安倍政権の命運は「3月末の日経平均株価」が握っている……なぜか? 1万6000円を下回ったらアウト!?

3月16日にアップされた原稿です。オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48142

過去最大の損失?
年初からの大幅な株安で2月12日に1万4865円を付けた日経平均株価は、3月に入って1万7000円を回復した。1万5000円を割り込んだ頃にはマーケットは弱気が支配し、総悲観の状態だったが、気が付いてみれば2000円以上上げた。

今年は大幅な相場の乱高下が避けられないと予想する向きが多かったが、1日で1000円近く動いてもまったく不思議ではない相場展開になっている。

そんな中で、3月末の株価がいくらになるかに、俄然、注目が集まっている。国民の年金資産を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)の運用利回りに直結するからだ。

GPIFは昨年7〜9月期に7兆8899億円という過去最大の損失を記録した。「年金が減額されるのではないか」「国民の財産をリスクにさらすな」といった怨嗟の声が上がったのは記憶に新しい。運用先を債券中心から株式に大きくシフトした矢先に世界的な株安が襲ったことが、損失を大きくした。

今年1月に入って株価が急落すると、GPIFの運用損はさらに膨らんでいるとして、国会でも取り上げられた。株式にシフトした安倍内閣の責任を問う声が強まり、安倍晋三首相は繰り返し答弁に立たされた。

そのGPIFが3月1日に発表した昨年10〜12月期の運用成績は、4兆7302億円のプラスだった。足元の相場は大きく崩れているものの、昨年12月末の日経平均株価は1万9033円と、その3カ月前の9月末の1万7388円に比べて9.5%も上昇していたからだ。

GPIFの運用問題を追及する野党からすれば、ここで数兆円の損失という数字が公表されれば、やりやすかったものの、タイミング悪く「良い数字」が発表されたわけだ。

GPIFの運用結果は3ヵ月ごとに公表されるが、集計に約2ヵ月かかっている。次回のデータは1〜3月期の運用成績が5月末に公表されることになっている。同時に2015年度の年間成績も明らかになる。

問題はその時にどれぐらいの運用損が出るか、だ。

年金で再び巨額の損失が発生したとなれば、7月の参議院選挙に向けて野党に格好の攻撃材料を与えることになる。それだけに3月末の日経平均株価がいくらで終わるかが、重要な意味を持ってくる。

まだまだ悲観ムードは漂っている
前述のとおり、昨年12月末の日経平均株価は1万9033円。3月末の株価がそれを上回れば、損失はほぼ出ないことになる。

昨年7〜9月に約8兆円の損失を出した際には、日経平均株価は3か月で14%下落していた。この割合をそのまま当てはめれば、日経平均株価が1万6500円を下回ると同規模の損失が出る可能性が生じる。

逆に、1万9000円に近づけば近づくほど、GPIFの損失は小さくなる。この構造は年間の運用成績でも同じ。2015年3月末の日経平均株価は1万9206円だったから、これに近づけば、年間の運用損失も小さくなる。

仮に3月末時点の株価が1万6000円を下回って、GPIFが8兆円前後の運用損を出し、そのうえ2015年度年間でも運用赤字に陥れば、年金運用を巡って国民の批判が噴出するだろう。事は年金問題にとどまらず、アベノミクス全体に対する批判へとつながりかねない。

5月末から6月の株価が上昇傾向にあったとしても、年金の巨額損失という数字が独り歩きし、安倍内閣の支持率を足元から突き崩すことになるだろう。

反対に、3月末の日経平均株価が上昇し、GPIFの運用損が小さくなれば、年金問題は争点から外れる。一気にムードは明るくなり、自民党参院選を有利に戦うことができるだろう。それだけに3月末の株価が大事なのだ。

日銀が導入を決めたマイナス金利政策も、スイスやEU欧州連合)などの先行事例を見れば、株価や不動産など資産価格にはプラスに働く。3月末の株価をなんとしても上げたい安倍内閣は、さらに何らかの追加策を打ち出す可能性もある。

1月以降、海外投資家の日本株売りが続いている。8週連続で売り越しとなり、合計3兆円を売り越した。下落した段階で買い越した個人投資家も、株価が戻ると再び売り越しに転じている。まだまだ総悲観から脱却できず、長期にわたって買い上がるエネルギーは乏しい。

祈る安倍首相
一方で、昨年秋から一貫して買い越しを続けているのが「信託銀行」だ。GPIFが株式を買う場合、信託銀行を通じて買う。このため、GPIFが日本株を買い支えているという見方が根強い。

国会で「信託銀行の買い越しはGPIFが株を買い支えている表れではないか」という質問に対して、塩崎恭久厚労相は、「信託銀行はGPIFだけと商売しているわけではない」と否定した。だが、安値で株式を仕込むのは年金基金としては理にかなった行動と見ることもでき、あながち否定はできない。

GPIFは昨年12月末段階で運用する139兆円のうち、23%あまりを国内株に投資している。2014年10月に基本ポートフォリオ(資産構成割合)を見直し、60%だった国内債券での運用を35%に引き下げ、12%だった国内株式を25%に引き上げた。株価が下落している現在、国内株の比率は23%よりも低下しているとみられるため、GPIFが日本株を買い増す余力が生まれている。

また、株価上昇で25%を超えても一時的には34%まで国内株を保有することができる。つまり、GPIFの資金が3月末に向けて株式相場を押し上げる可能性は十分にあるのだ。

世界経済の先行きに不透明感が強まる中で、海外の株式相場や為替相場が今後も大揺れになる可能性は大きい。3月末に向けて安倍首相は、日々の株式相場を祈るような気持ちで見ているに違いない。