経団連新会長会社も社外取締役導入

社外取締役を入れたからと言って会社経営が劇的に良くなるわけではない、という批判はその通りでしょう。しかし、入れない方が良いという理由にはなりません。もはや世界標準となっている社外取締役を、日本の企業経営の中でどう生かしていくのか。社外取締役の機能論が今後重要になります。オリジナル→
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 東レはこのほど、6月25日に開く株主総会一橋大学の伊藤邦雄教授を社外取締役として起用することを決めた。東レ榊原定征会長は次期経団連会長に決まっており、社外取締役がいなかった同社の対応が注目されていた。

 経団連は長年、社外取締役の設置義務付けに反対してきたが、トヨタ自動車が昨年の株主総会社外取締役を選出。反対派の橋頭堡(きょうとうほ)と見られてきたキヤノン新日鉄住金も今年に入って導入に方向転換していた。これで経団連の現在の正副会長会社はすべて社外取締役を設置することとなった。

 現在国会に提出されている会社法改正案では社外取締役の設置は義務化されていないが、選任しない場合、「置かないことが相当な理由」を株主総会で開示する必要がある。「置かない方が良い理由」という意味だから、これを説明するのは至難だ。谷垣禎一法相が国会答弁で「事実上の義務付けという評価は十分可能」としたことも、経団連企業の方針転換につながった。

 そこで俄然(がぜん)注目されていたのが東レだった。「経団連の従来の方針に合うように社外取締役を置いていない企業のトップを後任に選んだ」とまことしやかにささやかれていたからだ。

 「経団連のトップを輩出する企業が社外取締役に背を向けているとなると世界の投資家に説明がつかない」。金融界の大物は榊原氏に非公式に社外取締役設置を働きかけてきたという。アベノミクスで日本企業の企業統治改革を進めることを表明し、日本企業への投資を呼びかけている一方で、財界総理が背を向けては、アベノミクスの改革姿勢に疑問符が付いてしまう、という焦りもあった。

 東レはこれまで、「当社の業務に精通した取締役が意思決定、執行および監督に当たることが経営責任の遂行、経営の透明性に繋(つな)がる」という理由で社外取締役を置いて来なかった。

 今回、伊藤教授を選んだことについては、同氏が東レの人材育成機関で長年講師を務めたことなどから、同社の事業内容に精通していると説明している。苦しい言い訳といったところだ。経団連の新しい会長会社までもが方針転換したことで、社外取締役設置は一気に広がるだろう。法律が施行される来年までにはおそらく大半の会社が選任するに違いない。

 今後の問題は、その社外取締役がきちんと会社や経営者から独立し、しっかり社長にモノを言える存在になるかどうかだろう。東レの事業に精通しているという伊藤教授は、逆に言えば長年講師として会社の事業にコミットしてきた“身内”と見ることもできるかもしれない。

 東レに限らず、付け焼刃で社外取締役を導入した会社は、従来は顧問として報酬を払ってきた弁護士・税理士や、所管官庁の官僚OBなどを迎えているケースが少なくない。彼らが社外取締役として本当に機能し、企業の収益改善に貢献できるのかどうか。今後は社外取締役の「質」が問われることになる。(ジャーナリスト 磯山友幸