「消費増税は再延期を」2回生議員の提言は、安倍首相への「忖度」か 世界の反応より官邸を気にしている…?

現代ビジネスに6月28日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52144

首相のお膝元で

自民党の2回生議員といえば、最近お騒がせの絶叫女性代議士が話題を独占しているが、まじめな政策議論を進めている議員もいる。

自民党衆議院議員当選2回生の有志が作る「日本の未来を考える勉強会」(代表呼びかけ人・安藤裕・衆院議員)が、政府の掲げる2020年度の基礎的財政収支(プライマリー・バランス=PB)の黒字化目標の撤回と、2019年10月の消費税率引き上げの凍結を求める提言書をまとめたと産経ニュースなどが報じた。

それによると、すでに国会議員27人が賛同しており、7月5日に首相官邸や党執行部に提出する予定だという。

提言書では、デフレから完全に脱却するためには、インフラ整備などの財政的な出動によって経済を成長させることが不可欠だと主張しているという。勉強会は今年4月12日に1回目を開いて以降、すでに6回の会合を開いているが、外部から識者を招いた勉強会のタイトルを見れば、基本的な政策スタンスが分かる。

初回に招いたのが内閣官房参与京都大学大学院教授の藤井聡氏。「列島強靭化論」が持論で、安倍晋三内閣が「国土強靭化」政策を掲げる論理的支柱になった人物だ。テーマは「財政再建と成長の二兎を得るためのアベノミクス戦略」だった。

2回目は経済産業省官僚で「TPP亡国論」などの著者である中野剛志氏。規制緩和・小さな政府路線などを批判している。3回目は京都大学特任教授の青木泰樹氏がズバリ、「財政出動阻む経済通念について」として講演。

それ以降も「積極財政で復活する日本経済」「デフレ完全脱却へやさしい財政政策が必要」「デフレーションが国民経済を破壊する」といったテーマが並んだ。明らかに「積極財政出動」を主張する立場をとっていることは明らかだ。

そんな彼らがプライマリー・バランス黒字化の撤回を求めるのはある意味当然だ。国債の償還や利払いを除いた基礎的な歳出を、税収などの基礎的な歳入で賄おうというわけだから、当然、PB黒字化を目指せば、歳出を厳しく見直す方向に行く。それではせっかく、デフレから脱却し始めたかにみえる日本経済を再びどん底に突き落とすことになりかねない、というわけだ。

もちろん、消費税率を引き上げれば、その分消費の足を引っ張るので、景気にはマイナス。安倍首相は2度にわたって消費税率の引き上げを先送りしているが、安倍首相が約束した2019年10月も引き上げはせず、凍結すべきだとしているのである。

だが、これには財政健全化を求める学者や元官僚から強い批判が噴出した。財政規律を重視するこうした立場の人たちは総じてアベノミクスを批判しており、税率引き上げの先送りを強く警戒する。2回生議員の動きも、「実は安倍首相官邸と連動しているのではないか」「首相の思いを“忖度”しているのではないか」といった見方も出ている。

増税は景気の腰を折るが…

まずは消費増税から考えよう。2014年4月に消費税率を5%から8%に引き上げた影響は予想以上に大きかった。当初法律で決まっていた2015年10月からの税率10%への引き上げなどできる状況ではなかった。消費は2015年秋から再び悪化傾向に入った。

延期した2017年4月の増税を、昨年、先送りしたことも、振り返ってみれば正解だった。下落が続いていた百貨店売上高などがようやく下げ止まる気配を見せているが、そのタイミングで仮に増税していたら、消費は完全に腰折れしていたに違いない。筆者も再延期には賛成する記事を書いていた。

では安倍首相が延期した2019年10月も凍結すべきなのか。

2020年のオリンピックに向けて2019年の消費はそれなりに盛り上がるに違いない。企業の建設投資などもこのころがピークだろう。税率を引き上げた反動減は19年10月から表面化すると思われるが、2020年にはオリンピック目当てに数百万人規模で訪日外国人が膨れ上がる。 

昨年2403万人と過去最高を記録した訪日外国人客数は、政府は2020年に4000万人になると見込んでいる。少なくとも2019年よりも数百万人単位で外国人が増える可能性はありそうだ。

そんな中で、訪日外国人による消費が盛り上がれば、2019年10月からの消費増税による減少分を補う規模の外国人消費が生まれる可能性は十分にある。そういう意味では、2019年10月というのは「絶好のタイミング」と見ることができる。このタイミングを逃がし、2011年に訪日外国人がピークアウトでもすれば、しばらく消費増税はできなくなることになりかねない。

世界の失望を招く可能性

国債などの国の借金が1000兆円を超える中で、単年度の赤字をこれ以上出さないことは「当たり前」のことだろう。多額の借金を抱えている家庭が、生活費が必要だからと毎月カードローンでお金を借りていれば、いつかは財政破綻する。このタイミングでプライマリー・バランスの黒字化目標を放棄することは危険だ。

財政規律を緩めれば、借金はあっという間に増える。第2次以降の安倍内閣では、四半期ごとの国の借金は対前年同期比でみると、増加率が小さくなる傾向があり、昨年春には減少に転じたのだが、夏以降、大幅な増加に転じている。企業業績の回復が一段落して税収の伸びが頭打ちになったことも一因だが、財政規律が緩んでいることも背景にある。

財務官僚のように、増税と歳出削減をともかく求めるという姿勢には、筆者は反対だ。経済を殺してしまっては、税率を上げても税収は増えない。本当に国の借金を減らしたいなら、もっと真剣に国が持つ資産の売却を進めるべきだ。

だからといって、デフレ脱却のためには、積極的に公共事業にお金を使えというのも納得できない。とくにこの段階でプライマリー・バランスの黒字化目標を放棄すれば、マーケットに日本国が財政再建を諦めたかのようなメッセージを発することになりかねない。

提言が出されるのを受けて、安倍首相がどんな発言をし、どんな方向性を示すのか。国民だけでなく、世界の市場関係者が注視するイベントになる可能性もありそうだ。