「GoTo東京除外」でハシゴ外されたJAL、ANA 大手の破綻相次ぐ航空業界の悲鳴

ITメディアビジネスオンラインに7月22日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2007/22/news049.html

 

 世界で経営が行き詰まる航空会社が相次いでいる。新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)した影響で航空旅客が激減。運行便を大幅に減便せざるを得なくなるなど深刻な打撃を受けている。また、新型コロナが収束するメドが立たないことから、大幅な人員削減に乗り出すなど、経営規模の縮小に着手し始めた。

 欧州の航空大手「ルフトハンザ」や、「エールフランスKLM」はすでに政府が資本注入するなど救済に乗り出すことで合意。一方で、タイの航空大手「タイ国際航空」やメキシコの航空大手「アエロメヒコ」、ブラジルの航空最大手「LATAM航空グループ」のブラジル部門なども法的整理を申請。事業は継続しながら経営再建を目指す。 

独政府はルフトハンザに1兆円支援

 ルフトハンザはドイツ政府との間で、90億ユーロ(約1兆円)にのぼる救済策で合意、6月末に開いた臨時株主総会でも承認された。政府による救済に難色を示していた個人大株主が土壇場で救済策に合意したため、法的整理を免れた。ルフトハンザは最悪時には定期便の95%が運休に追い込まれ、ドイツ政府と支援策の協議を続けていた。

 救済にはドイツ政府が4月に作った企業救済のためのファンド「WSF(経済安定化基金)」が使われる。WSFは政府系金融機関のKfW(ドイツ復興金融公庫)や主要大企業が出資、資産規模は1000億ユーロ(約12兆円)にのぼる。このWSFがルフトハンザの議決権の20%に相当する普通株を3億ユーロ(約360億円)で取得。さらに買収の標的になった場合に備え、重要議案への拒否が可能となる25%プラス1株まで保有株比率を引き上げることができるオプションを持った。

 また、WSFが、ドイツ特有の議決権のない資本参加方式で57億ユーロの資本注入を行う。この資本注入とは別に、KfWや民間銀行から返済期限3年の融資を30億ユーロ(約3600億円)受けることでも合意。総額90億ドルにのぼる大型救済策となった。

 

 WSFは議決権株については2023年末までに売却するとしている。また 政府系への無議決権出資の返済が終わるまでの間、株主への配当は停止されるほか、経営幹部の報酬についても制限される。無議決権出資に対する利息(配当)の支払いが滞った場合にも前述のオプションを行使できることになっており、政府がさらに経営関与をする道を残している。

 フランスの航空大手「エールフランス」とオランダの「KLMオランダ航空」の持ち株会社である「エールフランスKLM」も政府との間で救済策を模索してきた。4月末にはフランス政府との間で合意、総額70億ユーロ(約8400億円)の資金を調達した。

 筆頭株主であるフランス政府からの直接融資は、30億ユーロ(3600億円)で、期間4年だが、さらに1年間の延長が2回できるオプションが付いている。また、クレディ・アグリコルCIBなど銀行9行によるシンジケート・ローン(協調融資)を40億ユーロ(4800億円)調達。融資額の90%についてはフランス政府が保証を付けた。こちらは償還期間は1年だが、さらに1年間の延長が2回可能なオプションが付いている。

 また、6月末になってオランダ政府との間でも救済策に合意。傘下のKLMオランダ航空が34億ユーロ(4080億円)にのぼる資金を調達した。10億ユーロについてはオランダ政府の直接融資、24億ユーロは11行から借り入れるが、やはりこれもオランダ政府が90%を保証する。

 この支援策合意にあたって、エールフランスKLMのベンジャミン・スミスCEO(最高経営責任者)は現地紙とのインタビューで、運航便数は21年末までに80%超に回復すると述べているが、実際にどれぐらい回復するかは未知数。世界での感染拡大が続いている中で、旅客需要の早期回復は望めないという声も根強い。

アリタリア・イタリア航空は国有化 解体縮小へ

 国からの支援を受けるルフトハンザ、エールフランスの両社は、経営再建に向けて、大幅なリストラを敢行する見込みだ。ルフトハンザは6月中旬、従業員の16%に当たる2万2000人が余剰になるとの見通しを明らかにし、労働組合との間で人員削減やワークシェアリングについての協議を始めた。

 エールフランスは7月に入って、22年末までにグループで7580人の人員削減を行う計画を発表した。航空需要が元の水準に戻るのは24年までは難しいという見通しを明らかにし、リストラが不可避だとした。

 両社の場合、政府からの資本注入は受けるものの、政府支援からの早期脱却を前提に、大規模な事業構造の見直しを行う。EU欧州連合)は競争法で政府の出資を厳しく制限している。政府が支えることで、民間企業同士の競争を歪(ゆが)めることになるからだ。

 そんな中でも、国営化に踏み切ったところがある。イタリアの航空会社「アリタリア・イタリア航空」だ。新型コロナが蔓延する前から経営危機が続き、さまざまな経営再建策が模索された。エールフランスとの統合も計画されたが頓挫した経歴をもつ。そこに新型コロナが追い打ちをかける形になったのだ。イタリア政府は経営再建を断念し再国営化する方針を固めた。

 

 新型コロナウイルスは欧州では当初、イタリアが最悪の死者数を出すなど状況が悪化、ドイツなど周辺国との国境封鎖が行われた。このため、3月末時点でアリタリアが運行していたのは、ローマ発着とミラノ発着の週270便にとどまり、経営が事実上行き詰った。

 イタリア政府は当面の運行維持に向けて緊急融資に踏み切ったが、救済と引き換えに経営規模の大幅な縮小に踏み切る方針を打ち出している。経営を引き継ぐ新会社は「最小限の規模」からスタートするとしており、113機あった保有機を25機から30機まで減らす。ほとんどの長距離線の運行を取りやめ、近距離や中距離に絞り込むという。当然、これに伴って大幅な人員削減も行うことになる。現在1万1000人いる従業員を3000人にすることを検討している。

 最盛期には185機を保有、2万人を超える従業員を抱えていたアリタリアは事実上、解体縮小される。これまでも欧州の航空会社は国境を超えた合従連衡などを進めてきた。新型コロナをきっかけに航空需要が大きく減るとなると、さらに再編が模索されることになるだろう。

 感染が拡大しているブラジルやメキシコなどの航空会社が米国の破産法11条を使った経営再建に早々と乗り出したのも、現状の規模のまま企業を維持することは困難と見て、事業構造の見直しに着手したといえる。新型コロナが終息してもすぐに需要が元に戻るとの見方は少なく、旅客需要が減るとなれば、早いうちにスリム化を進めた方が経営立て直すことが可能になると見ているわけだ。

「GoTo東京除外」で悲鳴あげるJALANA

 航空需要の激減は日本も状況は同じだ。日本政府観光局(JNTO)の推計によると、日本を訪れた訪日外国人旅行者は、4月、5月、6月と3カ月連続で前年同月比99.9%減となった。完全に人の動きが「消えた」のである。

 そうした中で、日本航空JAL)も全日空ANAホールディングス)も、4月以降、大幅な減便が続いている。飛んでいてもほとんど旅客がいないという状況が続いているのだ。観光庁の集計によると、主要旅行業者の5月の旅行取扱額は、前年同月に比べて98%も減少。まさに旅行需要が「消滅」していた。その最大の被害者がJALANAと言ってもよい。

 

 夏休みに向けて国内旅行の活発化に期待をかけていた。ところが東京を中心に新型コロナ感染者が増加しており、国内線需要の回復にもブレーキがかかった。一縷の望みとも言えた政府の「GoToキャンペーン」が、最後の最後で東京発着を対象から除外したのだ。東京から沖縄や北海道と言った人気観光地への夏休みの予約が入り始めていた矢先の突然の除外決定だっただけに、完全にハシゴを外される格好になった。

 JALANAが4月に発表した決算では、1-3月期はともに赤字を計上しているが、新型コロナによる運休が本格化したのは4月以降。8月にも発表する4-6月期決算は赤字額がさらに大きく拡大することが見込まれる。

 両社とも金融機関からのコミットメントライン(融資枠)の確保などで資金調達しているものの、7-9月決算でも回復が見込めないとなると、事業規模の縮小や政府による救済といった話が浮上してくることになりそうだ。