ポストコロナの勝者は佐川かヤマトか 巣ごもり効果で業績好調の宅配業界

IT mediaビジネスオンラインに1月7日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

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 新型コロナウイルスのまん延で外出もままならない中で、宅配企業が「巣ごもり効果」に沸いている。2020年4~9月期(2021年3月期の9月中間期)は佐川急便のSGホールディングス(以下SG)の売上高が前年同期比8.0%増の6348億円となり、純利益は372億円と69.9%も増加した。クロネコヤマトヤマトホールディングス(以下ヤマト)は売上高が8060億円と伸び率は0.7%増にとどまったが、純利益は141億円と前年同期の34億円の赤字から黒字転換を果たした。

 21年3月期通期でも、SGは売上高6.3%増の1兆2480億円、純利益は42.7%増の675億円を見込み、ヤマトは売上高1%増の1兆6460億円、純利益は56.8%増の350億円となる見通しだ。両社とも日本経済の先行きについては「依然不透明な状況」だとしながらも、新型コロナによってライフスタイルが変わり、eコマース市場が急拡大することで宅配便の需要が急増していることをチャンスと捉えている。

売上高のヤマト 利益のSG 

 SGの上半期の取扱荷物個数は6億8600万個と4.5%増加、ヤマトの宅配便も9億9400万個と13.1%増えた。企業活動が停滞したことで「クロネコDM便」は3億9800万冊と23.4%減ったが、荷物の急増に両社とも現場は超繁忙の事態となった。

 

 業績数字をみても分かる通り、宅配便の取扱個数や売上高ではヤマトがSGを圧倒するが、こと利益になるとSGが断然ヤマトを上回っている。通期見通しの営業利益段階でもヤマトの680億円に対して、SGは970億円だ。

 実は16年3月期まではヤマトの方が営業利益は大きかった。16年11月にヤマト運輸労働基準監督署から未払い残業代に関する是正勧告を受けていた事が発覚するなど、宅配ドライバーの過重労働問題が表面化。宅配荷物の急増に自社の宅配ドライバーでは対応しきれず、外部の物流業者に宅配業務の一部を外注したことが原価を大幅に高め、営業利益が激減した。宅配ドライバーの労働環境の改善を理由に、料金を値上げしたほか、アマゾンなど大口顧客への値上げ交渉も進めた。

 実は、ヤマトの営業利益がSGに抜かれる伏線はそれ以前からあった。売上高営業利益率を見ると、13年3月期にはヤマトは5.2%、SGは3.6%だったが、14年3月期にはSGが5.2%とヤマトの4.6%を一気に抜いていたのだ。

 理由ははっきりしている。SGが売り上げ規模の拡大よりも利益重視の戦略を取ったからだ。それまで宅配便業界の常識は、取扱量を増やすことで荷物1つを運ぶコストを下げること。トラック1台を使うならば載せる荷物が多い方が効率化できる。ところが、当時から爆発的に増えていたアマゾンなどEC(エレクトリック・コマース)の宅配は勝手が違った。個別の宅配個数の急増で、不在時の再配達が多くなり、宅配ドライバーの業務量が劇的に増えたのだ。これが後のヤマトのドライバー問題になって顕在化していく。

SGは採算重視 ヤマトはIT化

 SGは13年にアマゾンとの取引を解消、取扱量を増やす戦略から採算を重視する戦略に思い切って切り替えたわけだ。18年3月期にはヤマトの営業利益率は2.3%にまで低下、一方でSGの営業利益率は6%台に乗せた。

 結局、SG撤退の受け皿となったヤマトは、自社ドライバーだけでは回らなくなり、外部の物流業者に業務委託する羽目に陥った。それが大幅なコスト増に結びついたのだ。今、急ピッチで利益率の改善に取り組んでいる。ただし、手法が異なる。データを駆使するIT化で業務の効率化を進めようとしている。
 その1つが不在時の再配達の削減に向けた「EAZY」の導入。利用客がスマホなどで不在時の配達場所などを指定できる仕組みで、玄関前やガスメーターボックスなどへの「置き配」も指定できる。もともとアマゾンが独自配送網で導入した「置き配」はトラブルも多く、当初不評だったが、新型コロナのまん延による非接触での受け取り希望が増えたことなどもあり、消費者に受け入れられつつある。不在による再配達の削減によって外部委託などが大幅に減少、上半期の決算でも委託費や傭車(ようしゃ)費と言った「下払経費」の伸びを、営業収入の伸び(5.3%増)を大きく下回る1.5%増で抑えることができた。
 また、データ分析に基づいて、業務量などを予測し、人員や車などの経営資源を最適配置することを目指している。上半期でも「集配効率の向上や幹線輸送の効率化をグループ全体で推進し、人件費や委託費、傭車費の増加を抑制した」としている。また、ヤマトが手掛ける「メール便」などは、もともと郵便事業を手掛けてきた日本郵政への業務委託などで、採算の改善を目指す。インターネット・メールの普及によって郵便親書の扱い量が大きく減っていることもあり、収益性を確保することが難しくなっているためだ。21年3月期通期の売上高営業利益率は、4.1%にまで回復、7.8%を見込む佐川の背中を追いかける。

 

 新型コロナのまん延がなかなか終息しない中で、宅配事業へのニーズはさらに拡大している。宅配便だけでなく、「ウーバー・イーツ」などの飲食配送など新サービスも急速に広がっており、ヤマトやSGなど宅配業界もサービス多角化を狙う。

労働力不足が一段と深刻化

 ヤマトは、従来の「モノを運ぶ」機能だけを求める顧客に対しては、コンビニエンスストアでの受け取りや配達ロッカーの設置などを進め、「EAZY」などによって、都合の良い時に荷物を受け取れる仕組みの構築・拡大を狙っている。また、配送するドライバーの業務量を減らすために、無人車などでの配送実験も実施している。さらにドローンを使った拠点間輸送なども実験中だ。

 問題は、今後も労働力不足が一段と深刻化するとみられることだ。新型コロナの影響でパートやアルバイトが激減するなど、現状足元では労働力不足はひと息ついているが、今後も日本の人口は減少を続けることがはっきりしている。何せ、19年の1年間に生まれた子どもは86万人。20年はさらに減少する見通しだ。移民の受け入れも難しい中で、今後も労働力不足が深刻化する。

 

 非対面の配送サービスなどは新型コロナが収まった「ポスト・コロナ」の時代になっても減少しないとみられる。生活スタイルや社会の在り方が変わり、物流サービスへの期待は今まで以上に事細かになっていくと見ていい。そうした中で、宅配のネットワークをすでに持っているヤマトなど運輸大手へのニーズも多様化する。非対面の運送サービスはインフラとしてどんどん無人化していくだろう。それをシステムとして構築していけるかどうかが宅配企業の盛衰を決める。

 一方、すでにヤマトが実験的に全国で手掛けている「見守りサービス」や「ネコサポステーション」などの地域密着型の事業も、高齢化や地域の過疎化が進む中で、今後ますますニーズが高まるとみられる。そうした「人と人」のつながりが求められる事業で、いかに収益を上げていくかがポイントになるだろう。つまり、人手を介する業務でいかに高い利益率を確保できるかが、今後の事業収益を占うカギになりそうだ。

SGはDX支援に注力

 SGは企業向け物流事業の強みを生かして、企業が進めるDX(デジタル・トランスフォーメーション)を支援する事業に力を入れている。新型コロナへの対応で在宅勤務が広がるなど、企業の業務フローや働き方が大きく変わる中で、企業はDXを一気に進めようとしている。それとともに企業の物流なども大きく変わることが予想されており、そのシステム構築をSGが担おうとしている。

 ヤマトにせよ、SGにせよ、ポスト・コロナの時代には人々の生活が大きく変わる中で、物流や宅配サービスへのニーズも変わってくる。そのニーズを捉えることができれば、宅配運輸業界はまだまだ成長の余地がある。顧客の声を聞きサービスを実現していく企業が業界の雄になるだろう。