政府のエネルギー計画「なし崩し原発再稼働」に未来はない 新設の可否を真正面から議論せよ

現代ビジネスに8月30日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52731

原発推進なのか、脱原発なのか

政府の「エネルギー基本計画」の見直しが始まった。基本計画は国の中長期のエネルギー政策の指針で、現在の第4次基本計画は2014年4月に閣議決定された。

法令でおおむね3年ごとの見直しを求めており、2003年10月の1次基本計画以来、2007年3月の第2次基本計画、2010年6月の第3次基本計画と見直されてきた。

基本計画の見直しは、経済産業相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(分科会長・坂根正弘コマツ相談役)で議論が始まった。来年3月末までに第5次基本計画の原案を固め、4月にも閣議決定する。

焦点は原子力発電の取り扱いだ。

現行の第4次計画の策定に当たっても、調整が難航した。第4次計画では原発を安定的な「ベースロード電源」と位置付けたものの、原発依存度は「可能な限り低減させる」とも明記されている。

福島第一原子力発電所事故によって「脱原発」を主張する声が強まり、それまでの原発推進を声高に主張できなくなったためだ。

2012年には民主党野田佳彦内閣が「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」方針を打ち出していた。

第4次計画では、この民主党方針を「撤回」したものの、素案段階では「エネルギー需給構造の安定性を支える基盤となる重要なベース電源」と書かれていたものを、「ベースロード電源」という言葉に置き換えざるを得なくなった。

「ベースロード電源」とする一方で、「可能な限り低減させる」という、原発推進なのか、脱原発なのか、分からない矛盾を内包した基本計画になった。

その第4次計画を受けて政府が策定した「長期エネルギー需給見通し」では、2030年度の原発依存度を「20〜22%程度」にするとした。既存の原発は稼働から40年でその期限を迎えるのが原則で、その後は基本的に廃炉することになっている。

法律では20年間に限って1回だけ延長することもできるが、そのためには安全性が確認され、原子力規制委員会の許可を得なければならない。

エネルギーの需要量、つまり分母がどれぐらいになるかにもよるが、「20〜22%」とした場合、原発の「新設」や「リプレース(建て替え)」がなければ、達成は難しい。既存原発の再稼働だけでは「せいぜい15%」という声もあったが、新設やリプレースには一切触れずに、20〜22%という数字だけを出した。ここにも矛盾を内包したのである。

原発問題専門の懇談会設立

次の第5次基本計画の焦点は、これらの「矛盾」をどうするかが焦点だ。原発の新設、リプレースを明確に打ち出すのか、それとも既存の原発の期限到来と共に日本は「脱原発」の道を歩むのか。

第4次基本計画で「矛盾」に満ちた方針を打ち出さざるを得なかったのは基本政策分科会のメンバーが多岐にわたっていたためだ。その構図は今も変わっていない。

もちろん経産省が選ぶ委員だから「脱原発派」は少数だが、それでも意見は反映させざるをえなくなる。今回の分科会をみても、分科会長以下18人も委員がいる。期限が区切られている中で、原発をどうするか、というそもそも論を議論する体制にはないわけだ。

そこで今回、経産省が考え出したのが、「エネルギー情勢懇談会」の創設。分科会からは坂根分科会長だけが加わり、総勢8人のメンバーでエネルギーの将来像について議論する新組織を立ち上げた。

メンバーには五神真・東大総長のほか、中西宏明・日立製作所会長、飯島彰己・三井物産会長、船橋洋一・アジアパシフィックイニシアティブ理事長、宇宙飛行士の山崎直子氏らが加わった。8月30日に初会合を開く。

経産省のリリースには、懇談会の目的としてこうある。

「我が国は、パリ協定を踏まえ『地球温暖化対策計画』において、全ての主要国が参加する公平かつ実効性ある国際枠組みの下、主要排出国がその能力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長を両立させながら、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すこととしています。

他方、この野心的な取組は従来の取組の延長では実現が困難であり、技術の革新や国際貢献での削減などが必要となります。このため、幅広い意見を集約し、あらゆる選択肢の追求を視野に議論を行って頂くため経済産業大臣主催の『エネルギー情勢懇談会』を新たに設置し、検討を開始します」

どこにも、原発という文字はないが、温暖化ガス排出削減に取り組もうとすれば、原発が優位ということになる。当然、将来のエネルギー情勢を考えるには原発論議は避けて通れない。

メディアも世論も真っ二つ

新しいエネルギー基本計画の策定を巡っては、新聞各紙が「社説」などを掲げ始めている。

「エネルギー基本計画『脱原発』土台に再構築を」(朝日新聞)、「エネルギー政策 既定路線では解決しない」(毎日新聞)、「エネルギー計画 環境配慮した安定供給策探れ」(読売新聞)、「エネルギーの見直しは長期の視点で」(日本経済新聞)、「エネルギー計画 原発新増設を明確に示せ」(産経新聞)といった具合だ。

原発への賛否は真っ二つだ。

福島第一原発事故から6年半。そろそろ、将来にわたって日本の原発をどうするのか、真正面から議論すべきだろう。最悪なのは、議論を抜きになし崩し的に「既成事実化」することだ。再稼働をしても足らないからといって、40年の老朽原発の稼働を20年延ばすことが、本当に「安全第一」の政策と言えるのか。

原発がどうしても必要というのなら、放射性廃棄物の最終処分方法を明確に決めることも不可欠だ。いずれにせよ、目の前の厄介な問題から、目をそらすだけでは、問題はまったく解決しない。