「経済ニュースの裏側」]半ば茫然...この危機的状況で東芝が描いた「バラ色の未来」 WHを「非連結子会社」って、どうするの?

現代ビジネスに3月15日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51221

「遮断」

2月14日の決算発表を延期した東芝。自ら期日とした1カ月後の3月14日になっても、結局、決算発表はできなかった。第三四半期である2015年10〜12月期の決算について、監査法人の承認が得られなかったためだ。再延期した決算は4月11日までに行うとしている。

確定できていない第三四半期決算は、米国の原子力子会社ウェスチング・ハウス(WH)の巨額損失の計上が焦点。2月14日に公表したWHがらみの減損7125億円については、そのままの見込みを変更しないとしている。あくまで東芝は2017年3月期の自社の見通しは営業損益で4100億円の赤字、最終損益は3900億円の損失で、株主資本は1500億円のマイナスになるとの見通しを再度示すにとどめた。

決算発表ができない、というお詫び会見の席上、「今後の東芝の姿について」という資料を配布、綱川智社長が説明した。そこには驚くべきことが書いてあった。

「海外原子力事業のリスク遮断 マジョリティ売却等による非連結化を含め再編検討を加速」

巨額の損失が見込まれているWHについて、そのリスクを遮断するために、WHを「非連結化」するというのである。WHは受注している米国内の原子力発電所4基が完成しないうえ、工事費が大幅に膨らんでいる。コスト負担を巡って係争相手だったS&Wを2015年末に買収した結果、WHが工事についてのコスト増分を丸抱えすることになった。

さらに、WHの損失は東芝が親会社として保証している。4基の原発が完成しなかった場合の損害賠償責任も東芝が負っている。そんな泥沼に東芝をはめたWHのリスクを「遮断」できるのであれば、東芝にとって喜ばしい話はない。

一体どうやって…?

東芝は非連結化、と簡単に言うが、ではどうやって「非連結化」するのか。

資料では、WHのマジョリティを売却することなどを考えているとしている。だが、そんな問題事業を引き取ってくれるところがあるのなら、こんな断末魔に追い込まれる前に売却していたに違いない。

買い手を見つけるには、損失の額を確定し、WHの企業価値から損失額を引いた額をはじき出す必要がある。7125億円というのが本当に最終的な損失額なのか、おそらく東芝の経営陣にも確信はない。完成していない原発のコストなのだから、いくら保守的に見積もったからといって、完成までにどんな費用負担が生じるか分からない。そうしたリスクを肩代わりしてくれる企業が現れるのかどうか。

仮に株式の過半を引き取ってくれる米国企業が現れたとしよう。だが、それだけで「非連結化」はできない。かつて日本の連結決算は株式保有を50%未満にすれば、自動的に連結決算から外すことができた。バブル崩壊期には、持ち合いなどを駆使して、問題のグループ企業を連結決算から外す例がしばしばみられた。

だが、現在のルールでは外形基準だけで「非連結化」はできない。実質的に親会社として責任を負わなくてよいことが明らかでなければ、連結から外すことはできないのだ。端的に言えば、傘下の会社が破たんした場合、親会社がその損失を被るような契約になっていれば、実施的に子会社とみなされ、連結決算の対象になるのだ。

つまり、本当の意味でリスクを遮断できなければ、非連結化はできない。どうも東芝の資料を見ていると、非連結化すればリスクを遮断できると考えているように見えるが、実際は逆なのである。

よく「バラ色の絵」を描けるものだ…

では、WHが今後被る可能性のある損失を丸ごと引き受けてくれる奇特な会社が現れるのか。通常ならば、売買契約を結ぶ際に、当初見込んだ額よりも損失が大きくなるようなら、それは東芝が負う、という契約を結ばされることになるだろう。つまり、表面上の持ち株比率は下げられても、リスクの遮断は容易ではないのである。

東芝は資料で、「バラ色」ともいえる新生東芝の「絵」を描いている。「海外原子力事業のリスク遮断」に加え、半導体事業や保有資産の売却による債務超過の解消を行ったうえで、「社会インフラ」「エネルギー」「電子デバイス」「ICTソリューション」「その他」の事業に再編。

この「新生東芝」で2019年度に4兆2000億円の売り上げを上げ、2100億円の営業利益を稼ぐとしている。焦点のひとつである原子力事業は「国内原子力」の再稼働対応などに特化していくという。

会社としてビジョンを語ることは平時ならば麗しい。WHの米国原発の損失すら確定できないうえに、さまざまなリスクがくすぶる。

「まだまだWHは隠しているんではないか」と政府関係者は訝る。昨年3月に医療機器部門を売却して債務超過を回避、本業で3000億円近い営業利益が出ると言っていた矢先、昨年末に巨額の損失計上が発覚した。今も、LNG液化天然ガス)の長期買取契約など、損失の「タネ」が取りざたされている。

「バラ色」とも言える新生東芝の姿を投資家にアピールしたにもかかわらず、足元は厳しい。東京証券取引所は3月14日、「特設注意指定銘柄」だった東芝株を「監理銘柄」に指定すると発表した。粉飾決算などを引き起こした内部体制が再整備されたと認定されない場合、上場廃止にすることを衆知するための措置だ。東証は6月末にも上場廃止にするかどうかを最終的に判断する。

決算発表もできない異常な事態が続いており、このままでは東証上場廃止にせざるを得ない見込み。東証が結論を下すまでに「海外原子力事業のリスク遮断」を実行し、新制東芝を再出発させることができるのか。

近未来は決してバラ色ではなさそうだ。