【高論卓説】住宅建設に景気底上げ効果 失速させない金融・財政政策必要

産経新聞社が発行する日刊紙「フジサンケイビジネスアイ」のコラムに5月2日に掲載された原稿です。オリジナルページ→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170502/mca1705020500004-n1.htm

 国土交通省が4月末に発表した3月の「新設住宅着工戸数」は、7万5887戸と、前年同月比で0.2%の増加となった。日本銀行がいわゆるマイナス金利政策を導入した昨年2月以降、消費税増税前の駆け込み需要と同水準の新設着工が続いていた。ところが、昨年末からブレーキがかかり、今年2月は前年同月割れ。3月の失速が懸念されていたが、何とか踏みとどまった。

 貸家の新築着工が11.0%増と大きく増え、17カ月連続の増加となったほか、分譲一戸建て住宅も3.4%増と17カ月連続の増加だった。昨年は好調だった分譲マンションは、2月に続いて3月もマイナスになった。

 貸家が住宅着工を牽引(けんいん)していることで、「バブルだ」と批判する声が昨年来強まっている。低金利を活用して遊休地に賃貸アパートなどを建てる不動産投資が増えていることを指している。いつかバブルがはじけて借金が返せなくなり、銀行は再び不良債権を抱えることになる、というわけだ。特に日銀のマイナス金利政策を批判するエコノミストらがしきりに「バブル」説を展開している。

 確かに、1980年代後半のバブルの象徴だった「不動産担保ローン」が再び活発化しているし、「使途自由」といった当時を彷彿(ほうふつ)とさせる、うたい文句も登場している。住宅を担保にして老後の資金を借り、死後に住宅売却で元本を精算する「リバースモーゲージ」も広がり始めた。何となくバブルの臭いがしてきたのは事実だろう。

 だが、バブル期のように、不動産価格が急騰しているわけではない。1月の公示地価ではようやく住宅地が9年ぶりの上昇となったが、上昇率はわずか0.022%。下落が止まったにすぎない。商業地の上昇で全用途の地価が上昇に転じたのも2016年から。もちろん都心の一等地などでは大きく上昇しているところもあるが、平均地価からみる限り、バブルと言うにはまだまだ程遠い。

 前述の新設住宅着工にしても消費増税前の駆け込み需要の水準をかろうじて上回っているだけ。4月の件数が昨年の8万2398戸を上回れるか、あるいは失速してしまうかの分岐点である。

 住宅建設による景気底上げ効果は大きい。住宅そのものへの投資だけでなく、家具やインテリア、家電製品など付随した消費の増加をもたらす。アベノミクスによる円安で企業業績は好調だが、消費の低迷が続いている。日本の国内総生産(GDP)の6割を占める消費が盛り上がらなくては、経済成長はおぼつかない。

 人口が減るのだから住宅建設も減るのが当然、という主張もある。だが、バブル崩壊後の景気低迷もあって「住宅の高齢化」が進んでいる。建設から時間がたち、建て替えや大規模修繕が必要になってきている建物が増えている。「ウサギ小屋」と海外から揶揄(やゆ)された日本の住宅を、もう少し大きく、快適なものに変えていく必要もある。

 ここで、もう一段の住宅建設を促す金融・財政政策を打つべきだろう。「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」と言うが、バブルを懸念するあまり、せっかく底入れしつつある住宅建設を失速させるような政策を取るべきではない。