ITメディアビジネスオンラインに10月28日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2010/28/news044.html
居酒屋など外食チェーン大手の「ワタミ」は10月5日、居酒屋から焼肉店への大々的な業態転換を打ち出した(ワタミ、120店を「焼肉の和民」に転換 料理配膳ロボット、特急レーンを使用した“非接触型”店舗に参照)。居酒屋の「和民」全店のほか、「ミライザカ」「三代目鳥メロ」などグループ全体の3割にあたる120店舗を「焼肉の和民」に切り替えていくという。
新型コロナがなかなか終息しない中で、外食業界は厳しい状況が続いている。特に和民のような居酒屋チェーンは顧客が戻らず、存亡の危機に立たされている。日本フードサービス協会の集計によると、9月の「居酒屋」チェーンの来客数は前年同月の53.8%、売上高は52.8%にとどまっている。
「パブ・ビヤホール」の客数46.5%、売上高44.4%に比べればまだマシとはいえ、「ファミリーレストラン」チェーン全体の売上高が前年同月の80.3%まで回復し、「ファストフード」チェーン全体が95.5%にまで戻っているのと比べると、壊滅的な状態だ。
「GoToイート」などのキャンペーンが始まっているものの、どうしても「密」が避けられないイメージが強い居酒屋は敬遠されている。新型コロナが下火になったとしても、完全に終息しない限り、居酒屋の来客数などが元に戻るとは考えにくい。ワタミが一気に舵を切るほど、居酒屋業態の先行きは厳しいということだろう。
前述の日本フードサービス協会の9月調査の詳細を見ると、「焼肉」チェーンは売上高が前年同月の91.7%にまで戻っている。52.8%の居酒屋を91.7%の焼肉店に変えることは、ある意味、合理的な決断とも言える。もともと排煙が必須で換気が行き届いているイメージの強い焼肉店は、消費者にとって新型コロナ下でも行きやすい業態と言えるのかもしれない。
新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)による外食需要の激減で、外食産業は存亡の危機に直面している。ワタミの「業態転換」は、極端にマーケットが変貌する中で、生き残りをかけた行動とみていい。こうした「業態転換」や「新業態進出」に生き残りをかける動きは、ワタミだけではない。
ロイヤルや吉野家は宅配事業に参入
レストラン大手のロイヤルホールディングス(HD)や牛丼チェーン大手の吉野家HDは、宅配事業に参入すると発表した。ロイヤルHDは宅配や持ち帰り専門店を都内に出すとしているほか、吉野家HDも宅配専門店を都内で展開する。また、サイゼリヤも、実験的に宅配やテークアウト、小型店といった新たな業態を探っている。
外食チェーンが業態転換に動く背景には、足元の業績の大幅な悪化がある。ワタミの2021年3月期の第1四半期(2020年4月から6月)は売上高がなんと44.3%も減少、最終損益は45億5000万円の赤字となった。新型コロナによる緊急事態宣言が出されていた時期と重なった3カ月の決算だったため、大幅な赤字となった。
通期の業績については「合理的に算定することが困難」だとして「未定」としているが、第1四半期の赤字を吸収できる状況にはなく、さらに赤字額が拡大することは必至な情勢だ。
最もひどかったロイヤルHD
吉野家HDの2021年2月期上期(2020年3月から8月)も売上高が23.4%減少、最終損益は57億円の赤字だった。吉野家HDは通期の見通しについて、売上高は20.3%減の1723億円、最終損益は90億円の赤字と見込んでいる。
決算期のズレによって影響の出方はまちまちだが、最もひどかったのがロイヤルHDの2020年12月期上期決算。2020年1月から6月が対象で、新型コロナの影響をモロに受けた。売上高は40.8%減の405億円、最終赤字は131億円に達した。6月末現在の利益剰余金は25億円(1年前は167億円)にまで激減。本業からの現金の入りである「営業キャッシュフロー」と「投資キャッシュフロー」を合わせた「フリーキャッシュフロー」は155億円の赤字となり、280億円に達する長短借入金で補った。とりあえず期末の現金は127億円あるが、本業が戻らない限り、将来は厳しい。
本決算を10月14日に発表した外食チェーンの「サイゼリヤ」の2020年8月期決算も、11年ぶりの赤字決算だった。新型コロナウイルスの蔓延による外出自粛などの影響で売上高が1268億円と前期比で19.0%減り、最終損益は34億5000万円の赤字(前期は49億8000万円の黒字)に転落した。
上半期(2019年9月から2020年2月)はまだ新型コロナの影響がさほど出ておらず、売上高が前年同期比1.8%増を確保、純利益も22億4100万円の黒字を計上していた。それを全て吹き飛ばしてしまって大幅赤字になったわけだから、いかに3月以降の新型コロナの影響が猛烈だったかが分かる。
上期の既存店の来客数は前年同期比0.6%減だったが、客単価が上昇、売上高は0.2%増だった。ところが、4月には客数が前年同月の38.7%にまで落ち込み、5月も47.6%にとどまった。7月以降、7割に戻ったものの、下期累計の客数は36.1%減少、売り上げも35.6%減った。結局、通期1年間の客数は1億8413万人と19.2%減少した。
今後の見通しも厳しい。原価圧縮による損益分岐点の改善などを掲げるが、2021年8月期も上期は売上高が15.1%減る見込みで、23億円の最終赤字を見込む。下期は売り上げが回復、通期では1350億円と6.4%増を計画するものの、最終損益は36億円の赤字と、2期連続の赤字を見込む。
サイゼリヤはここ数年、海外での新規出店を積極的に進めてきた。国内店舗数は4年前の2016年8月の1028店から2020年8月には1089店と6%増やしたが、海外は中国を中心に345店舗から428店に24%増やしてきた。経済成長が見込めるアジアでの事業拡大を急いできたわけだ。新型コロナで売り上げが急減する中で、損益分岐点を改善するためには投資の抑制が不可欠になる。
2020年8月期も本業からの現金収入である「営業キャッシュフロー」は5億2500万円の黒字と、ほぼトントンを維持したが、設備投資などに出ていった「投資キャッシュフロー」は59億円の赤字となり、短期借入金など「財務キャッシュフロー」で補わざるを得なかった。会社側は2021年8月期も営業キャッシュフローの急増は見込めず、設備投資との差額は88億円のマイナスになると見込んでいる。
合理化に踏み出す可能性も
国内の投資は圧縮しても、経済の回復が早い中国での事業拡大を急いだ方が良いという判断なのだろう。サイゼリヤの計画では2021年8月期も、上海と広州、北京で67店舗を新規出店、退店予定との差し引きでも33店増やす計画を維持している。香港、台湾、シンガポールでも新規出店する予定だ。サイゼリヤとしてはアジアへの出店拡大で、生き残りをかける戦略を取る。
売り上げが激減した外食チェーンは、大半がフリーキャッシュフローの大幅な赤字を金融機関からの借り入れで補っている。加えて、従業員を休職させて国からの助成を得る「雇用調整助成金」などを申請、何とか資金繰りをつないでいる状況だ。とりあえず目先の資金は確保できているものの、本業での多額の赤字が続けば、早晩立ち行かなくなる。
業態転換によって店舗に配置する人員の効率化なども進めていくことになりそうで、今後、生き残りをかけて、合理化に踏み出す可能性が強い。新型コロナで、テレワークが一気に広がるなど、人々の生活パターンも激変している。今後、景気悪化が本格化すれば、消費者の財布のひもも締まることになり、外食チェーンにとっては、さらに苦難の時が襲うことになりかねない。より来客が見込め、収益性も維持できる業態への転換を進める動きは、今後ますます本格化することになるだろう。