東芝の経営幹部に「報酬返還の義務ナシ」日本の報酬ルールは奇妙だ ゴーン氏の巨額報酬もこの国だからOK?

現代ビジネスに6月21日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52074

フランスでは反対も半数近く

日本の経営者の報酬は欧米に比べて少なすぎるとしばしば言われる。確かに年間10億円以上を稼ぐ欧米のCEO(最高経営責任者)に比べれば少ないが、年に1億円以上の報酬を手にする経営者は着実に増えている。

東京商工リサーチの昨年の調査では211社で414人が1億円以上の報酬を得ていた。創業経営者ばかりでなく、サラリーマン社長でも年俸1億円を稼ぐのが夢ではない時代になった。社長の手腕で会社に利益をもたらしたなら、堂々と報酬を得ればよい、というのは資本主義社会なら当たり前と言えよう。

だからといって、世の中が納得しなければ、後ろ指をさされることになる。

フランスの自動車大手であるルノーが6月15日にパリ市内で開いた株主総会では、今年もカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)の高額報酬問題が大きな話題になった。総会で審議されたゴーン氏の2016年の報酬はストックオプション(自社株購入権)などを含めて、約700万ユーロ(約8億6000万円)。この金額に対して株主に賛否が問われたが、何と賛成が53%しか集まらず、ギリギリで過半数を超えた。

実はゴーン氏の報酬は昨年も総会で大きな話題になった。何と、賛成票よりも反対票の方が多かったのである。フランスのこの投票制度には拘束力がなく、原案のまま支払うこともできる。だが、昨年の場合、世の中の批判を浴びたゴーン氏はボーナスを減額する対応を見せ、批判をかわした。

特にルノーの場合、2013年以降、大幅な人員削減を行ってきた。その一方で経営トップが高額報酬を得ていることにフランス国民が強く反発したのだ。賛成票がギリギリになっている背景には、議決権の2割を持つ筆頭株主のフランス政府が反対票を投じたためだと報じられている。フランス政府は企業経営者の高額報酬に対して否定的だ。

日本ではほとんど異議もなく……

ご承知の通り、ゴーン氏は日産自動車の会長も兼務している。2016年3月期には、ルノーの報酬とは別に、日産から10億7100万円の報酬を得た。しかも将来の業績に連動するストックオプションなどではなく、全額現金報酬として手にしている。

ゴーン氏の報酬が10億円超となることは、昨年の株主総会よりまえに報道されたこともあり、株主総会で株主からの質問が出た。日本では株主総会では「役員報酬の総額」が示されるものの、通常は総会の段階で個別にいくら報酬が支払われるかは分からない。分配については取締役会に一任するというのが一般的なルールだ。ゴーン氏の10億円報酬も難なく総会を通っている。

日本では、フランスのルノーの総会のように、個別の報酬について株主の賛否を聞く仕組みはないが、この方式は「セイ・オン・ペイ」と呼ばれて欧米で広がりつつある。株主の多数が反対しても支払いを「拒否」することはできないが、当然、取締役会はその報酬がなぜ正しいのかを説明しなければならなくなる。

欧米では社外取締役が報酬決定に関与しているケースが多いから、社外取締役に対する世の中の強いプレッシャーなとり、その後の報酬の引き上げにブレーキがかかる可能性は十分にある。

日産自動車の社長を譲ったとはいえ、前年度までは社長だったゴーン氏は、今年も巨額の報酬を得るとみられる。6月27日に開かれる日産自動車株主総会では、ゴーン氏の報酬問題について質問が出るに違いない。すでに株主に郵送されている招集通知には、取締役9人の報酬として18億3800万円と記載されている。ゴーン氏の報酬が前年に続いて10億円超となるのは確実とみられる。

日本の役員報酬に「株主との対話」は成り立つか

ここまで報酬が高額化してくると、従来の日本の報酬ルールでは甘すぎるように思える。仮に多額の報酬を支払った後に、就任期間中の不正が発覚したような場合、その高額報酬の一部を返還させるルールなどが必要だろう。

欧米ではクローバック条項と言い、経営陣や投資ファンドの運用担当者などの不正が発覚した場合、過去に支給したボーナスやストックオプションを返還させる契約が結ばれているケースがある。

東芝では巨額の粉飾決算が明らかになったが、その期間中に社長や会長ら経営幹部には1億円を超える年間報酬が支払われていたことが分かっている。粉飾決算で利益を水増しして、その成果として報酬を受け取っていたわけだから、本来ならば報酬を返還するのが当たり前、ということになるが、日本にはそうしたルールはない。

政府はコーポレートガバナンスの一環として、企業と株主の「対話」促進を掲げている。年々高額化する日本の経営者の報酬について株主がどう思っているのか、その声を聞くことは極めて重要だろう。日本でも「セイ・オン・ペイ」のような、強制力は持たないものの、株主としての意見を聞く制度は馴染みやすいのではないか。

むしろ、株主に堂々と賛成してもらえれば、相対的に安い日本の経営者の報酬を徐々に引き上げていくこともできるだろう。

3月期決算企業の株主総会が今週から本格化する。どんどん儲けている会社の社長は株主総会で報酬がいくらか聞かれても物おじすることはない。一方で、業績不振を続けている社長が高給をはんでいれば、株主から厳しい声が飛ぶことになる。これも致し方ない「株主との対話」だろう。