小泉進次郎は安倍内閣が「封印」してきた「原発論議」に踏み出せるか 将来の総理へ「試金石」に

現代ビジネスに9月19日に掲載されました。オリジナルページ→

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小泉進次郎入閣が注目される「本当の理由」

内閣改造が9月11日に行われ、「第4次安倍晋三第2次改造内閣」が発足した。

閣僚の平均年齢は61.6歳。78歳の麻生太郎副総理兼財務相が留任したほか、「入閣待機組」から4人の70歳代が入閣したが、それでも改造前の平均63.4歳からは若返った。

その象徴が38歳で環境相として初入閣した小泉進次郎。当選4回での初入閣は、第3次小泉純一郎改造内閣内閣官房長官に抜擢された安倍首相と同じだが、当時の安倍氏は51歳。それを大幅に下回る若さでの初入閣となった。

男性議員としては戦後内閣で最年少である。改造内閣の平均年齢引き下げに大きく貢献していることは言うまでもない。

国民的な人気も高く、将来の首相候補と目される小泉氏。これまでも、農水部会長や厚生労働部会長など、将来に向けた改革が求められる一方で、既得権層との利益調整が必要になるポストを任されてきた。安倍首相に力量を試されてきた、とも言える。

今回の環境相も決して「ご褒美」で与えられたポストではない。

本当に将来の首相としてふさわしいか、国民がそれを見極めることになる「試金石」のポストと言っても過言ではない。

原発問題から逃げまくる政治家たち

環境大臣内閣府特命担当大臣原子力防災)。日本の原子力政策について責任を持つポストだ。

2011年の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故までは、原発政策はエネルギーの安定供給を所管する経済産業大臣が担当していたが、エネルギー供給優先で安全確保が後回しになったとの反省から基本的な原発の所管は環境相に移された。

だが、実は、安倍内閣はこれまで、原子力の将来について口をつぐみ続けてきた。

「安全が確認された原発から再稼働させる」という基本方針は示したものの、将来、原発をどうするのか、廃炉を進めるのか、もう新設や建て替え(リプレイス)はしないのかといった、原子力政策の根幹に関わる方針については、明確に打ち出すことを避けてきた

口を開けば国民を二分する大議論になりかねない。

事故の処理がなかなか進まないこともあり、むしろ多くの国民は「脱原発」に傾きかねない。安倍内閣原子力政策についての議論を意図的に避けてきた。

これまで環境相経産相原子力防災担当相に任命された政治家も、原発の将来については触れずに来た。原発に前向きな発言をすれば、地元の電力会社からは感謝されるかもしれないが、女性を中心とする有権者から総すかんを食いかねない。

ほとんどの政治家が原発問題から「逃げて」いたのである。環境相に抜擢された小泉氏は原発にどんな姿勢を取るのか。

本気で原発問題に向き合うのか。それとも逃げるのか。

玉虫色の計画

国は4、5年ごとに「エネルギー基本計画」という方針をまとめている。現在は2018年7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」が、国のエネルギー政策の根幹を担っている。

そこには原子力についてこう書かれている。

「運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である」

重要なベースロード電源だと位置付けているのだ。では、原発を推進していくのか、というと必ずしもそうではない

その後には相反することが書かれている。

原発依存度については、省エネルギー再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」

かつて、民主党政権時代の末期に、政府は「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」という方針を打ち出した。これは閣議決定されなかったが、その後のエネルギー基本計画の見直しなどで、亡霊のようにつきまとった。

今の、「可能な限り低減させる」という方針も、その流れの中にあると言っていい。将来のエネルギーの安定供給のためには原子力を抜きに考えられないと考える官僚や政治家が少なくないにもかかわらず、舵を180度切って方向転換する覚悟がないのである。

結果、矛盾する玉虫色の計画が出来上がっている。

止めるの? 止めないの?

「エネルギー基本計画」には、繰り返し「2030年度のエネルギーミックスの実現」という言葉が出てくる。実は、2015年7月に経済産業省の審議会が「長期エネルギー需給見通し」という報告書を作成、その中で2030年に目指すべきエネルギーミックス(電源構成)を示しており、それを目標として基本計画に援用しているのだ。

 

そこに原発はどう書かれているのか。

総発電量に占める原発の割合は20%から22%にすると書かれている。太陽光や風力といった再生可能エネルギーを22~24%、LNG液化天然ガス)火力を27%程度、石炭火力を26%、石油火力を3%程度としている。

それでは「可能な限り低減させる」という方向性と矛盾するのではないか。

経産省の報告書にはこう書かれている。

東日本大震災前に約3割を占めていた原発依存度は、20〜22%程度へと大きく低減する」

お気付きのように、これは一種のトリックだ。

福島第一原発の事故後、官邸前での原発再稼働反対デモなどの影響もあり、2014年の原発依存度はゼロだった。それから再稼働を進めているものの、2018年になっても4.7%である。4.7%を20%にするというのは大幅な原発依存度のアップに他ならない。

しかも、現在ある原発の稼働年限は40年ということになっており、2030年までには多くの原発が稼働年数に達してしまう。つまり、20%という電源構成を達成しようと思えば、新たな原発の稼働や、老朽化した原子炉を作り直すリプレースが必要になる。そうした前提の議論を抜きにエネルギーミックスが打ち出されているのだ。

「いや、あれは新設やリプレイスを進めるということを言外に言っているんです」と経産省の大物OBは言う。新しい原発を作った方が古い原発を使い続けるよりも、より安全性は高いともいう。本来はそうした議論をすべきなのだが、安倍首相はじめ、「今の内閣は皆、逃げている」とOB氏は言う。

試金石に

かつて、経産省の官僚たちは、政治家に原発推進の議論をさせようとしたことがある。小渕優子氏が経済産業相内閣府特命担当大臣原子力損害賠償・廃炉等支援機構)に抜擢された時だ。父である小渕恵三首相の地盤を引き継いだ小渕氏ならば、選挙に圧倒的に強く、原発に前向きの発言をしたからと言って選挙に敗れることはない。国民の間に圧倒的な知名度もあった。

ところが経産相就任直後に後援会を巡る金銭問題が噴出、わずか1カ月半で辞任に追い込まれた。

今回の小泉氏の環境相就任は、原発議論を始めるきっかけになるのだろうか。日本の将来を考えた場合、原発の扱いをどうするのか、政治家として目を背けることはできない。稼働を続ければ使用済み核燃料や放射性廃棄物が出続けるが、その最終処分地すら決まっていない。小泉環境相はこの難題に取り組むことが求められる。

しかも、父純一郎氏は今や「脱原発」を主張している。将来の総理として原発にどんな方向性を示すのか。

「とりもとったり、受けも受けたりだ。安倍晋三首相は深い。なかなか円熟してきた」

小泉氏初入閣の感想を聞かれた森喜朗元首相は、そう述べたという。環境相になれば、原発政策について何も語らない、という訳にはいかなくなる。

小泉氏は将来の日本を託すに十分な政治家なのかどうか。それが明らかになることになる。