ブレグジット、トランプ、そして。。。3つの「予想外」は結果オーライ

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。順番が前後しましたが、1月号(12月上旬発売)に書いた原稿です。

高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]→http://www.webchronos.net/

クロノス日本版 2017年 01 月号 [雑誌]

クロノス日本版 2017年 01 月号 [雑誌]

 アメリカの大統領選挙は大方の予想に反して共和党ドナルド・トランプ氏が勝利を収めた。そもそもトランプ大統領の誕生を予想していた専門家はほとんどおらず、選挙戦で人種差別など暴言を吐き続けたトランプ氏が大統領になれば、政治も経済も大混乱に陥るという見方が強かった。ヒラリー・クリントン氏が負けるような事があれば、世界の株価は大暴落し、ドル安によって日本円は猛烈な円高になる、そうエコノミストたちは述べていた。
 ところが蓋を開けてみるとまったく逆になった。米国株は大幅に上昇してドル高となり、円は1ドル=110円台を付ける円安になった。日経平均株価は年明け以来の1万8000円台乗せとなった。
 トランプ氏が掲げる「強いアメリカの復活」は、強い米国経済の復活があって成り立つ。就任してみないと具体的な政策は分からないとはいえ、トランプ氏の「強いアメリカ」に世界経済がけん引されるという期待がにわかに高まったわけである。
 2016年はもうひとつ「予想外」が起きた。ブレグジットである。英国の国民投票でEU(欧州連合)から離脱の可否を問うたところ、予想に反して離脱派が多数を占めた。英国のEU離脱が決まれば、英国経済はメタメタになり、それが世界に波及する、多くのエコノミストはそう予言していた。
 ところが、これも大きく違った。離脱が決まると想定通りポンド安になったのだが、ポンド安が英国企業の業績を大きく改善させたのだ。まだ実際にはEUから離脱していないためEUのメリットは享受しながら、通貨安のメリットも受けるという「良いとこどり」の状態になった。英国経済はミニバブルの様相を呈している。
 もうひとつ「予想外」が起きる可能性がある。日本経済だ。足元の景気が悪く「アベノミクスは失敗した」と野党などに攻撃されてきたが、円安や株高による「資産効果」が再び消費を持ち上げる可能性が出てきたのだ。3つ目が実現するかどうかは現段階では分からないが、こうした「予想外」は時計市場にも大きな地殻変動を起こしそうだ。最近はやりの地政学的にいえば、中国やロシア、ドイツといった「陸の帝国」と、アメリカ、英国、日本といった「海の帝国」の力関係が大きく変わりそうな気配だ。
 このコラムでもしばしば使っているスイス時計協会によるスイス時計の輸出先統計を見ると、大きな変化が始まっている。真っ先に目立つのが中国向け輸出額の激減である。2016年1〜9月の合計では前年同期比8.6%減った。ドイツ向けも10.1%減、ロシア向けは17.1%減である。一方で英国向けは4.0%増となっている。
 米国向けと日本向けは9カ月合計だとまだマイナスだが、9月単月では様相が変わっている。米国向けは4.7%増となり、激減している香港を抜いて最大向け先となった。日本向けも8.9%増えた。日本向けがプラスになったのは今年2月以来7カ月ぶりである。ちなみに英国向けの9月単月は32.4%増を記録、中国向けを上回った。
 2015年の年間のスイス時計の輸出先は、トップが香港、2位が米国、3位が中国で、日本は5位、英国は8位だった。このままの傾向が続くと、2016年の年間では、米国が香港に肉薄してトップを争い、日本が3位、英国が中国に肉薄して4位を争うことになりそうだ。中国や香港、シンガポール、台湾といった中華圏、ドイツやフランス、イタリアなどの欧州、ロシアやインドなどへの輸出は大きく減るのは間違いなさそうだ。
 消費低迷が続いてきた日本でアベノミクスが失敗しないという「予想外」が起きるとすれば、何が要因か。最大の要因は「資産価格の上昇」だ。株価の上昇や不動産の上昇によって財布のひもが緩む「資産効果」が起きる。株価が1万8000円を超えてくると、年初からの損益がプラスになる個人投資家が増える。
 さらに、中古マンションなどの不動産価格の上昇が続いており、分譲マンションなどの新設住宅着工も高水準が続いている。もちろん背景にはマイナス金利政策の効果がある。安倍晋三首相が旗を振る「賃上げ」が進めば、消費ムードが一気に変わる可能性はありそうだ。2017年はどん底から明るさが一気に広がる年になるかもしれない。