公的年金15兆円の損失で、そろそろ考えるべき「逃げるタイミング」 安倍政権が頼む順回転は終わった

現代ビジネスに2月7日にアップされた拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59763

 

当然の大損

そろそろ年金運用の「日本株頼み」は見直す時期なのだろうか。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2月1日に発表した2018年度第3四半期(10-12月期)の運用成績は、14兆8039億円の赤字となった。期間収益率としてはマイナス9.06%という、大幅な損失である。

日本を含む世界の株式相場が下落したことで、資産の評価額が大きく目減りしたことが響いた。年度の通算(4月から12月まで)収益率もマイナス4.31%、額にして6兆7668億円の損失となった。

株価下落の影響をモロに受けているわけだが、株価が運用成績に直結するようになったのは、株式で運用するウェートを大きく高めたため。逆に言えば、株価が上昇した時は巨額の利益がもたらされる。

2017年度は第3四半期までに15兆円の利益を稼いだが、最後の3カ月で5兆円を失い、年度では結局10兆円のプラスになった。株価の上下に一喜一憂する体制になっているわけだ。

GPIFは大きく分けて、国内外の債券と、国内外の株式に分散投資している。かつては7割を債券で運用していたが、第2次安倍晋三内閣で株式に大きくシフトした。現在は、国内株式24%、外国株式に24%と、ほぼ半分を株式に投じている。債券は国債を中心とする国内債券に28%、外国債券に17%だ。残りは「短期資産」に回っている。

アベノミクスの蹉跌

安倍内閣はかねてから、「デフレからの脱却」を掲げ、2%を目標にインフレを目指してきた。インフレによる金利上昇を目指すわけだから、債券価格は下落することになるので、債券から株式へというシフトは合理的だったともいえる。

ところが、ここへ来て、2%のインフレ率がなかなか達成できないうえ、デフレに回帰しそうな気配さえ伺える。また、日経平均株価も昨年秋以降、低迷が続いている。

日本経済は成長力を取り戻すので、日本株は上昇を続ける、という安倍内閣の主張をすんなり受け入れられる状況にはなくなっているのだ。アベノミクスの成果を疑う野党を中心に、年金運用での株式依存の危うさを指摘する声は根強い。

GPIFの株式シフトで、株式市場に多額の年金マネーが流れ込んだが、それもいつまで続くわけではない。

GPIFは基本ポートフォリオ(資産運用割合)を決めており、国内株式については25%ということになっている。上下9%の乖離幅が認められているが、これは保有株の評価額が大幅に増加した場合などを想定しているためで、34%まで買い進むことを前提にしているわけではない。

第2次安倍内閣が発足した2012年末当時、GPIFの日本株投資は全体の12.9%で、14兆4598億円に過ぎなかったがピークの2018年9月末には43兆5646億円に達した。何と30兆円近くも増えたのである。

それが結果的に日本株を買い支えることになり、株価の上昇を支えてきた一因になった。GPIFが株を買うから株価を下支えし、GPIFの資産価値も保たれるという構図が続いてきた。株価が下がったらGPIFが買い支えることができるうちは良いが、いつまでもそれが続くのかどうか。

GPIFは国民の年金財産を運用会社に委託して市場運用しているが、それがそのまま年金支払いの原資になっているわけではない。国の年金特別会計などから寄託されたものを運用する仕組みで、運用成績などを見ながら特会に納付する。

GPIFには今でも毎年数兆円規模の資金が特別会計から流れ込んでいる。つまり、まだその分で株式を取得することが可能だ。GPIFによる株式の売買の姿は見えにくい。年金運用の受託会社などが株式を売買する際に表れるとされる「信託銀行」の売買は2018年の年間で1兆5000億円を超す買い越しになった。

日本の年金が生き残るために

だが、今後、日本の年金制度は試練を迎える。年金を払い込む人が減る中で、年金を受け取る人が大幅に増えていくのだ。国民全体でみても、金融資産の取り崩しが始まるタイミングが来ると懸念されている。それでも株価は上昇し続けるのか。

これまで、アベノミクスへの期待から日本株を買ってきた海外投資家にも変化がみられる。日本取引所グループ(JPX)がまとめている投資部門別売買動向によると、2018年の52週のうち、海外投資家が「買い越し」たのはわずか16週のみ。年間のトータルで5兆7402億円を売り越した。

海外投資家はアベノミクスが始まった直後の2013年に15兆円を買い越したが、それ以降、最大の売り越しである。

日本の株式市場は海外投資家による売買が過半を占め、その影響力が大きい。これまで日本株を買い進めてきた海外投資家が本格的に売りに転じ、それを日本の年金マネーが拾い続けていけば、年金資産が日本株に固定化されることになりかねない。

年金が売ろうとすると、株価が下がり年金自身の首を絞めることになれば、売りに売れない資産になってしまう。

そうなる前に、成長余力の高い国の株式などにシフトし、分散投資をするのが本来の年金運用だろう。年金運用は利回りを上げて年金資金を確保するのが狙いで、株価を上げるのが目的ではないことは明らかだ。