参院選後、安倍政権は「日本の原発政策」の将来を指し示すことができるのか

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どうしても老朽原発を残しておきたい理由

稼働40年を超す「老朽原発」の運転延長が初めて認められた。原子力規制委員会が6月20日に許可したもので、1974年に稼働した関西電力高浜原子力発電所1号機が最長2034年まで、75年に稼働した2号機が最長2035年まで運転できることになった。

ただ、再稼働には安全性を向上させるための改修工事が必要で、関電はすべての工事を2019年10月までに終えるとしている。許可はされたものの、実際に再稼働するのは3年後ということになる。

さらに関電の高浜原発を巡っては、3、4号機の運転を大津地方裁判所が差し止める決定を下し、今も運転は止まったまま。再稼働もメドは立っていない。

一方で、高浜原発1号機と同じ年に稼働した中国電力島根原発1号機や、高浜2号機と同じ1975年稼働の九州電力玄海原発1号機はすでに廃炉することが決っている。

四国電力は、伊方原発3号機(1994年稼働)の再稼働を急ぐ一方で、1977年稼働の伊方1号機は廃炉することを決めた。申請して20年の運転延長を目指すことも可能だったが、巨額の改修費用がかかることから、採算が取れないと判断した。

「40年原則」に沿って廃炉にする動きが強まっている中で、なぜ関電は老朽原発の稼働にこだわったのか。

廃炉費用は数百億円

その大きな理由は、関電には今後、稼働から40年を迎える原発が目白押しなことだ。

1976年稼働の美浜原発3号機、1979年稼働の大飯原発1、2号機と続く。今回延長申請した2基にこれらの3基を加えると、発電能力で関電が持つ原発の半分を超える。40年原則に従えば、3年後までで、原発の発電能力は半分以下になるのだ。

関西電力はもともと原発依存度が高く、40年廃炉の原則に従ってしまうと、電力の供給能力に不安が生じかねない。

もうひとつは、短期間の間に廃炉が続くと、廃炉費用が経営を圧迫することだ。関電はすでに美浜1号機、2号機の廃炉を決めているが、その廃炉費用だけでも数百億円かかるとみられている。加えて、40年超の原子炉を廃炉にしていくと、巨額の費用がかかるのだ。

政府は電力会社に老朽原発廃炉を促すために、廃炉によって一気に除却費用などが生じるのを、分割して費用計上できるように会計ルールを変えている。それでも廃炉の件数が大きくなれば、業績に大きなインパクトを与える。

関西電力原発が稼働すれば電力料金を引き下げるとしてきたが、再稼働が進まないことで高い電気料金が定着している。一方で、電力小売りの自由化が本格的に始まり、小規模事業者や一般家庭の電気料金への関心度は高まっている。

値下げをできない関電の電力販売量はここ数年大きく減少している。値段を上げると販売量が減るという悪循環に陥っているのだ。そんな中で、さらに廃炉費用が重なれば、経営に深刻な影響を与える。

「40年に科学的根拠はない」という批判も根強くある。だが、1970年代と90年代以降で、原子力発電を巡る技術が大幅に進んだのも事実。「新しい原子炉の方がより安全性が高いのは当たり前だ」と経済産業省の幹部も認める。安倍晋三首相も「世界一の安全基準に則って、安全性が確認されたものから再稼働させる」と繰り返し述べている。

本来ならば、新しい原子炉から再稼働させるのが正しい手順ということになるが、そうなると老朽原発はすべて一気に廃炉しなければならないことになる。

運転延長しても再稼働は難しい

もっとも、今回、高浜1、2号機の運転延長が認められたからと言って、簡単に再稼働できるわけではない。

高浜は新しい3、4号機を巡っても訴訟が起きて裁判所が運転を差し止めており、1、2号機の再稼働が迫れば、同様の訴訟が起きるのは火を見るよりも明らか。実際、今回の原子力規制委員会の決定を巡っても名古屋地裁で、許可を差し止める仮処分などの訴訟が起きている。

関電は美浜3号機についても、最長60年への運転延長を目指しており、夏にも規制委員会の安全審査に合格するとみられている。もっとも、美浜原発は過去に事故を起こしており、住民感情などは複雑。関電も一時は廃炉を検討したとされる。仮に審査を通って、運転延長の許可を得たとしても、そう簡単には再稼働には結びつきそうにない。

「とりあえず、40年を60年に延ばしておくことに意味がある」と経産省の中堅幹部は言う。40年原則を定着させてしまえば、議論のないまま、日本の原発は次々と廃炉になっていく。1984〜85年には8基が稼働したが、2025年には40年を迎える。

本来ならば、老朽原発を新型原発に再建する「リプレイス」が不可欠だが、原発に関する議論がほとんど止まっている現状では、10年後に新規稼働する原発があるとは思えない。

つまり、40年から60年への稼働延長の本当の狙いは、比較的新しい技術で作られている1980年代半ば以降の原発の稼働期間を延ばすことにある、というのだ。

参議院議員選挙の投票を控えて安倍内閣は、国民の間で議論が分かれる大きな問題は軒並み「封印」している。その際たるものが、原発政策だ。

日本の原発を将来どうしていくのか。議論のないままフェードアウトさせていくのか。安全性を見極めたうえで、最新技術を取り入れた「リプレイス」を行っていくのか。参議院選挙後に、本格的な議論が始まることを期待したい。