霞が関の「お役所」で、課長の椅子がなくなり始めた。総務省が実施した「BPR」とは?

行政版BPR、ぜひ本気ですすめてもらいたいものです。いらない仕事がたくさんあることは間違いないと思います。http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43004



お役所の机の配置と言えば、一番奥の窓際に課長や課長補佐がずらりと並び、係長以下のスタッフは島式に並んだ机に役人としての序列ごとに座る。

課長はことさら大きな机と椅子に座っているから、課の入口に立った来訪者は、誰が最も偉くて、誰が最も格下か、ひと目で分かる。それが当たり前の光景で、今も脈々と続いている。

これは、伝統的な役所の権威主義の現れで、仕事をするうえで効率的だからそうなっているわけではない。

かつては民間企業の多くも似たような机配置をしている会社が多かったが、今でも「役所流」を維持しているのは重厚長大の伝統的な企業ぐらいだろう。そもそも民間では課長、係長といった役職すら廃止してしまったところも少なくない。

課長の指定席が入口付近に
そんなお役所ならでは、とも言えるオフィスの形をぶち壊そうという取り組みが、霞が関で始まった。

東京・霞が関の合同庁舎2号館9階。総務省行政管理局情報システム企画課の部屋は、これまでの役所の執務室とはまったく光景が異なる。楕円の白いテーブルは自由席。いわゆるフリーアドレスだ。テーブルを囲む椅子の大きさも基本的に同じで、肩書きによる違いはない。

自由席で机には引き出しはないため、帰宅する際に机の上から書類やパソコンは姿を消す。役所の机と言えば、紙の書類がうずたかく積まれているイメージが強いが、まったく違う。

もともと、情報システム企画課自体が、ぺーパーレス化や電子決済を推進してきた部署で、紙の書類を極力排除してきた。パソコン上で作業ができる職場だということもある。

新しい机の配置に変えたのは今年1月から。3ヵ月あまりが経過したが、課員の評判は上々だという。コミュニケーションが良くなり、お互いに何をやっているかが分かるようになった、というのである。

象徴的なのは課長席。本来なら一番奥に鎮座ましましているところだが、入口に一番近い席がどうやら「指定席」になっているらしい。省内の会議で出入りが激しい課長の仕事を考えると、一番合理的な位置取りということなのだろう。

もちろん、この取り組みは情報システム企画課が勝手に始めたわけでもないし、オフィスの形を変えることだけに狙いがあるわけでもない。霞が関の仕事の仕方を根本から見直そうという業務改革(BPR)の一環として始まったのだ。

今夏、すべての府省で行政版BPRスタート
背景には今までの「お役所仕事」が時代に合わなくなってきたことがある。行政が取り組むべき課題が増え、複雑化している中で、厳しい財政状況から人は増やせない。むしろ人は減る方向にあるのに仕事は減らない、というジレンマを抱えているのだ。

そこで仕事の仕方を根本から見直し、業務の抜本的な効率化を図ろうというのである。いわゆるBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)だ。ルーティーンワークの部分をICT(情報通信技術)などの活用で一気に効率化させ、「もっと頭を使う部分に仕事を集中しなければいけない」(上村進・総務省行政管理局長)というわけだ。BPRは民間企業では20年以上前に一世を風靡した業務改革手法だが、これを霞が関で始めようというのである。

今年夏にも全ての府省で行政版BPRをスタートさせる方針で、その先駆けとして行政管理局が自ら実行に移したのが冒頭のオフィス改革だったというわけだ。情報システム企画課の新しいオフィスには各省庁から見学者が相次いでいる、という。

霞が関働き方改革は、実はアベノミクスの「裏テーマ」と言ってもよい。安倍晋三首相は就任以来、女性の活躍推進などを訴え、霞が関の幹部ポストの女性を積極的に登用するなど具体的な行動を示してきた。

ところが、霞が関流の仕事のやり方を見直さない限り、女性官僚が出産や育児と仕事を両立させるのは難しいという現実に直面している。ワークライフ・バランスを語る以上、まずは霞が関での業務改革こそが不可欠だ、という思いが安倍官邸には強いのである。

では、今後、具体的にどんな働き方改革が試みられていくのか。総務省の行政イノベーション研究会がこのほど、第1次報告書をまとめ(http://www.soumu.go.jp/main_content/000351664.pdf)、今後の働き方改革に関する提言を打ち出している。

霞が関文化」と決別を
その中には、例えば、内部管理業務を集約化することや、業務フローの見直しなどと並んで、自宅などから役所のネットワークシステムにアクセスして仕事ができるようにする「テレワーク」の積極展開などが含まれる。また、作業支援ソフトの開発などによって、法案作成業務の抜本的な簡素化を行ったり、開示請求件数の多い情報については先回りして積極的に情報公開することで、作業量を減らすというアイデアも示されている。

各省庁にチーフ・イノベーション・オフィサー(CIO)を置いて、具体的な業務改善を薦めることなども提言している。

安倍内閣霞が関働き方改革に熱心なのにはもうひとつ理由がある。

政府は2020年度までに基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を黒字化する計画を掲げている。そのためには、消費税率を10%に引き上げることや、医療費や年金などを抑制することが不可欠だが、それを実行する以上、行政コストをこれまで以上に引き締める努力が不可欠になる。そのためには働き方自体を抜本的に見直すほかないわけだ。

旗振り役の上村局長は「私の局長室も無くせといっているのですが」と笑うが、今後、各省庁でBPRを実行に移す段階では心理的な抵抗がネックになるだろう。役職が上がるごとに椅子と机が大きくなり、秘書が付き、個室になっていくという「霞が関文化」との決別を迫られることになるからだ。