2012年は「信用」をめぐる攻防の年

年明けの「フジサンケイビジネスアイ」の1面コラムで、今年は信用をめぐる攻防の年になる、と書きました。2012年も2カ月を過ぎようとしていますが、この見方は今のところ当たっているように思います。とりあえず、欧州は信用をつなぎ止めることに成功し、日銀の実質的なインフレターゲットの導入もあり、円安に向かって動き始めました。いよいよ日本の「信用」が問われるタイミングが近づいているようにも感じます。野田佳彦内閣はがむしゃらに消費税増税に動いていますが、国民の政治不信、政府不信はどんどん大きくなっているようにも思います。信頼を得られていない政府が増税を成し遂げることは難しいように思うのですが。。。
年明けの1面コラムを再掲します。
オリジナルページhttp://www.sankeibiz.jp/macro/news/120110/mca1201100500000-n1.htm


 今年は世界の至るところで「信用」をめぐるギリギリの攻防が続くことになるに違いない。

 まずは欧州。昨年来の欧州金融危機は、ギリシャなど財政基盤の弱い国の信用が崩壊し、国債での資金調達が困難をきたしたことから始まった。こうした国の国債などを大量に保有する欧州の金融機関の信用が揺らぎ、金融機関自身のドル資金調達が危ぶまれる状況にまで追い込まれた。さらには欧州の共通通貨ユーロの信用が薄れ、年初からユーロ安の展開になっている。

 欧州での信用危機は簡単には収まらない。今年も世界経済を揺さぶり続ける最大の要因になるだろう。

 米国もここ数年、金融危機を封じ込めるために大量のドル供給を続けた結果、ドルの信用が大きく揺らいだ。徹底した金融緩和の効果で景気が浮揚し始めたものの、物価の上昇などによる低所得層・若年層の不満が高まり、「格差是正」を求めるデモが頻発している。大統領選挙の年でもあり、政府が国民の信用をつなぎ止められるかが焦点となっている。

 そんな中で、日本も信用が大きく問われる年になる。

 東日本大震災とその後の原子力発電所事故をめぐる対応では、政府の対応の遅さや情報開示の不透明さが批判を浴びた。政府の信用が大きく揺らいだのである。その信用をどうやって立て直すか。

 野田佳彦首相は、社会保障・税の一体改革は待ったなしだとして、消費税増税を打ち出した。国債の信用不安を引き起こさないためにも財政を立て直すことが先決だという理屈だ。

 だが増税とは、国民が政府に再分配の原資をより多く託すことに他ならない。つまり政府への信用がなければ、より多くの資金を託すはずがない。

 震災後からやるやると言って実現しない公務員給与の引き下げや、議員定数の削減、独立行政法人の抜本的な見直しなど、むしろ政府への不信感が高まっている。年金や医療保険制度の崩壊、国債の暴落といった危機感をあおるだけでは、国民は納得して増税を受け入れない。

 そんな日本の取り組みを国際金融市場は凝視している。オリンパス大王製紙の不正問題は、個別の企業の問題に留まらず、日本企業や日本の経済システム全体への信用問題に発展している。日本という国が国際的には通用しない特殊なルールによって運営されているという見方が広がれば、日本にある外国人の投資資金が逃げ出すことになりかねない。それが日本国債暴落の引き金になる可能性は十分にあるのだ。

 鳩山由紀夫元首相が「トラスト・ミー(俺を信用しろ)」と言いながら信用を裏切ったことで日米関係は危機的なまでに悪化した。ひとたび信用が失われればそれを取り戻すのは至難の業だ。日本の政治も経済も、信用をいかに保つかが問われることになる。(ジャーナリスト・磯山友幸