時計経済観測所/消費増税確定で駆け込み需要は起きるか

隔月で発行される時計専門誌「クロノス」に連載中の『時計経済観測所』9月号(8月3日発売)に掲載の記事です。時計を通じてみえる「景気」の行方などを解説しています。

クロノス日本版 2019年 09 月号 [雑誌]

クロノス日本版 2019年 09 月号 [雑誌]

 

 

 7月21日投開票の参議院議員選挙は、自民党公明党の与党が改選過半数を超す議席を得て「勝利」を収めた。10月に控える消費増税を巡って、野党各党が凍結先送りを主張したのに対して、自民党は予定通りの引き上げを貫いた。「消費増税を掲げて選挙を戦ったのはほとんど例がない」と安倍首相自身が語り、増税でも勝利を収めたことを自讃した。

 問題は足下の景気が大幅に悪化している中で、日本経済が増税に耐えられるかどうか。そうでなくてもパッとしない国内消費が腰折れするのではないか、という懸念である。

 与党は増税による消費の減少を抑えるために、十分な景気対策を準備している点や、軽減税率の導入で、低所得層への増税負担を和らげることなどから、増税の影響は軽微だとしている。一方、国民民主党玉木雄一郎代表は複雑な処理が必要になる軽減税率の導入に強く反対している。ちなみに玉木氏は増税が悲願である財務省の出身で、野党の中でも財政再建への理解者と目されている人物だ。

 足下の国内消費は悪化の度合いが強まっている。内閣府が7月1日に発表した6月の消費動向調査では、消費者心理を示す消費者態度指数(2人以上の世帯、季節調整済み)が、前月より0.7ポイント低下して38.7となった。前月を下回るのは9カ月連続だった。指数を構成する4つの指標のうち、「暮らし向き」と「雇用環境」、「耐久消費財の買い時判断」の3つの項目が低下。「収入の増え方」は横ばいだった。

 1-3月期の国内総生産(GDP)は実質年率2.1%増という比較的高い伸びを示したが、個人消費に関しては0.1%減と陰りが出ていた。米中間の貿易摩擦問題や、日韓関係の悪化などで、4-6月期のGDPの伸びには急ブレーキがかかると民間エコノミストは見ており、中でも国内消費はさらにマイナスになるとの見方が強い。

 そんな中、7月23日に発表された百貨店とスーパーの6月の売り上げ統計は、いずれも前年同月比でマイナスになった。日本百貨店協会が発表した6月の全国百貨店売上高は、前年同月比0.9%の減と3カ月連続でマイナスになった。

 消費増税まであと3カ月あまりとなり、本来ならば駆け込み需要が大きく増えるタイミングだったが、ハンドバッグや靴など女性の財布のヒモの絞め具合に左右される「身の回り品」はわずか0.6%増にとどまった。駆け込み需要の効果が表れる「美術・宝飾・貴金属」の売上高は5カ月連続でプラスになったものの、伸び率は6月でも8.9%だった。

 2014年の消費増税前は2ケタの伸びが続いていた時期で、本格的な駆け込み需要が起きていないことを示している。衣料品が1.7%減、食料品が1.4%減と、生活に密着した商品が振るわず、消費が冷え込んでいることを示した。

 日本チェーンストア協会が同日発表したスーパーの売り上げは、既存店ベース(店舗数調整後)で0.5%減、調整前では4.4%の大幅減少だった。

 では、高級時計の販売はどうなるのだろうか。

 スイス時計協会がまとめたスイス時計の1-6月の輸出統計によると、日本向けは前年同月比21.8%の大幅な増加になっている。中国経済の鈍化が言われているが、スイスから中国本土への輸出額は13.5%増となっており、これを日本は上回っている。かなり大きな伸びと言えるが、実需が反映されたものかどうかは怪しい。消費増税前の駆け込み需要を狙って日本国内のディーラーが在庫を積み増したことが主因とみられるからだ。

 実際、百貨店統計でも見たように、6月段階でも駆け込み需要が爆発的に起きているわけではない。2014年4月に消費税率が5%から8%になった際には、3月の百貨店の「美術・宝飾・貴金属」の売上高が前年同月の2倍になっている。焦点は今回も9月にそれだけ高額品への爆発的な消費が巻き起こるかどうか。

 ギリギリまで増税を延期するのではないか、とみていた国民が多いという観測もあり、安倍首相が消費増税を掲げて選挙を戦ったことで、いよいよ増税への対応が始まり、本格的な駆け込み需要が生じるという期待もある。