。ご一読下さい→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40851


日本百貨店協会が10月20日に発表した9月の全国百貨店売上高は、店舗数調整後の前年同月比で0.7%の減少だった。8月は0.3%の減少だったから、わずかとはいえ、減少率が大きくなり悪化したことになる。

消費の伸び自体が止まった!?
同協会では「前年に比べ日曜日が1日少なかった」ことが影響しているとし、「休日減少分を勘案すれば実質プラスであることから、消費税率引き上げによる駆け込み需要の反動は和らいできている」との楽観的な見方を示していた。

だがデータを見る限り、消費に「力強さ」は戻ってきていない。単に消費増税を控えた駆け込み需要と、その反動減が落ち着いてきたということだけではなく、消費税率が5%から8%に引き上げられたことで、消費の伸び自体が止まってしまった可能性が見て取れる。

駆け込み需要が大きかった3月は全国百貨店の売上高は25.4%も増えた。一方その反動で4月は12.0%減少した。この3月と4月はイレギュラーだが、この増税をはさんだ前後で明らかにムードが変わっている。アベノミクスが始まって以降、売上高の伸び率は今年2月までは2%台の増加を記録する月が多かったが、5月以降はマイナスが続いているのだ。8月は0.3%減、9月は0.7%減と、ほぼ前年並みに戻ってきたとは言うものの、前年を超えて伸びる「勢い」がまだまだみえないのだ。

そうした傾向はハンドバッグやアクセサリー、靴など「身の回り品」に鮮明に表れている。増税前は4〜6%の伸びを示す月が目立ったが、増税後はマイナスに転じている。8月の「身の回り品」は1.6%増と5ヵ月ぶりにプラスに転じ、これで再びプラスが定着するかと思われたが、9月は再びマイナスに沈んだ。

身の回り品は圧倒的に女性によって支えられている部門だけに、消費の動向を如実に反映する。ボーナスや残業代が増えて財布にちょっとした余裕が生まれると売り上げが伸び、逆に、不景気風が吹き始めるとまっ先に減らされる。そういう意味では、消費増税の影響がジワジワと出ていることを鮮明に表しているのかもしれない。

もうひとつ「食料品」にも消費の「変化」が見える。食料品の売り上げは3月まで8ヵ月連続でプラスが続いていたが、4月以降6ヵ月連続でマイナスになった。食料品は買いだめがなかなかきかないものが多く、駆け込みと反動の影響がそれほど出ない部門だ。

それでも3月には5%増、4月は4.7%減と増減したが、5月以降は「平準化」した結果、マイナスに沈んでいる。円安による輸入食品の価格上昇で、食料品部門の金額は底上げされているとみられるが、それでもマイナスから脱却できないのは、明らかに消費増税で消費者の財布のひもがしまっていることを示している。

10月がプラスになっただけで増税を判断するのは危険
アベノミクスの開始以降、好調な消費をけん引してきた「美術・宝飾・貴金属」部門の戻りについても、決して十分とは言えない。4月以降、38.9%減→23.2%減→10.8%減→9.0%減→4.2%減と推移、9月は2.8%減と、着実に減少率は小さくなっている。だがそれはようやく前年同月並みに戻って来たということに過ぎない。

アベノミクスの効果が現れ始めた2013年3月以降今年3月まで、13年9月6.3%増を除いて、軒並み2ケタの伸びが続いていた。伸び続けていたものが前年並み水準に収まるようになってしまったと言うこともできるのだ。ここでも消費の力強さがどこかへ飛んで行ってしまった感がある。やはり、消費税増税が、消費ムードを一変させ、力強い消費の伸びを帳消しにしてしまったのではないかと思えてくる。

もちろん4月の消費増税によって景気が底割れしたわけではない。何とか消費増税の影響を吸収できたと状態だろう。だがそれと引き換えに、ようやく火が点いていた消費の勢いを一気に殺いでしまった可能性がある。

消費増税の先送りを主張してきた元財務官僚の高橋洋一嘉悦大学教授は、消費増税ジェット機が離陸している時に逆噴射をするようなもので、一気に失速しかねないと警鐘を鳴らしていた。たまたま上昇エネルギーが大きかったために、逆噴射で水平飛行に入ってしまったというのが現状かもしれない。

4月の消費増税の影響が十分に吸収できたかどうか判断が付かない段階で、消費税率の再引き上げを決断するのはどうみても危険だろう。安倍晋三首相が増税するかどうかを決断するとしている12月上旬までに出る全国百貨店売り上げの統計は残すところ10月分だけだ。

昨年10月の百貨店売上高はその前の年に比べて0.6%減とマイナスだったため、比較対象になる発射台が低いことから、プラスに転じる可能性は十分にある。それでも10月だけプラスになったからといって、4月の消費増税の影響が十分に吸収されたと判断するのは危険だ。

税率ではなく、税収の引き上げが必要
安倍首相が判断材料とするというGDP(国内総生産)の7−9月期がプラスになるのは間違いない。増税の反動で落ち込んだ4−6月期と比較をするからだ。しかも、その伸び率を「1年間続いたとすると」という前提で年率に直すから、成長率は実態以上に高く見えることになる。

プロのエコノミストは様々な分析をして、実際は景気は芳しくないといった論を張るだろうが、メディアでは年率〇%のプラスといった数字だけがひとり歩きする。

消費増税の影響を受けているイレギュラーな数字をベースに、足下の景気を測り、1年後の消費増税を決めるというのはあまりにも乱暴で、危険だ。

税率の引き上げが悲願である財務省は、何としても来年10月からの消費増税を実現させようとするに違いない。増税をしなければ財政危機を危険視した海外投資家が日本国債を売り浴びせるといった危機を煽るキャンペーンも繰り返されるだろう。すでに経団連榊原定征会長は「国家的見地から見ても再増税がなければ国際的信認を失う」と述べて、来年10月の再増税を支持する姿勢を示している。

もちろん、財政再建が重要なことは言うまでもない。だが、財政再建に必要なのは税率の引き上げではなく、税収の引き上げであることは論を待たないはずだ。税率を引き上げても税収が落ち込んでしまっては何にもならないのである。

税率引き上げは政治的に難しいから、景気への影響はどうであれ、さっさと引き上げてしまいたい、という官僚の思いも分からないではない。だが、せっかく景気に明るさが見え始めたこの段階で、消費をこれ以上冷え込ませてしまえば、再び景気を上向かせるのは至難の業だ。

少なくとも足下の消費に力強さが戻ってくるまでは消費税再増税の判断は先送りすべきだろう。