現代ビジネスに10月26日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50063
民進党を縛る選挙結果
安倍晋三内閣の閣僚のひとりは言う。10月16日に行われた新潟県知事選挙で、東京電力柏崎原子力発電所の再稼働に慎重姿勢を示す米山隆一氏が当選したからだ。
共産党と自由党、社民党が推薦した米山氏には当初、民進党が自主投票を決めていた。そのため、自民党・公明党が推薦する前の長岡市長の森民夫氏が優勢とみられていた。
ところが「原発再稼働」が争点となったことで、米山氏に無党派層の支持が流れて形勢が逆転。選挙戦終盤には「勝ち馬に乗る」格好で蓮舫・民進党代表が米山氏の応援に入ったことから、米山氏52万8000票余りに対して森氏46万5000票余りと、6万票の差が付いて米山氏が勝利を収めた。
政府与党が描いたシナリオでは、再稼働に強行に反対していた泉田裕彦前知事の不出馬で、再稼働容認派の森氏が知事になれば、柏崎刈羽原発の再稼働が実現し、一気に全国の原発で再稼働の流れができるとみていた。
とくに、廃炉費用の膨張などで業績悪化が深刻な東京電力で、保有原発が再稼働することは、極めて大きな意味を持っていた。
民進党の右派も、そうした東京電力の懐事情が分かっているだけに、森氏が当選すれば、渋々ながらも柏崎刈羽原発の再稼働を容認する意向だった。だからこそ自主投票にしたとみてもいい。
ところが、「民意」はまったく逆に動いた。もはや争点にならないとみられていた原発で選挙が盛り上がり、しかも再稼働にNOを突き付ける格好になったのだ。
この結果、民進党も現実的な対応をなげうって、かつて政権にあった際に打ち出した「脱原発」の姿勢を改めて表明せざるを得なくなった。政権末期には閣議決定こそしなかったが、「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」とするとの方針を打ち出していたが、それを改めて公言せざるを得なくなった。
新潟知事選の勝利によって、民進党は当面、「反原発」の姿勢を取り続けざるを得なくなったわけだ。
アメリカも日本に不信感
一方の安倍内閣も原発政策で身動きが取れなくなった。これまで安倍内閣は、原発政策に真正面から取り組むのを微妙に避けてきたが、政治的にそれを継続せざるを得なくなったのだ。
2014年4月に閣議決定した「第四次エネルギー基本計画」では、原子力発電を「重要なベースロード電源」と位置付けたが、その一方で、「省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」とした。「反原発」の世論に火がをつくのを恐れた結果であることは明らかだった。
そのうえで、「安全が確認されたものから再稼働を認める」という基本方針を取り続けている。これは、安全を認定するのはあくまで「原子力規制委員会」で、再稼働を求めるのは各電力会社ということで、政治としては一見「中立的な」立場を取っている。つまりは政治が積極的に関与することを極力避けているのだ。
実は、今後の原発政策をどうしていくのか、国民的な議論を始めなければならないタイミングに来ていた。米国から日本への核燃料の調達や技術導入、再処理などについて取り決めている「日米原子力協定」が1988年の改定から30年を迎える2018年7月に満期が来るためだ。
「本来ならば自動延長なのだが」と経済産業省の大物OBは言う。だが、米国側がすんなり延長を認めるかどうか微妙な情勢になっている。
協定はあくまで日本が原子力の平和利用に徹することを前提としている。原子力発電を将来にわたって継続していくことが前提になっているのだが、原発の再稼働が思うように進まない中で、日本は原発を将来にわたって維持していく意思があるのかないのか、疑念が生じかねない情勢なのだ。
また、原発から生まれるプルトニウムを核燃料サイクルやプルサーマル発電によって消費していくことが前提になっている。プルトニウムが蓄積することになれば、核兵器に転用されるリスクが生じる。ところが、そのいずれもが動かなくなっているのだ。
日本は原子力発電という平和利用に徹し、しかもプルトニウムを貯め込まないという前提で、核の扱いを「例外的」に許されているわけだが、原発をどうするのかが明確にならない中で、それが許され続けるのか、という問題だ。
なし崩し的に脱原発に向かう、という危機感
原発の稼働期限は原則40年で、このままではいずれ日本の原発は順次廃炉になっていく。
2014年4月の「エネルギー基本計画」では、原発の新設や建て替えは一切言及されていない。日米原子力協定の改定前には、エネルギー基本計画を見直し、将来にわたって原発を維持していく具体策を盛り込みたいというのが経済産業省の考えだ。
そのためには、国民的な議論が不可欠なのだが、選挙での苦戦や支持率の低下を恐れる安倍内閣は、一向に議論に踏み出す姿勢を見せない。
「電力自由化が進む中で、東電などもともとの電力会社だけに原発稼働の責任を負わせるのは難しい。国が原発を一括管理すべきではないか」と民進党の幹部からも声が挙がる。
だが、国家が核燃料を直接保有した場合、従来の枠組みでの日米原子力協定が延長できるのかどうかも分からない。
年明けにも衆議院の解散・総選挙があるという予測が強まる中で、なおさら原発を巡る議論は封印され続けるだろう。「このままでは、なし崩し的に脱原発に進んでいってしまう」という焦りが、霞が関に広がっている。