【高論卓説】取締役の報酬開示は当たり前 株主や世間が納得する仕組みを

11月22日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。オリジナル→https://www.sankeibiz.jp/business/news/181122/bsg1811220500003-n1.htm

 日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者らが、有価証券報告書に記載する報酬額をごまかしていたとして、東京地検特捜部に逮捕された。有価証券報告書に開示された報酬だけでも、ゴーン容疑者は2015年3月期から3年連続で年間10億円以上の報酬を得ており、社長兼務を外れた18年3月期も7億3500万円の報酬を得ていた。

 それだけではない。日産の株式を312万株所有し、その配当だけでも1億円を超す。さらに日産傘下の三菱自動車の会長として、2億2700万円(うち4700万円相当はストックオプション)を得ているほか、会長を務めるフランスのルノーからも巨額の報酬を得ている。

 それでも足らないのかと言いたいが、日産の資金で、パリやベイルートリオデジャネイロアムステルダムの4カ所に高級住宅を提供させていたことが判明している。これが実質的な報酬に当たると特捜部は見ているようだ。

 日本流の「フリンジ・ベネフィット」をフルに活用したということだろうか。伝統的な日本企業では、いったん社長になれば、全て会社の経費で、「財布を持ったことがない」と真顔で話す人もいたほどだ。さらに、顧問や相談役として秘書と車がつき、役員年金で死ぬまで面倒を見るのが半ば当たり前だったのも、つい最近までの話である。

 日本の社長の給料は安いと言っていたのも、その裏には潤沢なフリンジ・ベネフィットがあった。給与としてもらって所得税を払うならば、会社の経費で面倒を見てもらえる方がよい。そんな発想も根底にあった。

 欧米の経営者は、高額の報酬をもらう一方で、そうしたフリンジ・ベネフィットは得ないのが当たり前になりつつある。年々、株主や税務当局の目が厳しさを増し、業務に関係のない会社の支出が認められなくなっているからだ。

 取締役が会社から、いくら報酬をもらっているかを開示するのは当たり前、という話になる。

 報酬の個別開示は米国から始まり、欧州に広がった。日本にもその余波が広がり、10年以降、年俸1億円以上の取締役に限って、報酬を有価証券報告書で開示することになった。当初300人に満たなかった1億円以上の取締役は、18年の開示では初めて500人を突破、538人に達した。

 だが、現実にはほとんどの会社で取締役の個別報酬は開示されていない。1億円を超えないように9000万円台に抑えている会社もあるとされる。開示されている役員報酬総額と人数から推測することはできるが、正確な金額は分からない。

 制度導入から、そろそろ10年になろうとしている中で、全ての取締役が会社から、いくらもらっているかを個別に開示すべきではないか。その上で、その報酬が妥当かどうかを株主に問う仕組みを作るべきだろう。

 今回のゴーン事件を機に、日本企業のフリンジ・ベネフィットも姿を消していくに違いない。そうなれば、現役時代に責任に応じた報酬をきちんともらうことが重要になる。その役員報酬に株主や世間が納得するかどうか。まずは情報開示をすることが不可欠だろう。