なぜ…?消費増税「駆け込み需要」が今ひとつ盛り上がらないワケ

5月9日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64518

期待の駆け込み需要は不発?

2019年10月に予定されている消費増税まであと5カ月に迫った。

前回、消費税率が5%から8%に引き上げられた時は、引き上げの2014年4月をはさんで、消費には劇的な変化がみられた。増税前には、少しでも安く購入しようという「駆け込み需要」が盛り上がったのである。自動車や住宅、高級宝飾品などが飛ぶように売れ、業界も好況に沸いた。

一方で、増税後はその反動減で売れ行きが落ち込んだのは言うまでもない。それまで比較的好調だった消費は、増税を機に大幅に減少、その後も今日まで低迷が続いている。

今回、消費増税にあたって安倍晋三内閣は、同じ轍を踏まないということを前面に出して景気対策などを打ち出した。増税後にプレミアム商品券を発行するなど、いわゆる「反動減」対策を準備している。

ところが半年を切ったにもかかわらず、「駆け込み需要」そのものが今ひとつ盛り上がっていないのだ。

例えば自動車。日本自動車販売協会連合会が5月7日に発表した4月の新車(登録車)の販売台数は23万0954台と前年同月比2.5%増えた。今年に入ってプラスが続いているとはいえ、駆け込み需要による大幅増を期待していた業界関係者は肩透かしを食った格好になった。

実は前回の増税の半年前に当たる2013年10月の新車販売台数は26万4587台と前年同月比で17.3%も増えていた。その前月の9月も13.3%増である。

今回は9カ月前に当たる2019年1月から2.3%増→2月1.3%増とプラスだったものの、3月には4.7%の減少となっていた。前回とまったくムードが違うのである。

前回は、増税3カ月前に当たる2014年1月は27.5%増→2月15.0%増→3月14.5%増と2ケタの伸びが続いたが、果たして今回は「駆け込み需要」が起きるのかどうか。

前回伸びた住宅も高級品も

次に住宅。建築費や住宅建材・資材にかかる消費税が上がれば、金額が大きいだけに消費者の負担が増える。このため、駆け込み需要が大きくなるもののひとつだ。

国土交通省の新設住宅着工戸数をみると、3月の着工戸数(4月26日発表)は7万6558戸で、前年同月10.0%増えた。10%増という数字だけをみると駆け込み需要が盛り上がっているように思えるが、ちなみに前回の消費増税時には、5カ月前に当たる2013年11月が着工件数のピークで、9万1475戸と9万戸を超えていた。前年同月比では14.1%増だった。

着工戸数の中味にも大きな違いがある。今回の3月の着工が伸びた主因は分譲マンションが前年同月比69.5%増、分譲一戸建てが7.1%増など、分譲住宅が大きく増えたことが背景にある。駆け込み需要を狙ってマンションや分譲住宅の販売業者による着工が急増したことが分かる。問題はそれが順調に売れているのかどうかだ。

一方で、持家一戸建ての着工戸数は前年同月比8.9%増。2013年11月は22.6%増だったことを考えると、大幅に下回っている。住宅でも駆け込み需要は不発に終わっているとみてよさそうだ。

もうひとつが高級高額品。宝石や美術工芸品、高級時計などである。不要不急の買い物ではない一方、金額が張るため2%の税率引き上げでも負担額の増加はバカにならない。

日本百貨店協会がまとめた3月の全国百貨店売上高によると、「美術・宝飾・貴金属」部門の売上高は6.7%増だった。1月の2.2%減、2月の2.7%増に比べると大きく伸びている。

もっともこの部門の消費を支えているのは中国などからの外国人観光客による免税手続きによる買い物のため、実際にどれだけ国内消費者の駆け込みが含まれているかは不明だ。

前回の消費増税6カ月前である2013年10月には、同部門の売り上げは前年同月比19.7%増で、その後も11月21.0%増→12月15.5%増→2014年1月22.6%増→2月24.5%増と大幅な増加が続いた。増税前月の2014年3月には113.7%増、つまり前年の2.1倍という売れ行きを示し、宝飾品売り場のショーケースから品物が消えた、と言わるほどの「駆け込み需要」の威力だった。

果たして、これから5カ月の間、デパートで宝飾品が飛ぶようにうれるような「駆け込み」は再現されるのだろうか。

景気が悪いまま税率引き上げしたら

ではなぜ、「駆け込み」需要が起きないのか。はっきりとは分からないが、いくつかの可能性が考えられる。

まず、政府が取った「反動減対策」が多岐にわたりよく分からないこと。増税前に慌てて買わなくても、増税後の税制改正などのメリットを利用すればよいそれほど損をしないという風にみている消費者が多いのかもしれない。

もうひとつは、消費増税されてもその分ぐらいは値引きしてもらえる、という期待が消費者にあるのかもしれない。前回は小売店などが消費増税分をおまけする「消費税還元セール」を行うことを政府は「禁止」した。増税分の値引きのしわ寄せが立場の弱い納入業者などに行くのを防ぐため、消費者にきちんと負担させるよう求めたのだ。

ところが今回は「還元セール」は禁止されていない。増税される2%分を販売店などが負担するケースも多くありそうだ。

本当に消費増税が実行されるか疑っている国民もいるかもしれない。安倍首相は過去に2度の延期をしているほか、4月になっても「首相側近」とされる萩生田光一自民党幹事長代行が消費増税の延期はあり得るという趣旨の発言をしている。

さすがに民間ではシステム改修の準備なども進んでおり、再度の延期は難しい情勢だが、世界的に景気が不安定さを増している中で、「よもや」と考えるひとがいるのだろう。

もうひとつは、消費税率を考えるまでもなく、消費の現状が悪いということも考えられる。駆け込み消費をしようにもカネがない、あるいはそもそも消費するつもりがない、というものだ。

還元セールなどを期待する向きは、消費増税前後で消費行動が変わらないとすれば、駆け込み需要がない分、反動減もない、ということになる。

ところが、そもそも消費力が弱りに弱っているのだとすれば、駆け込み需要はないにもかかわらず、増税後の消費減退だけが起きる可能性もある。そうなれば、消費増税をきっかけに、経済の息の根が止まりかねず。日本にとって最悪の結果になる可能性もある。