「1億円以上の報酬をもらった社長・役員」の数が過去最高を更新!一位はやっぱりアノ人でした

現代ビジネスに7月20日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49225

最高額はやっぱりこの人

3月期決算企業の株主総会が終わったが、今年も多額の報酬をもらった企業経営者が大きな話題になった。

役員報酬額の最高はソフトバンクグループのニケシュ・アローラ元副社長。64億7,800万円という金額は、1億円以上の報酬開示が始まった2010年3月期以降の最高額となった。

有価証券報告書によるとソフトバンク本体から得た基本報酬は9900万円だったが、米国子会社で基本報酬8億4500万円と賞与36億3600万円、株式報酬18億7100万円を得た。さらに買収したスプリントでも1100万円の基本報酬と1600万円の株式報酬を得ている。

孫正義氏が会社から受け取ったのは基本報酬の1億800万円と賞与の2200万円で、アローラ氏はこれをはるかに上回る金額を得ていた。しかも、2015年6月に代表取締役副社長に就任する前の半年あまりで165億円にのぼる報酬を得ていたことも明らかになった。さらに、孫氏の後継者という触れ込みだったアローラ氏だが、6月22日の株主総会で突如退任するというオマケまで付き、世間を驚かせた。

アローラ氏の巨額の年間報酬の記録は、しばらく更新されないに違いない。

トヨタ自動車で昨年、外国人としては初めて副社長になったディディエ・ルロワ氏の報酬も話題になった。トヨタ本体から基本報酬として1億2800万円、賞与として4億1500万円を得たほか、欧州子会社からも基本報酬として3400万円、賞与1億1800万円を得た。

ルロワ氏はフランスのナンシー工科大学を卒業後、仏自動車大手のルノーに勤務していたが、1998年にトヨタに移り、欧州子会社の社長などを務めてきた。

日本企業でも経営層のグローバル化が進んでいるが、報酬も欧米並みの水準を支払うケースが増えているわけだ。

検討した日本人社長は誰?

もっとも、トヨタの場合、話題を呼んだのは、ルロワ氏の報酬が、社長の豊田章男氏の3億5100万円(基本報酬1億200万円、賞与2億4800万円)を大きく上回っていたからだ。トヨタの役員には1億円以上の報酬を得ている人が8人いるが、ルロワ氏が圧倒的なトップだった。

2010年3月期に報酬1億円以上の役員の個別開示が始まった際、トヨタで対象になったのは張富士夫会長ら4人で、金額も1億800万円から1億3200万円だった。この6年の間に対象人数も倍増し、金額も大きく増えた。取締役の報酬で見る限り、日本企業も欧米に近づきつつあると言えるだろう。

東京商工リサーチが6月30日時点で有価証券報告書が出ていた2442社を対象に調べたところ、報酬が1億円以上だった役員は414人。1億円以上の報酬を得た役員がいた会社は211社だった。昨年は413人だったので、1人上回って、かろうじて過去最多になった。会社数は212社だったのでむしろ1社減っている。

ここで鮮明になったのは、開示が始まって以降、急増していた1億円以上の報酬が横ばいになったことだ。2015年3月期はアベノミクスによる円安効果で一気に企業業績が改善するなど、高額報酬が支払われる素地があった。今年は、株価の上昇が一服し、企業業績の改善ペースも鈍化したことから、高額報酬を得る人の増加が止まったとみていいだろう。

実際、東京商工リサーチの調べによると、414人のうち、昨年から連続で1億円以上だったのは307人。107人が新たに開示対象になった。逆に言えば、昨年1億円以上を得ていた人100人以上が「陥落」しているわけである。資源価格の大幅な下落で減損を余儀なくされた総合商社などで、高額報酬の役員が激減している。

同じ調査によると、高額報酬のベスト10のうち、2位はソフトバンクグループのロナルド・フィッシャー氏(20億9600万円)、3位はアオイ電子の大西通義・元会長(11億6800万円)だった。上位常連のカルロス・ゴーン日産自動車社長は4位で10億7100万円だった。

大幅なリストラによって業績が回復してきたソニー平井一夫社長は昨年の3億2600万円から倍以上に増加、7億9400万円と8位にランクインした。日本企業でも外国人経営者だけでなく、多額の報酬を得るようになってきているわけだ。

高額化はますます進む

報酬の個別開示は、リーマンショック後に欧州で金融機関の高額報酬が批判にさらされたのをきっかけに強化された。グローバル規制に平仄を合わせる中で日本でも金融庁が導入に踏み切った。

2009年に制度導入を決めた際には、1億円ならば開示対象になる企業はほとんどない、という判断だったとされるが、実際には都市銀行などにも1億円の報酬を得ている役員がいた。

当初は開示制度に対する批判もあったが、結果的に、開示をしたうえで高額報酬をもらうことを躊躇する企業経営者が減少。結果的に高額報酬が広がってきたとみることもできる。2013年3月期には175社301人だったものが、2014年3月期には191社361人に拡大。2015年3月期以降は200社、400人を超えた。

グローバル化が進む中で、欧米の経営者が日本企業の取締役会に加わるケースは今後も進むとみられる。少なくともグローバル経営を標ぼうする会社では、取締役報酬は高額化が進んでいくだろう。

一方で、欧米では、経営者の高額報酬に対する批判も強まっている。株主総会で個別報酬について賛否を聞く「セイ・オン・ペイ」が制度として普及。反対票が賛成票を上回るケースが相次いでいる。反対票が上回っても支払いを拒否する権限はないものの、翌年以降の報酬を決める際に経営陣への圧力になることは確かだ。

日本では、こうした「セイ・オン・ペイ」の制度がないほか、欧米企業に比べて業績連動の報酬になっていないケースが少なくない。業績が悪化しているにもかかわらず、固定で報酬を得ていることが多く、今後問題になりそうだ。

また、業績悪化や不祥事などによって会社に損害を与えても、過去支払った報酬を返還させるルールなども導入されていない。報酬額が欧米並みになってくるに合わせて、欧米並みの厳しい制度も導入を検討していく必要がありそうだ。