フジサンケイビジネスアイの1面コラムは、書き始める前に想像した以上に反響があります。知り合いの大企業経営者や大物官僚OBなどから、「読んだぞ」と言われることがしばしば。1面であることや、写真が入っていることから、目に付きやすいのかもしれません。どうぞご愛読ください。8月のアタマに掲載された記事を再掲します。
オリジナルページ→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120802/mca1208020501007-n1.htm
法制審議会による会社法の見直しが大詰めを迎えた。改正要綱がまとまり、今後、会社法改正法案として国会に提出される。見直しの焦点は企業統治(コーポレート・ガバナンス)の見直しだ。昨年末に同部会がまとめた「中間試案」では、社外取締役を最低1人置くように、企業に義務付ける選択肢が示されていた。これに対しては日本経団連など経済界を中心に反対の声が上がっていた。法制審の対応が注目されたが、最終的に、義務付けは見送られ、社外取締役を置かない場合はその理由を記載すればよいこととなった。
法制審の議論と同じタイミングで、オリンパスと大王製紙の事件が起きた。10年以上にわたって巨額損失を隠してきた事件と、創業一族の会長に言われるままに会社のカネを貸し付けていた事件だ。いずれも経営トップが直接不正に関与したスキャンダルだ。
こんな事件が起きれば、経済界も少しは「身を切る改革」を受け入れるかと思われたが、逆だった。オリンパスにも社外取締役がいたことを盾に、社外取締役を義務付けても機能しないから無意味だと主張したのだ。警備員を置いても泥棒はいなくならないから置く必要はないというのと同じ理屈である。
ところが、こうした経済界の反対論に真っ向から対決する声はほとんど上がらなかった。
今回の会社法の見直しは、政権交代後に民主党内閣の法務大臣が諮問したものだ。社会的、経済的に重要な会社について、「幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点から」企業統治のあり方を見直すというのが諮問の趣旨だった。企業経営に利害関係者(ステークホルダー)の利益を考えた経営を行わせるために企業統治の見直しが必要だと考えたのだろう。委員には労働界の代表なども入ったが、2年4カ月続いた会議の後半では、ほとんど何も発言しなくなった。
本来なら企業統治の強化を求めるのは「市場」の役割だ。ところが、いまや日本の資本市場は崩壊寸前で、その利益を守るような発言をする人もほとんどいない。たかだか1人の社外取締役を義務付けることすら、強硬に主張できないのだ。
では国会議員はどうか。自民党は社外取締役の要件を厳しくした「独立取締役」を2人以上義務付けよ、という独自案をまとめている。今回提出される法案に対して「生ぬるい」として修正を求める動きは出るのか。
その可能性もどうやら低そうだ。民主党も自民党も総選挙が近いとあって、資金や選挙運動で協力を期待する経済界の機嫌を損ないたくない、というのがホンネなのだという。
経済界が社外取締役を嫌うのは経営に異質なものを入れたくないからだろう。法制審の議論をみていると、日本全体に経営にモノが言える“異質な”存在がいなくなったように思えてならない。(ジャーナリスト 磯山友幸)