ガラパゴス化する日本のコーポレート・ガバナンス〜なぜ今、海外投資家が懸念するような独自の制度を?

東証1部のオプトホールディングで会社側とファンドがガバナンスの在り方を巡って対立しています。昨年制度ができた「監査委員会等設置会社」への移行の是非を真正面から問うものだけに、今後の展開が注目されます。現代ビジネスに3月23日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48255

理解不能な日本の仕組み
2015年5月の会社法改正では、上場企業への社外取締役の実質的な義務付けに焦点が当たったが、そんな中で、世界に例を見ない日本独自の制度が導入された。「監査等委員会設置会社」と呼ばれる仕組みだ。

それまでの会社法では「委員会設置会社」といえば、社外取締役が過半を占める「指名委員会」と「報酬委員会」、「監査委員会」の3つを設置することが義務付けられていた。ところが、新制度では、指名と報酬の委員会は置かず、監査委員会だけを置けばよい。しかも、従来からの監査役制度を廃止することができる。

当初は国際的に理解を得にくいこの新制度を導入する会社は多くないとみられたが、実際は導入する企業が相次ぎ、今年6月の株主総会シーズンまでに400社以上の会社が新制度に移行する見通しになっている。

そんな中で、今週3月25日に株主総会を開く東京証券取引所市場1部上場のオプトホールディング(以下オプト)で、同制度を巡って、会社側と投資ファンドが真正面から激突している。オプトは総会で新制度への移行を決議する考えだが、これに同社株を約5%保有するRMBキャピタル(米国・シカゴ)が反対する姿勢を打ち出している。

RMBは富裕層などから資金を預かり長期投資を行っているファンドで、別会社から引き継いだファンドを通じて2012年頃からオプトに投資している。運用しているポートフォリオ・マネジャーは野村証券出身の細水政和氏で、細水氏はオプトの鉢嶺登CEO(最高経営責任者)にも会い、積極的に「対話」を繰り返してきた。

オプトに対してRMBは、買収防衛策の廃止や大量に保有する自社株の消却を求めてきた。オプト側は買収防衛策の廃止は受け入れたものの、その後、監査等委員会設置会社への移行を打ち出し、これにRMB側が反発している。

「私たちはオプトにコーポレートガバナンスの強化を求めているのですが、なぜ指名委員会と報酬委員会を置かない制度に移るのか。この2つの委員会がない監査等委員会設置会社にはRMBの米国人たちも理解できないと言っています」

そう細水氏は語る。
ガバナンス後退の可能性
国内でも監査等委員会設置会社への移行がコーポレートガバナンスの強化につながるのか、疑問の声がある。

これまで日本では監査役設置会社が主流だったが、その監査役を機能させるために繰り返し制度改正が行われてきた。独立性を高めるために任期を4年にしたり、半数以上を社外監査役とすることを定めている。

また、監査役のスタッフとして監査役室を置くことも広がっている。監査役も日本独自の仕組みだが、これを何とか機能させようとしてきたのだ。

ところが、監査等委員会設置会社では監査役は廃止され、社外取締役過半数を占める監査委員会が監査を担うことになる。そうなると、監査役設置会社時代よりもガバナンスが後退する可能性があるという指摘もある。

そんな疑問符の付いた制度にもかかわらず、多くの企業がこぞって監査等設置会社に移行しようとするのはなぜか。会社法によって実質的に社外取締役が義務付けられ、東証が定めたコーポレートガバナンス・コードでも2人以上の社外取締役の設置が望ましいとされている。

企業からすれば、複数いる社外監査役をそのまま社外取締役に横滑りさせれば、新たに人材を探さなくても要件を満たすことができるというわけだ。

本来ならば、3つの委員会が設置される欧米型の委員会設置会社(指名委員会等設置会社)に移行するのが、国際的にも通用する動きなのだが、社長を決める指名権や報酬の決定権限を社外取締役が握ることへの抵抗感は根強い。制度ができて10年以上がたつが、欧米型を採用している企業はまだ69社に過ぎない。

もちろん、監査等委員会設置会社でも、社外取締役が入ることを「一歩前進」と捉える向きはある。議決権行使に関して助言サービスを行うISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)も、移行には賛成するよう助言している。

だが、RMBが懸念するように、うるさ型の監査役がいなくなり、社長が選定した馴染みの社外取締役に移行するだけに終わる可能性もある。そうなればコーポレートガバナンスは前進するどころか、大きく後退することになりかねない。
海外投資家からそっぽを向かれる?
オプトは3月9日、監査等委員会設置会社に移行する背景と目的についてプレスリリースを出した。

そこには「取締役会の監督機能をより一層強化する目的のもと、迅速な意思決定と業務執行により経営の健全性と効率性を高めるため」としている。また、「報酬委員会および指名委員会の設置につきましても本移行に併せて議論を重ねております」としている。

要は、ガバナンスを強化するためだとしているわけだ。

RMBの細水氏は「ならば、いったん監査等委員会設置会社への移行を白紙に戻し、欧米型の指名委員会等設置会社に移行すれば良いのではないか」と主張する。

オプトの株式はCEOが発行済み株式の16%を保有、かつて事業提携していた電通も16%を持つ。一方で、カナダの投資ファンド、テンパード・インベストメント・マネジメントも6%を保有する。株主構成からみてRMBの主張が通るかどうかは微妙だが、新制度への移行が決まってもRMB側は今後、株主提案などを行って会社側に改善圧力をかけ続けていく見込みだ。

「今回反対するのはオプトだけの問題ではない」と細水氏は言う。日本企業が雪崩を打って監査等委員会設置会社に移行し、日本独自の制度に身を委ねてしまえば、世界には通用しないガラパゴス状態に陥ることになりかねない。海外投資家から日本企業がそっぽを向かれれば、それこそ日本株の下落が止まらなくなる。