高級品志向が一段と進む 日本の時計市場

高級時計雑誌「クロノス」の定期コラムを、編集部のご厚意で以下の再掲します。すてきな雑誌ですので、是非、書店で手に取ってみてください。

クロノス日本版 2015年 05 月号 [雑誌]

クロノス日本版 2015年 05 月号 [雑誌]

スイス時計協会の統計によると、2014年1年間に、スイスから日本へ輸出された時計の輸出金額は13億3060万スイスフラン(1660億円)と、前年に比べて15.2%増えた。アベノミクスが始まった2013年は前年比で5.7%の増加だったから、2014年はそれを上回る大きな伸びだったことになる。
 2013年はスイス時計の輸出先として日本は6位だったが、昨年は、ドイツとイタリアを抜いて4位に躍進した。トップは香港41億2290万スイスフランとダントツで、これに23億7770万スイスフランの米国が続く。3位は14億150万スイスフランの中国本土だが、その背中が見えてきたことになる。
 昨年1〜3月の消費税増税前の駆け込み需要が大きかったが、その分、4月以降の反動も激しかった。それでも年間を通せば2桁の伸びになったのは、より高価格帯の商品が売れるようになったことが理由とみられる。何しろ、高い時計が驚くほどよく売れているのだ。
 スイス時計協会の日本向け輸出データを基にクロノス日本版編集部が集計した価格帯別資料によると、2014年に日本の輸出入数量が最も大きく伸びたのは、5000スイスフラン(約60万円)〜1万スイスフラン(約120万円)の輸入価格帯で、33.6%も増えた。さらに1万スイスフラン以上も18.4%増えている。
 中でも2万スイスフランから2万5000スイスフランの価格帯の時計の輸入数量だけを見ると前の年の約1.5倍になった。国内販売価格はおおよそ3倍とされるので、約180万円〜約900万円の時計が売れたということを示している。
 高級時計が売れている理由は何か。ひとつはアベノミクスによる円安株高によって、株式を保有する富裕層の手元が潤い、消費に向かっているというもの。「資産効果」と呼ばれるものだ。昨年末に向けて株価が上昇した効果が大きかったというわけだ。
 株価は今年に入っても堅調で、3月中旬には2000年4月以来、ほぼ15年ぶりに日経平均株価が1万9000円を回復した。消費増税の影響が大きく、国内消費全体はなかなか前年同月比プラスにならないが、高級時計に関しては、追い風が吹き続けているとみていいだろう。
 もうひとつは円安で訪日外国人が急増していること。日本政府観光局(JNTO)の統計によると、昨年1年間で日本を訪れた訪日外国人客は前年より300万人も多い1341万人。台湾や中国、香港などからの伸びが大きい。彼らの狙いのひとつは買い物で、日本の百貨店やディスカウント店、アウトレットなどで、大量に購入する「爆買い」が話題になっている。高級時計にもこうした外国人マネーが流出しているのは間違いない。
 外国人が日本で買い物をする最大の理由は自国での価格より日本の方が安いため。日本の小売店などが円高時代に仕入れた商品の価格が、急激な円安で「超お買い得」になっていたこともある。
 もちろん、円安が定着したことで、こうした輸入品の販売価格は修正され、値上げが実施されている。商品によっては国内品との競争で値上げしにくいものも少なくないが、輸入時計の場合は、ほぼ円安による価格改定を終了したようだ。
 価格を引き上げた場合、売れ行きに影響する可能性もあったが、足元を見る限りそうはなっていない。「資産効果」による消費も、訪日外国人による消費も、あまり、価格を気にしない金持ち層に支えられているからだろうか。
 大手企業を中心に4月以降のベースアップが発表されている。円安による企業業績の改善が、ようやく、給与などとなって消費者にも恩恵が及び始めるということだろうか。国内消費全体が明るさを取り戻してくれば、時計の需要は高価格帯ばかりでなく、カジュアル品を中心とする中低価格帯にも及んでくるに違いない。