財務省が「国の借金」を80兆円も下方修正。消費増税不可欠と国民に思わせ続ける財務省とマスコミの罪

役所が公表する見通しの数字には、たいがい「思惑」が込められています。ただ、ここまでひどい数字は珍しいでしょう。財務省は今年3月末の国の借金が1143兆円になるという見通しを11月まで使っていましたが、さすがにここに来て1062兆円に下方修正しました。80兆円といえば一般会計予算の8割という巨額な数字です。背後には消費税率を引き上げるために「大変だ」と騒ぎたい財務省の思惑があったわけですが、国民を騙して増税を受け入れさせようという発想自体が邪道でしょう。現代ビジネスに書いた原稿です。是非お読みください。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42147

財務省は2月10日、昨年12月末段階の「国の借金」の残高を発表した。国債に借入金と政府保証債務を加えたもので、1029兆9205億円だった。

3ヵ月で9兆円も国の借金が減少
これを報じた新聞各紙の見出しは見事に同じだった。

「『国の借金』12月末は1029兆円 国民1人当たり811万円」(日本経済新聞)

「14年末の国の借金1029兆円 1人当たり811万円」(朝日新聞

「昨年末の国の借金は1029兆円 1人当たり811万円3月末には大幅拡大も」(産経新聞

こんな具合である。

この統計は3ヵ月ごとに発表されている。国内総生産(GDP)統計などと同じだ。GDPは周知の通り、3ヵ月前の前期と比べてプラスかマイナスかが見出しになる。ところが今回、国の借金では肝心の比較が見出しになっていなかった。

実は、今回の統計数字は財務省にとって「不都合な真実」を物語っていたからだ。実は、昨年末の国の借金は、3ヵ月前の9月末に比べて8兆9945億円も減少していたのだ。

もちろん新聞も本文にはそれを書いている。日経新聞はこう書いた。

「ただ、9月末からの3ヵ月間でみると8兆9945億円減った。政府短期証券の残高減少が寄与した。通常は短期証券が償還を迎えた際、借換債の発行でまかなうが、今回は余裕資金を充てたという。技術的で一時的な要因が大きい」

余裕資金が生じたのは税収が増えたことが大きいと見られる。円安による企業業績の改善で法人税収が見通しを上回っているほか、所得税収も増えている。株価の上昇によって有価証券売却に伴う所得税などが増えているのだ。アベノミクスの効果が税収に表れていると言える。

アベノミクス効果を認めたくない
もちろん昨年4月の消費税率引き上げで消費税収も増えてはいる。だが、増税後に落ち込んだ消費の回復が鈍いことから、見込んだほどには税収は伸びていない。増税よりもアベノミクス効果が大きいのだ。

財務省はその事実を認めたくないのだろう。

3ヵ月前の借金より減ってはいるが、それはあくまで技術的な要因だと説明したに違いない。クラブ詰めの記者たちはそれを信じて記事を書いているのだろう。

国民ひとり当たりいくら、というのがどこまで意味があるのか不明だが、「国の借金は皆さんの借金です」と言いたい財務省からすれば、必須の説明方法なのだろう。3ヵ月ごとに毎回必ず登場する。今後人口が減っていけば、ひとり当たり借金は増え続ける。

一時的に減ったものの、今後はさらに増える、というのも財務省の常套句だ。3月末には1062兆7000億円になるという見込み数字を「補足説明」に記載している。これを受けて「3月末には1062兆円になる」と各紙は書いた。

実は3ヵ月前、新聞各紙は今年度末の借金額の見通しを1143兆円と書いていた。もちろん財務省が見通しとして発表したからだ。新聞だけでなく、テレビや雑誌など、日本の財政を語る時にはおしなべてこの数字が使われていた。

だが、検証すれば分かることだが、1143兆円と言う数字は1年前に比べて11.6%も多い水準。ここ数年3%台の伸びが続いてきたトレンドからみれば異常数値だった。メディアはそれを検証することなしに使ってきたのだ。

もちろん、そんな異常数値を見通しとして出したのには理由がある。消費税率の引き上げが不可欠だと国民に思わせるためには、「このままでは借金が増えて大変な事になる」という見通しが必要だったということだろう。さすがに残り3ヵ月となって過大な見通しは取り下げたわけだ。

1143兆円から1062兆円への下方修正。その差80兆円である。年間の一般会計予算が100兆円だから、いかに見通しがいい加減だったかが分かる。

財務省は本気で国の借金を減らそうとしていない
見通しを1062兆円に引き下げたことで、一年前に比べた伸び率は3.7%増になった。前年度の2013年度が3.4%増、2012年度が3.3%増だから、もっともらしい数字である。

だがこの数字もまだ過大である可能性が高い。というのも、2013年12月末から14年3月末までの3ヵ月間に増えた借金は7兆円だった。今回、見通しどおりに1062兆円となったとすると3ヵ月で32兆8000億円近く増えることになる。

昨年よりも増加額が大きくなるというのは、借金を減らす努力を怠っているとしか言いようがない。あるいは、消費税率の再引き上げが必要だというムード作りのために、意図的に借金を増やし続けていると見られても仕方ないだろう。

財務省は本気で国の借金を減らそうとしているのか。もし本気で減らすならば、国が持っている資産を売却して国債の償還に充てるのが筋だろう。日本郵政JR九州などの上場計画が相次いで具体化しつつあるが、株式売却益で国の借金を返すという話は聞かない。また、民営化で株式を売却するはずだった財務省管轄の政府系金融機関の株式も売却が凍結されたままだ。

もちろん、経済成長だけで財政再建ができるなどと言うつもりはない。だが、経済成長による税収増がどれぐらい財政にプラスに働くのか、今後の国の借金はどういうプロセスで減らしていくのか。きちんと正確な見通しを出したうえで、国民に理解を求めるべきだろう。