関西電力が家庭向け電気料金再値上げ。業績の回復より自由化で新電力へのシフトが本格化する可能性あり。

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原発の再稼働が延びたのが赤字増の原因!?

経済産業省は5月18日、関西電力が申請していた家庭向け電気料金の再値上げを認可した。

値上げ幅は平均8.36%で6月から実施するが、電気の消費量が増える夏場の料金急増を避けるため、9月まで4ヵ月間は平均4.62%に値上げ幅を圧縮する。

また、企業向けの料金の値上げについては、6月から9月までは平均6.39%、10月以降は平均11.50%とした。

今回の値上げ、業績悪化に苦しんでいる関電にとっては止むに止まれぬ方策ということだろう。2015年3月期の連結最終損益は1767億円の赤字と、前の期の930億円の赤字から赤字が大幅に増えた。

原子力プラントが平成25年の電気料金の値上げの前提どおりに再稼働できなかったことから、事業収支は極めて厳しい状況となりました」

関西電力は決算書で赤字拡大の要因をこう分析している。確かに損益計算書をみると、前期の電気事業の収入は2兆9365億円と2.8%増えているが、電気事業の費用は3.0%増えた。原子力発電所が稼働しなかったので、費用を抑えることができなかった、ということなのだろう。電力事業など「本業」の儲けを示す営業損益は前の期の717億円の赤字から786億円の赤字へと、赤字幅が膨らんでいる。

今回の大幅な値上げで、関電の業績は黒字になるのだろうか。何せ2015年3月期に他の電力会社が軒並み営業黒字になる中で、九州電力とともに営業赤字となった。しかも、九州電力は赤字幅が半減しているのに、関電だけが赤字を増やした。原油価格の大幅な下落で「燃料安」という追い風が吹いたにもかかわらず、関電はそれを生かすことができなかったのだ。

それだけに今回、昨年に続いて大幅値上げに踏み切ることで黒字化は確実ということだろう。

販売電力量の大きな落ち込み

だが、関係者によると、必ずしもそうとは言い切れない、という。大幅な値上げによって消費者の間で「電気離れ」が進めば、売り上げは増えず、利益も改善しないというのである。実際、前期の関電の売り上げ増加率は2.4%と他の電力に比べて伸び率が低かった。

なぜか。販売電力の量が大きく落ち込んだからである。

家庭向けの「電灯」は5.2%減少、企業向けなどの電力は6.4%も減った。経済情勢からみて、景気が悪化したから電力消費量が落ち込んだわけではないだろう。値上げによって「省エネ」などが進み、使われる電気の量が減ったのだ。病院や学校、大型施設など、比較的安く契約している「特定規模需要」の減り方は3.5%だったのを見ても、値上げの影響が大きかったと推測できる。

関西電力の合計販売電力量は4.2%の減だったが、これは電力10社の中で最大の減少率だった。

電力会社は言うまでもなく装置産業である。発電所稼働率が上がればその分、利益が増える。原発が止まっているから赤字になる、というのはそのためだ。前期は原発稼働はゼロだったから、もし1ヵ所でも再稼働すれば、利益は大きく増えることになる。経済産業省は今回の値上げに当たって、原発が再稼働した場合、値上げ幅を縮小するよう条件を付けているのもこのためだ。

前期の決算書を見る限り、原発停止の影響もさることながら、値上げしたものの、販売電力量が減少したことによって思ったほどに売り上げが伸びなかったことが響いているようだ。今回の値上げは、さらに電気離れを誘発する可能性がある。何せ、価格には敏感な大阪人が相手なのだ。

関電が試算した月に300キロワット時使う家庭の電気料金は、6月には8220円となる。原発事故の後始末に追われる東京電力の8524円よりは安いものの、最も安い北陸電力の7035円とくらべると1000円以上も高い。各地の電気料金の格差がどんどん開いているのだ。

新電力(PPS)が大きく成長

電力の自由化が進む中で、新電力(PPS)と呼ばれる企業が大きく成長している。

既存の電力会社よりも安い価格で電力を販売する会社で、地域を超えて電力供給できる。NTTファシリティーズと東京ガス大阪ガスが共同出資して設立したエネットや、丸紅、FーPowerといった企業だ。既存の電力会社が値上げに踏み切れば、こうした新電力が参入する余地が広がる。

現在は大口の需要家だけがPPSの電力を契約することができるが、2016年に電力が完全自由化されれば、一般家庭も既存電力会社やPPS各社の価格を比較したうえで、安い企業と契約することができるようになる。

つまり、値上げをすれば売り上げが増える、という地域独占を前提にした構図は風前の灯なのだ。顧客に選ばれる価格にできるかどうかが電力会社経営に求められるようになるわけだ。

東日本大震災以降、経済産業省は、原発を動かさないと電気料金が上がると言い続けてきた。それが原発再稼働の大義名分として使われてきたのである。具体的に再稼働が俎上にのぼっている関西電力九州電力の業績だけが悪いのも、象徴的だ。

一方で、電気料金を上げれば、既存電力会社の使用量が減るという現実も明らかになってきた。役所が主導して“公定価格”を決める電力業界の長年の慣行も、電力完全自由化を控えて、いよいよ成り立たなくなりつつあるわけだ。