苦境に立つ日本のボーイスカウト 〜大きく変わった企業の社会貢献の形

8月8日までボーイスカウトのキャンプ大会「日本ジャンボリー」が山口県で開かれており、広報関連のお手伝いをしてきました。その際に取材した記事を7日朝の現代ビジネスにアップしたところ、9日現在で2300超の「いいね」を押していただいています。スカウト人口が減少したと言っても、まだまだ集団としての影響力はあると感じた次第です。もちろん、現役スカウトばかりでなく、かつてスカウティングに関わっていた人も大勢います。旧知の取材先から「私もボーイスカウトやってました!」というメールを何通かいただきました。日頃関係のない方も是非お読みください。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36636


青少年運動の老舗であるボーイスカウトが、少子化の中で苦戦している。1983年に33万人いた日本のボーイスカウト人口は今や14万人。2年後の2015年夏には世界162の国と地域からスカウトが集まる「世界スカウトジャンボリー」を、44年ぶりに日本に招致したが、30億円を超す予算の確保にも四苦八苦している。長期にわたって続いたデフレによって企業の協賛姿勢が大きく変わったことなどが背景にある。

世界大会に向けて「まだまだこれからの状態」

山口県の瀬戸内海に面した臨海公園「きらら浜」で、7月31日から8月8日まで、ボーイスカウトの祭典「日本ジャンボリー」が開かれている。4年に1度行われるキャンプ大会で、今回で16回目。国内外から1万4000人のスカウトや指導者が参加している。日帰りでの参加や一般の見学者も多く、最高で6000人近い来場者があったという。皇太子さまや安倍晋三首相らも会場を訪れており、地元の山口新聞は連日大きく報道。全国紙やテレビにも取り上げられた。

今回は2年後に予定される23回世界スカウトジャンボリーのプレ大会という位置づけで、50を超す国と地域からスカウトが参加している。会場では野外アリーナを使ったショーや様々なイベントプログラムが行われ、子供たちの笑顔があふれている。

だが、一方で、大会を取り巻く環境は厳しい。国や自治体の補助金や企業の協賛金が思うように集まらず、参加者の負担が大きくなっているのだ。2年後の世界大会には3万人が集まる予定だというが、開催期間も長いため、参加費だけで今回の2倍のひとり10万円が予定されているという。アフリカなど発展途上地域の参加者には負担が重いため、参加費を安く設定するなど配慮するが、それにも資金が必要になる。

今回のジャンボリー開催でも企業に積極的な協力を呼び掛けてきた、という。例えば昼間の時間帯に参加スカウトたちが、ブースを回って様々な体験を行う「シティ・オブ・サイエンス」「カルチャー」といったプログラムでは、企業に協賛ブースの出店を呼びかけた。

ヤクルト本社が協賛した「健腸ラボ」は、ビフィズス菌と免疫作用の関係などを学ぶことができるブースで、健康飲料ヤクルトの歴史なども紹介していた。

新東工業のブースではブラスト加工の技術を体験できる機械が設置され、アルミ製のマグカップに自分の名前や好きなデザインをスカウトたちが自ら彫っていた。体験型のブースはスカウトの人気を集めていた。同社の永井淳社長がもともとボーイスカウトで、会期中にブースを運営した同社の社員のべ10人もすべてボーイスカウト経験者が担当した、という。

また、ガムの「Sストライド」を展開するモンデリーズ・ジャパンが協賛したブースでは「チューインガムの進化と歴史」を知ることができるイベントが行われていた。このほか、本田技研工業中部電力クラシエフーズなどが協賛ブースを出していたが、すべて合わせても1ケタ。各県のボーイスカウト連盟によるブースなど80余りがある中で寂しい限りだ。2年後に向けた"実験"とはいえ、「まだまだこれからの状態」(ボーイスカウト日本連盟)だという。

2年後までに多くの協賛を集めることができるか

ボーイスカウトが人集め、資金集めで苦境に立っているのにはいくつかの理由がある。

かつて、アウトドアでのキャンプと言えばボーイスカウトの専売特許だったが、今では誰でも気軽にキャンプに行けるようになった。ボーイスカウト人口がピークだった頃は、ちょうどアウトドア雑誌が続々と創刊されていた頃で、キャンプの一般化とボーイスカウト人口の減少は相関関係にあると言っていい。

一方で、「Creating a Better World(より良い世界を創る)」というスローガンの下で世界全体につながった国際的な運動だということを、なかなかアピールできずに来た。経済がグローバル化する中で、英語教育や国際教育は広がっているが、その波にボーイスカウトはうまく乗れなかったのだ。

青少年の奉仕活動もボーイスカウトの特長の1つだったが、これも多くのNPO団体が誕生し、奉仕=ボーイスカウトというイメージが薄れてしまった。今回のジャンボリーでも、参加していた大学生年代のローバースカウトが、直前に山口地方を襲った集中豪雨の被災地に赴き、家屋内の汚泥の除去などのボランティアに従事した。ボーイスカウト自身、アイデンティティの立て直しに躍起になっているということだろう。

支援する国や自治体、企業の姿勢も大きく変わった。前の世界ジャンボリーが日本で行われた1970年代ごろまで、青少年教育団体と言えばボーイスカウトが圧倒的で、経済団体や大手企業の経営者がこぞって支援していた。企業のメセナ(社会貢献活動)が本格化する前で、企業はボーイスカウトを支援することで、社会貢献しようと考えていたのだろう。

経団連会長を務めた土光敏夫氏やソニー創業者の井深大氏、本田技研工業創業者の本田宗一郎氏ら名だたる経営者がボーイスカウトの連盟の役員に名前を連ねていた。

ボーイスカウトと皇室の関係も深く、皇太子時代に英国を訪れた昭和天皇は、ボーイスカウト運動創始者のベーデン・パウエル卿を引見しており、「ボーイスカウト運動を日本に紹介したのは私だ」とかねがね言っていたという話が残る。現在の皇太子も1978年以来、10回続けてジャンボリーを訪れて、スカウトを激励されている。

こうした、経済団体や大企業、皇室とのつながりといった「伝統」に漫然としてしまったのか。あるいは、経団連などの伝統的な組織が力を持たなくなったからなのか。今のボーイスカウトに深く関与している企業や経営者は大きく減った。

一方で、社会教育予算から補助金を受け取る団体の数が増えた分、ボーイスカウトに入る国の助成も小さくなった。ジャンボリー開催地の自治体も財政は厳しく、会場整備予算なども多くは配分できないのが実状だ。

そんな経済界との関係をボーイスカウトが2年後までに立て直し、多くの協賛を集めることができるのかどうか。世界162ヵ国で今も多くの子どもや親たちを引きつけている運動には伝統だけではない「ウリ」があるはずだが、それを世の中にどこまでアピールできるのか。日本がホストを務める一大イベントの成功を祈りたい。